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第八話 『ちゅー駐在さん』

 春うららな昼下がり前のこと。自律型移動式焼却炉さんが桜弘(おぐ)に真剣なおめめを向けてくる。


「最近ですね。悩みがあるんですよ」


「はぁい」


 部分的な休日として知られる大いなる角砂糖の日がお昼ちょっと前くらいな時代を迎えたあたりの時節だった。


 近所のおばさんからご教授いただいた川のゴミ拾いのノウハウ。これに従順な構えで服従した桜弘(おぐ)(かなえ)は川のゴミ拾いをいい感じに終えていた。


 川のゴミ拾いというのは読者諸兄らの想像以上に手間暇がかかる。


 恐怖と絶望と畏怖に突き動かされるまま桜弘(おぐ)(かなえ)はひたすら必死にゴミ拾いを繰り出したものの何やかんやで段取りはすでにお昼の近くになっていた。


 ぺりぺり。ぽいぽーい。


「投げ入れ投げ入れー。人喰いゴミを自律型移動式焼却炉さんに投げ入れー」


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああッ!?」


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 ちなみに今現在その刹那の場面展開は警察の連中が事前に用意してくれた川べりの合法的焼却滅殺スペースに陣取りドラム缶にびっしり咬み付いている人喰いゴミたちを自律型移動式焼却炉さんに投げ入れているところだったりする。


 ぺりぺり。ぺりり。ぽいぽーい。


 桜弘(おぐ)のドラム缶ボディにがじがじと咬みついている人喰いゴミたちを先ほどからの(かなえ)が触手で綺麗に剥がしていた。がじがじ。ぺりぺり。


「ふぁあ。ひまぁ」


 川のゴミ拾いイベントの全日程はまだ終わっていない。やること自体はまだまだあった。


 でも今現在その刹那限定で見れば作業を全部(かなえ)に押し付けた桜弘(おぐ)は全体的に暇なお年頃となっている。自律型移動式焼却炉さんのお悩み相談を彼女が受けているのはそうした事情背景が割とあった。いいご身分な輩と言えよう。


「とても深刻な悩みなんです」


「そっかぁ」


 げらげらげら。川べりの合法的焼却滅殺スペースのお空の上でお日様がげらげらとしていた。お昼間近なお日様だね。春のぽかぽか陽気でこのご近所は何だか暖かかった。


 前話で描かれた早朝のあたりで少しだけ風さんに冷たさがあったのを読者諸兄らは覚えておられるだろうか。地の文担当者は覚えていない。


 川のゴミ拾いイベントに死力を尽くして取り組むうちにお日様はお空を順調に上がっていった。結果として訪れたのがこの春のぽかぽか陽気に他ならない。


 ぽかぽか~。


「……こっくりこっくりぃ」


 死力を尽くした川のゴミ拾いイベントが一段落した後。春のお空のぽかぽか陽気から「ぽかぽか~」とされた桜弘(おぐ)は睡眠耐性をあっさりと突破されてしまった。


 有り体に述べ述べすれば彼女はおねむなお時間となっている。


「ぺりぺりー。人喰いゴミをぺりぺりー」


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああッ!?」


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 睡眠耐性を貫通されてこっくりこっくりしながらの桜弘(おぐ)はボディに纏わりついた大量の人喰いゴミを(かなえ)に剥がしてもらいつつおめめをとろとろさせていた。


 とろぉん。


「ぼくはですね。アルバイトとして地元の駐在所の備品をやってるんですけど」


「とろとろぉ。とろぉん」


 しかしそんなことはお悩みのせいで夜も眠れない自律型移動式焼却炉さんに関係ない。特に悩みなんて無い系女子として名高い桜弘(おぐ)を相手に自律型移動式焼却炉さんは元気よくお悩み相談を仕掛けてくるのであった。


「ぼくのことを人間扱いしてないのか地元の駐在さんがぼくに大量殺人の自慢とか平気でしてくるんです」


「ふぁあん」


 おねむな桜弘(おぐ)はうつらうつらとした可愛い面構えでお茶を濁している。クソお腹立つな。なんだこいつ。


 腹立つ面構えでうつらうつらとしている桜弘(おぐ)に向けて自律型移動式焼却炉さんは先ほどからの深刻そうな面構えを継続していた。


 どうやら真剣に悩んでいるようだね。ならこんな輩を相談相手にするなよと地の文担当者は思った。


 案の定と述べ述べするべきか彼の真剣なお悩みを聞くドラム缶生首生物はもちろんお悩み相談をろくに聞いちゃいない。


 こっくりこっくり。少女はお昼寝したいお年頃だった。


「ひどくないですか? ぼくだって駐在所のお仕事を備品として頑張ってるのに」


「うん」


「それなのにですよ? アルバイトだからでしょうか。アルバイトだからって理由でぼくのことを人間扱いしてくれないんです」


「ん」


「普通だったらプロ殺人鬼の人たちって自分がプロ殺人鬼なことをある程度隠したりするじゃないですか」


「ぉ」


「あ。ご存知なかったですか? プロ殺人鬼の人たちって自分の正体を隠蔽すると殺人鬼ポイントが追加で貰えるらしいです。でもぼくは人間扱いされてないからわざわざおめめ前で自慢とかされちゃうわけでして」


