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第一話 虹会桜弘と伊塚叶

 少なくとも現代日本ではないいつかのどこか。


「るんる~ん。お洒落美少女で知られる私こと伊塚(いつか)(かなえ)様が今日も学校に赴く~」


 変な世界の珍奇な物語の渦中で少女が歌っていた。


「あ。風さんです。ちょっと通りますね」


 ぴゅー。平均寿命は三日弱と謳われる花粉症重篤患者の粘膜を春先の風さんが容赦なく甚振り往く時代のことである。


「俺は人喰いツバメ。ぴょんぴょんとお空を舞うぜ」


 お空を仰げば人の肉の味を覚えた人喰いツバメたちがぴょんぴょんしていた。


「今日もハイキングするぞー!」


 あるいは繁殖期を迎えたスーパーハッカーがハイキングを繰り出している。


「ぶろろぉおおおおん。ぶろろぉおおおおん」


 ちょっと遠めの道路の方をぼけーっと眺めてみれば運転手を失った後の永い放浪の末に憑喪神と化した十トントラックが地域の安全のため新鮮なアスファルコンクリ上を徘徊してもいた。頼りになる輩だね。


 この世界はこんな世界だ。


 すなわち四月上旬の月曜日朝な現在時刻午前七時半あたり──の日和を新鮮な昨今と述べ述べすることができよう。


 ごく普通朝の平凡な超絶平和的情景というやつだった。


「るんる~ん。春の朝朝通学路を(かなえ)様が歩いてゆく~。るるる~」


 春の春春春朝朝朝。健康のために体内で新鮮な触手を飼育しているごく優秀な超絶エリート女子中学生として知られる伊塚(いつか)(かなえ)は今日もるんるん気分で登下校を繰り出している。


 伊塚(いつか)(かなえ)。彼女は本作のヒロインだ。本作のプロット班はそう主張していた。


 よく晴れた朝お空の下のアスファルコンクリ上をるんるん気分で歩く彼女の足取りは人喰いタニシ喰いプテラノドンの羽ばたきの如く軽い。るんる~ん。


 今現在中学生の(かなえ)は去年まで小学生だった。去年まで小学生だった当時から逆算するなれば今現在その刹那の彼女は中学一年生の女の子に他ならない。


 典型的中一女子を営む(かなえ)はいつもの月曜日の朝が如くるんるん気分で学校へと赴いていた。


 ふむ。そんな次第であるのが本作における第一話の冒頭シーンのようだね。


「がっこ~がっこ~。るんる~ん」


 もう見るからにるんるんしているこいつの足取りの力強さは運転手を失った後の永い放浪の末に憑喪神と化した十トントラックを思わせる。


 さっきから何を述べ述べしたいかっていえば彼女の元気は元気いっぱいであるということを地の文担当者は読者諸兄らに伝えたかった。


 のこのこ。るんるん。ぐにょぐにょ。


 おめめ下としてるんるん気分で登下校中な(かなえ)はいつも通りの地元通学路をのこのこしている。のこのこ。











 しかしその刹那。


 本作の冒頭シーンたる平和な朝の光景を引き裂く唐突なイベントの影!


 少女がるんるん気分を構えて歩いているとどこからか助けを求める悲痛な声が響いてくるではないか。


「たしゅけてぇえええええっ。だれかたしゅけてぇええええええええええ」


 ふと気づけば通学路小脇のどこぞから↑のような命乞いが繰り出されてきた。


 学校式通学路のアスファルコンクリからやや小脇に逸れた草むらがわらわらしているあたりからその命乞いは聞こえてくる。


「この媚び諂った声はまさか……っ」


 お耳で捉えてみれば結構可愛い声に(かなえ)は当然気づいた。


 優れた触手知覚で今しがたの声を拾った(かなえ)は媚び諂った命乞いが聞こえる方角へと自らの面構えを素早く向ける。しゅばばばばっ。


 (かなえ)が面構えを向けた地理関係を再三述べ述べすると彼女が見据えるのはアスファルコンクリ的登校ルートから少々外れた空き地の草むらわらわら地帯だ。


 わらわら地帯から聞こえてきた声を超絶エリート女子中学生たる(かなえ)は持ち前の優秀さを活用して的確に情報処理してゆく。


「ダッシュでそっちの方角に赴くよー」


 しゅばばばばば。聞こえた命乞いを触手感覚で的確に見極めた彼女は獲物を見つけた人喰い鯉さんのような俊敏さを見せた。


 危機感と共に彼女はそちらへと駆ける。


 しゅばばばばっと駆け抜けてゆく少女の構えはまるで餓えた人喰い鯉さんのようだった。しゅばばばばばっ。


 だからそれはきっと餓えた人喰い鯉さんと化した少女が草むらがわらわらしている目的地周辺に辿り着いた後の物語なのかもしれない。


「なになにー? 私の超絶(ちょうぜず)っ友として知られる虹会(にじおあ)桜弘(おぐ)ちゃんこと桜弘(おぐ)ちゃんが助けを求めてる悲痛な声が聞こえてきたけどー。普通になにかあったのかなー?」


