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第十三話 リボンの色と激うまトマト

 いつぞやの昨日に執り行われた友情和解より月日は流れた。


 月日が流れちゃったせいで日和は昨日の明日的今日となっている。曜日的には炎曜日とか氷曜日とかな感じとなってもいた。


 炎曜日? 氷曜日?


 現代日本ならざるこの世界独特の曜日に読者諸兄らはおそらく混乱を覚えておられる筈であろう。


 ではここで混乱する読者諸兄らのために心優しい地の文担当者が内緒のお話を特別に述べ述べしてやろうとふと思った。


 そう。本日が何曜日なのかもうわかんないのである。


 しかし地の文担当者を責めないでやって欲しいと地の文担当者は思った。


 賢明なる読者諸兄らも薄々勘付いている通り本作の舞台は現代日本というわけではなかったりする。本作は異世界ファンタジーなのだ。


 曜日日時のブレもまた異世界ファンタジーとしての趣という可能性が高いとされている。へー。そうした趣を読者諸兄らには是非楽しんでもらいたい。


 いとあわれを解する地の文担当者はそれを切に願った。











 その刹那。


「チャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイムッ!」


 うわ。うるせぇ。


 いとあわれなチャイムが何か急に鳴り響いてくる。これは地元女子中学が用いるチャイムの音色だ。めっちゃうるせぇ。


 だがそのうるささもある種仕方のないところがあった。


 だってこのチャイムはただのチャイムではなく給食捕食タイムの終焉を告げる昼休み開幕的チャイムなのだから……。


 昨今を送る地元女子中学の時代は昼休みとなっていた。


 ぱたぱたぱた。


「昼休み~。昼休み~。優雅な優雅な昼休み~」


 曜日すらわからぬ某日たる本日がとうとう新鮮な昼休みを迎えてしまったわけなのでお外には昼休み告げバードが舞っている。よく晴れた日和のことだ。


 お昼休み告げバードとは優雅なお昼にお空を舞う謎のクリーチャーの類とされている。地の文担当者が危惧していた通りお昼休み告げバードなるこのクリーチャーはやはり登場回数が多かった。おそらくは今後もめっちゃ出て来る。


 さらにはバイタリティ溢れる地元女子中学一年一組の面々が昼休みを迎えたゆえの習性として案の定わらわらし始めてしまうのだった。


 わらわら。きゃーきゃー。わーわー。


「やーん。栄光の一年一組教室小脇を昼休み告げバードが低空飛行してるー。生意気なやつー」


「この新鮮な鳥モチで捕獲しよう。ほ~ら新鮮な鳥モチだよ~。新鮮だからもっちもちだよ~」


「俺は新鮮な鳥モチ! 大抵の鳥に大人気だぜ!」


「しゃかしゃかしゃかしゃか。昼休みだから食後に踊りましてよ」


「お掃除お掃除~。食後の昼休みお掃除~。みんなが散らかした食後の教室を私がお掃除する~。誰もしないから私がやる~。るるる~」


「私はサンドイッチをばくばくと食う!」


 わーわー。きゃーきゃー。わらわらわら。


 うわ。うるせぇ。さっきのチャイムよりよっぽどうるせぇ。


 昼休みを告げる優雅なチャイムの音色を皮切りに割といつもの舞台たる地元女子中学一年一組教室はおもむろな昼休みへと突入していった。主人公&ヒロインが女子中学生なので本作は教室が舞台となることが多々ある。


 そう。現在日時は昨日のホームルーム前にロープータローとかいうプロ殺人鬼が死んだ時節の翌日な昼休みなのだ。読者諸兄らはこの時系列をちゃんと理解するべきだった。


 優雅な優雅な昼休みのあまりの優雅さに浸る地元女子中学一年一組の面々は先ほどから描写しているように好き勝手なるんるん気分を各々の各自で構えている。


「みーんみんみん。みーんみんみんみん。わたしは食後のセミ。みんみん」


「一方の私は食後の三葉虫と人間のハーフだよー」


「うおッ。セミと三葉虫がいやがる。オケラ帝国としては要警戒が必要だぜ」


 きゃーきゃー。わらわら。きゃーきゃー。わらわらわら。


 地元女子中学一年一組の連中は素直な良い子が多かった。


 穏和(おとな)しいクラスなのである。


 だがいくら素直な良い子塗れの穏和(おとな)しいクラスと述べ述べしたところでお年頃な超絶エリート女子中学生どもをわらわらと収容する牢獄である事実はやはり動かしがたかった。


