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第六十七話 『ゴミ収集シャチ』

 桜弘(おぐ)(かなえ)がユーフォー五十匹に人知れず助けられた時節より幾ばくかの月日が流れた。月日が流れちゃったというわけでいつかのどこかの朝におけるお話をしよう。


 朝――


 ――と言っても前エピソードみたいな通勤通学ラッシュアワードの時間帯な物語ではない。ゴミを出してゆく時間帯のお話だ。めっちゃ早朝である。


「俺はゴミ駅。春先の早朝ということでめっちゃ眠いぜ。うつらうつら……」


 住宅街の小脇。春のお日様の気配は薄い。日の出前の住宅街小脇でゴミ駅さんはうつらうつらしていた。


 この世界でもゴミを出してゆくのは時間帯が決まっている。適当な時間にゴミを出してゆくのは礼節とマナーにどうしても欠いた。


 礼節とマナーの面からもそうだし法的にも定められてゆく。法により定められたゴミ駅にゴミ袋を出してゆくのは基本的礼節とマナーと法律というやつだ。その辺の決まりごとは割と厳格だったりする。


 まあとりあえずはさ。


 ゴミを出してゆく時間はちゃんと決まってるよ。


 ↑系のことを読者諸兄らは覚えておけばよいと思われる。


 どすどすどす。


「はぁはぁ。危なかったぜ」


「うつらうつら……。……はッ!? 寝てない。ゴミ駅な俺は寝てないぞ。ちゃんと職務を全うしている。ゴミ駅だからな」


 そしてゴミを出してゆく時間帯のゴミ駅周辺にてよく肥えた中年給料男な中年おじさんが駆け抜けてくる。端的に述べ述べしてその歩みは遅い。いわゆる運動不足の構えだ。


 運動不足で知られるよく肥えた中年給料男の中年おじさんは新鮮なゴミ袋を大きなぬいぐるみのように抱えて息を荒らげている。はぁはぁ。


「はぁはぁ。ふーッ。はぁはぁ。ゴミを出しそびれたら妻に殺されるのが俺の身の上だったりする。間に合って良かったぜ」


 呼吸困難で今にも死にそうな中年おじさんはパジャマを装備していた。


 パジャマ姿でゴミ駅に到着したおじさんは安堵の面構えを構築している。寝起きのパジャマを装備して彼はここにいるのだ。


 彼が属するコミュニティにおいてゴミを出してゆく仕事は彼の役目である。


 明確に定められた仕事だから仮にゴミを出してゆくことができなかったら彼は妻から普通に殺されるに決まっていた。


 彼は中年給料男の中年おじさん。中年給料男な中年おじさんが属する家庭内地位は妻が飼ってるメダカよりも低かった。しかし中年給料男な中年おじさんたる彼はそこに不満など抱いていない。


「さあて。強くて美しい妻のために今日もゴミを出してゆくとするかな」


 結構なサイズのゴミ袋を抱える中年給料男中年おじさんは腰を労わりつつも今現在その刹那の抱負を述べ述べした。


 あろうことかこいつは新婚ほやほやな身の上を構えている。不満などあるわけなかった。超絶エリート美人妻と結婚したのだから意志無き奴隷として日夜頑張る程度は日夜頑張るのうちにすら入らない。こいつの奥さんは超絶エリート美人なのだ。


 新婚ほやほやの中年給料男中年おじさんは朝の早朝をゴミ駅で過ごしている。


「俺はゴミ袋。今出立の時を迎えつつある」


「そいやッ!」


 ぽい。


 そして中年給料男中年おじさんはひ弱な両おててに構えたゴミ袋を元気よく投擲し始めた。


 ぴゅー。


 これは。まさか。


 これなるは『ゴミを出してゆく判定成功』の構えだとでもいうのか!?


「ゴミ袋な俺はゴミを出してゆくされたぜ」


「ふぅ。よし」


 ぴこーん。


「ゴミ駅な俺は今しがたのゴミを出してゆくに成功判定を下すぜ」


 ゴミを出してゆく判定成功音がさめざめとさんざめく。さめざめ。


 今ここに朝のゴミを出してゆくは成されたのだ。


 今日の朝も日々の勤めの第一を成し遂げた中年給料男中年おじさんは達成感と共に腰への労わりを見せる。ぐぐぐ。


「今日の朝は寒いからきっと今日は晴れるかもな」


 ひと仕事を終えた中年給料男中年おじさんはわずかに寒さの残る春先の空をふと仰いだ。寝起きパジャマ装備状態な彼の面構えはてかてかしている。


「うん。今日も一日頑張るぞ」


 そんなこんなで執り行われたいつかのどこかのゴミ駅での物語だった。











 しかしゴミを出してゆくを無事成し遂げた彼が繰り出す何気ないお言葉が――


 ――まさか彼が繰り出す最期のお言葉になるとは洞察力優れる地の文担当者とて予測することはできなかった。


 んで。


 地の文担当者がぼけーっとしているうちに中年給料男中年おじさんは割とすぐに死んだ。


 がぶぅうううううううううううッ!


