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第六十九話 『オクトパ素手殴り男』

 春式お昼の表通りストリートのこと。


 お日様のげらげらも麗らかなストリート小脇においてはふと気づけばぎゅるぎゅるとした華麗なサウンドエフェクトが迸っていたりする。


「お昼過ぎということで玉乗り男な俺はちょっと遅めなお昼ご飯を捕食するぜ」


「ぎゅるるるるるるるる。俺は巨大玉。玉乗り男を乗せてる」


 誰だこいつら。


「玉乗り稼業をこなす傍らで晴れた春先の風さんを浴びるこのひと時の風流の邪魔は誰にもさせたりしないぞ」


「ぎゅるるるるるる。おう相棒。存分に野外お昼ごはんを捕食しな」


 春のお昼に迸るぎゅるぎゅるとしたサウンドエフェクトの傍ら。今回もお送りするのはやはり社会の授業風景となっている。


 社会の授業風景だからこそであろうか。よく晴れた春の表通りにて玉乗り男が巨大玉に騎乗した構えのまま何やらお昼ご飯の捕食シーンを構えていた。いやだから誰だよこいつら。


 時節的には午後一時と午後二時のハーフタイムあたり。


 ぎゅるるるるるる。


 何故か登場してきた玉乗り男が勢い良く巨大玉を転がしてゆくメインストリームはなかなか派手であり結構な見応えがある。


 しかしこの場においてはそうした表通りから一度おめめを放し表通りメインストリーム小脇の方角に作中視点を向けてやりたかった。だってこいつらただの通りすがりだし。


 ふぉおおおおおおおおおおん。ぷしゅぅうううううう。


「うお。なんだなんだ。路地裏カリフラワーな俺はヘッド上に鳴り響いた異音に恐怖を覚えて普通に退避を繰り出すぜ」


 べちーんっ!


「ぐべっ」


 玉乗り男が繰り出す華麗なサウンドエフェクトとは程遠い恐るべき異音と共に何者かが路地裏に出現してくる。


 地元から離れた路地裏上空の虚空より(かなえ)が出現してきたのだ。社会の授業中だからね。


 社会の授業が繰り出す授業的空間転移の常により結構な上空に召喚された彼女は落下に伴って案の定肉片と化してしまう。


「ぎゅ。ぎゅぷっ」


 出現地点に人がいれば普通に人身事故の類になっていたであろう。この移動様式はやはり危なかった。地元女子中学は一度カリキュラムを見直した方がいいと地の文担当者はふと思う。


「やれやれ。空から触手生物が降ってくるとはな。異常気象の影響ってやつか。物価の高騰が心配だぜ」


 地の文担当者の危惧も他所に路地裏に生きる者の習性として路地裏カリフラワーは先んじて退避を行っていた。流石だぜ。


 さらには卓越した推察力により今しがた落下してきた輩が触手生物であるということもすでに看破済みだ。


「路地裏カリフラワーな俺は去る。あばよ」


 しゅたたたたた。


 そして路地裏カリフラワーは華麗に去る。所詮こいつもただの通りすがりだ。


「ううー。わき腹が痛いよー」


 にゅるにゅる。にゅるぷ。


 結構な上空から逆さま状態で落下してしまったせいでわき腹をしたたかに強打した叶は全ボディを痛がりながらにゅるにゅると再生していった。不撓不屈の精神と言えよう。


 割とあっさり再生を終えて立ち上がりを見せた彼女の小脇に路地裏カリフラワーの姿はすでになかった。社会の授業中における開幕シーンということでこいつもやはり孤独なスタートを決めている。


「すぴー。すぴー」


 まあ孤独といっても少女の傍らには頼りになる筈の頼りにならない今授業中のアシストクリーチャーがいるんだけどね。


 柔軟性を生かして立ち上がりを決めた触手生物の小脇に転がるのはかの英雄プリンスキー将軍に他ならない。


「おーい。もしもーし」


 結構な距離からの落下の衝撃で近所に転がったプリンスキー将軍を(かなえ)はゆさゆさしてあげた。


「すやすや。もう捕食できないのである」


 プリンをたらふく捕食した(かなえ)のプリンスキー将軍は血糖値の上昇によりすっかり熟睡モードに入っている。


「……うそでしょ。プリンスキー将軍熟睡入ってんじゃん」


 プリンスキー将軍熟睡の報を受けた(かなえ)は流石に愕然とした。


 召喚術の適性がないと稀にこういう状況に陥る。プリンスキー将軍の開幕調教に失敗すると補助を受けることができなくなってしまうのだ。


 ぴちょん。ぴちょん。


「たらたらたらー。……消化液を垂らしても起きない。流石に英雄だけあって耐酸スキルはばっちり取ってるかー。うーん。幸先悪いなー」


「うううー。我は夢のなかで触手生物に襲われているのである。すぴー」


 もちろん普段であれば現状のような状況を的確に回避するのが要領の良さで知られる(かなえ)だ。でも消化液を華麗にレジストされる最近の(かなえ)はあんまり調子が良くないお年頃だったりする。