 動かし難い事実に基づき今日の昼休みを迎えた教室はクソみたいに喧しい喧騒で満ち満ちしている。


「わーわー。きゃーきゃー。わーわー」


「え。炉野子(ろのこ)どうしたの? 急に「わーわーきゃーきゃー」って言葉で述べ述べし始めたけど。とうとう狂った?」


「昼休みの開幕でテンションが上がりすぎたのでありますね。気持ちは分かるであります」


 ああ。何というバイタリティであろうか。


 恵まれたバイタリティに物を言わせて地元女子中学一年一組のわらわら少女どもは平和な日々を今日も過ごしているようだった。











 しかしこの世界が平和なだけで終わるわけがない。


 その刹那。


 一年一組教室に遠慮なく迫ってくる謎の影!


 とてとてとて。


虹会(にじおあ)桜弘(おぐ)さんって輩いますか?」


 がらがらがらー。


 それは優雅な優雅な昼休みが始まった矢先の出来事だった。


 とてとてと教室に迫ってきていた謎の影はあろうことか扉を正面から用いての苛烈な侵入成功を繰り出してくる。


 うお。すげー豪快さだ。


 扉を元気よく破壊しないというのはかなり豪胆な犯行だ。これほどまでの剛毅さを発揮してくる謎の影の正体は果たして何者なのであろうか。


 かんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんっ。


 正体不明の何者かの登場シーンと平行してわーわーきゃーきゃーとしたわらわら少女どもの群れが繰り出す鳴き声を裂いて鳴り響き始めるのはクソみたいに喧しい下手くそな打撃音の群れだ。


「ふーふー。ふーふーふーっ」


 かんかんかんかんかかかかかんっ。


 かんかんかんかんとしたクソ喧しい打撃音の元凶は(かなえ)に他ならない。なにやってんだこいつ。ドラム缶生首生物の生首小脇部分を彼女は叩きまくっていた。


 超絶イケメンバンドグループ『イケ面胴小手』という連中がいる。


 超絶イケメンバンドグループ『イケ面胴小手』の連中は公共の電波に乗せた超絶生ライブ攻撃を昨日の歌番組で世界中に繰り出してきた。


 無警戒に歌番組を見物していたせいで超絶イケメンバンドグループの生ライブ攻撃を正面から喰らってしまった(かなえ)は『イケ面胴小手』のドラムを務める超絶イケメン野郎『TSUYO死』に最近ドハマリ中なお年頃と化している。


 超絶イケメンバンドにド嵌りした女の子にありがちな状態異常の類に囚われてしまった(かなえ)桜弘(おぐ)ちゃんヘッド後ろのドラム缶部分を拾ってきた謎の金属棒で暇さえあれば叩きまくるようになっていた。