 命乞いが聞こえたあたりに到着した(かなえ)はひとまずそのような旨を繰り出してお茶を濁した。


 実のところを述べ述べさせてもらうと昔取った杵柄で(かなえ)は現状に物凄く心当たりがあったりする。


 あせあせ。あせり。


 餓えた人喰い鯉さんを思わせるような俊敏性で駆けつけてから半不死雑草をわさわさと掻き分ける少女の面構えには素の焦りが滲んでいた。


 わさわさ。わさ~ん。


「俺たちは半不死雑草。寿命は十億年くらいあるぜ」


 空き地を掻き分ける彼女の周囲には半不死雑草どもがわらわらしていた。無論のこと半不死雑草とは半不死者である。彼らは大変な長命で知られていた。


「再生力を伴わない半不死に価値なんてねーんだよ。半不死者の恥晒しめ」


「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 焦る(かなえ)は半不死雑草を次から次に毟り取って視界の確保に務める。


 残酷な所作ではあるが問題はない。雑草風情に人権などないのだ。


 これは。まさか。


 これなるは『草むしりで視界を確保したい』の構えだとでもいうのか!?


 むしり。むしり。


 そうしてしばらく半不死雑草どもを草むしりしていると――


 どらむかぁああああんっ。


 ――空き地の草むら小脇に横たわるドラム缶が彼女のおめめ前に何やら出現してきた。


「おぐぐぅ。私の超絶(ちょうぜず)っ友として知られる伊塚(いつか)(かなえ)こと(かなえ)の陰湿な声がさっきから聞こえるよぉ」


 うわ。めっちゃドラム缶じゃん。


 現れてきたドラム缶は何か人語を発していた。


「うわー。なにこれ」


「おぐぐ。おぐぐぅ。もしかしたらこれは友の窮地を察した友が助けに来てくれた感じの構えかもぉ」


 どこか幼さと媚びが滲む可愛らしいお茶濁しが果たして繰り出される。


「ドラム缶がしゃべってる。こわー」


 急にお茶を濁し始めたドラム缶の類に(かなえ)は普通にうろたえた。


 そう。わさわさとした草むしりの末に謎のドラム缶から(かなえ)は何か急にお茶を濁されてしまったのである。こえぇ。


(かなえ)ぇ。おこしてぇ。一人じゃ立てないのぉ」


「へー。なら起こしてあげよー」


 がこん。


 謎のドラム缶から話しかけられた(かなえ)はドラム缶が繰り出すお茶濁しに素直な構えで従う。横倒しになっていたドラム缶を強引に直立させてあげたのだ。面の皮の厚さの頼りない輩である。


 あるいはドラム缶と化しておめめ前に転がる彼女の正体を触手生物の勘で察したのかもしれなかった。


「おっとっとぉ」


「よいしょ。よいしょー」


 小学生時代からの超絶(ちょうぜず)っ友である(かなえ)から助け起こされたドラム缶は直立不動の構えを堅持した。


 これは。まさか。


 これなるは『ドラム缶直立不動の構え』だとでもいうのか!?


「えへへ。ありがとぉ」


「はーい」


 直立するドラム缶と(かなえ)は馴れ馴れしく会話を行うことで互いに友好を深めた。


 仲良しだね。お年頃の小娘ならではの馴れ馴れしさがそこにはある。


 春の麗らかな朝のこと。


 お日様のげらげらとした日差しに照らされる空き地で行われた超絶(ちょうぜず)っ友救出作業は平和裏の成功をこうして成し遂げたのだった。


 本作の舞台は春春春春~な時節なのだ。春春春~。時間帯は朝~。


 しかし今しがたのやり取りには致命的な齟齬を内包させていた。今しがたの場面における違和感に読者諸兄らは果たしてお気づきになられただろうか。


 この世界におけるガソリン丸型容器とドラムロール缶。


 これらは明確に別物だった。


 その辺の面倒くさそうな伏線回収的辻褄合わせはパイセンが繰り出す目上の大人パワーで強引に取り繕われている。流石は手芸が特技なだけはあった。


 否。↑の伏線ゆえにドラム缶との誤認を受ける仕様のドラムロール缶は工場出荷時におけるような完全円柱状である必要が要求される。


 だというのにさっき登場してきたこのドラム缶にはあろうことか人間のヘッド状の人間のヘッドが癒着していた。これは何としたことであろう。


 うむむ。おそらくはエラーコインを彷彿とさせるエラードラム缶の類なのかもしれない。


 地の文担当者はそれを危惧した。


(かなえ)ぇ。実はね」


「うん」


 地の文担当者の危惧を察してかドラム缶に取り付けられた人間のヘッド状の人間のヘッドは悔しそうにお口を開いてきた。おぐおぐ。


 うわ! 空き地の草むらで直立してるドラム缶がお喋りしてる! こわい!


