第五十八話 『呪いの人者』
前話における終わりの方で示唆されていた通りの出来事が斯くして巻き起こる。
ようするにエントランス台座展示用扉なるよくわからない代物の扉がぱかっと元気よく開いたのだった。凄い!
ぱかー。
「扉が開きましたわ」
「扉が開いたぁ」
扉開いたー。
「扉が開いたねー」
「扉が開きましたね」
冒頭シーンで元気よく開いてきたエントランス台座展示用扉なる謎多き代物を三人と一匹と一体の計五名はしげしげと見物する。
見物しているのだから開いた先の中身とこいつらは真正面から案の定相対することになった。
朱瑠パイセン家の豪華セレブ豪邸に遊びに行った矢先にそういう感じの出来事が繰り出されてきたというのがここ最近のあらすじだぜ。
んで。そのなかから現れたのは一体何者であるというのか。
がたんッ。ぴくんぴくん。
「……ぐはッ」
うお。びっくりした。扉のなかから何か出てきたぞ。
つーか誰だこいつ。あからさまに怪しい輩だな。
とりあえず自己紹介でもしろよ。
「せ、拙者は……プロ殺人鬼『呪いの人者』……ッ。小柄な体格を生かして呪いの人形として潜伏し、……隙を見て殺人鬼ポイント稼ぐタイプの、プ、プロ殺人鬼でござる……ッ」
うわ。ほんとに自己紹介始めた。こわ。
「し、しかしこ、この家は、何かがおかしいッ。隙を見て羊掃除業者をこつこつ殺し……多少の殺人鬼ポイントを稼いだものの……え、得体の知れない謎エネルギー照射により、せ、拙者は死につつある……ッ。ぐ、む、無念にござる……ッ」
小柄な体格を生かして女装した挙句の果てに呪いの人形のふりをするタイプなプロ殺人鬼『呪いの人者』はぼろぼろになりながらも自己紹介を繰り出してきた。
ふむ。特にツッコミどころは無い自己紹介だ。
可もなく不可もない自己紹介といったところか。この当たり障りの無い輩め。
エントランス台座展示用扉から現れるなり自己紹介を繰り出してきたプロ殺人鬼を見た少女たちは各々がそれなりのリアクションを構える。
「最近の呪いの人形って喋るんだねー。技術の進歩ってすごいなー」
ひとまず口火を切ったのは叶だ。
呪いの人形に多少興味のあるお年頃なこいつは世間体が良さげなことを喋ってお茶を濁す。繰り出されたお茶濁しには多少の感嘆の響きがあった。
「豪華セレブ一族の呪いの人形は流石に高性能だなぁ」
呪いの人者をしげしげと眺める桜弘も素直な感想を普通に述べ述べしてお茶を濁してくる。
いわゆるしげしげ状態からの上っ面素直思考式お茶濁しというやつだね。
このあたりは後輩としての処世術といったところか。
「良い買い物をしましたわ」
感嘆する年下な友達らのお茶濁しを喰らってしまった朱瑠はなかなかのどや面構えを見せる。どやぁん。
パイセンとしての威厳を示せたことで満足げな面構えを彼女はしていた。
実際問題のお話としてぺらぺら喋る呪いの人形は結構珍しい。
総括するならば買い物として結構いい感じのオークション落札だと言えた。地の文担当者はそういう経済系の話に強いので太鼓判を押してやる。
「すごぉい」
「やるじゃん」
「えへん」
地の文担当者が太鼓判を押したこともあってかプロ殺人鬼『呪いの人者』をしげしげと眺める小娘三匹は互いに互いを褒め褒めして高めあった。
プラス思考から来る良質なスパイラルがそこにはある。
しかしその刹那。
呪いの人形を自慢して「えへん」状態な朱瑠パイセンに水を差す新鮮なツチノコの影!