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 それはその刹那の出来事だったりする。


 ゴミ駅の方角へと何やら突っ込んできたゴミ収集車に齧り殺された中年給料男中年おじさんは断末魔の叫びをあげた。


 うむ。これは文字通りの見るからに即死の構えだね。


 あと冷静に考えてみればさっきの『今日も一日頑張るぞ』宣言ではなく今しがた執り行われた断末魔の叫びことが彼の最期の言葉なのかもしれなかった。でもそういう細かいことは別にいいのだ。


「ひ、ひぃいいいいッ!? 今しがた出してゆくされたばかりの新鮮なゴミ袋な俺はおめめ前で発生した殺人事件に恐怖と戦慄を隠せずにいるぜッ!」


 ぷるぷる。


 死したばかりの中年給料男中年おじさんの骸を見降ろすゴミ袋が恐怖にぷるぷると震える。ゴミを出してゆくされた地理関係上として彼は結構高めの位置に設置されていた。


 ぷるぷると震えるゴミ袋がそうであるようにいくらこの世界と言えども一般人ライフスタイルを送る人々は急に死ぬ覚悟なんてなかなかできない。


 超絶エリート美人妻を嫁に貰った新婚ほやほやにして家庭内ヒエラルキー底辺の男もそうだった。


 二十歳年下の超絶エリート美人妻をお嫁さんに貰って幸せの只中にいた家庭内ヒエラルキー最底辺男は……まさか自分がこの幸せの只中で死ぬことに旨について覚悟を決めきれていなかった。


 ついさっきまで彼は確かに生きていた筈である。


 でも死んだ。


 あまりにも残酷な食物連鎖がそこには構えられている。


「俺は一部始終を目撃していたブロック塀。これは悲しい事故とゆえるな」


「私は全てを見てしまった電柱よ。今しがたあっさり死んでしまった中年男の人も可哀想だけど……。物事を客観的かつ俯瞰的に捉えることができる私は中年男を殺してしまったゴミ収集車ならびゴミ収集車運転手にも同情を構えるわ……」


「うーん。普通に人を殺しちゃってるわけだからこれは懲戒免職からの実刑コンボが入るだろうなぁ。通りすがりな巨大ヒキガエルな俺は登場人物全員が救われないこの物語を普通に悲しむぜ」


 おじさんの死を受け近所にいた連中は好き勝手な憶測を述べ述べしていた。


 地の文担当者もそいつらの意見にひとまず同調を見せる。これはいわゆる悲しい物語というやつだ。


 超絶エリート美人妻を貰ったばかりの新婚ほやほや中年給料男中年おじさんが死んでしまったのがまず悲劇の第一。そんで彼を殺してしまったゴミ収集車関係者に襲い来る社会的制裁が悲劇の第二と言える。


 人一人を殺してしまったのだからゴミ収集車の運転手さんは懲戒免職実刑収容モノに決まっていた。


 うう。悲しいよぉ。


 状況をようやく把握した地の文担当者は朝からげんなりとした構えを取る。述べ述べするなれば登場人物がみんな不幸になる悲しい物語だった。


「ぐるるるるるるッ。むしゃむしゃ」


 しかしどうしたことであろうか。


 今しがた中年給料男中年おじさんを齧り殺したゴミ収集車は何やら妙な感じがするぞ。実際問題として中年給料男中年を結構な勢いで咀嚼し始めたではないか。


 これは憑喪神の類なのかもしれない。


 ……否。なんたることだ! 


 こいつはゴミ収集車なんかじゃない!


 斯くしてゴミ収集車みたいな『何か』が乱杭歯だらけのお口を開いた。


 ぱかッ。


「俺はプロ殺人鬼『ゴミ収集シャチ』。人間は新鮮なゴミだ。だから俺の腹の中に収集する」


 ゴミ収集車みたいな『何か』。ようするにゴミ収集車に擬態した人喰いシャチがそんなことを述べ述べしてくる。


 これは。まさか。


 ぴこーん! 殺人鬼ポイント加点!


 これなるは『殺人鬼ネーム宣誓』の構えだとでもいうのか!?