 かんかんかんかんかかかかかんっ。


「うぇえええええんっ。今朝から(かなえ)が私のことをいじめてくるよぉ」


 そんな(かなえ)の姿に桜弘(おぐ)は涙を禁じえない。


 だって今日の朝から耳元でずーっとかんかんかんかんやられ続けているのだ。


 そりゃ誰だって泣くに決まっている。可哀想な輩だ。


「ふーふーふーっ。ふーふーっ」


 かんかんかんかんかかかかかんっ。


 そういえば地の文担当者も半分忘れていたが桜弘(おぐ)と同じく(かなえ)だって中学一年生の女の子だったりする。


 多感なお年頃の少女に圧倒的な相性有利を誇る超絶イケメンバンドグループの超絶イケメンパワーをわらわら少女風情がレジストするのはめっちゃ難しかった。


 実際問題のお話としてさっきからずーっとかんかんかんかんとやってる(かなえ)のおめめに正気の色はない。


 こいつは同性愛者だった。でもイケメンはイケメンで好きという節操のない女でもある。


 かんかんかんかんかんかかかん。


「うぇえええええええええんっ」


「ボディがドラム缶だしあれが桜弘(おぐ)さんかな? とてとてとて」


「ふーふーふーっ。ふーふーっ」


 明らかに理性を失っている(かなえ)の隙を突いて先ほど桜弘(おぐ)を訪ねてきた謎の影がこちらに忍び寄ってくるというのが昨今の次第だ。


 とてとてとて。


 とてとてと忍び寄った挙句の果て。何やらいい感じのポジショニングを構築した謎の影はおもむろに拳を構えた。


 しゅぴんっ。


三年生(緑リボン)パンチっ」


 ばこんっ!


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 さっきからかんかんかんかんやっていた間隙を突かれてパイセンパワーが込められた恐るべきパンチを喰らった(かなえ)は数メートルほど吹き飛ばされた挙句に粉々の肉片に変じる。


 ぐしゃぁっ。べちょべちょべちょっ。


(かなえ)ちゃんが挽肉になっておりますわ」


嫁瑠(よめる)んがさっき消し消しして綺麗になった黒板が(かなえ)ちゃん汁でべちょべちょ黒板と化してるであります」


「昼休みだからってテンションあげあげ過ぎでしょ。一年一組の掃除を全部押し付けられてる嫁瑠(よめる)んがいい加減キレるよ?」


 生のハンバーグにトランスフォームした(かなえ)は黒板の付近でうろうろしていた同級生のわらわら少女たち数人の顰蹙を買った。べちょべちょ。嫁瑠(よめる)んという子は一年一組の掃除を全部押し付けられているのだ。可哀想……。


「ぐ、ぐぇえええ……っ。わ、私は一体……?」


 しかし結構な量のパイセンパワーが込められた一撃をいい角度で喰らったことにより昨日歌番組で浴びせ倒された超絶イケメンパワーを(かなえ)はこれを機に全部抜くことに成功する。もの凄いパイセンパワーだ。


 今日の朝からずーっと性的嫌がらせを繰り返していた(かなえ)が生のハンバーグと化したという事実。


「このパイセンパワー。……まさかぁ」


 それをぼけーっと眺めていた桜弘(おぐ)は友をいきなり殴り飛ばした下手人が纏う制服リボンの色を『神の眼』由来の天才的動体視力で視界の端にやすやすと捉える。


「俺は通りすがりのパン転がし。パンを転がすぜ」


「通りすがりのパン転がしに転がされる俺はパンはパンでも捕食できないパンとして有名な甲殻堅牢パンの類だったりする。堅牢ではあるが無敵ではないから絶対に捕食できないわけじゃないぜ。捕食できないパンとして有名なのは生存競争における一種のイメージ戦略だな」


「緑のリボン。やばぁ。三年のパイセンじゃん」


 桜弘がおめめで捉えた制服胸元のリボンの色はおそるべきことに三年生が装備して然るべきカラーだった。


 唐突にエントリーしてきた二つ上のパイセンの姿に流石の桜弘(おぐ)ちゃんも多少身構える。おぐおぐ。ちなみに通りすがりのパン転がしと甲殻堅牢パンのダブルスはそのまま通り過ぎていった。所詮通りすがりだからね。