「ょぉん」


「この間なんて死体の処理までお願いされちゃいました。もう嫌になります。お給料がいいから我慢して自律型移動式焼却炉のアルバイトのお仕事を今まで頑張ってきましたけど。人としての尊厳を尊重してくれない職場なんていくら稼げても願い下げです」


「……すぴぃ」


「ここだけのお話ですけどね。あ。内緒にしてください。地元の駐在さんって実はプロ殺人鬼さんだったりするんです。殺人鬼ネームは『ちゅー駐在さん』。丈夫で鋭利なストローをターゲットの首に突き刺してちゅーちゅー吸血殺人するプロ殺人鬼さんだとか何とか。まったく酷い人ですよね」


「……しゅぅくりむをわたしはゆめのなかでたべりゅ。もぐもぅ」


 ぺりぺり。ぽいっ。ぽいぽいっ。


「大漁すぎでしょ。桜弘(おぐ)ちゃんどんだけ頑張ったのこれ。こわ」


 お悩み相談を繰り広げられる桜弘(おぐ)の傍らでは友のボディにへばり付く人喰いゴミたちを(かなえ)が相変わらず千切っては投げしている。ぺりぺり。ぽいっ。


「思い出したら何だかお腹が立ってきました。うぉおおおおおおおッ! ぼくは今社会に対する義憤に燃えていたりします!」


 相変わらず頑張ってる(かなえ)の小脇ではお悩み相談の挙句に社会に対する義憤に辿り着いてしまった自律型移動式焼却炉さんが露骨な憤りでぷりぷりしていた。


 アルバイトを人間扱いしてくれない職場への不満。格差社会に対する怒り。将来に対する漠然としたあれこれ。そうしたものを勢いよく燃やす彼の内部で人喰いゴミを焼却するボルテージが順調に高まってゆく。


 ぼうぼう。ふぁいやー。


「うわー。あちちっ」


 ぴょーん。


 火の勢いが強まってきたので咄嗟のバックステップで(かなえ)は距離を稼いだ。面構えにかかってくる余熱で彼女は「あちち」状態異常となっている。


 安物なせいで火力が不安定な自律型移動式焼却炉さんの扱いづらさに(かなえ)は苦労していた。貧乏クジというやつだ。


「うつらうつらぁ……」


 貧乏クジを(かなえ)に全部押し付けた桜弘(おぐ)は天使みたいな睡眠面構えで暢気にすやすやしている。


 うわ。殴りてぇ。


 こいつはすっかりお昼寝モードに突入中だった。


 自律型移動式焼却炉さんのお悩み相談を受けていた相談者としての誇りなど桜弘(おぐ)には欠片もなかった。備品風情のお話をまともに聞く必要なんてない。


「ぼくの義憤に相談者のあなたも同意していただけますよね!? 頼もしい限りで何よりです!」


「しゅーくりぃむもぐもぐぅ……」


 桜弘(おぐ)は体制側の人間だ。超絶エリート女子中学生だもの。搾取される安物自律型移動式焼却炉さんのお悩みなど上っ面にすら届かない。だから寝る。


 クソ腹立つ可愛い天使のお昼寝面構えを継続する桜弘(おぐ)は涎を垂らしながらこっくりこっくりしていた。どうやら夢のなかで新鮮なシュークリームを捕食しているようだね。うわ。めっちゃ腹立つ。


 ぼうぼう。ふぁいやー。


「とにかく早急に世の中を正す必要があります! 世の支配者層の連中には経済対策を頑張ってもらいたいものです!」


「はいこれでラストー」


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 ぺりぺり。ぽいっ。


 社会に対する憤りに燃えてるお悩み相談とお昼寝タイム。


 この恐るべきダブル構えに挟撃されながらも人喰いゴミ剥がし役の(かなえ)は自らのお仕事を全うしていた。おお。めっちゃ偉いじゃん。


 ようするに自律型移動式焼却炉さんの内部にラスト人喰いゴミを投入完了し終えたのだ。


 (かなえ)とかいうこいつは意外と真面目な輩なのでちまちました作業を結果的に全部こなしてしまう構えに定評がある。お疲れ様というやつだった。


「うーん。つかれたー」


 ぼうぼうゆってる自律型移動式焼却炉さんを完全に無視する(かなえ)はひと仕事を終えた充実感からひとまず伸びを繰り出す。川を綺麗にしたということ以上にやるべきことを一通り終えたという事実に触手少女は充実感を覚えていた。


