6 決意
本日もよろしくお願いします!
試験に関してはそこまで重要な情報ないので、読み飛ばしてもらっても大丈夫です
「……一先ず、次に進みましょうか」
僕がそんな事を叫んでいる間、セリナさんはセリナさんで一旦考えを整理をしたようで、記録用の紙に『炎>>邪>光>闇>風=癒>水=土=雷=聖=時=無(検査時目を開けていられない程の光有)』と記録していた。僕の適性検査の結果だろう。
「……はい」
「では、身体能力検査を。……あ、あの……ガイはどうしますか?」
そう言いながら、部屋の前にある僕の持ち込んだガイを指さす。
「あ、買取をお願いします。登録料も買取料から差し引いてもらえると助かります」
「わかりました。少し失礼します」
「あ、すみませんもう一つお願いが」
そう、セリナさんを呼び止める。
「なんでしょう?」
「あの……ルネ、この子をスルクに引き渡して貰えませんか? 正直会いたくなくて……。それに、ルネも実の兄と一緒にいたいと思いますし」
「……わかりました」
「ありがとうございます」
「いえ、それでは失礼します」
セリナさんが離席したので、ルネを揺すり起こす。
寝せておいても良いのだが、怖い体験をした後なのだし、出来るだけ知っている人間がそばにいた方がいい……と、思ったからだ。
「……んぁ? ん……んー! ……えるねぇ、おはよぉ」
ルネは目を開けると、こちらを一度見て、目を擦り、伸びをした。
(かわいいな)
なんだろう。こう……小動物的な可愛さを感じた。
ルネに癒されながら、現状の説明をする。
「おはよう、ルネ。今、街に着いて冒険者登録してる最中なんだけど、どうする?」
「んぇ? えるねぇと一緒にいく」
そう言って、僕の服の裾を掴む。
「わかった。一緒に行こうか」
「うんっ!」
他の職員の人達に指示を出してきたのだと思われるセリナさんと合流し、ルネを背負って検査専用の部屋の一つに向かう。
魔法適性も身体能力も個人情報な為、個室で行われることになっている。
その結果も、自分で自分を売り込む為のアピールに使うのはいいが、ギルド職員や元パーティーメンバーが許可を得ずに部外者に伝える事は禁止されている。
例えば、パーティーを組んでない人に「このパーティーの人3属性の適性持ってますよ、組んでみてはどうですか?」の様に勧めるのはダメ……という感じだ。
ちなみに、移動中は特に誰とも会わなかった。
これは登録する人は登録後に依頼を受ける場合が多く、登録後に多く時間を取る為、朝方に登録する人が多いからだ。
「まずは……移動速度、持久力を計ります。その後に戦闘能力の検査をしますが、武器とスタイルはどうしますか?」
移動速度と持久力の検査はシンプルで、300m走の時間を計る、反復横跳びを同じペースで出来るだけ続ける、40mを数秒以内に往復し続けるというもの。
因みに身体能力系、風纏の様な魔法を使える受験者は2回行い、それぞれの記録を調べる。
戦闘訓練は、引退した元冒険者の職員の人や休暇中のギルドから指定された冒険者との模擬戦闘で、先に受験者側の武器とスタイル……近接物理スタイルだとか、遠距離範囲魔法スタイルだとか、中衛両術スタイルだとかを伝える必要があり、それぞれ結果でランクを判定して貰え、それが実質の実力となる為、そのランクによって受けられる依頼に差が出る。
その為多くの検査を受けたがる人が多いが、何パターンか受ける為には、検査を始める前に申告が必要だ。
「あ、短剣の近接物理でお願いします。それと、中、近距離魔法と複合も受けたいです」
「わかりました。それでは準備して下さい」
「終わっ、たぁ……」
床に寝転び、息を整える。
服は借りて着替え、動きやすい格好で受けたものの、途中、重心がズレて転びかけた。
多分、体が変わって今の体に慣れきってないからだと思う。
(それでも、そこそこ満足のいく結果は出せたと思うけど……)
しかし、これが戦闘なら致命的な隙になる可能性もある。