 地元女子中学の制服のリボンの色は当然ながら三種だ。


 一年生が隷属と流血を意味する『赤』。


 二年生が空と自由を意味する『青』。


 そして三年生が支配と三年生を意味する『緑』。


 色が変わるごとに呪術的な効果か何かで制服にパイセンパワーが宿るのはこのあたりの巷では有名なお話だった。


 同じスペックの女子中学生を並べて比べてみると下の学年の女子中学生は上の学年の女子中学生にまず勝てないのが当然の道理だったりする。


 パイセンパワーはいつだって理不尽なのだ。


 でも単なる学年由来なパイセンパワーの上乗せだけでは先ほどの三年生(緑リボン)パンチの威力は説明できない。


「この三年のパイセンはもしかしてぇ……」


「あ。一年一組教室に三年のパイセンがいる」


「ストレス発散に一年生(赤リボン)をいじめにきたのかも。どきどき。私パイセンにいじめられるの好きだから興奮してきちゃった」


 天性の勘の良さから警戒の構えを桜弘(おぐ)は取った。


 警戒する下等生物の心中など全く意に介さない背の低いパイセンは制服胸元に装備する(三年生)のリボンも鮮やかにおもむろな自己紹介を構えてくる。


「私は園芸部の部長を務めている三年二組の花崎(はなさき)恭子(きょうこ)です。あなたは一年一組所属で相撲部員の虹会(にじおあ)桜弘(おぐ)さんに相違ないですか?」


「うっす。私が虹会(にじおあ)桜弘(おぐ)ちゃんっす」


 自己紹介の後の誰何(すいか)を繰り出してきた花崎(はなさき)恭子(きょうこ)と相対する桜弘(おぐ)は何となくの敬語でご挨拶で返してしまった。


 桜弘(おぐ)はいつだっておてて乗りカカポの如く馴れ馴れしい。


 仮に相手がパイセンだったとしても同じ部のパイセンじゃないなら平気でタメ口を使ってくるタイプの後輩だ。


 だというのにうっかり敬語を用いてしまった故には如何なる仔細があるのか。


 そう。同じ部のパイセンじゃないならパイセンが相手でも平気でタメ口を使うタイプな女子たる桜弘(おぐ)をしても何となくの敬語を使わざるを得ないほどの凄まじいパイセンパワーをおめめ前の三年生(緑リボン)は宿していたのだ。


「これが部長級クラスのパイセンオーラかぁ」


 普通にタメ口を使うつもりでいた桜弘(おぐ)は「おぐぐ」という面構えをした。悔しそうだね。


 おめめに見えて分かるほどのやばいレベルのパイセンオーラを身に湛える背の低いパイセン――花崎(はなさき)恭子(きょうこ)は園芸部の部長だ。


 地元女子中学は地獄みたいな学校である。


 当然部活も地獄みたいな部活動だった。


 地獄みたいなこの学校の地獄みたいな部活を支配する部長級クラスに登り詰めるような三年生(緑リボン)はどいつもこいつもまともな輩ではない。


「ぱちくり」


「ぱぁあああああっ」


「お花さんだよぉおおんっ」


 ぱちくり。


 現に花崎(はなさき)恭子(きょうこ)を見てみればまず第一におめめが人間のものではなかった。


 人間はこんな風におめめの内部にお花さんを咲かせちゃいけない。


 恭子(きょうこ)のおめめのなかでは得体の知れないお花さんがいっぱい咲いていた。


 さらにはちょっぴり癖っけのあるヘッドにも色とりどりの綺麗なお花さんたちがぽこぽこと咲き誇っている。


 花崎(はなさき)恭子(きょうこ)


 こいつはもちろん人間じゃなかった。


 脳みそやら臓器やら血肉やらを全部お花さんに置換したお花さん人間だ。


 思考や動作も寄生させたお花さんたちの共有意識に基づいて彼女は行う。


 入部した人間の半数ほどがお花さんから喰い■されて■ぬ地元女子中学園芸部で部活動を行おうとするならばお花さんを体内に寄生させて園芸力を高めるのは基本中の基本だ。


 しかし中学生で恭子(きょうこ)の域まで寄生させまくる例は結構珍しい。


 後天転生は適性と才能がないと痛いし苦しいからね。


「ぐいっ」


 痛くて苦しいのをいっぱい我慢してお花さん人間になった恭子(きょうこ)はおぐおぐしている桜弘(おぐ)ちゃんに面構えをぐいぐい近づけてくる。ぐいぐい。


 人間種族のおめめが発しちゃいけないきらきらとした輝きで咲き誇る黄金色のお花さんをおめめのなかで飼育する中三少女は自分のおめめを桜弘(おぐ)のおめめのすぐ前にまで持ってきた。