 麗らかなお日様が撒き散らすげらげらで周囲は満ち満ちしている。


 ぽかぽか陽気のお昼ちょっと前だ。


 触手生物の生態として過ごし易い暖かさに誘われた(かなえ)はひとまず繰り出した伸びを伸び伸びしたものに変形させてゆく。


 ぐにょぐにょ。ぐにょん。


「のびー」


 有り体に述べ述べして(かなえ)は背中を反らせていた。


 のびびびびー。


 ボディの大半を触手に置換済な(かなえ)の柔軟性は尋常なものではなかった。


 卓越した柔軟性を活用して伸び伸びしてやるとヘッドが股の下を通った挙句に伸び伸びと反った腰よりも面構えが上に来た。


 ぐにょぐにょーん。


「ぐぐぐぐぐー」


 のびのびのびー。


 気持ち良さそうに背中を反ってる今の(かなえ)を見てもらえば分かるが昨今のこいつは股の下を通って縦方向にボディを一回転させている。


 うわ。気持ち悪い。なんだこいつ。


 夢に出てきそうだ。触手生物が繰り出す構えの気持ち悪さを地の文担当者は普通に気持ち悪がる。


 その刹那。


「ぱちくり」


 ぱちん。


 今の今までうつらうつらとしていたにもかかわらず何の理由もなく桜弘(おぐ)が唐突にしゃっきりとしてきた。しぱしぱ。しゃきーん。


 こいつは死ぬほど寝起きが良い。だからいつもこうして急に覚醒した。


(かなえ)ぇ。お外でそんな品の無いポーズしちゃ駄目だよぉ。もっと慎みを持って生きた方がいいと思うなぁ」


 おめめを覚ましてみたところ股の間から正位置で面構えを「こんにちは」させている(かなえ)桜弘(おぐ)はおめめを合わせてしまう。


 はしたない構えを構築して尚も恥を省みない友を桜弘(おぐ)は優しく宥めた。


 こっちに仕事を全部丸投げしてさっきまでお昼寝していた桜弘(おぐ)から辛辣に窘められた(かなえ)は果たして今何を思うのか。


「かちーん」


 あ。案の定かちんと来てるね。


 のけぞった状態から股下ヘッド覗きの構えで気持ちよく柔軟をしていた触手生物は仕事を全部丸投げしてきた癖に偉そうに説教してくるドラム缶生首生物への反撃を試みる。


 かちんかちん。


「えー。もしかして桜弘(おぐ)ちゃんこの構えできないのー? だっさー」


「はぁあああっ? 相撲部の柔軟性舐め舐めしないでくれますかぁ? それくらい普通にできますけどぉ? ていうかドラム缶ボディじゃなかったら(かなえ)よりもっと反り返りまくれるしぃ」


「はぁー!? 体内で飼ってる触手と順調に一体化中の私が繰り出す柔軟性甘くみてなーい? 私くらいになればここからさらに一回転できるけどー。つーか現に今できるしー。ほらほら。ぐぇええええええええええええええーっ」


 反撃の反撃に対する反撃のお茶濁し合いの末に追加注文の如く桜弘(おぐ)からさらに喧嘩を売られた(かなえ)は何か本格的にキレた。かっちーん。


 負けず嫌いな彼女は禁断の二回転半捻りを繰り出すべく股の下から新鮮なヘッドを覗かせた構えからさらにボディを縦方向に反り返らせ始める。


 めりめりめり。めりりぃ。


 うわ。気持ち悪い。こえぇ。


 (かなえ)は売られた喧嘩を全部買うタイプの女だ。


 触手生物ということで柔軟性に自信がある彼女はこの喧嘩から逃げるという選択肢を最初から捨てている。凄い漢気だ。


 だから全力で背中を反らせた。


「ぐっ、ぐぐぐぐーっ。ぐぇえええええええええええええーっ!」


 反る。のけ反る。物凄い勢いで反り返る。


 めっちゃ反り返る。意味分かんないくらい反り返りまくる。


 ぐにょにょにょにょっ。めりめりめりっ。


 うわ。うわわ。き、気持ち悪い。あまりにもはしたない少女の姿に地の文担当者は思わずおめめを逸らした。


 とうとう最終的に(かなえ)のボディは三回転反りを超えた禁断の四回転反りを超越した前人未到の五回転アクセル反り領域に突入しつつある。


 めきょきょきょ。めにょ。


 ふむ。率直に述べ述べして気色悪い構えだ。でも柔軟性という観点では素晴らしい反り返り具合と言えよう。


 しかし禁断の四回転反り目に突入したあたりからだろうか。一生懸命背中を反らせる(かなえ)のボディからはやべー音が鳴り始めていた。


 めきょきょきょめりょりょ。めにょにょ。


「ぐ、ぐぇえええええええええええええええええええええええええーっ!?」


 めびゅびゅ。りょりょりょりょりょ。


 ひぃいいいっ!?