 だって今朝の正座占い(※正座の痺れ具合を利用した占い。朝のニュース番組でよくやってる)の順位がよくなかったんだもん。


「まったくもー。やれやれってやつだよー。よいしょっと。ぺたぺた」


 拾ったプリンスキー将軍を触手でぶら下げ「ぷらんぷらん」と弄ぶ(かなえ)はため息と餅を同時についた。


 ぺったん。ぺったん。


「プリンスキー将軍の補助無しで課題をこなさなきゃいけないのは率直に述べ述べしてダルいなー。まあ才色兼備で知られる(かなえ)様にかかれば余裕だけど。でも社会の授業風情にそこまで体力を使うのもあんまり好ましくないんだよねー」


「まったくだぜ」


 通りすがりのダルメシアンは(かなえ)のダルそうな愚痴に同意を示す。


 これは。まさか。


 これなるは『餅つきダルメシアン』の構えだとでもいうのか!?


 この世界のダルメシアンは餅をつくときの「ぺったん。ぺったん」というサウンドエフェクトに引き寄せられる習性を持っていた。なんで?


 こうした事態もあろうかと体内に事前に餅を忍ばせていた(かなえ)の計略に彼たるダルメシアンは哀れにもハマってしまったのである。可哀想な輩だ。


 のこのこと現れてきたダルメシアンたる彼は二足歩行を構えている。


 白黒斑のボディに装備するのはスポーティージャージだ。


 うむ。どうやらこいつはトレーニーダルメシアンのようだね。


 その体躯はよく鍛えこまれていた。


「うーん。ダルメシアンかー。新鮮なとんがりペンギンの方がよかったけどまあいいや。トレーニーダルメシアンなら見劣りしないでしょー。多分」


「俺は普段からジム通いをしてたりするトレーニーな身の上だ。腰を痛めない範囲でデッドリフトとかやりまくってるぜ」


「じゃあ今後ともよろしくー」


「おう」


 愚痴を言ったり聞いたりした間柄だということで(かなえ)はひとまずダルメシアンとの交友を深める。このあたりの社交性は超絶エリート女子中学生なだけあった。


 プリンスキー将軍が使えない状況における社会の授業ではこうした地道な話しかけ連打が重要とされている。


「ねー。トレーニーダルメシアンってばさー」


「なんだ?」


「生の歴史レポート装備してる輩とか知らない?」


「知ってるぜ」


「知ってるなら詳細を述べ述べするべきじゃないの? 気が利かないとかゆわれたことない?」


「生の歴史レポートを装備してるって噂な輩はこのあたりを荒らしてる悪党チームのボスだってお話だ。何でもそいつはプロ殺人鬼らしい。殺しも辞さないあれくれ共だからこのあたりでの評判は露骨に悪いな」


 ダルメシアンとの交友を深めることに成功した(かなえ)はおそらくは今回エピソードのボスキャラと思しき輩の情報を入手した。手際いいね。


 その刹那。


 しゅぴーん。


 うお。びっくりした。これはフラグが立つ音だ。


 こうしたフラグ管理は授業的空間転移先での綾とされている。


 (かなえ)とかいう触手生物はやはり要領が良かった。なんという緻密で高度なお茶濁しテクニックであろうか。


 斯くして物語はようやく進行を見せてくる。


「うわー。ダルそうな課題。プリンスキー将軍無しで悪党チームと戦うとか。単純に体力仕事でめっちゃダルい」


「なんだお嬢ちゃん。件の悪党チーム『タコカイン』に喧嘩を売ろうってのか」


「喧嘩喧嘩喧嘩~。私はそいつらに喧嘩を売りに言って生の社会レポートをゲットしたりする~。ららら~」


「奇遇じゃねえか。ダルメシアンで知られる俺も今からそいつらをボコボコしに行く予定だったんだ」


「は? ダルメシアン風情が悪党チームをボコりにー? 無理無理。絶対無理。あははー。笑える」


「笑うんじゃねえ!」


「そんなことよりねえねえー」


「あん?」


「せっかく謝ってやったんだから私を誘え」


「よかったら一緒に行くかい?」


「はい」


 そうこうしているうちに(かなえ)はひとまずのアシストクリーチャーであるダルメシアンをゲットした。


 ダルメシアンは攻撃力が低いが防御力は優秀だったりする。


 しかし盾役として動くのではなく率先して相手を殴ろうとする思考を有した。


 ステータスと思考ルーチンがミスマッチを起こしているためダルメシアンの評価はあまり高くない。でも総合的に見てみると何だかんだ仕事をするのがダルメシアンというアシストクリーチャーだ。