 こいつは距離感が近い輩である。人懐こいのだ。


「距離感の近いパイセンだなぁ」


 背が低いので一生懸命背伸びして距離感を詰めてくるパイセンに苦言を呈することで桜弘(おぐ)はひとまずのお茶を濁す。イニチアチブを取られっぱなしなのが気に食わないお年頃のようだ。


 ぐいぐい距離感を詰めてきた至近距離の恭子(きょうこ)からは人間の身の上が漂わせちゃいけないお花畑の香りが漂っている。こいつは人間じゃなかった。


「昨日あなたのドラム缶から取り出した土の鑑定結果が出ました」


「土って何すかぁ? てきとーなことゆわれても困るんすけどぉ」


 距離をぐいぐいと詰めてくるヘッドがお花畑なパイセンに対し桜弘(おぐ)はおぐおぐとして一生懸命お茶を濁す。


「きらきら~」


 桜弘(おぐ)のお茶濁しを完全レジストして土の鑑定結果とかいうよくわかんないことを述べ述べしてきた恭子(きょうこ)のおめめのなかで黄金花がきらきらと輝いた。


 おめめの内部で咲き乱れる黄金花を見れば分かる通り今の彼女は上機嫌だったりする。だが文字通りのおめめ前で咲き誇る黄金花を眺める桜弘(おぐ)恭子(きょうこ)の情緒をいまいち把握し切れていなかった。


「私相撲部だから土とかゆわれても土俵の土しかわかんないよぉ」


 昨日あなたのドラム缶から取り出した土の鑑定結果。


 そうした旨のピンと来ないことを述べ述べしてくるパイセンに桜弘(おぐ)は上っ面で普通に困惑していた。


 ぐにょぐにょ。


「ふー。ひどいおめめにあった」


 のこのこ。


 果たしてきょとんとしている桜弘(おぐ)の傍らへと先ほどまで新鮮な生ハンバーグと化していた(かなえ)がようやく復帰してくる。彼女はのこのこしていた。元気そうだね。


「こしょこしょ」


「ひゃうん」


 のこのこと桜弘(おぐ)ちゃんの耳元に近寄ってきた触手生物はドラム缶生首生物をひとまず「ひゃうん」とさせる。


 これは。まさか。


 これなるは『こしょこしょと耳打ちする』構えだとでもいうのか!?


 三年生(緑リボン)パンチ由来の物凄いパイセンパワーがクリーンヒットしたことで超絶イケメンパワーがボディからすっかり抜けた(かなえ)はこうした理性的な行動もすでに可能となっていた。よかったね。