「ううむ。結構な良品とお見受けしますが状態としてはかなりぼろぼろですね。もちろん呪いの人形なのですからそれもまた風流というものかもしれません。でも維持管理は大変そうな代物に思えます」
さっきから桜弘のヘッド上に乗っかってる新鮮なツチノコがそんなことを述べ述べした。無粋な輩である。
新鮮なツチノコたる彼は小市民だった。
超絶高額な豪華セレブ関連グッズに相対した折に感嘆を抱くよりも先に壊れたり紛失したりしたときの慄きを想像してしまう。小市民ゆえの悲しさが彼にはあった。
小市民感覚から来る無粋な提言を受けた朱瑠は新鮮なツチノコから提言を述べ述べされるに伴って桜弘のヘッド上におめめを向ける。
無粋なことを何やら述べ述べされたにもかかわらず彼女の面構えに怒りや殺意等はなかった。彼女がそのお嬢様面構えに湛えるのは自信満々などや面構えです。えへん。
「うふふ。麻雅家を舐め舐めしてもらっては困りますわ。当家はいわゆる最上位豪華セレブ一族でしてよ」
「不正献金ランキングも一位なんだぞぉ」
「地元女子中学ナンバーワンお嬢様って感じだぜー」
「最上位豪華セレブ一族なのだから宝物の管理はお手の物というやつですの。愚民家系一族の貧民どもでしたら爆発させてしまうようなアーティファクトでも麻雅家当主なわたくしはやすやすと管理してのけますわ」
どや面構えを継続する彼女のお嬢様ヘアは見事なゆるやかさで綺麗にくるくるしている。くるくるぅ~。
小市民ならではの新鮮なツチノコの臆病さを容易く一刀両断した朱瑠のヘアスタイルは今日もばっちり決まっていた。
最上位お嬢様としての誇りが彼女のヘッドには詰まっている。みちみち。
みちみちしているわけだからどやどやした面構えを見せる朱瑠の背後で今回エピソードのプロ殺人鬼『呪いの人者』は断末魔の絶叫を繰り出さんとしていた。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
ばごーん。
さっきから負っていた致命傷に基づいてプロ殺人鬼『呪いの人者』はそのまま爆発して死ぬ。
「うお。めっちゃいたいッ!?」
爆死に伴って爆発の直撃を受けたエントランス台座展示用扉は普通にめっちゃ痛そうにした。
何という不運な輩であろうか。労災出るといいね。
今回一番の被害者な彼に地の文担当者は露骨な同情を見せた。
地の文担当者の同情に付随する形でのろまな小娘たちはようやく以ておめめ前の爆発を認識する。
「わっ!? 呪いの人形が爆発したぁ!?」
とにもかくにも呪いの人形に変装中のプロ殺人鬼が爆発したのだ。
そうした状況を察した桜弘はひとまず素直にびっくりする。
人の心がないこいつとてびっくりするものはびっくりしてしまうお年頃だ。
「爆発したねー」
呪いの人形に多少興味があるお年頃な叶の方角は素直なびっくりくりくりを表明している桜弘とは対象的に意味も無く平静を装う。
だが装っているだけで内心はめちゃくちゃびっくりしていた。
おめめ前で爆発した何者かが呪いの人形かプロ殺人鬼かどうかを判断する審美眼など所詮は小娘に過ぎない彼女たちにはない。
こいつら二人は呪いの人形が爆発したのだと普通に思っていた。斜に構えず物事を素直に受け取る良い子たちである。
「あぁ。やはり。維持管理が難しそうな代物だと思っていたのですよ」
素直で良い子な桜弘のヘッド上で訳知り面構えを構えるのは新鮮なツチノコだ。
おめめ前の呪いの人形が今にも爆発しそうだという予想を事前に立てていたため実際の爆発シーンを喰らっても彼はそこまでびっくりしていない。こいつは海とか山とかを千個くらい知ってる社会経験が豊富な輩だった。
身の内からは素直さとかそういうのは全部抜けている。
世間擦れした彼が構えるのはびっくりではなく貴重な呪いの人形のうちの一体が失われたことに対する小市民的なショックだった。
「え。え。……え」