 防御力が高いのに率先して相手を殴ろうとするということはタフネスにものを言わせてずーっと張り付いて殴り続けてくれるということに他ならない。


 結果として低い攻撃力による低威力なダルメシアンパンチが何度もヒットすることになった。いわば小ダメージを持続させていく系の構えと言えよう。


 開幕で超威力のペンギンドリルを突っ込んでくれる人気なトンガリペンギンと比べても長期戦に限ったお話で述べ述べすれば最終的な総ダメージ量はダルメシアンの方が高くなることは決して珍しくなかった。


 しかも(かなえ)が今回ゲッディーしたのは通常ダルメシアンよりもステータスが一回り高そうなトレーニーダルメシアンだ。


 これはプリンスキー将軍の代用としてゲットしたアシストクリーチャーとしては悪くない選択肢と思われる。


「えーと。新鮮なアシストクリーチャーをゲットしたら次は何すんだっけ」


 プリンスキー将軍の代用品をゲットした(かなえ)はひとまず自前執筆の社会科ノートをぺらぺらとめくった。


「さあな。俺は犬だからな。指揮は頼んだぜ」


「ひとまず歩けばいいのかな? うろ覚えだけどそんな気がする。まあ所詮は社会の授業だしうろ覚えでも何とかなるでしょー」


「ゲットされた身の上なわけだから俺もひとまずこいつに連れ立って歩くぜ」


 のこのこ。のこのこ。


 触手を用いて歩きながらも器用にノートを広げた(かなえ)はゲットしたばかりの新鮮なダルメシアンと連れ立ってのお散歩をひとまず慣行する。


 地の文担当者がさっき書いたきり描写をサボっていたがこのあたりは表通りの小脇に聳える路地裏街だった。


 謎多き建物に囲まれているので近隣の視界はあまり良くなかったりする。視界確保のための歩き行動だ。


 ダルメシアンとの散歩をひとしきり楽しむ(かなえ)にはそうした意図がある。しばらく歩いて視界やら視野やらを確保しようという構えだ。


「すぴー。うぐぐぐ。苦しいのである」


 ちなみにさっきから出て来ないプリンスキー将軍はちゃんと(かなえ)が触手で握り締めているので安心して欲しい。にぎにぎ。


「にゅわー。眩しー」


 しばらく歩いた後に建物の間隙からお昼下がりのお日様が覗いてきた。げらげらげらげらげら。しばしのお散歩の後に狭い路地裏から道行きが急に開けてきた光の群れに暗所を好む触手生物は悶絶する。


「あそこのビルディングが悪党チーム『タコカイン』の根城だぜ」


 悶絶する(かなえ)の小脇で口火を切るのはダルメシアンだ。


 そう。気づけばトレーニーダルメシアンたる彼は何やら指差呼称を繰り出していたのである。怖いですね。だってダルメシアンが指差し確認してるんですよ。


「うわー。うすうす知ってたけど見るからにダルそう」


 しげしげ。


 触手おめめが昼下がりの光になれた末。ダルメシアンが指差す路地裏先ビルディングを触手おめめで知覚した社会の授業中少女は見るからにダルそうな面構えを構築した。


 のこのこと路地裏を抜けてきた彼女の足取りは端的に述べ述べして鈍い。


 だが彼女の足取りの重さも致し方ない代物かもしれなかった。


「俺は堅牢ビルディング。最近は悪党チームを体内に飼ってるぜ。堅牢ビルディングだからしてタフネスには自信がある」


 だって少女と犬っころのおめめ前に(そび)えるビルディングは明らかに堅牢ビルディングだったのだから……。ひぃいいいい。


 悪党チーム『タコカイン』。


 魔薬の密売とかいうせこい稼ぎをしながら悪事を働いてくるこのあたりきっての悪党チームだ。


 彼らが陣取る居城は見るからに攻略がダルそうな堅牢ビルディングだったりする。


 見るからに堅牢なのだ!


「あ。風さんです。ちょっと噂しますね。そこの堅牢ビルディングに住んでるとかいう悪党チームさんのボスさんは何かプロ殺人鬼らしいです」


「おう。風さんは親切にもありがとうな」


「風さんありがとー。うわー。案の定プロ殺人鬼かよ。めんどくせー。マジ面倒くさい課題。社会のくせに生意気ー」


 そして風さんの噂によると堅牢ビルディングのボスキャラを勤める輩はなんとプロ殺人鬼の類であるらしかった。親切な風さんである。


 プロ殺人鬼。


 それはプロの殺人鬼だ。


 典尼(てんに)パイセンの小粋な悪戯のせいで本作ではやたらめったらプロ殺人鬼が登場しまくってくる。しかし冷静に考えてみればプロの殺人鬼なのだからプロ殺人鬼はこの世界だと結構強い連中だった。