 そう。今回エピソード冒頭シーンにおける仮主人公な中年給料男中年おじさんを齧り殺したのはゴミ収集車のコスプレをしたプロ殺人鬼と思しき人喰いシャチの仕業だったのだ。


「なんだ。プロ殺人鬼かよ。迷惑な連中だな」


「やーねー。もー。人様を殺してお金を稼ごうだなんて下品よ」


「巨大ヒキガエルな俺もプロ殺人鬼はあまり好きじゃないぜ」


 プロ殺人鬼にびびってぷるぷる震えているゴミ袋小脇の近場にいた連中がプロ殺人鬼『ゴミ収集シャチ』を口々に罵る。


 職業として消極的に認められてはいるもののこのようにプロ殺人鬼とはあまり褒められた仕事ではなかった。


「へッ。嫉妬の声が心地いいぜ」


 でもゴミ収集シャチは強い子なのでそんな罵倒など効かない。彼は大型海棲哺乳類として分厚い面の皮を生まれながら装備していた。


 こういうメンタルが強い子は伸び代がある。


 地の文担当者としてはあまり嫌いなタイプではないし何なら応援したいタイプの子だった。見たところまだ若いようだしね。


 今回エピソード冒頭シーンにおける全ての謎が解けたところで作中の舞台話は主人公らのパートに戻る。


 読者諸兄らが飽きっぽいことを地の文担当者はよく理解していた。


 あんまりだらだらと主人公別視点を繰り出すことをノリとテンポに優れる地の文担当者はあまり好まないのだ。











 では桜弘(おぐ)(かなえ)が控える地元女子中学一年一組教室パートどうぞ。


「はいどうぞっ!」


 うわ。びっくりした。


 場面転換が執り行われた刹那の出来事である。


 主人公らパートに移るや否や桜弘(おぐ)が何やら急に叫んできたのだ。


 びくびく。な、なんだこいつ。


 ま、まさか下等生物の分際で地の文担当者とプロット班の心に読心術を仕掛けてきたとでもいうのか。


 次元を超越されたかもしれないという危惧に地の文担当者は露骨な焦りを見せ始めた。こ、こわいよぉ。


 だが安心して欲しい。プロット班からおてて渡された資料におめめを通してみたところのお話なのだ。どきどき。


 これは場面転換の場面と桜弘(おぐ)の台詞が被っただけの事故のような出来事でしかないらしい。まったくびびらせやがって。


「プリンとト~。プリンとトを配るよ~」


「はいどうも。確かにプリンとトをいただきました」


「えっほえっほぉ。日直は先頭配り要員だから仕事が忙しいなぁ」


 恐怖からようやく立ち直った地の文担当者が教室内をよくよく観察してみるとどうやらこれは授業中にプリンとトを配ってる光景のようだ。


 ごく平均的な社会の授業風景と言えよう。


 今現在その刹那は社会の時間なのだ。多分。本作はいつぞやの早朝からいつぞやの授業中に場面転換していた。転換転換。場面転換。


 超絶エリート授業風景に詳しくない地の文担当者とて『プリン』と『ト』の構えを見ればどの授業なのかはおおよその察しがついた。


「俺はト! カタカタのトだ!」


 状況把握が済んだところでどこぞの少女が構えている『ト』が自己主張を行う。


 トはトンファーみたいな形をしている文字通りのトだ。


 プリンの方は普通にプリンだったりする。


 まあトは所詮トであるのでわらわら少女たちの関心は流石にプリンの方に集中していた。


「プリンだー」


「やーん。プリンプリンしてる」


「捕食したいくらいプリンしてるなぁ」


 配られてゆくプリンを一年一組の少女たちは「プリンだー」という面構えで配達物を眺める。


「はい。プリンがおてて元に行きましたか。もちろん捕食したらダメですよ」


 そんなことをしばらくやってるうちに『プリン』と『ト』の配達はひとしきり収束を収めた。


 もたもたしつつもようやくプリンとトが行き渡ったのだから社会の先生たる巨大みかんが機を見計らって授業を進行させんと試みる。


 昨今の時節は社会の授業中だった。


 そして地元女子中学社会科教諭は巨大みかんに他ならない。


「じゃあ教科書の三十一ページを開いてプリンスキー将軍を召喚してください」


 地元女子中学一年一組が構える社会の授業中の渦中において巨大みかんは何やら述べ述べしてきた。


 巨大みかんたる彼はあまり貫禄がない先生としてよく知られている。


「召喚したらすぐにトを使って取り押さえてくださいね。本物のプリンスキー将軍は英雄なのでめちゃくちゃ強いです。実際めちゃくちゃ強いんですが。この場で召喚するプリンスキー将軍は印刷された雑魚個体です。トを上手い具合にひっかけるといい感じで捕獲できます」