一行のリアクションの小脇で棒立ちする朱瑠は呆然とすることしかできない。
ネットオークションでなかなか良さげな呪いの人形を落札した。
そしたらそれがまさか珍品だった。これは良い買い物をしたぞ。
そういう感じでるんるん気分だった朱瑠は呪いの人形のふりをしていたプロ殺人鬼が爆発して死んだという事実に豪華セレブ的なショックを受けた。
がぁあああんっ。
「ふ、ふらふらぁ~」
ショックのあまり彼女は足取りをふらふらさせる。
お嬢様くるくるヘアをふらふらと揺らす彼女の面構えは蒼白だった。普通に心が痛む構えと言えよう。
そんなパイセンと相対するこの場の連中は果たして今何を思うのか。
「あ、朱瑠パイセぇン。気にすることないよぉ」
気遣いのできるいい女な桜弘ちゃんが我先にお茶を濁した。
これなるはいわゆる『パイセン元気付けお茶濁し』の構えだね。処世術に優れる彼女はこうした優しいお茶濁しも繰り出せるのだ。
「う、うん。そうだね。ご、豪華セレブなんだからまた買えばいいじゃーん」
「失敗は誰にでもあるものです。反省は必要でも過度に落ち込むことはありません。失敗ではなく失敗を恐れる気持ちこそを恐れるべきです」
桜弘ちゃんに倣って叶もお茶を濁す。続いて新鮮なツチノコは適当なことを述べ述べしてきた。呪いの人形を爆発させてしまった少女を気遣う一行らの優しさがそこにはある。
「……あ、あぁ。ふらふらぁ~」
しかし朱瑠の豪華セレブ的ショックは山よりも高く海よりも深かった。
急転直下でめちゃくちゃなショックを受けた最上位お嬢様に対して後輩風情のお茶濁しはあまり効果を発揮できない。
「朱瑠パイセン元気出してぇ」
「私は全然気にしてないから朱瑠パイセンも気にしない方いいよー」
どうしよう……。ど、どうしよう……。
「落ち着きなさい。フラットウッズモンスターくん。主が不安なときこそ安定感よく構えるのがペットの仕事です」
だってどや面構えで自慢を繰り出していた矢先の出来事なのだ。
いわゆる後輩たちの前で赤っ恥をかいた構えを取る朱瑠にこの場の一行たちは流石に心の痛みを訴える。
心の痛みを慰めるべくそれぞれのやり口で少女を慰めた。
「あ、朱瑠パイセぇン。こういうときはシュークリームとかもぐもぐしたらいいと思うなぁ」
「元気出しなってー。あとで触手式マッサージとかしてあげるとかさー」
あ、安定感……。安定感を構え……。おっとっと。
「ツチノコに呪われたわけでもないのですからしゃんとしなさい」
「……あっ。あ……。こ、これは夢……。きっと夢なんですわ~……。」
新鮮なツチノコ&下級生二人&ペットから慰められる朱瑠の面構えは先ほど述べ述べした通りに蒼白である。
否。あえて訂正するならばめっちゃ蒼白だった。
友達の前で言い訳のできない無様を晒す。
最上豪華セレブ一族出身者からすればそれはもう耐え難い屈辱というやつに他ならなかった。
現に朱瑠のプライドは崩壊しつつある。
げんきだしてー。げんきだしてー。
プライドがめちゃくちゃ傷ついたせいでめっちゃ面構え蒼白になっている朱瑠を心配する宇宙人――すなわちペットのフラットウッズモンスターくんは身振りおてて振りで慰めを試みていた。
今しがた新鮮なツチノコから諭された彼は自分のやるべきことを思い出したのである。彼が繰り出す構えには不安定ながらも安定感があった。
わーわー。きゃーきゃー。わーわー。
「パイセン落ち込まないでぇ」
「あとでケーキ屋さんとか寄ろうよー。もちろんパイセンの奢りでー」
げんきだしてー。げんきだしてー。
「失敗は誰にでもあるものです」
周囲でうろうろしている連中からそんな感じで朱瑠は慰められた。
だが時として慰めは残酷な刃として相手を傷つけることもある。
その刹那。
「あ。あ。……あ。……あぁあああああああああああああああああっ!?」
それは慰めの刹那における出来事だった。
ぴかー!