 プリンスキー将軍を十全に活用できる状況であるならともかく。彼が不在のなかで戦うには普通にダルい相手かもしれない。


「にゅるにゅる。ぱくー」


「すぴーすぴー。ぬぉおおおお。我を捕食するか触手生物め。だが負けぬ。英雄として負けはせぬぞぉおおおおお」


 堅牢ビルディングの威容を仰ぐ(かなえ)は熟睡状態で役に立たないプリンスキー将軍をとりあえず捕食した。にぎにぎしてるのもダルかったからね。


 もちろん喰い殺すわけではない。邪魔だから収納しただけだ。


「はー。仕方がないから頑張るかー」


 ぎゅぐぐぐぐぐぐぐぐ。


 初老な小さいおっさんをにゅるにゅると体内に収納した(かなえ)は気合いを入れるべく腰に首が触れるほど背中を逸らした。その構えは逆ダンゴムシをすら思わせる。


 本格的な触手生物なだけあって彼女の柔軟性は相変わらず人間をやめていた。


「おお。すばらしい柔軟性ですね。通りすがりの逆ダンゴムシな私としては見習いたいところです」


「作戦かいぎー」


「おう。作戦会議か。いいぜ。俺も作戦会議を繰り出してやる」


「では通りすがりの逆ダンゴムシな私は通りすがりの身の上ですのでこの辺で失礼させていただきます。皆様お元気で」


「じゃあねー。逆ダンゴムシの紳士」


「逆ダンゴムシの紳士か。なかなか紳士的な輩だったな」


「そんな通りすがりとかどうでもいいから早く作戦会議すんぞ犬っころ」


「わふッ」


 通りすがりな逆ダンゴムシの紳士との出会いと別れを経た(かなえ)は腰とか背中の位置に後ヘッドを密着させた構えのまま作戦会議を繰り出してくる。


 うわ。気持ち悪い構え。作戦会議はいいからその変な構えをいい加減やめろと地の文担当者は冷静に思った。


 気持ち悪い作戦会議のおめめ前上空では堅牢なビルディングがモテモテウハウハを構えている。


「私は堅牢な男が好きなカナブンのメス。あなたの堅牢さにメロメロしちゃう」


「やれやれ。モテる堅牢な男はつらいぜ」


 気持ち悪い構えを崩さない(かなえ)から見た道路岸では堅牢ビルディングが相変わらず堅牢さをアピールしていた。どきどき。地の文担当者も思わずどきどきしちゃうほどの堅牢さだ。


 堅牢な輩と正面から戦うのは明らかにダルい。


 ダルいのは健康によくないので逆ダンゴムシ状態を未だ維持する(かなえ)はダルメシアンに作戦会議を持ちかけてくる。いや気持ち悪いからその構えやめろよ。


 述べ述べすると『プリンスキー将軍の代わりを自分が務める』という構えだ。


 ダルいとか言ってる割には意外と積極性のあるこのあたりが(かなえ)の優等生たる所以と言えよう。


「普通に戦うのはダルから化学兵器に頼りたい。たとえばー。まあ毒ガスとか」


「毒ガスか。だったらちょうど良いかもしれねえ意見具申がある」


「なにー?」


「さっき変なキノコを拾ったぜ」


 堅牢ビルディング小脇での作戦会議が始まった。そしたら何か作戦会議を提示されたダルメシアンが触手生物の申し出を快く引き受けた上でさっき拾った変なキノコを提示してくる。


 さしだしぃいい。


「ご紹介いただきました変なキノコです。わたくしは燻すと人間にのみ作用する強力な毒ガスを発生させます」


 おっと。ここで新キャラたる変なキノコの登場だね。


 変なキノコは新キャラとしてのアピールゆえか新鮮な血の如き真っ赤な体躯に青斑のカラーリングを誇っていた。


 キャラアピールの余念がない新キャラに対し今回作戦の指揮官を務める(かなえ)はそんな彼女をしげしげと見つめる。しげしげ。


「それはいいねー。私は触手だしこいつはダルメシアンだし。プリンスキー将軍は印刷物だから一方的に相手を攻撃できる」


 辛口コメントで知られる(かなえ)にしては意外な高評価で変なキノコは仲間として迎え入れられた。これなるは新規パーティメンバー加入の構えと見て相違ないだろう。


「へぇ。そいつは凄いな。だがよぉ」


 しかしその刹那。


「あああああああああああああーんっ!? だがよぉだとぉおおーっ!? 結論を先延ばししてんじゃねえぞこの斑犬野郎がぁあああああー! だがよぉだの何だのの先の台詞を早く述べ述べしろよこらぁあああああああああーっ!?」