依頼を受ける前になんとかしておかなくては。
「えるねぇ、お疲れ様!」
「お疲れ様です」
労いと共に、結果の書かれた紙を貰う。
結果としては、300m走が32秒と20秒、反復横跳びが67回と131回、40m往復が112回と268回。
数日前に計った時よりも少しだけ増えていたりはするが、誤差の範疇だ。
(これだと走力D+、持久力C−くらいかな)
ちなみに、走力と持久力に関してはこの結果を基準と参照したもの+検査官……今回の場合だと、セリナさんの裁量によって決まる。
反復横跳びの魔法込みであれば、10~30回がE、31~50回がE+、51~70回がD−、71~100回がD、101~115がD+、116~130がC−、131~150がC、151~170がC+、171~230がB、231~300がB+、301〜がA……と言う基準だったと思う。
「よっ」
結果の紙を見ていた僕に、声がかかる。
顔を上げると、右手を上げながらこちらに歩いてくる女性の姿があった。
「ヘルテさん、お疲れ様です。こちらが今回の受験者のエルくんです」
「おー? アタシはヘルテ。一応Bランク冒険者だ、よろしくな! 」
ヘルテさんは黒髪長髪の20代くらいの女性で、女性にしては高身長……だと思う。
比較的露出が多く、快活な雰囲気があり、スタイルも抜群だ。胸も僕よりは大きい。
露出している部分から見える傷跡が少し痛々しいが、それがまた、戦いを生き延びて来ている実感を与えてくる。
戦闘での主な役割は、腰に巻いているベルトには何本かのナイフが掛けてあるのと、身軽な服装からして前衛撹乱……あたりだろうか。
僕の戦闘スタイルに近い人を選んでくれたのかもしれない。
「エルです。よろしくお願いします」
(前はCランクの人だったな……)
最初に登録した時も、ランク更新の時も、元Cランクの男性職員の人が相手だった。
「ヘルテさんは面倒見も良く、冒険者の皆さんから慕われているんですよ」
(姉御肌の人なのかな?)
セリナさんの説明を聞きながら、そんな感想を覚える。
試験官が女性なのは、受験者の性別と合わせる規定があるからだろう。
何かありでもしたら大事だから、その辺りは意外と厳しい。
「褒めても何も出ないぞ?」
「事実を言っただけですよ」
ヘルテさんのその言葉に、セリナさんは微笑を浮かべながら答える。
もしかすると、結構仲がいいのかもしれない。
僕はそんな二人を横目で見つつ、貸し出し用の木製の短剣を持ち、軽く振って感覚を確かめる。
(……若干軽いけど、仕方ない、か)
そもそもの感覚の違和感も含めて不安は残るが、やるしかない。
「よしっ! やるぞ」
「はい!」
短剣を構え、ヘルテさんと見合う。
ヘルテさんは同じく木製の短剣を構えてこそいるものの、余裕の表情だった。
(胸を借りるつもりで行こう)
「始めっ!」
セリナさんの宣言を合図と同時に床を蹴り、全力で距離を詰める。
「ふッ!」
「まぁ、一本しかないなら詰めるしかないわな?」
速度そのままに振るった初撃を余裕で弾かれ、開いた横腹に、鋭い回し蹴りが飛んでくる。
(っ!)
「が、ァッ」
体を捻って躱そうとしたが、間に合わずに直撃した。
そのまま地面に叩きつけられたせいで満足に受け身も取れず、全身に中々の痛みがあるが、動けないことはない。
(流石に手加減、してくれてるんだろうな……)
そんなヘルテさんは、なかなか動かない僕に業を煮やしたのか、口を開く。
「もう終わりかい?」
「まだ行けます!」
煽るような言葉にそう返し、立ち上がる。
ヘルテさんはその間一歩も動かず、いつでも来いと言わんばかりの余裕の表情。
(分かってはいたけど、やっぱり動き早いな……)
短剣を振る速度も、体を動かす速度も。
僕なんかとはレベルが違う。
(色々試してみるしかない、か)
短剣を浅く持ち、再び接近する。
「あぁ、なるほど」
(流石にバレたかな?)
