雷のサードアイ
投稿遅れてすみません。シンプルに時間見てないボケをやらかしました。
サードアイという今まで、全く知らなかった未知の力に目覚めて、早くも一月が経過した。
その間、日野森と共に何度も、アビス・ウォーカーを退治してきたがここ最近は、襲撃までのインターバルと呼ぶのが正しいのかは分からないが、間隔のようなものが短くなって来ている気がする。
「ふわぁ……ねっむ」
桜もすっかり見頃を終え、すぐそこの見慣れた通学路に植えられた木々は緑色一色となり、過ごしやすい暖かな陽射しを浴び、これまたちょうど良い風に揺れている。
これが暫くすると、梅雨になってジメジメとしてくると思うと、少しだけ嫌な気分になるが今は、何よりも眠いからこのまま公園のベンチで寝てしまおうか。
「今日の様に過ごしやすい日は、眠くもなるだろうが学業をサボるのは良くないぞ若者よ」
「……ん?なんだ、爺さん。いつの間にそんなところに」
いつの間に横に座っていた枯れ木の様な爺さんが居た。
最近は、戦いの稽古もして貰ってるから気配には敏感になってきてると、思ってたが全然気づかなかったぞ。
「儂の事はどうでも良かろう。それより、学校に行かんで良いのか?」
「んー……元々、サボり気味だから良いんだよ。最近は、ちょっと真面目に行ってたけど、他にやらなきゃいけない事で疲れてるし休息の一つや二つ取ったって、罰は当たらないでしょー」
まぁ、万年サボり魔が何を言うではあるのだが、アビス・ウォーカーとの戦いや訓練で疲れているのは事実だ。
そもそも、アビス・ウォーカーは夜にならないと基本的には出現しないし、訓練は休日を利用してやるからしっかり休んだかと言われれば、休んでない!と答える。
これらを熟してる癖に、真面目に学校にも通ってる日野森が俺からしたら異常だ。
ただ、そんな事を何も知らない爺さんに言える訳もないので適当に、それっぽく誤魔化しておく。
「……少年よ、これは老人が長生きで得た経験則だがな、無知であるより賢きある方が世の中、生きやすいぞ」
「そんな様な事、獅子堂の先公にも言われたなぁ……」
大人の言っている事が分からない訳ではないが、それでも俺はベンチから腰を浮かす気にはならなかった。
先の見えない将来より、分かりやすく命の危機であるアビス・ウォーカーに備える方が今の俺には、優先順位が高いのもあるだろう。
「善き、先達がいる様だな。だがしかし、その言葉は少年の心に届いておらぬと……ふむ、時に少年よ、夢はあるかね?」
夢?多分、将来の夢を聞かれているのだろうとぼんやりとした頭で、理解する。
なんで、この人はこんなに俺を気にかけるんだろうか?まぁ、なんでも良いか……将来の夢か、元々無いけどぶっちゃけ、サードアイになった時点でこのまま戦い続けるんじゃねぇの?
「無いっすね」
俺がそう返すと、予想出来ていたのかやっぱりと言わんばかりに、喉を鳴らし笑う爺さん。
「儂もそうだった、夢の一欠片も持つ事なく、手に握った銃で敵を殺すだけの無知で視野の狭い若者だった」
「……戦争経験者なのか、爺さん」
「そうだ。少年も知っている通り、儂らの奮戦など塵にも等しく日本は敗戦した。すると、どうなる?銃を撃ったり、剣を振るうしか能の無い儂は、何も出来んくなった。儂も勉強が嫌いでなぁ……徴兵された時は、これで勉強しなくて良くなると喜んだくらいだ。そんな、本当に何も知らない無知な奴はの結局のところ誰かに利用されるだけされて、行き着く先が連れ合いもおらん、枯れた爺だ。どうだ、なりたくないだろ?」
いや、その話が重てぇのよ……これ聞いて、はいそうですねって返す奴いるのか?居るとしたら、この場に連れてきて俺の代わりに答えて欲しい。
俺の顔を見てくる皺のあるその顔には、きっと俺が推し量るのには無理があるほどの色んな経験をしてきたのが伺えて、何一つ変なところがないありふれた、瞳でさえ胸の内を透かされているんじゃないかという気になって居づらくなった俺は立ち上がる。
「よ、よし、今から行っても遅刻確定だけど、学校行ってくるわ!」
「はっはっは、それで良い。若いうちに経験は積んでおけ少年」
俺が立ち上がり、公園を出るまでずっと俺の方を見ている爺さんの視線を感じながら、公園を出て漸くその視線を感じなくはなったのだが、新しいサボり場所を見つける気にもならなかった俺は、大人しく登校し叱られつつもその日の授業を全て受けるのだった。
その日の放課後、ADからの連絡もなかったので久しぶりにゲーセンに寄り、格ゲーをした帰り道。
ちょっと久しぶりだからと遊び過ぎたな……もうすっかり夜か、なんの連絡もないしアビス・ウォーカーに襲われる心配もないだろ、どっかのラーメン屋でも行くか?