「きゃうんッ。こうして会話が成立してる相手を燻すのは心が痛むぜ」


 新規パーティメンバー加入に伴ってダルメシアンは(かなえ)から急にキレられてびくびくとした。びくびく。


 実を述べ述べすると(かなえ)のカリスマ性は決して高くない。


 だからこそ彼女は恐怖による統治を得意としていた。


 使い魔とかの使役に際しては高圧的な怒声で相手を萎縮させて意思無き奴隷にするのがこいつの得意技だったりする。このあたりは血筋がよく出ていた。


 (かなえ)式の作戦会議が進行してゆく傍らで新規パーティメンバーを獲得した傍らで作戦上の懸念がここに提示されてしまう。


 せっかく加入した新規パーティメンバーをいくら毒ガス作戦のためとはいえ燻して使い潰してしまうのは如何なものかという人道上の懸念のお話だ。


 人道上の懸念が先んじて出て来るあたりダルメシアンの優しさが見て取れる。口調こそやや粗暴だが彼は心優しいトレーニーだった。


 だが心優しいダルメシアンが繰り出してきた会話の流れは変なキノコ自身により断ち切られてしまう。


「ご安心ください。わたくしは変なキノコですので燻しても別に大丈夫です」


「へー。キノコのくせに生意気な輩だねー」


「はい。わたくしは確かに雷属性の攻撃には弱いです」


「あん? キノコなのに雷に弱いのか? 変なキノコだな」


「はい。変なキノコですのでわたくしの属性相性はそういう変な感じとなっております」


「でー? 何を述べ述べしたいの? はよ結論ゆわんとキレるよー?」


「ようするにわたくしは火属性に何故か高い耐性を持っています。燻されたくらいでは死にません」


「ほう。大したもんだ。隠し芸ってやつか」


「じゃあ決まりだねー。この変なキノコを元気よく燻しながらあのビルディングに乗り込もう」


「ではよろしくお願いします」


「なるほどな。だからこその燻しキノコってわけだ。風流じゃねえか」


 斯くして人道上の懸念も解消された。


 ぼおおおおぼおおおおぼおおおおッ。


 そして次の刹那に訪れるのは圧倒的な熱量の気配だ。


「うぉおおおおおおおおおッ! 熱いぜぇえええええええええええッ!」


 西の方角から『ヘッドが燃えている人』が歩いてきたのである。


「うわー。なんだあの人。ヘッドが燃えてる。こ、こわい」


「あいつは近所で有名なヘッドが燃えている人だぜ。多分健康法の類だとか噂されてる」


「風流な方ですね。わたくしああいう殿方はあまり嫌いじゃありません」


 それは『変なキノコによる毒ガス不意打ち』の構えが作戦立案成立した後の物語なのかもしれなかった。


 作戦会議の小脇で『ヘッドが燃えている人』がこちらに近づいてくることに気づいた(かなえ)は露骨な怯えを繰り出している。


 路地裏を抜け出た先の道路小脇歩道に(かなえ)パーティが陣取っている今現在がどういう状況なのかと言えば西の方角からやってくる『ヘッドが燃えている人』がこっちに近づいてきているという状況だということが出来る。


 そりゃ高温に弱い触手としては怯えるに決まっていた。


「こ、こえー。あの人大丈夫なの? 狂暴だったりしない?」


「近所名物なだけで悪い噂は聞かねえな」


「わたくしはこのあたりは近所でありませんのであまり詳しくありません。でも少し気になるのでお近づきになりたいところです」


「そっかー。なら丁度いいしあの人のヘッドの火で変なキノコを燻すか」


「うぉおおおおおおおおッ! 熱いぜぇえええええええええええええッ!」


「なああんた。ああ。そこのヘッドが燃えているあんただ。ちょっくらそのヘッドの火を貸してくれねえか?」


「はじめまして。わたくしは変なキノコと申します」


「ううー。率直なところで述べ述べすると怖いなー。触手をいっぱい伸ばして遠くから燻そう」


 たまたま近くを『ヘッドが燃えている人』が通りすがってきたということもあり怯える(かなえ)の怯えを無視する形で『ヘッドが燃えている人』の火で変なキノコを燻すことになった。


 ふむ。ヘッドが燃えているとかいうなかなか狂暴そうな面構えに反して『ヘッドが燃えている人』は普通に親切な人のようだね。現に今も座椅子に座って燻すのに協力してくれてるし。


 果たして作戦会議は終了して『変なキノコによる毒ガス不意打ち』が繰り出され始めた。


「うひー。私って触手生物だから火とか普通に苦手かもー。こえー」


 こちらの申し出に協力の構えを見せてくれる『ヘッドが燃えている人』を無視するのは流石に心苦しい。心苦しさゆえのリーダーシップを発揮した(かなえ)は道路小脇にて一生懸命変なキノコを燻していった。いぶいぶ。


 でも火と高温が怖いので触手は結構長めに伸ばしている。ねえその構えちょっと失礼じゃない?