 反りが禁断の領域に入るに伴い何やら発生し始めた名状しがたい謎の擬音に地の文担当者は露骨な戦慄を見せる。


 いけない! これ以上背中を反り返ると反り過ぎてもはや腰なのかお腹なのか判断のつかなくなってきたボディの部位が千切れてしまうかもしれない!


 率直に述べ述べして今の(かなえ)は気持ち悪いを通り越してもはや怖かった。


 こんなの人間じゃない。生のハンバーグとか生の肉団子とかそういう類な連中の親戚だ。


 流石にこれはよくないと地の文担当者は思います。これより先はコンプライアンス的に本作が削除されかねない危険な領域だった。


 今すぐ止めるんだ桜弘(おぐ)! 主人公だろ!


(かなえ)すげぇ」


 しかし地の文担当者の危機感も他所に逆ダンゴ虫をすら凌駕する見事な逆五回転アクセル反りに桜弘(おぐ)は感嘆の声をあげていた。


 なかなか肝の据わった輩だね。


 地の文担当者は感嘆の前に生理的嫌悪感が先に来たというのにこの子は友の反りを客観的な技術的観点から評価している。やはりこいつに人の心などなかった。


「ぎゃ、ぎゃーっ!? ぐぇえええええええええええええええええーっ!?」


「ふっ。流石の私でもここまでの柔軟性は真似できないぜぃ」


 果たして勝敗判定の場を受け入れた桜弘(おぐ)は柔軟性における自らの負けを素直に認めた。素直な良い子である。


「あ。風さんです。ちょっと通りますね」


 スポーツマンシップに則り勝者を認めた少女の小脇に爽やかな一陣の風さんが吹き抜けていった。


 そして地の文担当者が書き忘れていたが今話は前話と同時系列なのでさっきから反り返りまくっている(かなえ)は相変わらず青緑色クソダサジャージを装備している。


 うわ。クソダサい。


 つーか大丈夫? お腹とか胸のあたりの生地伸びたりしない?


 その刹那。


 ぶちぶちぶちぃいいいいいっ。


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああーっ!?」


 限界を迎えた(かなえ)のボディがとうとう千切れてしまった。


 その刹那。


「そろりそろり」


 こそこそ。こっそり


 地元の女子中学生相手を相手取った自律型移動式焼却炉さんが自分の正体を話したことを察したプロ殺人鬼兼業駐在さんが自律型移動式焼却炉さんの背後にこそこそと忍び寄ってくる。


 忍び寄った挙句の彼は何やらいい感じのポジショニングに陣取った。


 うむ。背後から殴り易そうなポジショニングだね。


 絶好の背面ポジション構えから彼が繰り出すのは当然ながら証拠隠滅の殺人鬼必殺技だった。


 しゅばんッ。


「駐在さんパンチ!」


 べこんッ。


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああッ!?」


 証拠隠滅の殺人鬼必殺技『駐在さんパンチ』を喰らった自律型移動式焼却炉さんは案の定即死する。ばらばらばら~。


 よ、よえぇ。


 幾多ものゴミを焼却してきた因果であろうか。時給千二百円のアルバイト生活の果てに自律型移動式焼却炉さんは自分自身がゴミと化したのだった。


 そして絹を裂くような媚び諂った可愛い悲鳴が上がる。


「い、いやぁあああああああああああああああああっ!?」


 今しがた隣で起きた殺人事件に全く興味が持てないお年頃な桜弘(おぐ)超絶(ちょうぜず)っ友のボディが裂けるところをおめめ前で見せつけられてしまっていた。


「か、(かなえ)ぇっ! 死んじゃやだぁああああああああああっ!」


 友の悲惨な姿に少女は絶叫する。


 そう。自律型移動式焼却炉さん殺人事件は(かなえ)のボディ真っ二つ事件と全くの同時期に引き起こったのだ。


 何たる合縁奇縁であろうか。


 きっ!


 上っ面の悲しみから来る悲しみの血の涙をおめめ小脇から垂れ流す桜弘(おぐ)はプロ殺人鬼『ちゅー駐在さん』を「きっ!」と睨みつけた。え。どういう感情なの?