「……ん?あれ?あの爺さん、まだベンチに座ってる。まさか、ずっと居たのか?」
ほぼ丸一日、同じ場所に座り続けてるとかあり得るか?
まぁ、取り敢えず軽く声くらいはかけていくか、あの人の言葉がなきゃサボってただろうし、一応真面目に行ったぞとアピールしておくか。
「おーい!っと、なんだ?着信か?」
こんなタイミングで、電話かよと思いながらスマホをポケットから取り出すとそこには、ADのアプリが起動しておりこんな時間から仕事かよ……と、嫌な気分になりながら取り出すと予想外の一言を貰った。
「うっす」
『先森君!?どうして、君がそこに居るんだ!?途中で、我々の者による誘導を貰わなかったのか?』
「はい?何もなかったっすけど……」
記憶を遡るが、誰かに呼び止められたり誘導された記憶は一切ない。
つか、アビス・ウォーカー関連なら俺か日野森に連絡が来るはずじゃ?何も聞いてないぞ。
『──まぁ良い。来てしまったのなら、そこで大人しくしておると良いぞ少年』
混乱する俺の耳に、今朝聞いた声が聞こえてきた。
バッと視線を、先程まで爺さんが居た場所を見ると、両手で杖をついていた爺さんが片手でスマホを耳に当てており、聞こえてきた声が聞き間違いではなかったと理解する。
「爺さん!?」
『空間の歪みが最大値を突破!アビス・ウォーカー出現します!!』
茂光さんの方から、オペレーターの声が聞こえだす同時に、辺り一体が暗くなり爺さんの目の前の空間が歪み、裂けるようにアビス・ウォーカーが現れた。
──もはや、それを生物の枠組みに入れて良いのか分からないほど、巨大な瞳が真ん中にあり、その両端から蝙蝠の羽が生えており、血走ったその瞳は目の前の爺さんではなく、俺を睨みつけており今にも飛び掛からんとする構えを見せていた。
「──目の前の敵から視線を逸らすとは、愚かだな怪物」
枯れ木の様な爺さんから発せられたとは、とても思えない力と圧に満ちた声に反応したのかアビス・ウォーカーは、その大きな瞳を爺さんに向けるが、その行動は目の前の脅威にはあまりにも遅く爺さんとアビス・ウォーカーの視線がぶつかったその瞬間──雷が落ちた。
「──雷神の一太刀」
何一つとして俺の目には見えなかった。
だが、雷が落ちる音と共に気が付けばアビス・ウォーカーは縦に真っ二つになり、悲鳴の一つも上げる事なくその存在が霧の様に消えていったのは、揺るぎようのない事実なのは確かだった。
「……帰りが遅いのは良い事ではないぞ少年」
手に持っていた杖に刀を納刀した爺さんが俺を見る。
そこには、今朝見た時の人の良い表情が浮かんでおり先程の声を出した人とは、お世辞にも同一人物であるとは思えなかった。
「……爺さん、アンタは一体……」
「そうだな、儂としては好ましくないのだがこれからは、上の命令で否応なしに戦さ場を共にする事もある故、自己紹介の一つぐらいしておくか」
そう言って、髭の生えていない顎をひと撫でしながら、爺さんは少しだけ悪そうな笑みを浮かべた。
「伊藤 源三郎という。今も昔も、刀を振るう事しか能の無い何処にでもいる枯れた爺ィよ」
いやいや……全く、目で追えないあの一撃を振るう細いあの腕で、振るう人が何処にでも居てたまるかよ。