タイミングよく振られた、早いが重くはないヘルテさんの攻撃を短剣で滑らせるように受け流し、身を屈めつつ懐に飛び込む。
「いいね」
「っ!」
そんな声を聞きつつ、短剣を下から振り上げ首を狙う。
「でも……甘いッ!」
しかし、その攻撃も半身を後ろに引くことで最も容易く躱される。
直後、両手で肩を強く掴まれ——
「いッ〜〜〜〜!?」
膝から床に崩れ落ちる。
頭が割れるような痛みに襲われ、思わず涙が出てきた。
(何が……?)
何をされたのかを知る為、痛みを堪えながらもなんとか顔を上げると、頭を押さえながら短剣を拾うヘルテさんの姿が見えた。
「頭、突き……?」
呆然と固まっていると、ヘルテさんが歩いて近付いて来た。
「いやぁ、最悪短剣は捨てるつもりだったんだろ? 中々いい動きだったよ。……っておーい。…………ちょっと強くしすぎたか?」
反応しないのを見て目の前に座り込み、僕の頭を摩ってくる。
「……ぁ」
頭の整理が追いついてくると、大分恥ずかしくなって来た。
(ボコボコにされて慰められて頭撫でられるとか……)
頬が紅潮してくるのを感じる。
顔が熱い。
「お、戻ってきたか?」
「あの、大丈夫なので……その、恥ずかしいです」
「ん? 恥ずかしがることはないぞ?」
僕一人ならまぁ、よくはないけどいい。
でも今は、セリナさんも……ルネもいるのだ。
「ルネも見てるので……」
「あー、いいとこ見せたいもんな」
「いえ……」
そんななんとも言えない会話の後、一旦休んでから魔法ありで戦うことになった。
魔法なしの評価はDのまま変わらず。
まぁ手も足も出てなかったしなと言う感じ。
因みに、休憩中ルネに頭を撫でられた。
……うん。
もうなにも言うまい。
「お疲れ!」
「もう、無理……」
完膚なきまでにボコボコにされた。
文字通り手も足も出なかった。
そもそも、ヘルテさんは魔法の方が得意なようで、扱いが僕なんかよりも数段、下手したら数十段上だった。
何も出来ずに負け、こちらも変わらずD+のまま。
CランクとBランクにはここまで差があるのかと、かなり凹む。
「お疲れ様でした」
「えるねぇ、お疲れ様!」
そう言いながら、ルネが僕の頭を撫でてくる。
(なんでこうなった……)
その光景をヘルテさんとセリナさんは微笑ましそうに見てるし。
「はぁ……」
その後、簡単な説明と何日依頼を受けないと失効するか〜だとか、ギルドは冒険者同士のいざこざに基本介入しませんよ〜とか色々規定が書かれた冊子を読み、新しいギルドカードとガイの買取代を貰った。
ちなみに、前のギルドカードは回収された。持っていても使えないし、要らぬ疑いをかけられるかもしれないから、持っている意味もないしね。
あ、服もそのまま借りた。
そこまでサイズに違いがないとは言え、元々着ていた物だとちょっと……下手すると色々見える。
問題があったのは、ギルドを出る時。
スルク達が遠くに行く依頼から帰って来ていないようで、ルネと別れる時に泣かれた。
思ったよりも懐いてくれてたみたいで嬉しいけど、少し困った。
結局また明日も会えると思うからと説得して納得して貰ったけど、スルクには早く帰って来て欲しい。
「……っと、ここか。」
レイナさんに教えて貰った宿屋の前に着いた。
白い壁の建物で、周囲には花が植えられている。
壁には汚れがほとんどなく、中からは灯りが漏れて来ていた。
(…………本当に、いいのか……?)