「よくも(かなえ)をぉっ! 絶対に許さないぞぉ! ぶっ殺してやるぅ!」


 仲良しこよしで知られる友の胴体が千切れたせいで桜弘(おぐ)の上っ面は割と本気でキレてる。いわゆるキレる十代というやつだ。何という理不尽な怒りであろうか。


 しゅこんッ。


 理不尽な怒りを胸に宿すキレる十代女子と正面から相対するちゅー駐在さんは殺人鬼ウェポン『鋭利ストロー』を懐から取り出した。


 愛用の得物を葉巻のように咥えた彼の凪いだおめめはプロ殺人鬼としての殺意に満ち満ちしている。こいつは今話の↑の方で生前の自律型移動式焼却炉さんがお話ししてた輩だ。


「やってみろ小娘。俺はプロ殺人鬼『ちゅー駐在さん』。来期の殺人鬼ランキング上位ランカー入りのために俺の正体を知った者は(ことごと)く吸い殺す」


 果たして今回のプロ殺人鬼『ちゅー駐在さん』が自己紹介をしてきた。


 おお。何という簡潔で分かりやすくよくまとまった自己紹介であろうか。地の文担当者はちゅー駐在さんの要約能力に素直な感嘆を見せた。


 そして混乱している読者諸兄らもおられるかと思うがゆえに気を利かせた地の文担当者が少々状況とかをここらで述べ述べしてやろう。


 すなわち仰け反り過ぎた(かなえ)のボディが千切れたのと同時――


 ――プロ殺人鬼『ちゅー駐在さん』が現れて自己紹介してきたというのが今しがたの場面である。分かった? 地の文担当者はちょっとよく分かんないです。


 つまりは死闘の幕開けだった。


「がぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 うわ。びっくりした。


 だからそれはきっと死闘の幕開けの刹那における出来事だったりする。ふと気づけば桜弘(おぐ)が何やら素早く先の先を制してきた。


 威嚇の構えである。こ、こえぇ。


 先手必勝と言わんばかりに開幕と同時に彼女は全力で叫んだのだ。なかなかの声量だね。しかしドラム缶であるので特に何もできなかった。叫んだだけだよ。


 先手必勝でいきなり大声を出されたちゅー駐在さんはドラム缶生首生物が繰り出してきた恐るべき威嚇からわずかに遅れて何やら急に内股の構えを構築した。


「ちょこちょこちょこちょこ」


 そんでもってちょこちょこと面妖な起動で駆け回り始める。


 うわ。キモい。


 でも動きとしてはかなり俊敏だった。まるで血に餓えた人喰い蚊を思わせて俊敏な挙動と言えよう。


 ちょこちょこちょこちょこ。かけよりッ。


 しばらくちょこちょこしていたちゅー駐在さんはやがて桜弘(おぐ)ちゃんへのおもむろな接近を果たした。馴れ馴れしい人ですね。


「ぶすぅううううううううううううううううッ!」


 しゅどんッ!


 内股の構えでちょこちょこと動き回って相手を幻惑した後に桜弘(おぐ)のドラム缶へと駆け寄ってきたちゅー駐在さんは思い切りストローを突き立てた。


 なんだこいつ。女子中学生のボディに急にちゅーしてくるとか普通に悪質なセクハラだぞ。恥を知れ。


「いたいっ」


 わき腹を思い切りストローで刺された桜弘(おぐ)は普通に痛がった。可哀想に。


 ドラム缶が受けた振動やら衝撃やらが首とかに伝わりそこそこのダメージを受けてしまったのである。


「いたいッ」


 だがちゅー駐在さんの方も同様に痛そうにしていた。これは何としたことであろうか。


 むむ。どうやらドラム缶が硬すぎて歯が立たなかったようだ。


 冷静に考えてみれば当然の結果だ。ドラム缶にストローを突き刺そうとしてもそれは上手くいくわけがない。女子中学生にキスしようとしてきたセクハラ野郎には相応しい末路だ。


「仕方ない。ここは殺人鬼必殺技を使うしかないか」


 殺人鬼ウェポン『鋭利ストロー』が「がッ」と当たったせいで歯茎のあたりから出血しているちゅー駐在さんは涙おめめになっていた。


 やはりダメージは結構大きい。だが彼とてプロ殺人鬼だ。


 プロとしての意識がある彼はこの程度ではへこたれない。強い男だぜ。


「がんばれぇ」


 不撓不屈の精神を見せるちゅー駐在さんを桜弘(おぐ)は応援する。


 これは。まさか。


 これなるは『フェアプレー精神』の構えだとでもいうのか!?


「うん。頑張る」


 少女の声援を受けて気合を入れなおしたプロ殺人鬼『ちゅー駐在さん』は渾身のパワーを込めた二発目のストロー突き刺しを繰り出す。


 しゅびんッ!


「殺人鬼必殺技『全力ストロー突き刺し』ッ!」


 ぶすぅううううううううううううううううッ!


