君がいる世界 1
夢見た世界は思ったよりつまらなかった。高校になれば何かが変わる。そう信じて性に合わない勉強を頑張ったというのに、やっと手に入れたものは中学の時と変わらないいつものつまらない日常だった。僕の両親は3年前交通事故で死んでしまった。それからは両親の祖父母からお金をもらってなんとか今まで生活して来た。なんとも言えない寂しさがいつも心の中にあった。祖父母も僕のために貯金を切り崩して、生きていけるようにしてくれてることを思うと愛されてはいるのだと思う。けど何か違う。傘を持たずに土砂降りに襲われて靴下がじとじとして気持ち悪い。そんな絶望感がずっとあった。
「では、気をつけて帰るように。」
教科書をバックにつめて、軽く先生に礼をした。教室を出る。今日は古本屋に寄って帰ろう。生活費の余ったお金で古本を買うのがつまらない日常の密かな楽しみだった。足取りが軽くなる。前は昭和の街の写真集を買った。いつもいく古本屋はかなり古いがいいものが安い値段で置いてあった。文庫本と写真集をよく買っている。
「また君か。いつもありがとうね。」
「はい。こちらこそありがとうございます。」
芥川龍之介だから、あ...。河童はこの前読んだ。羅生門。いいかもしれない。これにしよう。少し酸化した本を手に取る。
「これでお願いします。」
「渋いの読むねぇ。はい百円ね。」
「ありがとうございました。」
店を出る。ポツポツと頭に何か当たる。雨だ。どうしよう傘を持っていない。バックを傘がわりにして走って帰ろう。本をポケットに入れて走り出した。早く止むことを願うばかりだ。しかし雨はだんだん酷くなる。家まではあと急いで20分くらいだろうか。少し神社によるか。
境内に入る。拝殿の下でさっき買った本を取り出した。
「わっ!!」
「えっ」ボチャッ 本が水たまりに落ちてしまった。
後ろを振り返ると白いワンピースを着た少女が少しシュンとしていた。
「ごめんなさい。」
「あ、別にいいですよ。気にしないでください。また買えますから。」
「買わせてください!本!私が落としちゃったわけだし。」
シュンとしたかと思ったがすぐに笑顔になってそう言った。「本当にいいんですか?」
「いいんです。いいんです。明日本屋さんに一緒に行きましょう!四時くらいにここで待ってますから!」
じゃあという感じに手を振って名前も名乗らずに行ってしまった。空が、晴れていた。もう降らないかな。大丈夫かな。濡れた本を手に取って家に帰った。