「へーい」


「うーす」


「はーい」


「捕獲したら生の歴史レポートの所在をいろいろ尋ねてみましょう。今日の授業の課題は生の歴史レポートですよ」


「にょーん」


「みーんみんみんみん」


「うん」


 頼りなさげな巨大みかんはおもむろに今日の授業課題を告げてきた。


 これなるは生と死を分かつ地元女子中学授業課題宣告の景色に他ならない。いわゆる社会の授業中の構えだ。


 だが授業課題を繰り出された一年一組の面々が織り成す緊張感は端的に述べ述べしてゆるゆるとしている。


「うーん。皆さんあんまり気合いが入っていないようですね。僕のカリキュラムは面白みが少ないからなぁ」


 緊張感のないわらわら少女たちに巨大みかん先生は困ったような面構えを構築していた。


 巨大みかんは穏和しい先生だった。なので授業も穏和(おとな)しい。


 彼のカリキュラムはあんまり死の危険がないのだ。


 スリルとしゃきしゃきを好む超絶エリート女子中学生なわらわら少女たちに安全安心な社会の授業はいまいち不評だったりする。こいつらは死と絶望に追い詰めてあげないとノリとテンポがよくならないからね。


 緊張感が無いと噂の社会の授業はいつも通り面白みがなく進行していた。


「へーい」


「はーい」


「ほーい」


 巨大みかん先生の嘆きも分かるレベルでわらわら少女たちの集中力は明らか散漫な様子だ。


 そういえば地の文担当者が書き忘れていたが今現在たるこの社会の授業は五時間目のカリキュラムだったりする。冒頭シーンから授業パートへの場面転換が唐突過ぎたせいでその辺の機微を描写し忘れちゃったのだ。てへ。


「ねむねむ。……はっ!? 寝てないよ!?」


「お昼休みの後な授業は率直に述べ述べしてかったるい」


「昼休みを挟んで食後のプリンをぷりぷりしたいなー。でもこれ課題用のやつなんだよなー。ちょっとだけならバレないかも。あむっ」


 地の文担当者が書き忘れた時代背景に基づいて繰り出される食後の眠気やら麗らかなお昼下がりの日差しやら。←の影響もあり一年一組所属な小娘どもの授業態度は率直に述べ述べあまりよろしくない。


 あぁ。なんたることか。


 これが昨日の美術の時間と本日午前中の数学の時間を生き延びたあの一年一組のわらわら少女たちだというのか。


 意思無き奴隷として脳みその全領域を授業へと全力で注いでいたあの頃の彼女たちの面影。今現在におけるのほほんとしたこいつらの面構えにそんなものはもはや残っちゃいなかった。


 超絶エリート中学生ライフを乗り切るために要所要所で手を抜く老獪で悪辣なテクニックをこいつらはすでに身に着けつつある。世も末というやつだ。


「新鮮なプリンだよぉ。うわぁ。プリンプリンしてるぅ」


 しかし老獪な少女たちの一人である筈の桜弘(おぐ)は先生から言われた通りにプリンスキー将軍の召喚を試みていた。


 こいつの体力はマジで人間離れしているのでてきとーな授業でも適当な集中力を発揮する。人の心がないくせにやけに素直な子だった。このあたりが高確率昇級組筆頭の所以と言えよう。めっちゃ真面目な子じゃん。


 わーわー。きゃーきゃー。ぷりんぷりーん。


 周囲の小娘どもは相変わらず騒がしいがともあれ桜弘が召喚を試みたということで本作の時系列は召喚パートに移行してゆく。


甘利奈(あまりな)のプリン何か大きくない? 不公平だから交換しようよ」


「やだ」


「交換しろ」


「……はい」


 ちなみにこの場面におけるプリン配布日直役は桜弘(おぐ)だった。本作をまともに読む気のない読者諸兄らにその真実を果たして見抜くことができただろうか。


 まあそんなことはどうでもいいとしてもここでひとつ懸念があった。


「みなさーん。プリンをつんつんしてないで早くプリンスキー将軍をですね。おわわわわ。巨大みかん先生はおてて足が短いので何もないところで転びそうになってます。おっとっと」


 巨大みかん先生のお話を聞いていた読者諸兄らが誰一人としていないのである。


 うむ。流石の頼りなさだ。


 なので親切で気の利く地の文担当者がもう一度授業課題を解説してやる。


 ようするにこれから一年一組の面々は教科書やらトやらプリンやらを用いて英雄プリンスキー将軍を召喚するのだった。分かった?