「さっきさぁ。殺人鬼に襲われちゃってぇ」


「へー」


「首から上を刎ね飛ばされたのぉ」


「ほー」


「そんで斬られたヘッドが転がってたドラム缶に癒着しちゃったぁ」


「なるほどねー」


 通りすがりの殺人鬼から首から上を刎ね飛ばされた挙句にご都合主義が如く近所に転がっていたドラム缶にヘッドが癒着した。


 可哀想な少女はそうした旨を切実に繰り出してくる。おぐおぐ。


 悲劇的な旨を切実に繰り出す彼女は先ほどスリーサイズがドラム缶と化したばかりの虹会(にじおあ)桜弘(おぐ)こと通称桜弘(おぐ)ちゃんだった。


 そう。先ほどから登場していたこのヘッド付きのドラム缶は虹会(にじおあ)桜弘(おぐ)とかいうお名前を有していたのだ。


 先ほどから登場しているドラム缶の上のところに桜弘(おぐ)ちゃんの生首が装備されているという高度な記述を読者諸兄らは果たして見抜くことができただろうか。地の文担当者はそれが不安だった。


 ちなみにこいつは(かなえ)超絶(ちょうぜず)っ友として有名だったりする。中一で(かなえ)と同級生の女の子です。


 ともあれ先ほどから自らに降りかかった旨を主題とする小粋な桜弘(おぐ)ちゃんトークを聞かされた伊塚(いつか)(かなえ)とかいう輩は今何を思うのか。


「ぎゅるんぎゅるーん」


 空き地の草わらの渦中に棒立ちする(かなえ)はおめめをめっちゃ泳がせることでひとまずお茶を濁した。


「あはは。めっちゃおめめ泳いでるんだけどぉ。きもぉい」


 ドラム缶生首生物たる桜弘(おぐ)ちゃんはそんな(かなえ)に嘲笑を以て応じる。


 桜弘(おぐ)ちゃんの生首が生きたままドラム缶に癒着した。


 この状況下における何となくの雰囲気から事の概略を何となくの感じで(かなえ)は把握している。


 だって元々こいつが典尼(てんに)パイセンん()行かなきゃ桜弘(おぐ)におめめが付けられることもなかったわけだしね。


 半年くらい前のごたごたの影響がおめめ前に現れたことに割と動揺しまくっているであろう(かなえ)の内面を推し量ることは地の文担当者の身の上では少し難しい。おそらくはケチャップのこととか考えているのであろう。地の文担当者はそう思った。


 実際問題のお話としてドラム缶と化した友と相対する(かなえ)の触手おめめはめっちゃ泳いでいた。


 ばっしゃばっしゃ。


 だが感情的であるがゆえに感情の制御に長けた(かなえ)はひとまずの冷静さを取り戻してゆく。


「死ななくてよかったねー」


 冷静さを取り戻した(かなえ)は冷静沈着なお茶濁しを構えてお茶を濁した。


「鍛えてるから当然だよぉ。舐め舐めすんなぁ」


桜弘(おぐ)ちゃんは流石だなー」


 桜弘(おぐ)はドラム缶と化した胸を張った。えへん。


 首から上を刎ね飛ばされた上でドラム缶に癒着するという一連の構えに折に「顎を引いて歯を食い縛っていたから死を免れたのだ」と某上位存在の干渉で彼女は思い込んでいる。哀れな輩だ。


 無論のこと「えへん」と張った彼女のスリーサイズはドラム缶だった。


 いわゆるわがままボディの類と言えよう。まったくはしたない輩だぜ。


「ぺちぺちー」


 そして桜弘(おぐ)のはしたないわがままボディに誘われたが故。


「やめてぇ。私の新鮮なボディをぺちぺちしないでぇ」


 スリーサイズがドラム缶と化した桜弘(おぐ)ちゃんボディに(かなえ)がぺちぺちとお触りを繰り出してくる。


 なんだこいつ。急にセクシャルハラスメントの類を繰り出してきやがって。


 よもや発情でもしたか?


 ぺちぺち。


 しばしおめめ前のドラム缶に夢中になっていた(かなえ)はそれからおもむろに手首を裂いていった。にゅるにゅる。


「にゅるにゅるー。ぐにょーん」


「うわぁ。(かなえ)の手首が裂けてるぅ」


 自傷行為ではない。手首が勝手に裂けていったのだ。


「俺は(かなえ)のスマホ! 防水機能には自信がある!」


 裂けていった手首のあたりから少女が取り出すのは新鮮なスマホである。


「何やってんの(かなえ)ぇ。そういうことすんのやめてよぉ」


 ぐにょぐにょと肉を裂きながらスマホを取り出してきた(かなえ)桜弘(おぐ)は咄嗟の苦言を呈してお茶を濁した。


「え。やだ。だって便利だしー」


 でも(かなえ)の面の皮は厚いので咄嗟のお茶濁しなど効かない。


 ぱきぃいーんっ。


 これなるはお茶濁しをレジストした際に響く典雅な音色の類だ。


 否。今からするのはお茶濁しのお話ではない。


 インフレという代物があった。インフレとは中高生と中高年に人気のSNS『インスタントイルミネーションフレア』の略称とされている。


 友がドラム缶と化してしまった旨を新鮮なSNSサイトの類にアップロードするべく少女は体内的手首からスマホを取り出したのだ。ぐにょぐにょ。


 これは。まさか。


 これなるは武術的所作における『ドラム缶と化した友達の写真を無断でインフレにアップロードしちゃえ』の構えだとでもいうのか!?


