とある受付嬢の悩み事
「本当に良かったのか? あんな心を折る様な事して」
私にそう話しかけてくるのは、Sランク冒険者のヘルテさん。
つい先ほどギルドを出た、エルくん……の試験を担当した冒険者だ。
「……はぁ。これ見てください」
そう言って、上からの指示が書かれた紙を渡す。
そこには、こう書いてある。
『貴重な存在の為、間違っても死ぬような事態は避けろ。また、両親を殺され、故郷を焼いた黒龍に対して復讐心を抱く可能性が高く、注意が必要。下手に強くなる前に心を折っておく事。 追伸:精神的に参っているだろうし、幼馴染からの追放も相俟って人間不信になりかけのように感じる。出来れば甘やかしたりして籠絡しておいてくれ』と。
それに加えて、ギルドマスターから直接言われた事も伝えておく。
「それと、本人として扱っておけ。あそこまで記憶を完璧に植え付けられる技術は確立されていないし、ほぼ不可能。それこそ悪魔なら出来るかもしれないが、それなら性別と見た目が変わるのも大差ない。監視は甘くなっても構わんが確実にバレないようにしろよ。だそうです」
「……なるほどな」
「私だって、あんな事したくありませんよ……」
他の職員に指示を出しに行ったタイミングで、出発前のギルドマスターから受け取ったものだ。
ギルドマスターは本部のグランドマスターであり、「五星の賢者」の称号を持つSランク冒険者、ゼルファーさんに報告しに行った。
「言われなくても、見ればわかります。一体どれだけ受付やってると思ってるんですかね」
彼……彼女は顔色もそうだが、ほとんど笑わなかった。笑っても愛想笑いか苦笑いで、どう見ても無理していることがわかる程度にはバレバレ。
だからこそ、今のうちに籠絡しろだのの指示が不快だ。
……仕事は仕事だと割り切って、やるしかないのだが。
(前は、よく笑う子だったはずなんですけどね)
話す時の癖まで同じなのに、見た目以外だとそこが一番違和感を感じる部分だった。
「ははは……まぁ、アタシも気にかけとくわ。にしても、黒龍ねぇ。よく村一つで、死亡者もほとんどいなくて済んだもんだ」
「不謹慎ですよ。少なくとも本人や遺族の方からすればとても辛い事なんですから」
私が苦言を呈すと、ヘルテさんはスッと真顔になった。
「あぁ、悪い。……にしても、あんまり力つけさせるのは良くないよな」
「えぇ。一先ずは聖と癒属性の訓練をするよう誘導します。……それと、近い内ソロで活動しようとすると思うので、奴隷を勧めようと思います。領主様に根回しするようお願いできますか?」
「あぁ、任せな。なるべく、同年代くらいの同性がいいよな?」
「そうですね。あの冒険者さん達からの視線の反応を見るに、おそらく男性が選ばれる確率は低いと思います」
「ん、了解」
(あとは……あぁ、ルネちゃんとも仲良くなっておいた方がいいかしらね。一度会った事があるのは幸いだったわ)
あの子も出来れば味方に付けて置きたいところ。
現状、一番信用されてると思うから。
(あの長期休暇の時、スルク君が連れて来てくれて良かった……)
本当に、ただただそう思う。
エルくんが人間不信になりかけた原因も、彼なのだけれど。
*
「スルク君、お疲れ様。これが達成料で、こっちが討伐料ね」
依頼から帰って来たスルクくんの依頼の達成を確認し、報酬を支払う。
「はい。……あの、ソラト村に黒龍が現れたって本当ですか!? 俺の両親は!? ルネは無事ですか!」
報酬を受け取ったスルクくんは、一言返事をしてから捲し立てて来た。
明らかに焦燥したような表情で、冷静さを欠いている事が見て取れる。
「落ち着いて。……ルネちゃんは無事よ。こちらで保護しているわ」
「それっ、て……」
「……ルネちゃんを助けた冒険者によると、貴方と……エルくんのご両親は立ち向かって食べられてしまったらしいわ」
それを聞くと、スルクくんは崩れ落ちてしまう。
「っ……そうだ、エルは無事なんですか!?」
「彼は……、生きているわ」
「良かった……。エルまでいなくなったら……」
そう言って、少し安心した様に呟く。
(どう見ても、嫌いになったとか、足手纏いだからとかで追放した様に見えないのよね)
「言いたくないのなら言う必要はないのだけど、聞いていい?」
「すみません、エルを追放した理由……ですよね?」
「……そうね」
そう言うと、スルクくんは数秒躊躇った後、口を開く。
「……すみません、言えません。ただ、追放理由はエルのせいではありません。それと……これ、エルの私物とお金です」
そう言って、袋を渡してくる。
追放を告げた時に走っていってしまったため、渡せなかったそうだ。
「エルくんにしっかり渡して置きます」
「お願いします。それと……」
「どうしたの?」
「俺、ルネを引き取れません。エルに、預けておいて下さい。あいつは優しいから、引き受けてくれると思います」
「……理由を聞いてもいい?」
「…………多分、俺、その内死にます。だから、お願いします」
「え? ……ちょっと!」
それだけ言い残して、スルクくんは出ていってしまった。
(どう言うこと? 何が起こっているの……?)
黒龍の出現、悪魔の目撃情報、ソラト村出身の二人の異変……どう考えても、おかしい。
あの二人に偏り過ぎてるし、規模がたまたまで通るようなものじゃない。
「これも、報告しておかないと……」
(私はいったい、どうすればいいの……?)
いいね、ブクマ、評価ありがとうございます!頑張れます!
誤字は見逃していたらすみません……。
感想はログイン制限かけてないのでどなたでも!ください!
次話から比較的最近書いた物なので、文体が違う可能性があります。