「ぺらぺらぁ。ページをめくってぇ。それからつんつぅ~ん」


 文章だけじゃなんか何を述べ述べしてるか分かんないと思うから実例を見せてくれてる桜弘(おぐ)の様子をひとまず伺ってみよう。


 社会の教科書の三十一ページを開いたドラム缶生首女は貫禄ある構えを見せるプリンスキー将軍の写真を前にして配られたプリンを巨大つまようじで早速つんつんしていた。


 つんつん。つんつん。


 その刹那。


「とうッ!」


 うわ。びっくりした。


 新鮮なプリンをつんつんしていた矢先に印刷物と三次元の垣根を越えて当然プリンスキー将軍が飛び出してくる。すげぇ技術だ。


「ほかく」


「ぐぇええええええええええええッ!?」


 そんで飛び出してきたプリンスキー将軍を『ト』を用いた桜弘(おぐ)がやたらと素早く捕獲する。


 桜弘(おぐ)の反応速度は昆虫とかあの辺に近いとされていた。弱小個体なプリンスキー将軍では桜弘(おぐ)の超絶反応速度に対応などとてもできない。


 流石は要領の良さに定評がある優等生なだけあり巨大みかん先生から言われた通りにカリキュラムをそつなくこなす。桜弘(おぐ)ちゃんの虹会(にじおあ)桜弘(おぐ)たる所以だ。


 しかし桜弘(おぐ)は愚民家系一族出身者に過ぎない。彼女の召喚術の才能は実を言えば大したことがないという衝撃の事実が今ここに明かされた。


 明かされた矢先に下記の台詞が飛ぶ。


「では往くぞ。生の社会勉強の旅へッ!」


「はーい」


 この台詞を繰り出したのは桜弘(おぐ)ではない。


 桜弘(おぐ)の後ろの席に座す輩だ。


 ようやく召喚に成功したばかりの桜弘(おぐ)の後ろの席にて新鮮なふわふわ上位お嬢様を営む磨丑(まうし)炉野子(ろのこ)は文字通りの秒でプリンスキー将軍を召喚してのける。


 そんでさっさと次の段階へと行動を移行していた。ふわふわしてるくせに段取りいいなこいつ。


 これなるは『捕縛成功&生の社会勉強の旅出立』の構えと見て差し支えない。


 ふぉおおおおおおおおおおん。ぷしゅぅうううううう。


 うお。なんだ。


 ああなんだ。これが噂の授業的空間転移の音か。


 奇怪な音が発生するに伴われた炉野子(ろのこ)はプリンスキー将軍に導かれて一年一組教室から概念的に消え去った。生の社会勉強の旅へと赴いたのである。


 豪華セレブ一族出身者と愚民家系一族出身者は割と根本から別の種族だ。


 分かりやすい差異としては愚民と豪華セレブは召喚術の才能が根源的に大きく異なることもあったりする。


 だって豪華セレブ一族の連中は生まれながらにして羊とかを指ぱっちんで召喚できるわけだしね。召喚術への根源的適性を有しているもの当然の仕儀だ。


 種族適性上の問題があるわけなのでオカルト研究部とかはみんな豪華セレブ一族出身者だったりする。本作に出て来る暗黒魔法少女な参角(さんづの)航奈(わたるな)も実際問題のお話として中位お嬢様だった。へー。


 閑話休題!?


「では往くぞ。生の社会勉強の旅へッ!」


「よろしくお願いしまぁす」


 まあ種族的に才能が無いと言っても何事にも無駄に要領が良いのがこのドラム缶生首女だ。桜弘(おぐ)は何事もなくプリンスキー将軍と一緒にどっかに消える。


 ふぉおおおおおおおおおおん。ぷしゅぅうううううう。


 うお。なんだ。


 ああ授業的空間転移の音か。まったくびびらせるなよ。


「ぐぬぬー」


 そこそこ離れた席からそんな桜弘(おぐ)を触手生物たる伊塚(いつか)(かなえ)が悔しそうな面構えで眺めていた。ぐぬぬ。


 桜弘(おぐ)(かなえ)は超絶っ友である。だが同時に同じクラスのクラスメイトフレンドの類だった。だからこそ先を越された事実に(かなえ)は屈辱感を覚えている。こいつは意外と誇り高かった。優等生だからね。