「はい。ちーず」


「いえぇい」


 武術的所作を経て女子中学生計二匹はおもむろな地鶏を構えた。


「俺は地鶏! 啄ばみ力には自信がある!」


 地鶏とは地鶏である。鶏の類だ。


「自慢話とかいいからさっさと私たちを可愛く撮れよー」


「そぉだ。そぉだ。可愛く撮れなかったら焼き鳥にするぞぉ」


 ばさばさばさ。


 しかし地鶏は素早い。焼き鳥の恐怖を覚えた彼は即座に逃走を慣行する。


「あばよ愚民ども!」


 しゅばばばば。


「逃げられちゃったぁ」


「臆病なやつ。私ああいう臆病な男きらーい」


 地鶏に逃げられてしまっては仕方が無いので事前策を構えた少女たちは新鮮なスマホを新鮮な自撮り棒に装着させて「はい。ちーず。いえぇい」という構えを再び構築した。しゃきん。


 今日の登下校中朝の通学路小脇風景も案の定平和なようですね。











 しかしその刹那。


 朝の通学路における登下校中の渦中にてスマホ画面に表示されるお時間表示を触手由来な悪いおめめで何とか捉えた少女は現在時刻にようやく気づいた。


「あ。やばー。遅刻しちゃう」


 読者諸兄らは覚えておられるだろうか。本作冒頭のシーンを。


 そう。今現在その刹那は春先の朝な時間帯となっている。


 地の文担当者も半分忘れていたが昨今は朝の登下校中なお年頃なのだ。


 朝というのはいつだって時間が無い。


 端的に述べ述べして時間的猶予的にピンチな時間帯に桜弘(おぐ)(かなえ)とかいうこの場小娘二匹は陥りつつあった。


「そっかぁ。そういえば登校中だったなぁ」


「うん。写真はあとでだねー。はやく学校いこ桜弘(おぐ)ちゃん」


 通学路アスファルコンクリ小脇の草むらで少女たちは自らの身の上を思い出してゆく。


 女子中学生たる(かなえ)は徒歩通学者だ。徒歩通学者なので時間に敏感な少女は学校への徒歩通学再開を所望し始める。徒歩通学を繰り出さなければ学校に行けない身の上なこいつは朝の時間に敏感なタイプの人間だった。


 (かなえ)は一旦スマホを体内に収納してゆく。にゅるにゅるにゅるぷ。


「うわぁああああああああああああッ! (かなえ)のスマホな俺はまたしても体内に呑み込まれるぅううううううッ!」


 にゅぷん。


 にゅるにゅると音を立てて手首の内部に収納されるスマホは情けない悲鳴を上げていた。


 あまりの情けなさに同情の構えを掻き立てられそうになる悲鳴だった。だがスマホの主たる(かなえ)はそれを一瞥すらしない。


 スマホに人権などはない。所詮「もの」だ。


「遅刻遅刻~。遅刻は死刑~。一秒おきに死刑執行されて普通に殺される~。るるるる~」


 冷静沈着な所作で新鮮なスマホを体内収納するに伴いナチュラルな登下校再開の構えを(かなえ)は構築する。るるる~。


 これなるは『スリーサイズがドラム缶と化している友を促して二人連れ登下校を再開させよう』の構えと見て間違いなかった。


 スマホを収納した彼女のおめめには「普通に遅刻したくない」という意志が普通に宿っている。遅刻は死刑だからね。


 しかしその刹那。


 遅刻したくないから写真は後でという(かなえ)の冷静な判断に異を唱える謎のドラム缶生首生物の影!