 多感なお年頃であるからこそ熱中するのも早ければ飽きるのも早かった。それが女子中学生という種族である。


 こしょこしょ。こしょこしょ。


「ほらー。桜弘(おぐ)ちゃんってば昨日の放課後あたりにドラム缶の中身を園芸部の人たちにチェックしてもらったでしょー?」


「あぁ。いきなり逆さ吊りにされて中身全部取り出されたあのときのぉ。あんときは大変だったなぁ。協力おてて当てで激うまトマト貰わなきゃ普通にキレてたよぉ」


 斯くしてこしょこしょの末に繰り出されたのは――


 ――書くのが面倒くさかったという理由で地の文担当者が描写を省いた行間の物語だった。











 それは昨日のことである。


 プロ殺人鬼『ロープータロー』との熾烈な戦いがあった日の放課後に急に襲撃を仕掛けてきた園芸部員たちから桜弘(おぐ)は急に攫われた。


「ぬわぁあああっ。何をするぅううううっ」


「怯むなぁああああああーっ! 数で押せぇえええええーっ!」


「敵前逃亡はお花さんの餌だぁああああ! 犠牲が出てもいいから素早く捕獲してのけろぉおおおお!」


 わらわら。きゃーきゃー。わーわー。


 攫われた挙句に地下室で逆さ吊りにされた可哀想な桜弘(おぐ)はその日のドラム缶の中身を全て抜き取られている。


 急にそんなことをされたら誰だって普通にキレるのが義理人情だ。


「許さんぞぉ。普通に全員半殺しにしてやるぅ」


 だからその場にいた連中全員を渾身のドラム缶タックルで全部再起不能にしてやろうとしたその刹那。


「口止め料にこれあげる」


「やったぁ」


 口止め料兼協力報酬として激うまトマトを五百グラムほど昨日の桜弘(おぐ)はおてて渡しされた。


「お母さぁん。学校の園芸部の人たちからトマト貰ったぁ」


「じゃあスライスしてサラダにしましょう」


「はぁい」


 貰った激うまトマトをお母さんに渡したら激うまトマトのスライスが食事の度にサラダと一緒に出てくるようになり昨日の晩ご飯と今日の朝ご飯は何だか物凄く幸せの塊だったことを桜弘(おぐ)はかろうじて記憶している。


 しかし激うまトマト入りサラダがあまりにもハッピー過ぎたので桜弘(おぐ)の脳みそから昨日の記憶は全て消し飛んでいた。


 園芸部の連中から急に襲われて拉致監禁されたことも海馬やら前頭葉やらから完全に抜け落ちている。


 激うまトマトの多幸感はマジで洒落にならないのだ。


 そりゃ記憶くらいは簡単に消し飛ぶ。


 口止め料として激うまトマトが渡されたのにはそうした経緯があった。記憶が全部消し飛ぶからこその口止め料なのだ。


 まあ今その話されたせいでかろうじて思い出したけど。











 激うまトマトを口止め料兼協力報酬として用いた昨日放課後な「桜弘(おぐ)ちゃん拉致監禁中身全摘出作戦」。


 これの首謀者にして黒幕にして責任者にして園芸部の部長たる花崎(はなさき)恭子(きょうこ)は明らかに人間のものじゃないおめめを上機嫌できらきらさせながら桜弘(おぐ)に調査結果をお知らせしてくる。


虹会(にじおあ)桜弘(おぐ)さん。昨日のあなたのドラム缶に入っていた土は大変貴重な土であることが先ほど明らかになりました」


「そうなんだぁ」


 土が貴重とか述べ述べされても「じゃあその土で土俵作れるのかよ」としか思わない桜弘(おぐ)恭子(きょうこ)のお知らせに上っ面の反応でお茶を濁した。


「みーんみんみんみん。じじじじじじじじじじっ」


 隠し芸のトレーニングに熱心なクラスメイトが張り付いている天井付近を見物する桜弘(おぐ)の面構えはぼけーっとしている。


 端的に述べ述べすると恭子(きょうこ)のお話に桜弘(おぐ)は興味を持てずにいた。


「よかったね桜弘(おぐ)ちゃん」


 桜弘(おぐ)と同様に土に興味などなかったが貴重なのは良いことだと短絡的に考えるところのある(かなえ)はてきとーな旨でお茶を濁してくる。このお茶の濁し力こそが超絶エリート女子中学生たる所以だ。


 興味無さげな二人の反応に恭子(きょうこ)もまた興味を持っていない。


 三年生(緑リボン)から見れば一年生(赤リボン)の命なんて砂粒みたいなもんだった。


 おめめ前の相手ではなくおめめ前の相手から収穫した土にしか興味が無い彼女のおめめは気持ち悪い形状でくるくる揺れている。


「昨日のあなたのドラム缶ボディに入っていた大変貴重な土は……なんと十年後の土だったのです!」


「はい」


「へー」


「十年後の土なのですから件のあの土からは当然十年後のお花さんが咲きます。未来のお花さんというのはなかなか面白い代物だったりするのです。これは本格的に今年の全国制覇が磐石となってきました。なので改めてお礼を述べ述べしてあげますね。ご協力ありがとうございました」