「ちくしょー。桜弘(おぐ)ちゃんに先を越された。普通に悔しいから急いで出立しろプリンスキー将軍」


「しばし待て。プリンを幾ばくか捕食してからだ」


 ばくばく。むしゃむしゃ。


 だが焦る(かなえ)を尻おめめに召喚された英雄プリンスキー将軍はプリンをばくばく捕食していた。


 これは愚民家系一族出身者が陥りがちな『プリンばくばくプリンスキー将軍』の構えである。


 授業進行にただちに影響はなかった。でも召喚者の各種ステータスがやや減少する出来れば避けておきたいちょっぴり嫌な構えとされている。


 んで。











 気の抜けた社会の授業中ゆえにちょっぴりもたもたしてる(かなえ)を尻おめめとしつつも主人公たる桜弘(おぐ)へと作中の描写視点は再び戻っていった。


 おお。なんというダイナミックな物語構成であろうか。こうしたダイナミックな描写こそが地の文担当者の妙といえよう。


 ふぉおおおおおおおおおおん。ぷしゅぅうううううう。


 うお。なんだなんだ。


 斯くしてプリンスキー将軍を装備した桜弘(おぐ)が虚無より召喚された。


「着地ぃっ!」


「おっとっと。うむ。見事な着地である」


 どしーん。


 虚無より召喚された桜弘(おぐ)は結構な距離から落下してくる。


 ……生の社会勉強の旅って結構上空に召喚されんだな。


 これ危なくない? まあ周囲に人気はないから問題はなさそうだけどね。


 生の社会勉強の旅の旅の召喚に伴って結構上の方に召喚されたドラム缶生首生物が繰り出すボディプレスによる犠牲者が出なかったことからも分かるように彼女らが召喚された周囲に人の気配は無かった。


 種族適性を生かしてさっさと概念的空間転移を先にやらかしたわらわら少女たちの影も見当たらない。


「きょろきょろぉ。誰もいないね。さみちぃ」


「戦場の趣とはまず孤独との戦いである。慣れろ少女よ」


 一人寂しく周囲をきょろきょろする桜弘(おぐ)を典型的な例として生の社会勉強の旅は生徒たちがそれぞれ別の地点に召喚された。


 述べ述べするなれば今回の授業における桜弘(おぐ)は一人ぼっちの構えなのである。寂しいね。


「プリンスキー将軍ってプリン好きぃ?」


「うむ」


「私はシュークリームが好きぃ」


「我もシュークリームは好きだぞ」


「きゃっ。私はいわゆる通りすがりのシュークリーム。新生活を始めた矢先に二人から急に告白されちゃってマジてんてこまい。これがモテ期ってやつ? 何だか鯉さんの予感に私きゅんきゅんしちゃぎゃぁああああああああああああっ!?」


「むしゃむしゃ。ほしょくかんりょぉ。むしゃむしゃ」


 到着した二人はひとまずそのような会話を交わした。


 そして会話の傍らに通りすがりのシュークリームは桜弘(おぐ)から素早く捕食されてしまう。残酷にも美しい食物連鎖がそこにはあった。


 まあそんなことはさておきそれにしても彼女が召喚されたここは――











 ――果たしていずこであろうか。


 ネタバレしちゃうとこれから移動パートが入るので正直現在地点は今後の展開にあんまり係わらない系地点ではあった。


 なので地の文担当者もプロット班から詳細な資料はもらっていない。


 多分どこかの町の道路の小脇だとは地の文担当者は思った。


 路地路地路地~。たぶんちょっぴり霧がかってる~。もやもや~。


 そういう感じのいわゆる行間というやつなので読者諸兄らは脳内でいい感じに風景描写を補完していって欲しい。


「まじまじぃ。プリンスキー将軍ってまじまじと眺めると意外と小柄だね。やっぱり潜り相撲とか得意なのぉ?」


「我の本体は八メートルある。現役時代は意外と大柄だったぞ」


「へー。引退してからの不摂生が祟って縮んじゃったんだぁ。ちゃんと運動しないと駄目だよぉ?」


「ふんッ。これでも定期的に鍛えておる」


「怪しいなぁ」


 もやもやと霧がかった謎多き路地裏にて佇む桜弘(おぐ)の首脇。


 ドラム缶平面ポイントで仁王立ちする印刷式プリンスキー将軍の身長はわずか十五センチメートルほどだった。ちっちゃいね。しかしいくら小さな雑魚個体と言えどもプリンスキー将軍は流石に英雄だ。