え。なにこれ。何が起こってるのこれ。
地の文担当者も思わず困惑するなか何やら朱瑠のボディが豪華セレブ色に輝き始める。
うお。まぶしい。
そんでもって彼女の全ボディから愚民おめめ破壊閃光の類がおもむろに迸り始めたではないか。
ぴかぴかぴかー!
え。待って。こわい。急に何かすごいこと起きてんだけど。
助けてプロット班。ひしぃいいいいっ。
ぐべっ。
そして急展開への恐怖のあまりプロット班へと急に抱きついた地の文担当者は小脇に膝蹴りを入れられてテクニカルKOされた。ばたり。
「うわー。めっちゃ光ってる」
「新種の風邪かなぁ?」
「心配ですね」
テクニカルKOされて悶絶する地の文担当者の苦悶も他所に桜弘と叶と新鮮なツチノコらは普通に困惑を面構える。
何と言っても先ほどまで落ち込んでいた朱瑠パイセンが何か急に豪華セレブ色に輝き始めたのだ。そりゃ誰だって普通は心配したくなるものである。
こ、こわいよー。げ、げんきだしてー。
引き起こってしまった明らかに平常ならざる事態に麻雅家のペットことフラットウッズモンスターくんもさっきからおろおろしていた。
はぁはぁ。ふぅー。
ならばこそ地の文担当者はいい位置に入った膝蹴りのダメージ回復にここで一旦努めた。
ぴかぴかぴかー!
一旦小休憩に入った地の文担当者の小脇で朱瑠のボディはしばらくぴかぴかとした発光を続ける。はぁはぁ。わき腹の小脇が痛いよぉ。
そして地の文担当者が書き忘れていたが豪華セレブ色に発光している朱瑠は発光に伴い光ってる最中は空中を浮遊していた。
すとん。
なので発光が終わると共に朱瑠は地に足をつけてくる。
「……………………」
ふむ。空中浮遊は体力の消耗が激しいからね。
そんで――
その日の彼女はヘッドに新鮮なツチノコを装備していた。
完全密閉式金魚鉢でもなく絶対遮光式アイマスクでもない。
今現在のその刹那な少女は新鮮なツチノコを兜として装備することで愚民おめめ破壊閃光をレジストしていた。
だから今日の桜弘ちゃんは主が生存中な豪華セレブ豪邸内部においても自前『神の眼』を裸眼行使可能な構えを取っている。
果たしてお口を開く桜弘が朱瑠に向けるおめめはどこまでも凪いでいた。
「――は? お前誰だよ」
豪華セレブ色に発光しつつひとしきり空中浮遊を楽しんでからしばらく間を置いて地に足をつけてきた『何か』。
対して一個年上の友達たる在りし日の朱瑠パイセン。
この二人が繰り出す重心の差異によりさっきまでの朱瑠パイセンと今現在における『何か』が明らかに別人であると桜弘は即座に看破した。
朱瑠パイセンの形をしたおめめ前の知らない人に素早い誰何を繰り出す彼女のボイスは凍てついている。
その声は普通にマジ切れトーンだった。こえぇ。
桜弘ちゃんは人の心がないところがある。人の心がないので普段の彼女は上っ面だけで生きていた。
でも本性とか本音とか生まれ持った宿命とか。
そういうのよりもてきとーなノリで周りに合わせたその場その場の上っ面の方が彼女にとってはずっとずっと大事である。人の心なき少女はそう思っていた。
だから何も考えていない上っ面の彼女が友達だと思った相手はそれは間違いなく友達なのだ。
一個上のパイセンな年上の友達。
そのボディを乗っ取って知らないおじさんが急に出てきたら女子中学生の上っ面としてそれは普通にキレるのが自然である。
自然体の桜弘は急にキレた。
これは。まさか。
これなるは『キレる十代女子』の構えだとでもいうのか!?