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ! 熱いぜぇええええええええええええええええええッ!」


 でも『ヘッドが燃えている人』は親切なのでそんな少女に十分なやる気を構えて相対している。熱い男だぜ。


 しかしその刹那。


「あ、あ、あ、あ、熱い。正直に述べ述べさせていただくと熱い」


 親切にも協力してくれてる『ヘッドが燃えている人』の火で燻された変なキノコは斯くして変なことを述べ述べし始めた。なんだこいつ。失礼な輩だな。


 急に変なことを述べ述べする変なキノコの発言を受けておっかなびっくり変なキノコを燻す(かなえ)も流石に困惑する。


「火属性に何故か高い耐性持ってるとかさっきゆってたじゃん。嘘ついたの?」


 素直な感想と共に訝しげな面構えを変なキノコに彼女は向けた。


 嘘つきは別に嫌いではない。


 でも怖いのを我慢して一生懸命こっちが燻している最中にそんなことを述べ述べされたら流石の(かなえ)とて萎えるものがあった。これは次の返答次第で普通にぶちギレるぞという構えの前兆と見て差し支えない。こ、こえぇ。


「無理すんじゃねえぞ。大丈夫か?」


 さっきから影の薄いダルメシアンは心配そうな面構えをしていた。こいつは相変わらず優しい輩である。


 今しがた普通にお話してた相手が焼け死ぬ様子を見るのは流石に心が痛むぜ。


 彼はそういう面構えをしていた。


「うぉおおおおおおおおおおおおおッ! 熱いぜぇええええええええええッ!」


 熱がる『ヘッドが燃えている人』のヘッドの火に押し付けられて熱がる変なキノコは果たしてここにネタバラシを繰り出してくる。


「たとえば真夏に暑いと不平不満を述べた人がおりましょう」


「うん。私も真夏はとろけちゃう」


「俺も真夏は苦手だぜ」


「うぉおおおおおおおおおおおおおッ! 熱いぜぇええええええええええッ!」


「あるいは熱いお茶を啜ろうとするときに熱いとこぼす者もおりましょう」


「だから何? 早く結論ゆわないと私キレるよー?」


「実を述べ述べすると俺は猫舌だったりするぜ」


「しかしその者たちは果たして大きなダメージを受けたからそのようなことを述べ述べしているのでしょうか?」


「うるせぇええええーっ! お話なげーんだよこの変なキノコ野郎がぁああああああああああーっ! てめえみたいな変なキノコは後でバター炒めにして捕食してやるからそれまでの短い余生をせいぜい楽しめこらぁああああああああーっ!」


「私は変なキノコであるからして火属性に高い耐性を有しています」


「いや。こいつ明らかに毒持ってそうだから捕食すんのはやめた方がいいぞ」


「うぉおおおおおおおおおおおおおッ! 熱いぜぇえええええええええッ!」


「確かにわたくしは火耐性が高いがゆえに火で燻されたところで受けるダメージは微々たるものです」


「私は毒耐性高いから平気だよー。まあ一回キレてすっきりしたから別にこの場でもぐもぐしたりはしないけどねー。料理すんの面倒くさいし」


「その上でそれはそれとして熱いものは熱いのです」


 燻されながら苦悶の表情を見せる変なキノコはそのような旨の主張を長々と繰り出してきた。


 台詞が長すぎて地の文担当者では彼女の言いたいことはちょっと分からない。


 でも何か見た感じだと死にそうな感じではなかった。よかったね。


「じゃあそろそろ行くよー」


「へッ。今に見てろよ悪党チーム『タコカイン』の連中め。いい感じにやっつけてやろうじゃねえか」


「あ、あ、あ、あ。熱い。熱いです。あ、あ、あ。」


「うぉおおおおおおおおおおおッ! 熱いぜぇええええええええええええッ!」


 のこのこ。のこのこ。


 展開の流れを経た挙句の果てに(かなえ)とダルメシアンと変なキノコと『ヘッドが燃えている人』の計四名パーティは悪党チーム『タコカイン』の根城たる頑丈ビルディングへとカチコミをかけてゆく。


 それが本日今日の社会の授業における叶パートの佳境場面だった。











 のこのこ。のこのこ。


「はい到着ー」


「割とすぐ到着したぜ」


「あ、あ、あ、あ、熱い。熱いです。あ、あ、あ、熱いっ」


「うぉおおおおおおおおおおおおおッ! 熱いぜぇえええええええええッ!」


 そんで佳境を迎えた末に(かなえ)を筆頭とする四人パーティ一行は何の山場もなく堅牢ビルディングへの到着を果たす。


 だって一個道路を挟んだだけの横断歩道を四人で仲良く渡っただけだもん。


 描写するべき移動パートの移動描写などあるわけなかった。


 召喚時に落下した路地裏から出てきた以来の地理関係由来として(かなえ)たちのおめめ前に堅牢ビルディングはすでに(そび)えていたりする。だから移動パート中に描写すべきものなどなかった。単純に近かったのである。


 地の文担当者の筆致が光る移動描写の後に辿り着いた堅牢ビルディングはしかし恐るべきことに自動ドアを構えていた。


 ああ。なんという厳重な警備であろうか。


 その刹那。


「自動ドアぁああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 うわ。びっくりした。


 自動ドアが何か急に叫んできた。


 これは。まさか。


 これなるは『いらっしゃいませお客様』の構えだとでもいうのか!?