 その威光にはいささかの衰えもない。


 ぴかー。


 威光溢れるちっちゃいプリンスキー将軍をドラム缶生首女はまじまじと見物していた。


 ほう。こいつプリンスキー将軍相手に勝機探ってるな。流石は天才的相撲センスの申し子といったところだ。戦意は旺盛と言えよう。


「プリンスキー将軍。今日の社会勉強はどこに行くのぉ?」


「かつて共に戦った戦友のもとだ。彼女は今悲しみのなかにいる。同じ戦場を駆け抜けた者として放ってはおけん」


 そんなこんなのストーリー構成の綾を経て面構えの小脇で仁王立ちするプリンスキー将軍に桜弘(おぐ)は馴れ馴れしく交友を深めていった。なれなれ。


 これが件の移動パート挿入シーンだったりする。なので会話が終わればこいつらはひとしきり新鮮な移動を繰り出してゆくのだった。


 プリンスキー将軍を利用した生の社会勉強はさっきも述べ述べしたようにそれぞれの子たちが別々のところに飛ばされた。ぴゅー。


 今回エピソードは桜弘(おぐ)(かなえ)が別々に行動するという恐るべき構成を構えている。


 ああ。なんという野心的なプロットであろうか。


 プロット班よりそんなプロットを渡された地の文担当者はそのあまりの大胆不敵な野心に思わず震えた。恐怖や怒りによる震えではない。武者震いというやつだ。


 あれ。何のお話してたっけ。


 読みづらさで知られる本作を苦労して読み返してみるとプリンスキー将軍が何か戦友について軽く語ったところでお話は途切れていた。じゃあ再開。


「そうなんだぁ」


 何か語ってきたプリンスキー将軍を相手に少女は鷹揚にお茶を濁す。


 何かこいつプリンスキー将軍のお話にあんまり興味ないみたいだね。


 事の次第を乗り越えた末にこいつら二人はプリンスキー将軍の戦友のもとに行くことになった。


 ふぉおおおおおおおおおおん。ぷしゅぅうううううう。











 その刹那。


 某所のお(うち)の扉が元気よく破壊された。


「お邪魔しましまぁあああああああああああああああああああああっ!?」


 ばこーん。


 移動パートを乗り越えた桜弘(おぐ)が乗り込んでいったのは女騎士のお(うち)だった。


 侵入成功において大事なのは元気の良さだ。


 お邪魔しましまは礼節とマナーに加えて元気の良さを兼ね備えた汎用性の高い構えとされている。


 ぱりーん。がしゃーん。ごろごろごろ。


「いらっしゃい」


「はい」


 桜弘(おぐ)のお邪魔しましまが成功した矢先。今しがた侵入成功してきた元気のよい小娘へとソファに腰掛ける女騎士がいらっしゃいを構えてくる。


 なかなかハイレベルな構えだ。こいつ相当強いな。


 だが玄関先でのご挨拶が始まると思った矢先に地の文担当者はふと衝撃の事実に気づいてしまう。


 うお。こいつどっから侵入成功してんだよ。


 玄関だと思ったら普通にリビングでお茶の用意とかされてんじゃん。部屋の窓ぶち破って侵入成功しやがったな。


 この場は女騎士のお家のリビングだったのだ。桜弘(おぐ)のやつめ。まったく忙しない輩である。


 ごろんごろん。がこん。


「あ。女騎士ティーティーじゃん。飲んじゃぉ。ずぶずぶ」


 ずぶずぶ。ずぶぶ。


 そして部屋の窓をぶち破って侵入成功を果たした桜弘(おぐ)は用意の良い女騎士ティーが用意していたティーをおもむろに啜り始めた。ずぶずぶ。


 こいつは小食な癖に食い意地は張っているので出されたものは大抵何でもお口に運ぶ。多分毒殺とかには弱かった。


「俺は女騎士ティーティー。楽しんでいきな」


「ずぶずぶ。おいちぃ」


 ずぶずぶ。ずぶぶ。


 遠慮なく女騎士ティーティーをずぶずぶと啜る桜弘(おぐ)の面構え小脇。ドラム缶の平面のところで仁王立ちしているプリンスキー将軍は少女のずぶずぶ音を尻おめめに悲しげなおめめでお茶を濁す。お。何かいきなり会話パート始まるみたいだね。