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああっ!?」


 絶大な殺傷力が込められた殺人鬼必殺技『全力ストロー突き刺し』。


 そんな代物を正面から喰らう破目に陥ったことでドラム缶ボディについぞ穴が開いた桜弘(おぐ)は素で絶叫する。


 彼女は割とガチで痛がっていた。


 うわ。ほんとに穴開いてる。これは痛いぞ。


 実際問題のお話としてドラム缶が喰らった衝撃がダイレクトに頚椎と脳みそに届いたがゆえに桜弘(おぐ)は普通に大ダメージを受けていた。


 概念的な痛みではない。これは実際の桜弘(おぐ)ちゃんヘッドが喰らった痛みだ。


「このままドラム缶の中身を全て吸い上げてくれるッ。ちゅー!」


 ちゅーちゅーちゅー。


 ドラム缶の強固な外皮を無事に突破したちゅー駐在さんは満を持して桜弘(おぐ)のドラム缶の中身を物凄い勢いで吸い上げ始める。


「うわぁあああああっ! このままじゃ今日の私のドラム缶の中身な南アルプスの天然水が全部吸い上げられちゃうよぉおおおおおおおっ!」


 ストローでわき腹の小脇に穴を開けてきた矢先に本日のドラム缶の中身を必死の面構えで「ちゅーちゅー」吸ってくるおじさんに桜弘(おぐ)は悲鳴をあげた。


 彼女の面構えは普通に嫌そうである。


 だって冷静に考えてみて欲しい。


 面識のないおじさんから中身を吸われ始めたのだ。そりゃ流石の桜弘(おぐ)と言えども露骨に嫌がるに決まっている。


「ちゅーちゅーちゅーッ!」


「やだやだぁ。やめてよぉ。そういうことをするのはもっと親しくなってからにして欲しいなぁ」


 馴れ馴れしいおじさんが繰り出してくる強引な距離の詰め方にお年頃の少女は辟易していた。


 しかし大好きな桜弘(おぐ)ちゃんが知らないおじさんからセクシャルハラスメントを仕掛けられている現状に黙っている触手生物ではない!


 さっきから全然登場してこない(かなえ)はようやく再生を終えた挙句に超絶(ちょうぜず)っ友の窮地を鑑みて立ち上がってきた!


「させない! 桜弘(おぐ)ちゃんのドラム缶の中身は私が守る! 昨日の技術の時間をフル活用して作った全自動塩分抽出装置をフル活用して卑金属から精製した大量の塩を桜弘(おぐ)ちゃんに投入してやるー! 超高濃度の塩水で中毒死しろー!」


 上手い具合にストローを突き刺して桜弘(おぐ)の中身をちゅーちゅーし始めたセクハラ野郎に(かなえ)は普通にキレていた。キレる十代女子というやつである。相変わらず情緒不安定なやつだ。


 常と同じく情緒不安定ではあるもののボディが千切れた先ほどの結構な負傷の影響は特に見られない。どうやら完全復帰したようだ。よかったね。


 にゅるにゅる。にゅるぷ。


「うっす。自分は(かなえ)が作った全自動塩分抽出装置っす。初仕事なんでマジ気合入れて頑張るっす。うっす」


 斯くして普通にキレたキレる十代な(かなえ)の体内から昨日の技術の時間に作製された全自動塩分抽出装置が登場してきた。にゅるにゅにゅるぷー。


 何やら新登場してきた全自動塩分抽出装置とは地元女子中学一年一組&一年二組のわらわら少女どもが昨日の技術の授業中に作製した謎の装置だったりする。


 こいつは上部の取り込み口に卑金属を入れてやると新鮮な塩が下の口のところからさらさらと出てくる謎多き生態を有していた。


「よいしょ。よいしょー。ぺりぺりー。ぽいぽーいっ」


 ぺりぺり。ぽいぽい。


 全自動塩分抽出装置を体内から無事に取り出した(かなえ)は早速作業に取り掛かる。


 全自動塩分抽出装置で大量の新鮮な塩を完成させて桜弘(おぐ)のドラム缶にそれを全部投入した挙句に本日の桜弘(おぐ)のドラム缶の中身である南アルプスの天然水を致死濃度の塩水に変えてやり致死濃度と化した桜弘(おぐ)の中身を吸わせてちゅー駐在さんを塩分中毒死させるという旨が(かなえ)の立てた計画だった。