高そうな宿だし、本当にいいのかと責める気持ちと、約束してしまったから手遅れだと言う気持ちがせめぎあう。
「あっ! おにいちゃん!」
そんなこんなで悩んでいると、宿からレイアちゃんが出てきて、見つかってしまった。
「えっと……」
「来てくれたんだ! 来て来て!」
僕が吃っている間に、レイアちゃんは僕の手を引いていく。
扉を開くと同時に、鈴の音が鳴る。
「いらっしゃい。……あんたがレイナ達を助けてくれたって言う冒険者かい?」
「そうだよ! このおにいちゃん!」
「……失礼します」
中は汚れもなく綺麗で、床が木になっているからか暖かみもある、優しい雰囲気の宿だった。
奥から流れてくる、スープのものと思われる、肉や野菜を煮込んだようないい匂いが食欲を刺激してくる。
「そうかい。妹と姪を助けてくれて本当にありがとうね。もう聞いてると思うけど、勿論タダでいいよ。流石にお礼をさせておくれ」
そう言って、笑顔で感謝を述べてくる。
「あ……いえ……。僕がしたくてした事なので。……それにしても、本当にいいんですか?こんな高そうな……いえ、綺麗な宿なのに」
「いいんだよ。お金より命の方が大事なのさ。……それに、よければ今度また泊まりに来てくれればいいさね」
そう言って、笑いながら奥に戻っていった。
部屋の案内はレイアちゃんがしてくれるらしい。
レイアちゃんに着いていくと、一番奥の部屋に案内された。中は一人で泊まるなら十二分な広さで、娯楽用の本なんかも置いてある。
料理が食べたくなったら決まった時間のうちに一階に行き、女将さんにいえば出してくれるらしい。
色々説明を聞いてから、少しレイアちゃんと会話をした。
迎えてくれたのは、この宿の女将であるレイダさんと言う人で、レイナさんによく似ていた。
レイアちゃんによると、とても料理が上手いらしい。
レイアちゃんが部屋に戻った為、少し座って休むと、ドッと疲れが押し寄せて来た。立つのも辛い程で、全身に怠さが襲いかかって来る。
一度、ベッドに横になった方がいいかもしれない。
(そういえば、昨日の夜食べたっきりだったな)
色々あったせいで、すっかり意識の外だった。
「……本当に、色々あったなぁ……」
追放されて、ガイと一人で戦って。
両親を失って、村を失って、死ぬ覚悟を決めて、死にかけて、生き残って。
女の子になっちゃって、ルネを見つけて、門で話を聞かれて、レイナさんとレイアちゃんに感謝されて。
冒険者ギルドでセリナさんと話して、ヘルテさんにボコボコにされて、ルネに泣かれて、宿に泊めて貰って。
(疲れたな……)
そう思った瞬間、目から雫が落ちる。
「……あれ、なんで、今、泣いてるんだろ」
一度出ると、もう止まらなかった。
一気に感情が溢れ出して、止まらない。
(もう過ぎたと割り切ったつもりになって、もう整理出来たと大丈夫になったつもりになって。……追いついてなかった、それだけだったんだなぁ……)
「復讐、してやる」
黒龍に。
絶対に。
泣いていた僕は、僅かに開いた扉の隙間から覗いていたレイアちゃんに、気付かなかった。
「ん……」
(ここは……)
だんだん、意識がはっきりしてくる。
レイナさんの姉であるレイダさんの宿。
レイアちゃんと話して……その後は……。
「あのまま、寝ちゃったのか……」
部屋に備え付けられている時計を見ると、1時を指している。
夕食をもらえる時間は17時〜21時な為、とっくに過ぎてしまっていた。
(流石に一日何も食べないのはまずいかな……)
外で何か買って食べよう。
そう思い、極力足音を立てないように一階に降りる。
一階は、まだ灯りがついていた。
「おや、やっと起きたのかい。さっさと座り」
そーっと部屋に入った僕を見て、レイダさんはそう言ってスープを装った。
「……え?」
「レイアから言われたんだよ。あんたが疲れて寝ちゃったけど、何も食べてなさそうだったから起きるまで待ってて欲しいってさ。まぁ、あたしは普段からこのくらいまで起きてるから大丈夫だけどさ、レイアも起きてようとしたんだよ? 流石に寝かせたけどさ」
「レイア……ちゃんが」
「ほら、さっさと食って寝な」
「……はい、頂きます」
そのご飯は、物凄く美味しくて……暖かかった。
いいね、ブクマ、評価ありがとうございます!
一年前の自分がなんでこんなに細かく書いたのかわからない……()
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