「あ。まってぇ。(かなえ)ぇ。ちょっと聞いてよぉ」


 その少女の媚び諂った声は相変わらず可愛かった。


 でも少女の声には根幹のところにどこか凪いだ響きが込められている。


「えー。今時間ないよー」


「でも大事なことなのぉ」


 いつだって上っ面の可愛さを忘れない桜弘(おぐ)は時間的猶予を気にする友に大事なことをお伝えしようとしていた。


「だったら早く述べ述べしろ」


「実はさぁ。私ぃ」


 あるいはそれは普通に今生の別れっぽいご挨拶なのかもしれなかった。


「なに?」


「動けなかったりするかもぉ」


「へー」


 直立するドラム缶の上に据えられた少女の生首は自らが手も足も出ない旨を述べ述べした。


「動けないし手も足も出ないからぁ。私はここで死ぬしかないんだと思う」


「えー」


「だから(かなえ)は先に学校に行って私の分まで学校生活を謳歌して欲しいなぁ。ドラム缶生首生物になっちゃった私の願いはもうそれだけだからぁ」


「そんなー」


 ボディがドラム缶と化しているのだ。そりゃ身動きできないし手も足も出ないであろうに決まっている。


 身動きが取れないまま巨大三角定規や扇子エッジで惨殺される。将来の夢を覚悟した桜弘(おぐ)のおめめはひどく凪いでいた。


 これは普通に死を受け入れちゃってる系の構えだね。


 ドラム缶生首生物と化した少女は死を穏やかに受け入れていた。覚悟決めるのすげー早いな。流石は超絶エリート女子中学生だ。


「こねこね」


 超絶(ちょうぜず)っ友から今生の別れを急に繰り出された(かなえ)は『だだ』をこねこねしてお茶を濁した。こねこね。


 ちなみに『だだ』とは黒々としたマシュマロみたいな生き物だったりする。


「私は『だだ』。よろしくね」


「えー。やだー。一緒に学校行こうよー」


「でも動けないしぃ」


「うーん。だったら」


 身動きができないし手も足も出なかった。動けないわけなんでこの場からの移動など当然できない。この空き地で私は死ぬしかないのだ。


 自らの状況から逆算して「これからの短い余生をドラム缶生首生物として過ごさねばならない悲しみ」を器用に構築した桜弘(おぐ)の上っ面は別に悲しくもないのに何やら泣きそうになっている。


 こねこね。


 ドラム缶生首生物が陥った苦境と相対する触手生物少女は『だだ』をひたすらにこねこねしていた。


 これはあからさまな不服の構えと言えよう。


「前ならえー」


 不服を訴える(かなえ)は早速友を助けるべくの行動を繰り出した。


「前ならえだぁ」


 ぽいっ。


 その辺に『だだ』を捨てた(かなえ)はひとまず前ならえを構える。


 おお。構えた構えの勇壮さたるや。


 まるで「悲しみに暮れる友を見捨てることなどできるものか」と宣言するが如くの勇壮さだった。


 斯くして桜弘(おぐ)のおめめ前で新鮮な前ならえを繰り出した(かなえ)のおててが何やら急に裂け始める。


 ぐしゃぁあああああああっ。ぎゅるりるりりぃいいい。


 ドラム缶の前で前ならえをする少女の両おてては上下左右右往左往に展開されていった。ぐしゃぐしゃぁああああああっ。にゅるにゅるぐびぃいいいっ。


 うわ。気色悪い。きも。人間じゃないじゃんこいつ。


「うわ。きも」


 地の文担当者と同じ意見をしめしめする桜弘(おぐ)は何か急に諸おててを触手状に引き裂いてきた(かなえ)の構えに素でドン引きしていた。おぐおぐ。


「ぐにょぐにょー」


 普通に気持ち悪がっている桜弘(おぐ)の前では腐り果てた肉が崩れ落ちるような異形の音を奏でて(かなえ)の両腕が肘の辺りまで裂け終える。まるでヒュドラだ。


「実は私ー。健康のために体内に触手飼ってるんだよねー」


「知ってる」


「そういうわけだから私の触手で桜弘(おぐ)ちゃんを転がして学校まで行くよー」


「何かやだなぁ」


 お分かりいただけただろうか。


 ここまで苦労して読み進めてきたがゆえにそろそろ気づいていた読者諸兄らも多いであろうが実は(かなえ)は触手系少女だった。


「べちょー」


「……ひゃんっ」


 べちゃ。ぴとー。


 触手系女子な(かなえ)を露骨に気持ち悪がっている桜弘(おぐ)の気持ちを無視して触手生物はドラム缶に纏わりついてくる。馴れ馴れしい輩だ。


 ぞわわわわ。


 怖気の走る音を立てて触手生物から纏わりつかれた桜弘(おぐ)の首筋は露骨に鳥肌をとりとりしていた。ぞわわ。


 ぞわぞわしている友を完全に無視する(かなえ)の触手は友の生首が装備されたドラム缶を急に押し倒す。


 がこんっ。


「いたいっ」


「ごめんねー。でも我慢してねー」


 急に押し倒された桜弘(おぐ)の生首は舌を噛んだ。


「がまんすりゅ。ぐすん」


 でも少女はべろの痛さをぐっと堪える。強い子だ。


「よいしょ。よいしょ」


 べろを痛そうにする桜弘(おぐ)ちゃんに性的な興奮を覚えた(かなえ)は早速ドラム缶を転がしてゆく。ごろごろごろ~。


 彼女の所作には遅刻したくないという確固たる意志があった。


 ごろごろごろ~。よいしょよいしょ。


「いたいよぉ。ぐるぐる回されてるからおめめが回るよぉ。おぇええええええっ」


 おぇええええええっ。現在のボディと化したドラム缶の側面から触手で転がされる桜弘(おぐ)は「おぼぼっぼぼぼぼぼぼ」と嘔吐してゆく。


 だが嘔吐しながらも彼女が登下校の慣行を中止する気配はなかった。


 彼女とて遅刻はしたくない。


 相撲部のくせに小食な桜弘(おぐ)はおっぱいが大きくなりたいという上っ面の思いを込めて朝食を一生懸命捕食するタイプの少女だ。


「おぇええええええええええええっ」


 だからこうしていっぱい嘔吐する。


「よいしょー。よいしょー」


「元のボディを殺人鬼から取り戻してやるぞぉ。おぇえええええええっ」


 びちゃびちゃびちゃ。


 とある春の日の朝のこと。


 徐々にコツを掴んできた触手生物が繰り出すドラム缶回転の機動に基づき少女たちはそこそこの速度で登下校してゆく。


 結構な勢いで転がしてくる(かなえ)の傍らで結構な勢いの高速回転嘔吐を繰り出しながら頑張って登校する桜弘(おぐ)は「元のボディを殺人鬼から取り戻してやるぞ」というようなことを思ったし実際に述べ述べした。