 ふむ。遠大な計画だね。


 幸いにしてこのあたりには今は亡き自律型移動式焼却炉さんの残骸があたり一面に転がっている。原料の卑金属には事欠かなかった。


「ぺりぺりー。ぺりりー。うん。思ったより強度が無いから細かく千切って投入しやすいかも」


 あたりに散らばっている自律型移動式焼却炉さんの骸が思ったより脆かったというのも(かなえ)の計画完遂を後押しする。ぺりぺり。ぽいぽいっ。


 丁寧かつ繊細な仕事で自律型移動式焼却炉さんの骸を触手で細かく千切ってゆく少女は小分けされた卑金属を全自動塩分抽出装置の取り込み口へと段取り良く放り込んでいった。


「うっす。気合入れて抽出するっす。期待してもらっても構わないっす」


 自律型移動式焼却炉さんは安い材料で作られた安物である。残骸は普通に卑金属判定されて全自動塩分抽出装置は問題なく作動しそうな感じだった。


 かちっ。


 一通りの自律型移動式焼却炉さんの骸を投げ入れ終えた(かなえ)は装置側面のスイッチを「かちっ」と押してやる。


「よし!」


 スイッチを押し込みながらも指差呼称は怠らなかった。


 新鮮な指差呼称を繰り出したことでひと仕事を終えた少女は「ぐぐっ」と背伸びをする。もう一度ボディが千切れるのは流石に嫌なので今回はひかえめな伸びだ。


 ごうんごうん。ごう~ん。


「うっす。今抽出精製してるっす。あと三時間半くらいで二キログラム前後の新鮮な塩ができるっす」


 原料を入れてスイッチも入れた全自動塩分抽出装置の動作確認は順調な雰囲気を醸し出している。


 これであと三時間半経てば二キロほどの塩が精製される筈だ。すげー。


 ちゅー駐在さんを確実に塩分中毒死させたいと考えるなら初回精製分のあと十倍の塩は欲しいところである。


 すなわち三十五時間あれば目的量の塩をこの場に用意することが可能となった。


「私の全自動塩分抽出装置も持って来てれば半分の時間で済んだのになぁ」


 ちゅー駐在さんにさっきから中身をちゅーちゅーされ続けている桜弘(おぐ)は三十五時間は長いなぁという面構えでお茶を濁す。


「だよねー」


 待ち時間は当然暇なので(かなえ)桜弘(おぐ)と似たような面構えでお茶を濁していた。


『今日は川のゴミ拾いをしてきましたー』


 そうした旨の当たり障りの無いコメントを載せて適当な自撮り写真をインフレにアップロードした(かなえ)のおめめからは全自動塩分抽出装置に向けた感心がすでに失せている。


 これは何かもう全体的に飽きちゃってる系の構えだ。


 ともあれひとしきりのSNS更新を終えた触手少女は暇潰しによくやるソーシャルゲームを開いた。


 しかしこれは。まさか。


 これなるは『ゲームでもして時間潰すか』の構えだとでもいうのか!?


「しげしげぇ」


桜弘(おぐ)ちゃん。全体重預けてこないで。普通に重いから」


 もちろん(かなえ)が暇であるということは桜弘(おぐ)も当然ながら暇であるということに他ならない。


 なので相変わらず中身をちゅーちゅーされているドラム缶生首生物は触手女が握るスマホの画面をしげしげと眺めていた。











 そんなこんなで三分後。


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 急激に水分を摂り過ぎて水中毒になったちゅー駐在さんは爆発して死んだ。











 こぽぽぽぽ。


 桜弘(おぐ)のドラム缶上三分の一ほどのあたりから優美な音の類を立てて新鮮なお水が漏れてゆく。


 まるで穴の開いたドラム缶だ。


 これでは穴の開いていないドラム缶をもう名乗れない。


「うぅうううう。さっき刺されたせいで私のドラム缶に穴が開いて中身がこぼれるようになっちゃったよぉ」


 穴の開いたドラム缶の有様に桜弘(おぐ)は泣き言を漏らした。


 こぽこぽと流れ行く本日の中身を彼女は悲しげに見つめている。


 プロ殺人鬼『ちゅー駐在さん』との戦闘による負傷で穴が開いた彼女のドラム缶は中身を溢すようになってしまったのだ。かわいそうだね。思わず地の文担当者は同情の構えを取る。地の文担当者は人の痛みが分かる素直な良い子だった。


 ちなみに今現在その刹那は先ほどの決着爆発シーンからさらに数分ほどが経過した近未来の時系列だったりする。


 本作名物の無意味な雑場面転換がまた行われた構えだ。


 あまりにも雑な場面転換の影響であろうか。


「おろおろ。おろろぉ」


 さっきからおろおろしている桜弘(おぐ)は悲痛な声を上げていた。


「よいしょ。よいしょー」


 こぷこぷこぷ。しょくしゅしきじゅうてーんっ。


 減った分のドラム缶内容量を補充すべく先ほどから川の水を変形触手ポンプで汲み上げて注入している(かなえ)も普通に心配そうな面構えを見せている。え。こいつポンプ役もできんの? すげー。