「んー? よくわかんないけど戦闘開始なの?」
おめめが悪いので全く事態についていけてない叶はひとまずそんなことを述べ述べしてお茶を濁す。
唐突な戦闘態勢を構えた桜弘に前倣えする感じで彼女が構えるのは相手を殺す系触手柔術の構えだ。
事態の推移をまるで解さぬ触手生物のおめめには葛藤も動揺もない。
よくわからないとか。全く事態についていけてないとか。
そんなことはあまり関係なかった。
だって桜弘ちゃんが戦闘態勢に入っているからね。
ならそれはもう戦闘開始の合図だった。こうなってしまったのだから状況やら事態やら相手が誰であるかなどといった些事が入り込む余地はないぞ。
超絶っ友とはそういう間柄なのだ。
あと地の文担当者が書き忘れていたが今日の叶は描写してない行間の福引で当てた防御特化コンタクトレンズをはめている。
いわゆる愚民おめめ破壊閃光対策というやつだ。こいつは耳が弱いせいで眼鏡を装備できないからね。
半不死者連中は再生力やら生命力やらが凄いだけであって別に痛みを感じないわけじゃない。
ばちゅんばちゅんとおめめが潰される都度におめめを再生させる前回パイセンの家にお邪魔しましまときの手法は流石につらいものがあったようだ。
「喧嘩はやめましょう。平和が一番ですよ」
戦闘態勢を構える女子中学生二人の片割れヘッド上で新鮮なツチノコは当たり障りのないことを述べ述べしてお茶を濁す。
こいつも叶と同じく事態の推移を把握していなかった。
そもそもこいつは格闘技未経験者である。素人に重心とかそういうのがわかるわけなかった。部外者だし別に友達でも何でもないがゆえの他人事の構えだ。
け、喧嘩はよくないよー。仲良くしてー。
別に部外者ではないフラットウッズモンスターくんは主とその友達との間で勃発しそうな喧嘩の気配に露骨な怯えを見せている。彼は心優しい宇宙人だ。
戦闘態勢を構える小娘二匹。他人事な新鮮なツチノコ一体。
あとはおろおろする心優しい宇宙人一人。
こうした連中と相対する朱瑠パイセンの姿形をした『何か』は果たして大儀そうにお口を開いてくる。
「麻雅家開祖。麻雅繰蔵の御前である。愚民どもヘッドが高いぞ」
べこーんっ。ばしーん。びたーんっ。
そんなことを言われた同時刻の出来事だ。
虹会桜弘。伊塚叶。新鮮なツチノコ。フラットウッズモンスター。
これら計四名。彼ら彼女らはその刹那。
反射的に土下座していた。
「おぐっ」
「……っ」
……!?