「お邪魔しましまー」


「お邪魔しましまするぜ」


「お邪魔しましまします。あ、あ、あ、熱い。あ、あ、あ」


 いらっしゃいませされたのならば「お邪魔しましま」と一声かけるのがこの世界における礼節とマナーというものだった。


 だからみんなして素直にご挨拶を済ませる。


 うぃーん。これにて侵入成功の構えだ。


「すぴーすぴー。うぐぐぐー。苦しい眠りである……」


 なお(かなえ)の体内で熟睡するプリンスキー将軍はあろうことか謎の荷物判定を受けたのでいらっしゃいませ無視のペナルティはない。よかったねプリンスキー将軍。


「うぉおおおおおおおおおおッ! 熱いぜぇええええええええええええッ!」


 でもヘッドが燃えているせいでお邪魔しましまができない『ヘッドが燃えている人』はここで戦線離脱する破目になった。


 さようなら『ヘッドが燃えている人』。また会う「火」まで。お元気でね。


 しょんぼりとしながら去ってゆく『ヘッドが燃えている人』を地の文担当者は優しく見送った。


 まあそんな感じで『ヘッドが燃えている人』が戦線離脱したその刹那。


「え。誰? 誰ですか君たち」


「ここ僕たちの根城なんですけど」


「でも自動ドアさんが丁寧に歓待してますし。お客さんかな?」


 堅牢ビルディングが構える自動ドアの丁寧な歓待を受けてビルディングに侵入成功判定を繰り出した(かなえ)パーティ一行を待ち受けるのは悪名高き悪党チーム『タコカイン』が誇る凶悪犯罪者メンバーたちだった。


 しゃきん。しゃきん。しゃききん。


 巧妙な手口で堅牢ビルディングに侵入した(かなえ)パーティに相対した彼らはポン刀やチャカといった伝統的ウェポンで応じてくる。


「今の僕たちはハクビシンの皮の舐め舐めで忙しいのです」


「アポ無しだとちょっと対応は難しいですね」


「お茶でも用意するのでそれ啜って待っててください」


 新鮮な侵入者どもを認めて殺意と悪意を剥き出しにしてきたタコカインの連中たちは(かなえ)らを相手取り恐るべき恫喝を繰り出してきた。


 なめなめ。なめーん。


 今しがたの彼らは攫って来たと思しきハクビシンの皮をなめなめして新鮮なハクビシンコートを密造している真っ最中だったりする。


 その小脇にいる暇そうな人は片栗粉と思しき魔薬で八宝菜を作っていた。


 これはひどい。一おめめ見てわかるほどの噂に違わぬ凄まじい悪党ぶりだ。


「わー。すごい悪党だー」


「クソ。なんて非人道的な連中なんだ。こんなやつらを野放しにしておいたら社会と経済が簡単に崩壊しちまうぜ」


「あ、あ、あ、あ。あ、熱い。熱いです。あ、あ、あ、あ」


 タコカインの物凄い悪党ぶりを見せられた(かなえ)一行はあからさまなヒロイズムの血が騒ぎ始める。


「えいっ」


 なので情け容赦のない(かなえ)は伸ばした先の触手を彼らの方角に向けた。


 これは。まさか。


 これなるは『燻した変なキノコから発生する人間にのみ作用する強力な毒ガスを浴びせ倒す』系の構えだとでもいうのか!?


「うっす。自分ハンディー扇風機っす。風さんを送るっす」


「風さんです。ちょっと通り過ぎますね」


 ちなみに具体的にどう浴びせ倒したのかといえば体内から取り出したハンディー扇風機を用いて変なキノコ産の強力な毒ガスをビル全体に撒き散らしてきたのだ。


 ぶぉおおおおんッ! 扇風機ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!