 そう。地の文担当者が書き忘れていたが桜弘(おぐ)の本来のボディは殺人鬼から持ち逃げされちゃったのである。


 んで。


 書き書きするのが面倒になってきたからという理由でここからの場面を急にダイジェスト描写でお伝えしてゆくとその後に登下校再開を繰り広げた桜弘(おぐ)(かなえ)は無事に遅刻を回避したのだった。よかったね。


 しかし本作冒頭のこれまでのシーンは桜弘(おぐ)(かなえ)が挑む殺人鬼たちとの戦いにおけるほんの序章に過ぎない。


 地の文担当者が書き忘れていた描写にしてシナリオの前提をあろうことか親切にもここらでちょいと書き足してやると「本来の桜弘(おぐ)ちゃんボディを殺人鬼から取り戻す」というのが本作の主要目的だったりした。


 ↑のシナリオ上の前提に基づき地元に蔓延る殺人鬼たち――『プロ殺人鬼』連中に戦いを挑むことを桜弘(おぐ)は決意する。おぐおぐ。


 そういう感じのことを決意したのだった!


「がっこ~。がっこ~。るんるる~ん」


「がっこぉ~。おぇえええええええええええっ」


 本作はこういう感じの流れでお送りする。


 だから読者諸兄らは頑張って付いてきて欲しいと地の文担当者は思った。











 首から上を斬り飛ばされた挙句にボディを持ち逃げされてしまった可哀想な女の子が決意を固めた春の日の朝。


 あの日々から時は流れる。


 具体的に述べ述べして数時間ほどの時が流れた。


「俺は三時間目イグアナ。三時間目の時間帯にだけ出現する激レア生物だぜ」


 時代は地元女子中学の三時間目なお年頃だった。地元女子中学とは桜弘(おぐ)(かなえ)が在籍する超絶名門お嬢様中学である。


「殺人鬼をぶっ殺して私のボディを取り戻すぞぉ!」


 流れた日々から逆算して今日の三時間目あたりとなった折に朝方の覚悟をふと思い出した桜弘(おぐ)が何か急に叫んだ。


 おわわ。なんだよ。びっくりした。急に叫ぶなよもう。


 三時間目の情報の授業のためにスーパーパソコン室へと向かってる途中の階段における物語だった。


 わらわら。きゃーきゃー。わーわー。


 何か急に叫んできた桜弘(おぐ)の構えに呼応したのであろうか。周囲からは大きな掛け声がわらわらと飛んできた。


「おーえす! おーえす!」


「よいしょ。よいしょ」


「うーん。うーん。重いよぉ。桜弘(おぐ)ちゃん太ったぁ?」


「私はおにぎりをばくばくと食う!」


「よいしょ。よいしょ。そういえば何で桜弘(おぐ)ちゃんはこんなことになっているのでありますか?」


「知りませんわそんなの。えいえいっ」


 わらわら。きゃーきゃー。わーわー。


 学校の十二階あたりにあるスーパーパソコン室。


 三時間目の情報の授業教室たるその地へと向かうためドラム缶ボディな身の上ゆえに身動きが取れない現在の桜弘(おぐ)は一段ずつ階段上を運搬されているところだったりする。


 おーえすおーえす。


 この恐るべき運搬作業を行なっているのは桜弘(おぐ)(かなえ)のクラスメイトとして知られる地元女子中学一年一組のわらわら少女たちだ。


 わらわら少女たちとはわらわらした少女たちのことを示す。その名の通り彼女たちはわらわらしていた。わらわらわら。


「早くしないと死刑宣告されちゃうからみんないそいでー」


 ぐいぐい。ぐぐい。


 ドラム缶運搬作業の陣頭指揮を執るのは事情をよく知る(かなえ)に他ならない。


 階段の踊り場から新鮮な触手を伸ばしている彼女はスリーサイズがドラム缶と化した桜弘(おぐ)を少しずつ引っ張り上げていた。意外とパワーあるねこいつ。


 わらわら。きゃーきゃー。わーわー。


 (かなえ)の音頭でノリとテンポよく集まったわらわら少女たちは一致団結して桜弘(おぐ)を運搬してゆく。


 こいつらがわらわらと頑張る様子はクラス内プロジェクトに類する大規模公共事業の類を思わせた。


 わらわらしたクラスメイトたちから「おーえすおーえす」と一段ずつ上方向に転がされるドラム缶は「がこんがこん」と艶やかな音を奏でている。


 がこんがこん。


 うわ。うるせぇ。


 騒音被害著しい公共事業の渦中に(そび )える桜弘(おぐ)は周囲に響く煩さを大して気にする様子もなく少々不安げな面構えを構築してお茶を濁していた。


「……部活の稽古どうしよぉ」


 プロ殺人鬼たちとの戦いはまだ始まったばかりだ!