「……」
他人事だった新鮮なツチノコやおろおろしていたフラットウッズモンスターはおろか完全な戦闘態勢の構えを取っていた筈の桜弘と叶ですらが成すすべもなくひれ伏している。
抵抗する余地などなかった。
今現在その刹那の彼ら彼女らが浴びせ倒されたのは当代の地元女子中学生徒会長たる総手尾詩灰のカリスマ性に匹敵する威力な圧倒的風格だ。
そんな感じの凄い風格をおめめ前の『何か』は垂れ流している。
ボディの発育が未熟な女子中学生に過ぎない身の上でそんなものに抗うことなどできるわけがなかった。
先ほどまで麻雅朱瑠だった『何か』の前でこの場にいる連中は問答無用の土下座を強要されている。
↑が現在的状況の推移だ。
「……っ。目上の大人に……なれなかった人……っ」
びたーんとした新鮮な土下座を繰り出して身動きができない叶は戦慄と共に言葉をこぼす。
彼女がこぼした言葉の響きには満ちているのは絶望的な疑問と畏怖だ。
叶が畏怖と一緒に疑問を抱いているのを見た地の文担当者はひとまずここで解説パートを入れようとふと思い立った。
はい。というわけで解説パートの始まりです。
この世界における人間種族の終極は『目上の大人』だ。
進化と後天転生の果てに辿り着く『目上の大人』は上位存在だったりする。
人間種族はここに到達した時点でもう終わりだった。その先はない。
上位存在『目上の大人』は人間種族社会の支配者で頂点で君臨者で絶対者な連中なのだ。
ちなみにこの世界における『目上の大人』は都合五柱存在する。
某ハンバーガーショップの社長さん。トイレの清掃員さん。おっきいお寺のお坊さん。道端のお地蔵さん。近所のおばさん。
この世界の人間社会はこの五体が絶対完全支配してるんだってさ。へー。
ようするに何を述べ述べしたいかっていうとこの世界において『目上の大人』は五体しか存在しないってことを地の文担当者は読者諸兄らに伝えたかった。
しかし『目上の大人になれなかった人』は超絶エリートやら豪華セレブ一族やらの上澄みでたま~に出てきた。
そのたま~に出てくる連中のうちの一体こそが麻雅家開祖麻雅繰蔵である。こないだプロット班が言ってた。
上位存在になれなかった存在。
つまりは準上位存在……に準ずるくらいの存在。
すなわちおめめ前の存在は――
――読者諸兄らにもわかりやすく述べ述べしてやると『人喰いタニシ喰いプテラノドン』とか『デーモン人喰いオオカマキリ』とか『総手尾詩灰』とかと同格の存在だ。
「う、うぐぐー。……あむーっ」
「強制土下座状態から動けないよぉ。でもお口は何とか動かせるかもぉ」
身動きができないー。
「大ピンチというやつですね」
準上位存在に準ずる存在から見下される体勢を強要されるこの場の連中たちはろくに動くことができない。
かろうじてお口が動かせるくらいだ。
いわゆる土下座の構えを構築したまま身動きができなくなった二人と一匹と一体はとどのつまりあからさまな大ピンチに陥っている。
おめめ前の知らないおじさんの気分次第では次の瞬間に殺されても文句の言えない構えと述べ述べできた。
ひれ伏したまま身動きができない愚民どもと可愛いペットのおめめ前。
朱瑠のボディを乗っ取り何か急に登場してきた朱瑠家開祖たる麻雅繰蔵は久しぶりの登場シーンになかなかの上機嫌を構えている。
彼ら彼女らが秒殺されなかったのはこいつの気分がよかったおかげだ。
そうした危ういバランスの上で全ては決する。
「管理不届きにより落札した呪いの人形を爆発させるなど言語道断。そのような仕儀をやらかす不届き者に麻雅家当主の座は相応しくない。ゆえに当然の措置としてこの娘のボディを乗っ取った我が当代の麻雅家に君臨する。異論は無かろうな?」
女子中学生ボディをゲットしたおじさんはるんるん気分で述べ述べした。
まさに四千五百年くらい若返った気分を彼は構えている。
それは今から大昔のお話だ。
長年の寄る年波には勝てなかった古の麻雅家開祖麻雅繰蔵は意識を屋敷内部に移すことでおばけとは似て非なるエレメンタル的存在に後天転生を遂げている。
んで数千年の雌伏の時を経て訪れた最近のごたごたを好機と思い何か適当な難癖をつけて末裔たる娘のボディをこのおじさんは乗っ取ったのだ。