 くるくる。きらきら。


 絶対に人間のものではない形状のおめめ内部をさっきからきらきらと輝かせている恭子(きょうこ)は上機嫌に微笑んだ。にっこり。


 どうやら桜弘(おぐ)のドラム缶の中身は十年後の土だったみたいである。


 地の文担当者ですら驚く衝撃の事実を告げた恭子(きょうこ)は今年の園芸甲子園用のなかなか面白い飛び道具をゲットできてるんるん気分だった。


「十年後の土だったんだぁ」


 るんるん気分を構える背の低いパイセンから一連のお話を聞かされた桜弘(おぐ)が思うことは特にない。


 勝手にしてくれと彼女は思った。今のこいつには関係のないお話だしね。


 たらり。たらたら。


「え。十年後? ……これ典尼(てんに)様関係してる?」


 一方その頃の(かなえ)は何やら思うことがあったのか突如として降りてきた恐るべき天啓に貫かれて背中から首にかけてのあたりに変な汗を流した。


 十年後の土。


 生えてくる。


 ドラム缶の中身。


 あとは触手生物の生態。


 これらの思考が少女の脳みそのなかでぐるぐるする。ぐるぐる。


 そう。触手生物は泥のなかから生えてくるのだ。珍奇な生き物だね。











 十年後の土なる激レアアーティファクトの存在を知った少女は■■■■■■を殺す算段を今この瞬間に組み上げてゆく。流石は■■■■■■の娘だけあってなかなか才能のある輩だった。プロ殺人鬼とか向いてるねと地の文担当者は思う。


 ちなみに今しがた■■■■■■と表記したもののこれはもちろん二位の方じゃなくて九位の方に対する伏字だ。


 二位の方の■■■■■■を殺すのは流石に無理である。


 あれは上位存在が数億年単位の計画を立ててこつこつ何とかしないとどうしようもないという意味不明な代物だった。


 あれを殺すとか考えるだけ無駄です。まあ本作にほとんど絡まないから二位の方のお話はどうでもよかった。











 ともあれ九位の方の■■■■■■の娘はふと考える。


 殺すだけではダメなのだ。


 殺した後の世界に私と桜弘(おぐ)ちゃんが立っていなければ何の意味もない。


「……えへへ」


 前々から裏でこそこそと計画を練っていた(かなえ)は計画の足がかりをようやく掴んだことで何やら変な面構えを浮かべた。


「うわ。きも」


 無駄におめめが良いので友の姿をおめめ(ざと)く捉えた桜弘(おぐ)はそんな(かなえ)の気持ち悪い面構えを辛辣に斬って捨てる。こいつに人の心などなかった。


 きらきら。るんる~ん。


「そういうわけですので協力的口止め報酬に引き続きまして成果的口止め報酬もおてて渡したいと思った優しいこの私がこんな格下学年の教室までわざわざ足を運んでやりました。喜んでください」


「わーい」


「やったぁ」


 そして本作終盤の伏線が雑に張り巡らされたお喋りの締め括りとして自らの財布から恭子(きょうこ)は五百万円玉を取り出してくる。


 ばりばりばりー。


 そう。恭子(きょうこ)はマジックテープ財布使いなのだ。かっけぇ。


「成果報酬として五百万円玉あげます」


「ご丁寧にどうもぉ」


 ぺい。ぱし。


 お話の流れで五百万円玉を貰う破目に陥った桜弘(おぐ)は大喜びでドラム缶をがたがたさせてお茶を濁す。がたがた。とぷんとぷん。


 ちなみに今日の桜弘(おぐ)の中身は新鮮な青汁だ。


 五百円玉ではなく五百万円玉という高額硬貨を貰った桜弘(おぐ)は露骨に上機嫌な構えを構築する。


 愚民家系一族出身な女子中学生からしてみれば五百万円は一生遊んで暮らせるレベルの大金だ。地の文担当者として気持ちはよくわかる。


「うまうま棍棒五十万本くらい買うぞぉ」


「喜んでくれて嬉しいです」


 五百万円玉に喜ぶ桜弘(おぐ)は女の子らしい感性でうまうま棍棒の購入を誓った。


 しかしその刹那。


 おめめ前で執り行われた成果的口止め報酬授与における一連の欺瞞をおめめ(ざと)く嗅ぎ取った(かなえ)が何やら横から口を挟んでくる影!