 うわ。ひでぇ。


 これなるは悪名高き『毒ガス扇風機』の構えである。


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああッ!?」


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 その刹那。


 現役時代のプリンスキー将軍に勝るとも劣らぬほどの凄まじい悪辣コンボを真正面から喰らったタコカインの連中はあらかた蒸発して死んだ。なむなむ。


 人間にのみ作用する強力な毒ガスを散布されて生きているような輩はそれはもう人間ではない。いくら悪党チームと言えども大抵の構成員は人間だった。


 悪名高き悪党チーム『タコカイン』の一党は(かなえ)が繰り出してきた悪辣コンボで割とあっさり清掃完了する。


「へぇ。やるじゃねえか」


 しかし生き残りはまだいた。











 じゅぅううううう。


「ふぅううううう。熱かったです」


 ひとしきりのタコカイン駆除を終えた後のお話だ。


 近くにいた流しの新鮮な水道さんから新鮮な水道水で火を消してもらった変なキノコが一息つく。


 その様は激辛料理の後に冷たいアイスを食べたようだ。あるいは真夏の道を小一時間裸足で歩いた後にプールに飛び込んだようでもある。


 火属性に高い耐性を有しているという先ほどの話は嘘ではない。これはそういう物語だ。


「けほっ。けほっ。ケムいのむーりー。やだこの作戦ー。けほっけほっ」


 ようやく一息ついた変なキノコの小脇ではさっきから(かなえ)がけほけほけほけほけほけほゆっている。


 特に意味が無い設定だがこいつ昔からけむいのが大嫌いな小娘だった。


「大丈夫か?」


「うるせー黙れ。けほけほっ」


「きゃうんッ」


 けむけむに苦しむ彼女を心配する心優しきダルメシアンはめっちゃ不機嫌な(かなえ)から普通にキレられる。いちいち不憫な輩だ。


 機嫌が悪いときの(かなえ)は脈絡も容赦もなくキレてくるから近寄らないのが最善とされている。


「まったくよぉ。せっかく俺様がこそこそ拡大してきた可愛い悪党チームをこんな汚いおててで全滅させてくるとは。俺様をヘッドに仰ぐ悪党チームがいなけりゃ部下任せに寛げねえだろ。仕方ねえから俺様がじきじきにタコ殴りにしてやるぜ」


 だが奥のソファベッドで寛いでいた男は機嫌の悪い(かなえ)に向けて無警戒にものこのこと近寄ってきた。


 そいつはハゲている。そして腕が八本あった。


 男は見るからにボスキャラっぽい面構えをしていた。


「けほっ。けほっ。……人間にのみ作用する毒ガスを浴びておいても何か平然と生きている。ならあいつ人間じゃないねー。けほっ」


「あぁ。おててが八本あるような輩は人間とは……。いや、すまん。おててが八本の人間も世の中には普通にいるだろうな。多様性のある社会に対する配慮に欠けた失言だった。ごめんなさい」


「うん。あれは人間じゃなくて――プロ殺人鬼だ」


 奥のソファベッドからのこのこと歩いてきたおててが八本ある筋肉ムキムキ男と相対する(かなえ)とダルメシアンは戦いの前の考察トークを交わす。


 のこのこと歩いてくる男の威圧感から何となくの戦闘シーンパートの訪れを二人して察したのだ。


「うひぃいいっ。ちょっとお肌がカサついてます。やっぱり燻されは美容にはあまりよくないですね」


 プロ殺人鬼とは人間ではない。


 もちろん人の心がないとか人でなしとかそういう次元のお話ではなかった。


 プロ殺人鬼は既存の生物が後天転生により『成る』生き物である。


 プロ殺人鬼は人間じゃなかった。プロ殺人鬼とはイルカやラッコじゃないし雪だるまやタコでもないのだ。プロ殺人鬼はプロ殺人鬼という既存生物とは全く別の生き物だったりする。へー。


 冷静に考えてみて欲しい。だってプロ殺人鬼って爆発するでしょ?


 この世界の生き物は死んだからといって普通は爆発しなかった。


 細胞レベルで根幹から別の生き物に『成』った挙句の果てに生まれる珍奇な存在がプロ殺人鬼である。当然人間にのみ作用する毒ガスも無効なのだ。なるほど。勉強になるなぁ。


 むきむきむきぃいいいッ!


 そうこうしているうちに鍛え上げられた腕が八本ある男にして悪党チーム『タコカイン』なボスが何か急に自己紹介を繰り出してくる。


「レポートッ。レポートッ」


 彼のハゲヘッドに装備されているのは――生の歴史レポートだ。


「俺はプロ殺人鬼『オクトパ素手殴り男』! 悪党チームで頑張ってたら頑張りが認められて気づいたらプロ殺人鬼になっていた男! 今しがた全滅した悪党チームな『タコカイン』のボスでもある! 俺のかわいい配下どもを毒ガスで皆殺しにした旨は普通に許さん! 鍛え抜かれたこの八本の腕で殴り殺してやる!」


 昨今の(かなえ)が追い求める社会の課題を兜として装備するプロ殺人鬼『オクトパ素手殴り男』ははきはきとした声で元気よく自己紹介してくる。


 うーん。はきはきした元気の良さは悪くないけどちょっと台詞が長いね。


 もう少し要約を心がけた方がいいと思うよ。地の文担当者は彼の自己紹介をそう評した。


 地の文担当者の評論を見れば分かるがプリンスキー将軍であればオクトパ素手殴り男とかいうこいつに自己紹介などはおそらくさせなかった。あの男であれば当然のように全ステータスダウンを容赦なく叩き込んでいたと思われる。


 好機を逃すあたり(かなえ)もまだまだ小娘だ。


「ではわたくしはこのあたりで」


 そして変なキノコは戦闘に巻き込まれる前に先んじてお(うち)に帰る。要領よく生きる女の賢さがそこにはあった。

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