さっきからの展開にはそのような次第がある。
「我。ここに復活せり」
麻雅繰蔵は今ここに復活したのだった。
復活の手段として女子中学生のボディに憑依するなんて手法を選んでくるあたりとんでもない変態である。
なので――
「――死ね。変態おじさん」
口を閉じたまま殺人予告を告げるは伊塚叶だった。
今現在その刹那だけは頼りになる父親譲りの才覚と殺意が彼女の触手おめめには宿っている。
すでに質問は桜弘ちゃんが終えた。
『は? お前誰だよ』
あとは鈴を鳴らすだけである。
超絶っ友は以心伝心であるので言葉を交わさずともこういう感じで連携プレイができるのだ。便利だね。
土下座によるうつ伏せ状態なので都合よくお口は相手に見えなかった。
土下座状態なので手も足も出ない。でもさっきから身動きできない旨を述べ述べしていたのを見れば分かるようにお口だけは動かせた。
手も足も出ない状態でも咥えた鈴を鳴らすくらいはできる。
準上位存在に準ずる存在『目上の大人なれなかった人』。
こんな化け物を相手に力比べをして勝つのは女子中学生には流石に無理だ。
総手尾詩灰なら多分正面から勝てるがああいう化け物じみた極端な例外を女子中学生の括りに入れるのはフェアじゃないので一旦省く。
超絶エリート女子中学生に必要なのは戦闘力じゃなかった。
超絶エリート女子中学生に一番必要な才能だったり適性だったりの正体。
それは絶対に勝てない相手やどうしようもない運命に対して何やかんやでその先に歩みを進めるよくわかんない何かだ。
説明の難しい何かを積み重ねて小娘たちは目上の大人の前段階種族たる大人の女への階段をちょっとずつ昇る。
自分の力じゃなくていい。コネでもいい。金でもいい。運でもいい。主人公補正でもいい。ご都合主義でもいい。
そういうものを研鑽するために地元女子中学は地獄みたいなカリキュラムを組んでいた。
ちりん。ちりん。
斯くして変態おじさん避けの鈴が鳴った。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
学校で習ったマニュアル通りに叶が繰り出してきた変態おじさん避けの鈴の音色を受けて麻雅開祖たる麻雅繰蔵が朱瑠のお口で断末魔の叫びをあげてくる。
普通に致命傷級クラスの断末魔の叫びだね。これは割とすぐに死ぬ。
最上位豪華セレブ一族の開祖であろうとも。
あるいは準上位存在に準ずる存在であろうとも。
変態おじさんである限りその鐘の音から逃れることは絶対にできなかった。
変態おじさん避けの鈴の音色は変態おじさんに対して問答無用の圧倒的殺傷能力を約束する。
だってその鈴の音の殺傷能力を担保しているのは上位存在『目上の大人』の一柱なのだから。
「わ、我は変態おじさんでは、な、な、無いッ! ぎゃぁあああああああああああああああああああああああッ!?」
いや。どう考えても変態おじさんだろ。
女子中学生のボディを奪い取ってTS転生若返りなんてそれはもう超ド級の変態おじさんの所業に決まっていた。この変態め。恥を知れ。
でろでろぉ。どろぉりどろどろぉ。
だから麻雅繰蔵は溶けて死んだ。
その刹那。
「はっ!? わたくしは正気に戻りましたわ!」
何かあっという間に正気に戻った麻雅朱瑠は変態おじさんに憑依されていた割には元気そうにそんなことを叫ぶ。
よかったよかった。
わーわー。きゃーきゃー。
「やったぁ! パイセン無事でよかったぁ!」
「ううー。よかったーっ。よかったよーっ。ずびびっ」
そして一年生二人はパイセンにわらわら群がる。感極まってる感じの構えだ。
「これにて一件落着というやつですね」
わらわら少女どものわらわらとした渦中にて最大の功労者たる新鮮なツチノコは桜弘のヘッドに兜として装備されたまま小市民的に呟く。
ひと仕事を終えた男の充実したひと時がそこにはあった。
すごいなー。
新鮮なツチノコに尊敬のおめめ差しをフラットウッズモンスターは向ける。彼はかっこいい男に憧れるお年頃だった。
わーわー。きゃーきゃー。
んで。さらにこの後にいろいろとあった末に朱瑠パイセンの羊召喚異常は何か急に治ったのである。めでたしめでたし。