恭子(きょうこ)パイセーン。ちょっといいっすかー?」


「はい。なんですか?」


恭子(きょうこ)パイセンの不正献金ランキングって確か十位くらいでしたよねー?」


 それはクソダサびりびりマジックテープ財布に五百万円玉を桜弘(おぐ)が苦労して収納しようとする矢先の出来事である。


 そう。桜弘(おぐ)もマジックテープ財布使いだったのだ。かっけぇ。


 マジックテープ財布使いたちの傍らで(かなえ)恭子(きょうこ)に下賎なおめめを向ける。まったく業突く張りな輩だ。


「……は?」


 業突く張りな後輩に恭子(きょうこ)は露骨に「むっ」とする。


 あまりにも不躾な質問に彼女は不快感を覚えていた。


 めきょめきょめきょ。


 彼女のおめめに咲く異形の花さんも機嫌の悪さを示す赤銅色へと変じる。


 これは仮に園芸部員の一年生(赤リボン)であれば失禁しながら土下座して必死に命乞いをするレベルの恐怖の相だ。


 並みの一年生(赤リボン)であれば一瞬で心臓が停止しかねないほどのパイセンオーラを垂れ流し始めた恭子(きょうこ)は不機嫌そうなおめめを(かなえ)に向ける。


「違います。私は不正献金ランキング八位です。二桁順位ではなく栄光の一桁順位です。二度と間違えないでください」


恭子(きょうこ)パイセンって最上位お嬢様だったんすねー。初めて知りました。へー」


 されど恐るべきパイセンパワーを(かなえ)は要領よく受け流した。


 赤銅色のお花さんが受け流されるに伴って自分が誘導尋問を受けていたことを恭子(きょうこ)は悟る。


「くっ。最上位お嬢様であるにもかかわらず五百万円なんていう小銭で成果報酬を誤魔化そうとする私の吝嗇(りんしょく)さをあなたたちは(なじ)っているのですね。五千億円くらい寄越せとでも述べ述べしたいのですか。この卑しい愚民後輩どもめ。まったく仕方ありません。部費ではなく私のポケットお小遣いマネーで支払います。三千億円くらいでいいですか?」


桜弘(おぐ)ちゃんやったよー。三千億円だよー。当分遊んで暮らせるぜー。次の休みはラスベガス行ってカジノでお金溶かして遊ぼうねー」


「きょ、恭子(きょうこ)パイセンっ。つ、追加で報酬が貰えるなら、わ、私は激うまトマトのおかわりが欲しいなぁ、なんて思ってるんですけどぉ」


 持ち前の要領の良さを発揮して三千億円ほど貰えそうな流れを作った卑しい触手生物は「わーい三千億円だー」と桜弘(おぐ)のドラム缶に抱きついた。


 しかし三千億円よりも激うまトマトが欲しい桜弘(おぐ)は素直に激うまトマトをおねだりする。


 激うまトマト。


 それは恐るべき激うま野菜だ。


 激うまトマトには強烈な依存性がある。


 激うまトマトの多幸感の虜になっている中毒患者な桜弘(おぐ)は「次の激うまトマトはうまうまスープカレーに入れて激うまトマトうまうまスープカレーとかをお母さんに作ってもらいたいなぁ」というような禁断の思想に執りつかれていた。


「えー。今の時価だと激うまトマトの方が高いんですが。……まあいいでしょう」


「ねえねえ桜弘(おぐ)ちゃん。今日桜弘(おぐ)ちゃん()にお泊りしてパジャマパーティーしてもいいー?」


「絶対だめぇ」


 夕食に出てくるかもしれない激うまトマト目当てでお泊りを強請(ゆす)ってきた下賎な友を桜弘(おぐ)は一蹴する。


 触手生物がドラム缶生首生物に一蹴された後。グラム単価八千億円くらいする激うまトマトとかいう激烈野菜を報酬として貰い受けるべく恭子(きょうこ)パイセンに引率されて園芸部所蔵のビニールビルディングへと桜弘(おぐ)(かなえ)の二人がのこのこのこりと赴くことになったっつーのが今回エピソードのおおまかなあらすじだ。のこのこのこ。

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