 のこのこ。ごろごろ。


「よいしょー。よいしょー」


「ごろごろごろぉ~」


 背後ないし側面の触手が繰り出してくる無慈悲なるドラム缶転がり。この転がりエネルギーが齎す酔いの類にも桜弘(おぐ)はだんだんと慣れ始めていた。


 今日一日を通して移動の都度に転がされまくればそりゃ多少は慣れようというものである。


 現在は登下校中における下校の構えだった。


 昨今は夕闇色の帰り道となっている。夜夜夜夕方夕方の類なのだ。少女たちはトワイライトバスターの渦中でお帰りの構えを構築してる。


「学校帰り~。るるる~」


「学校帰りの登下校中にごろごろするよぉ」


 ふむ。先ほどまでの場面展開にて朝と午前中授業の描写をちょいとしたばかりなのにこれは一体どうしたことであろうか。


 これは。まさか。


 これなるは『学校の描写を省いての時間経過』の構えだとでもいうのか!?


 先ほど描写された三時間目式階段運搬作業。


 その後に繰り出された今しがたの大胆でダイナミックな時間経過描写に読者諸兄らは混乱なされているかもしれない。


 しかし安心して欲しい。


 確かに今現在この刹那の時間帯は午後八時近かった。


 でもトワイライトバスターならびトワイライトバスター警報が出ているので風景描写的には夕方あたりとなっている。これで描写的な映え映えも安全安心というやつだった。


「えっほえっほ」


「今日もスーパーハッキングをするぞー」


「ハッキングッ。ハッキングッ」


 ほら。その証拠にスーパーハッカーの小規模な群れが登下校ルート近隣の川原道をハイキングしているではないか。


 トワイライトバスターにより強引に出現する夜の春の日の夕暮れは繁殖期を迎えたスーパーハッカーたちを健康的な運動に誘った。


 まあ昨今は繁殖期だから別に夕方じゃなくてもその辺にいるけどね。この世界のスーパーハッカーたち。


「きらきらきらぁ~」


 ハイキング中なスーパーハッカーたちが通り過ぎてゆく小脇にて午後八時過ぎの夕焼け小焼けが川の水面をきらきらさせていた。きらきらぁ~。


「ねえねえ。桜弘(おぐ)ちゃん」


「なあに? うぷ」


 時間外れの夕焼け小焼けのなか。登下校中の構えを取る桜弘(おぐ)(かなえ)は春夕焼けきらきらな川近く小脇の道をのこのこと下っている。のこのこ。


 時間経過入ったせいで学校終わっちゃったからね。これは普通に部活終わりのテンション明けの構えと見てよかった。


 テンション明けの構えだからして行間で繰り広げられていたさっきまでの異様なテンションはすでに覚めている。さめざめ。


桜弘(おぐ)ちゃんの部活って相撲部だよねー?」


「相撲部だよぉ」


 部活終わりの道を行く部活終わりのテンション終わりの少女たちは場当たり的な部活トークをしていた。


 のこのこ。ごろごろ。


桜弘(おぐ)ちゃんドラム缶になっちゃったわけだけどー。パイセンたちに怒られたりしなかったー?」


「下半身の安定感が増したなって褒められたぁ」


「へー」


 ごろごろ。のこのこ。


 片方は転がされながら。片方は転がしつつ。一緒に帰る少女たちは機を折を見ててきとーなお喋りを繰り広げていた。


 おしゃべりおしゃべりぃ~。


 ボディがドラム缶になってしまった桜弘(おぐ)は相撲部員女子である。


 ドラム缶ということで手も足も出ない状況下に陥った彼女は天賦の才に任せることで今日の部活を乗り切ることに成功していた。すげぇ。


 さらには厳しい相撲部の稽古の末に重心移動を用いてぐるんぐるん直立回転すれば前に進めるという新たなる技を会得していたりもする。


 本日付で会得した新技を彼女は『ドラム缶タックル』と名づけた。


 普通にめっちゃ疲れるし頚骨とかを怪我しそうであるため稽古中以外はこの新技を基本的に封印することにしている。このあたりはリスク管理の構えだ。


 移動は(かなえ)の触手に頼らざるを得ないという現状に変わりは無い。


 触手のにちゃにちゃした感触を普通に気持ち悪いと思ってる桜弘(おぐ)はこの現状について忸怩たる思いを上っ面で抱えていた。


「おぇえええええええええええええええええええええええっ」


「うわ。急に吐くなよ。気持ち悪いなー」


 そして桜弘(おぐ)が何か急に嘔吐してきたその刹那。


 ダイナミックな時間経過描写のゆえに現在の時と場所を読者諸兄らが把握できていないのではないかという類の忸怩たる思いを地の文担当者は急に抱える。


 そう。今現在その刹那は午後八時で部活帰りの夕焼けの空の下河川敷だった。


 さっきも述べ述べしたけどこれはいわゆる典型的なトワイライトバスター警報中の情景と言えよう。


 本作を読んでる読者諸兄らは本作を真面目に読む気が無いことで知られているので流し読み飛ばし読み対策でこうしたしつこい情景描写を心がけて行きたいものだと地の文担当者は思った。


