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8 手伝い



 「エルくんごめん! 配達お願いしていい!?」


 「わかりました!」


 昼時、依頼帰りの冒険者達や昼から依頼を受ける冒険者達でごった返しているギルド内で、セリナさんから依頼受注の報告書の束を渡される。

 普段は専門の担当がいるらしいが、生憎別の仕事に駆り出されているらしい。

 そこで、風纏が使えて移動が比較的早い僕が選ばれたわけだ。


 「行き先はそれぞれ書かれてるから。あとこれが地図。無くさないでね」


 「おーい、早くしてくれ」


 「申し訳ございません! ごめん、戻らないと」


 一応地図も追加で渡されたが、そこでセリナさんは順番待ちの冒険者に呼ばれて受付業務に戻ってしまった。

 セリナさんは一時間前くらいからずっと動き続けていて、かなり忙しそう。


 (僕も早くやろう)


 行き先は、武器屋シンジス、食事処テルー、オルド商会、ポーション協会ネッタ支部、青の灯籠亭の5箇所。

 食事処、商会、協会、宿屋、武器屋の順番が一番早いかな。


 「〈この身は風と共に〉風纏」


 早く終わらせて、セリナさんの手伝いをしないと。






 「こちら、冒険者さんからの受注報告ですっ! お納め下さい」


 「ん? 新入りさんか?」


 「あー、まぁ、はい。そんな感じです」


 青の灯籠亭の亭主に報告書を渡すと、話を続けられてしまった。


 「おう、そうか。いつもは無愛想なガキだからなぁ……やっぱ嬢ちゃんみたいな子の方がいいよなぁ……あ、そうだ。少し待ってろ」


 そう言って、宿に戻ってしまった。

 待ってろと言われたわけだから、流石に無視していくわけにもいかないけど……。


 「よし、ありがとよ、これ持ってけや。嬢ちゃんは可愛いからサービスだ」


 少しして戻ってきた亭主から、干した果実を渡される。


 (いや……僕……)


 罪悪感やら、自分じゃない自分を褒められているような、複雑な感覚。


 「あ、あはは……ありがとうございます。それではまだ仕事があるので……」


 「ああ、引き止めて悪かったな。仕事頑張れよ」


 そんな激励を背中に受けつつ、最後の目的地に向かう。

 ギルドに比較的近く、僕もよく行く地域にあるため、一番気が楽だ。



 「ん?」


 道中ふと、視界に気になるものが映った。

 泣きそうな表情で、散らばった袋や箱を必死に集めている少年。

 明らかに困っているし、周囲にはそれに気が付いている人もいるけど、誰も助けようとしていない。


 (11歳くらいかな)


 6年前、スルクと二人でこの街に出てきた時を思い出す。


 (……ちょっと、手伝ってあげようかな)


 少年から遠めの位置に転がってしまった箱を拾い、少年に近付く。


 「君、大丈夫? 手伝おっか?」


 身を屈めて視線の高さを合わせ、怖がらせないように笑顔を作って話しかける。


 「ぅえ? あ、え、えっと、大丈夫……です」


 突然かかった声に驚いたのか僕の方を見て、固まる。

 声は尻窄みになっていて、最後の方はよく聞こえなかった。


 心なしか顔が赤い気がする。


 (熱でもあるのかな?)


 「顔赤いよ? はい、これ。体調は大丈夫?」


 散らばった荷物を渡し、起き上がらせるために手を差し出す。


 「あ、ありがとうございます……」


 「いいよ、僕がしたくてやったことだし。それより熱でもあるんじゃない? どこにいく予定だったの?」


 体調が悪そうだし、ここまでやったなら最後までやろう。


 「え、えっと……シンジス、です」


 「それって武器屋の?」


 「あ、は、はい」


 丁度いい。

 目的地が一緒なら、そこまで手間もないし。


 「奇遇だね、僕の目的地もそこなんだ。一緒に行こうか。……荷物重そうだし、少し持とうか?」


 荷物が多過ぎて、僕より年下だと思われる少年に持たせると不安になる。


 「あ、えと、それは大丈夫です」


 そう言って、守るように荷物を庇う。


 「それならいいけど……あ、こっちだね」


 本人が大丈夫だって言うなら、本人に任せよう。

 弟子入りとか、何かの条件かもしれないしね。



 その後も転びそうになる少年を支えたり、揺れる荷物に不安になったりしながらも、なんとかシンジスに辿り着いた。


 「すみません、冒険者ギルドのものです」


 中に入り、受付の男性にそう伝える。


 「親方を呼んできます。少し待っていてください」


 「あぁ、呼ばなくてもいい」


 受付の男性が奥に行こうとすると、50代くらいの男性が出てきた。


 「こちら、冒険者さんからの受注報告です、お納めください」


 「お疲れさん。おい、ただ坊! 突っ立ってないでさっさと荷物を運び込め!」


 男性は僕に労いの言葉をかけると、先程の少年に叱責を飛ばす。


 「それでは、失礼します」


 「あ、待って!」


 武器屋を出ようとすると、少年に呼び止められた。


 「あの、名前を教えてくださいっ!」


 「え? あー、エル、です」


 「エルさん……。助けていただき、ありがとうございましたっ! お仕事頑張ってくださいっ!」


 「うん、君も頑張ってね」


 そう言い残して、武器屋を出る。

 僕の名前なんて聞いて、どうするんだろう。


 (いや、早く戻ろう)









 「やっと終わったぁー」


 「セリナさん、お疲れ様です」


 「エルくんもお疲れ様。助かったよ」


 夜、完全に日が暮れて、冒険者達もほとんどいなくなった。

 いるのは深夜担当の職員と、深夜巡回の冒険者くらい。


 「受付セリナ、上がります! よし、エルくん、ルネちゃん。まず私の家いこっか」




 セリナさんについていくと、上流階級が多い地区の、中央に近い箇所に辿り着いた。


 「ここ、ですか?」


 目の前には、貴族とまではいかないものの、ある程度の金持ちが持っているような大きさの、綺麗な一軒家があった。

 外観は白を基調に、華やかな飾りがなされている。


 「うん。私、これでも結構裕福なのよ? だから遠慮しないでね」


 そう言って、さっさと入って行ってしまう。


 「……凄いね」


 「うん……」


 ルネと手を繋ぎ、恐る恐る家に入る。

 家の中もとても綺麗で、よく手入れされているのがわかる。

 観葉植物なんかも置かれていたり、綺麗だが簡素ではなくおしゃれといった感じ。


 「ルネちゃんとエルくん、同じ部屋がいい? それとも分けた方がいい?」


 手前の部屋から顔を出したセリナさんが、そんなことを聞いてきた。


 「エルねぇと一緒がいい!」


 「……じゃあ、同じ部屋でお願いします」


 「ん、じゃあ突き当たりの部屋が広めだからそこ使って。私は着替えるからちょっと待っててね」


 言われた通りに突き当たりの部屋に入ると、人が30人くらいは生活できる程度の広さだった。

 しかし、普段は使われていないのか、家具は暖炉があるくらいで、机やベッドはない。


 「……広いね」


 荷物を置いて、膝の上にルネを乗っける。

 流石に奴隷を買いに行くのにルネを連れていくわけにはいかないけど、どうするか。




本日はここまでです!

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