「ばんそぉこぉ貼ったら治るかなぁ?」


「流石にお医者さんとか行った方がいいかもねー」


「ドラム缶科あるお医者さんってどこだろぉ。調べるの面倒くさいなぁ」


 お医者さんに行った方がいいという(かなえ)のアドバイスを受けた穴開きドラム缶女は上っ面で不安そうにしていた。こいつに人の心なんてものはない。だが状況を見極めた人の振りは上手だった。


 だからこうしてどんよりとした構えも取れる。


 どよどよ。どんよりぃ。


 春の陽気がげらげらしているお昼少し前な河川敷における物語だ。


 楽しい楽しい川のゴミ拾いの場であるというのに女子中学生二人組は二人してどんよりとした空気を形成してしまう。


 悲しい川の拾いイベントの結末だった。











 しかしその刹那。


 彼女たちの背後に忍び寄る恐るべき影!


「しゃきぃんっ」


「しゃきーんっ」


 小娘二匹はその刹那にどんよりをやめていきなりしゃっきりする。この世界で生まれ生きる限り決して逃れることのできぬ生命本能が衝動的に絶叫したのだ。


 絶対の死を回避せんと泣き叫ぶ身の上の声を頼りにこの場を訪れんとする影の正体をかろうじて察した桜弘(おぐ)(かなえ)は即座に背筋をしゃっきりさせる。


「あらあら。もう終わったのかしら?」


 やってきたのは案の定近所のおばさんだった。


「お疲れ様ですっ! お疲れ様ですっ! お疲れ様でぇすっ! 先ほどはあなた様の貴重なお時間を私たち如きのためにお割いていただき本当に本当にありがとうございましたぁ!」


「お疲れさまです! お疲れ様ですっ! 先ほどはありがとうございました! 大変勉強になりました! 教えて頂いたことは今後の生活に役立てていきます! 本当にありがとうございましたー!」


 叩き込まれた条件反射と齎された衝動に従うがまま。生存本能的電流が流れて咄嗟に肉が跳ねた二匹の下等生物は即座に意思無き奴隷と化す。


 個人の意志など関係なかった。意味がないのだ。


 近所のおばさんに桜弘(おぐ)(かなえ)は元気よくお礼とご挨拶を述べ述べする。恐怖と絶望と畏怖と服従だけが下等愚鈍矮小な小娘たちのボディを突き動かしていた。


「いいのよ別にお礼なんて。それにしても虹会(にじおあ)さん()の娘さんと伊塚(いつか)さんのところの娘さんは今日一日……いえ半日かしら。うふふ。本当に頑張ってたわねぇ。若いのに感心だわぁ」


 意思無き奴隷と化した下等生物の前に(そび)える上位存在『目上の大人』な近所のおばさんは二人に労いのお言葉をかける。


 近所のおばさんの面構えに宿るのは漠然で曖昧なおばさんスマイルだ。


 少なくとも人が人に向けていい類の面構えではない。


 足下の蟻が何かを運んでいたとして「踏み潰す」か。


 それとも「応援する」か。


 この二択を自由に選ぶ権利と力が『それ』にはある。


 そして今日の『それ』は単なる気まぐれでたまたま後者を選んだ。


 ただそれだけのお話である。


「ありがとうございまぁす!」


「ありがとうございまーすっ!」


 近所のおばさんが宣告した労いを二人は正面から肯定した。


 恐れ多いからとそんなことはないというようなニュアンスを滲ませてしまった場合は目上の大人の発言を否定することになる。


 神の言説を否定することは許されない。


 下された評価を肯定した上で評価に見合う働きをすることが目上の大人が繰り出してきた労いに対する礼節とマナーだ。


「うふふ。ご褒美にこれあげる」


 正当な礼節とマナーを受けた近所のおばさんは健気な蟻さんにご褒美の飴ちゃんを繰り出してくる。


 飴ちゃんとは元の所持者に応じて威力が変更処理を受ける回復系アーティファクトだったりした。


 上位存在たる近所のおばさんの飴ちゃんはマジのガチモンの神器なので擬似的な死者蘇生すら可能とする。


「ありがとうございます! いただきまぁす!」


「ありがとうございます! 失礼になるかもしれませんが私は飴ちゃんが大好きなのでこの場でいただきます! ありがとうございましたーっ!」


 目上の大人から下賜されたアーティファクトは軽量であれば貰った場で消費するのが吉とされた。


 なめなめ。なめなめ。しゅわわぁ。


 流石に美味しそうだね。


 果たしてこの世界の人間社会を支配する一柱から与えられたアーティファクトの効果で桜弘(おぐ)のドラム缶の穴がみるみるうちに塞がってゆく。すげぇ。


『あらあら。うふふ』


 珍奇な運命のさなかにある小娘二匹を睥睨する正真正銘の上位存在は世界と容易に一体化してこの場から消えた。

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