「我が戦友女騎士ティーよ。此度の件は……残念だったな」


 悲しげな面構えを構築したプリンスキー将軍は未亡人となってしまった可哀想な女騎士ティーをとりあえず慰めた。


 なかなか気遣いのできる輩である。


「じょぽじょぽじょぽ」


 プリンスキーの小脇では女騎士のお家の扉再生モンスターがリビングの窓を瀟洒に再生させていた。こいつ節操ないな。そこ明らかに扉じゃなくて窓だぞ。


「あー。プリンスキー将軍じゃーん」


「やっほー。元気してたー?」


「ぼくたちメダカ軍は元気だよー」


 気遣いのできるプリンスキー将軍にご挨拶を繰り出すのは居間の棚に装備されているメダカの水槽内を拠点とするメダカの軍勢だ。


 これなるは女騎士ティーの頼りになるペットな次元断裂メダカどもである。


「うぇええええええんっ。中年給料男の中年おじさんが死んじゃったぁ。新婚ほやほやだったのに悲しいよぉおおおおっ。うぇええええええええんっ」


 斯くして気遣いのできる男プリンスキーの気遣いが仇となり次元断裂メダカどもに見守られる女騎士ティーは何か急に泣き出した。


 今は亡き夫を思い出してしまったようである。


 夫が死んで情緒不安定になっている構えだ。こういうときはみんなも女騎士に優しくしてあげようね。


 ちなみに夫を亡くしたばかりということで彼女の装備は喪服女騎士甲冑姿だったりした。喪服のくせにかっこいいなそれ。


 女騎士ティーは喪中ゆえにめっちゃわんわん泣く。


「うぇええええええええええええんっ」


「うぇええええええええええええええんっ」


 釣られて桜弘(おぐ)も何か泣き出した。なんだこいつ。


 しかし小娘に過ぎない桜弘(おぐ)はともかく女騎士ティーは超絶エリート女騎士な身の上を構えている。それゆえ即座に感情を立て直した。しゃきーん。


「プリンスキー閣下。何かしばらく見ないうちにちっちゃくなりましたね。ヘルニアとかで腰が曲がったんですか?」


 ずぶずぶ。


 女騎士ティーは自分で入れたティーをずぶずぶと啜りつつひとまずの世間話を繰り出す。彼女は超絶エリートウーマンなだけありこのあたりのお茶濁しは流石にそつがなかった。


 愛しの中年給料男の中年おじさんを喪うという悲しみを抱えてなお彼女は女騎士として一生懸命これからも頑張るのだ。これぞ超絶エリートの姿である。


「女騎士かぁ。相撲スキルが無駄になりそうだから私は別に女騎士にならなくてもいいかなぁ」


 即座に感情を立て直してのけた女騎士ティーのかなりかっこいいところを目撃した桜弘(おぐ)は「かっこいいなぁ」と上っ面で思った。


 でも相撲スキルが腐りそうだから将来女騎士になる必要性は別にないだろうと本性の部分で冷徹に分析している。こいつに人の心などなかった。


 ずぶずぶ。ずぶずぶぶぶ。


「おいしいなぁ」


「でしょー。材料は秘密」


「我も飲む。ずぶずぶ」


 新鮮な女騎士ティーティーをずぶずぶと愉しんでいた登場人物どもはそろそろ本題に入る。


「先日私の夫がプロ殺人鬼に殺されました」


「そうか」


「かわいそぉ」


「私は女騎士の戒律に従い三日三晩ほど喪に服す必要があります。ようするに今後の三日ほど新鮮な血を浴びることができません」


「面倒くさい戒律だなぁ」


「そこで私の夫の仇であるプロ殺人鬼の討伐クエストをあなたに依頼したい」


「うむ。任された。戦友の伴侶の仇は我自身の仇である。確かにその悪漢を討伐してくれよう」


「いえ。プリンスキー閣下ではなくそっちの小娘に述べ述べしています。だって今のプリンスキー閣下は雑魚個体で頼りないですし」


「あははっ。頼りないってさぁ」


「ぐうッ。我が本体で顕現していれば一刀両断にできたものを……ッ。戦友の夫の仇をこのおててで討つこともできんのか! 我は悔しい!」


 居間に今いるお三方はそんなお話をしました。


 お話の挙句の果てに女騎士ティーは今は無き旦那の仇討ちを桜弘に何か依頼してきたみたいですね。


 もちろん女騎士ティーは女騎士だ。タダで依頼を提示するなんて品のない真似はしない。


「成功報酬としてこの生の歴史レポートを用意しました。私の夫の仇をぶち殺してくれたらこれあげます」


「れぽーとッ! れぽーとッ!」


 女騎士ティーが掲げるのは「れぽーとッ! れぽーとッ!」という鳴き声を発してびちびちとしている生の歴史レポートだ。


 びちびち。うお。めっちゃ新鮮じゃん。


「頑張るぞぉ」


「戦友に頼りないとゆわれて少々落ち込み中な我である。がっくし」


 自分でクエストを達成できないことに落ち込むプリンスキー将軍のすぐ小脇では本題となるレポートをおめめにした桜弘(おぐ)が気合いを入れている。


 いくらやる気の出ない社会の授業と言えどもこうして課題達成をおめめの前にすれば超絶エリート女子中学生の性として勝手に気合いが入った。


 今回のエピソードはそういうお話なので読者諸兄らも桜弘(おぐ)と同じくらい気合を入れて頑張ってついてきてください。地の文担当者はそれを切に願った。

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