 斯くして少女たちが繰り広げる上っ面のお喋りは佳境を迎える。


「おしゃべりおしゃべりー」


「おしゃべりぃ~」


 ごろんごろん。よいしょよいしょ。


 転がりと転がしの流転輪廻の渦中。その果てに小娘二人はお喋りの話題を適当に転がしていった。


 ころころころりん。


 んで。転がった挙句に少女たちのお話は何やら殺人鬼の方角へと転がってゆく。


「……ふぁ」


 転がりと転がしの流転輪廻における転がりの方を担当する桜弘(おぐ)は『神の眼』の意味不明な動体視力により春の夕焼けの川の水面がきらきらと反射しているのを回転する視界の端にやすやすと捉える。


 きれいだなぁ。


 人の心なき少女は吐瀉物まみれの面構えのまま上っ面でぼんやりそう思った。おぐおぐ。


 まあそうした風情を述べ述べしたところで会話の流れが向かうのは殺人鬼のお話の方角なわけです。なので桜弘(おぐ)がふと捉えた夕焼け小焼けのきらきらは文字通り川の流れに身の上を任せて流れていった。きらきらきらぁ~。


「そういえばさー」


「うぷっ。おぇ」


桜弘(おぐ)ちゃんのボディを持ち逃げしたプロ殺人鬼に心当たりとかある? 面構えとか装備品とか」


 川の近くの道行きでしばし歓談を繰り広げた末の(かなえ)はそんな桜弘(おぐ)ちゃんに気づくこともなくしばしの間合いを計る。


 ふむ。これなるは本題に入りたい系の構えだね。ドラム缶を転がすという過酷な作業工程により触手の運動量は少々嵩んでいた。


 本題に入りたい(かなえ)は少々汗をかいている。一汗かいたからこその本題突入の構えの類なのかもしれなかった。


 友のお口開きに呼応して桜弘(おぐ)もお口を開く。


「おろろろろろろろろろろろろろろっ」


「うわ。きったな。だから急に吐くのやめてってー」


「うぷっ。おぇ。ない。全くない。速すぎて見えなかった。気づいたときには首が飛んでたぁ。ぴょーんって」


「はー? 何のお話? あー。殺人鬼のお話かー。急に吐いてきたゲロのお話かと思った」


「殺人鬼に首を刎ね飛ばされたの初めてだからびっくりしちゃったぁ。(かなえ)も気をつけなよぉ?」


「私は別に気をつけなくてもいいかなー。だって首から上が千切れても体内の触手の根を核にして再生できるしー」


「マジ?」


「うん」


「きも」


「えへへ」


 本題に入りそうでなかなか入らない(かなえ)桜弘(おぐ)は普通にドン引きしていた。彼女は触手が上っ面で嫌いだった。


 健康のために命の核を(かなえ)は触手の方に移植している。これは女子中学生にあるまじき気色悪いレベルの健康志向だ。


 触手を体内に飼うということは人間をやめて触手生物に後天転生するということに他ならない。


 読者諸兄ら風に述べ述べするなれば日ごろからスッポンの生き血を飲んでる女子中学生のようなものだ。


 健康志向著しい(かなえ)と相対する桜弘(おぐ)は不老不死を目指さんばかりの友のストイックさにドン引きを堅持してゆく。おぐおぐ。


「おぇええええええええええええええええええええっ」


桜弘(おぐ)ちゃん何回吐くの? こわいなー」


 ドン引きに伴って回転の遠心力に三半規管が限界を迎えた桜弘(おぐ)は本日幾度めかの嘔吐を迎えた。そんな桜弘(おぐ)(かなえ)はドン引きする。


 吐きすぎだろ。こいつ。少女はそう思った。


 んで。


 そろそろ本題に入るね。


「そういえばさー」


「おえ。うぷっ。……なんだぁい?」


「実は私のお兄ちゃんプロ殺人鬼やってるんだけどー」


「へぇ」


桜弘(おぐ)ちゃんの首を斬ったの私のお兄ちゃんかもしれないんだよねー」


「そうなんだぁ」


「通りすがりに若い女の人の首切り裂いてそれ持ち帰ってきてさー。新鮮な生首を自分の部屋とかに飾ってるの。もー。マジきもーい。ほんと最悪だって前々から常々思っててー」


「うんうん。趣味悪い兄弟とかいると嫌になりそうだよね。私一人っ子だからそういうのわかんないけどぉ」


「でしょー? それで最近私に聞いてくるの。お前の通ってる学校に可愛い子とかいないかって。それ次のターゲットにするからとかー」


「中学生をターゲットにするのは流石にキモいかなぁ」


「マジキモいよねー。ちょー分かるー。そういう感じでほんと最低のクズ兄なんだけどー」


「はい」


「通りすがりに女の子の首から上斬り飛ばす手口とかお兄ちゃんのやり口そのままだから桜弘(おぐ)ちゃんのボディ持ち逃げしたの多分私のお兄ちゃんだと思うのー」


「なるほどぉ」


「そういうわけでー」


「うん」


「私と私の友達相手ならたぶん油断すると思うから。今から私のお(うち )に来てさー」


「おぐおぐ」











「私のお兄ちゃん一緒に殺さない?」











「殺す」


 そういうことになったので桜弘(おぐ)は今から(かなえ)のお(うち )へ遊びに行くことにした。

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