5 適性検査
「ちょ、ちょっと待ってくださいね、え、エルくん……?」
「はい……」
やっと起動したセリナさんに相槌をし、行動を待つ。
「ちょっと待ってくださいね、えぇと……」
(2回言ったな)
「信じられませんか?」
「そりゃそうですよ! もう! ……少し、質問させてください」
(まぁ、そりゃあそうだよね……)
実際、僕が言われても信じるのは難しいと思う。
突然性転換して全く知らない顔になりましたなんて聞いたことがないし。
質問は多分、本人確認の為の、僕に関するものだろう。
「はい」
「ではまず……貴方の幼馴染の名前は?」
「ソラト村出身、僕の所属していたパーティーのリーダーのスルクです」
僕が淀みなくそう答えると、セリナさんは頭を抱える。
次の質問を考えているのか……困っているのか。
(両方かな……)
「つ、次の質問です!」
「はい」
「スルクさんのパーティーに新しく加入した二人の名前と加入した日付は!」
日付か……
「えっと、女性の方がチェシャ、男性の方がレイヴ。日付は……丁度4ヶ月前くらいでしたっけ」
確かそのくらいだった気がする。
スルクがスカウトしたらしく、僕が言われたのは初対面で二人と会って『この二人を入れるけど、いいよな?』って言う事後承諾の様なものだったけど。
「……パーティーの中で一番最近の長期休暇は? それと、私とその時に雑談した内容もお願いします」
「一ヶ月前ですね。セリナさんとは魔物の情報が書かれた本について話していた記憶があります」
僕がそう言うと、セリナさんは大きくため息を吐いて。
「……上と相談してくるので、この紙に理由と経緯を纏めておいてください!」
そういいながら白紙の束を机に叩きつけ、部屋を出ていく。
(まぁ、そうだよね。……書くかぁ)
「ペンは……っと」
ことの顛末……細かいことは書いていないが、追放されてから黒龍に負け、悪魔を名乗る者に会い、会話をしたこと、目覚めてからの事を紙に書き、帰りを待っていると、2回のノックの後、セリナさんと……顎髭を生やした、茶髪の男性が入ってきた。
なかなかの体格で、セリナさんとは父娘程の差がある。
(偉そうな人だし、挨拶する時は立ったほうがいいかな?)
僕はソファーを立ちつつ、相手の出方を待つ。
「あーっと?」
待っていても誰も話し出さない為、誰? と言う意思を込めた視線をセリナさんに送ると、察してくれたのか紹介を始めた。
「こちら、当ギルド支部のギルドマスターです。」
「あぁ、ギルドマスターのグランだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
軽く挨拶を交わし、座る。
「エルくん、書いておいてくれた?」
「はい、そこに」
そう言って、机の上に置いておいた紙を指す。
「ありがとう。……マスター、こちらを」
「……ふむ」
ギルドマスターのグランさんはそう言って、僕の報告書を黙々と読み始めた。
(なんだこの空気……)
セリナさんはじっと動かないし、僕としてもできることは多分ない。思いつかないだけかもしれないけど。
「なるほどな。」
数分後、グランさんはそう呟くと、懐から何かのアイテムを取り出した。
見た目は銀の指輪に緑の宝石を使ったと思われる装飾が散りばめられたアクセサリーで、それを指に嵌め、詠唱を始めた。
「〈真実を見通す指輪よ、この者の虚言を暴き出せ〉看破」
(その指輪魔道具だったのか……初めて見たなぁ)
魔道具とは、一般的に習得難度が高い魔法を物品に付与することによって、本来適性がない人であってもその魔法が使えるという代物。
一つ作るのに物凄い労力と人材、経費がかかる事と、どんなに凄い使い手が参加しようが、どんなに労力や物資を使おうが、数回使うと効果がなくなってしまう……要は、回数制限があると。
この二つの理由が主で、生産自体あまり活発には行われていないと聞く。
「どうですか?」
グランさんが読み終えた事を察し、セリナさんが確認する。
「……少なくとも、嘘はついていない」
「つまり……」
「本人、もしくは自分を本人だと思い込んでる誰かってことだ」
(会話から察するに、看破は本人が真実だと思っていることは真実って判定されるのかな)
「あの、僕はどうすれば……?」
「マスター、どうしましょうか?」
「はぁ……頭が痛くなるような話持ってきやがって……。取り敢えず新しく登録してやれ、能力関連の記録はしっかり残しておけよ。俺はこれを……上に持っていく」
そういい、報告書を持って席を立つ。
「わかりました」
「あぁ、あんた……エルだっけか。……死んでくれるなよ」
それだけ言い残して、グランさんは返事も聞かずに部屋を出て行った。
「あっ……と」
「はぁ……。えーっと……、エルくん……で、いいのよね?」
「あ、はい」
「冒険者登録を始めましょう。登録はエルくんだけ? よね?」
「僕だけで大丈夫です」
僕がそう答えると、セリナさんは未だに混乱が収まっていないのか表情が優れないながらも準備を始めてくれる。
「じゃあ、適性検査から始めましょうか」
そう言いながら、セリナさんは机の上に魔法陣が描かれた紙を広げ、準備を進めている。
適性検査とは、人それぞれ違う魔法への適性を調べるもので、登録の前に必ずしなくてはならない。
魔法は炎、水、風、土、雷、癒、光、闇、聖、邪、時、無+、魔物が使う、人では使えない……少なくとも再現出来ていない魔法の13種類あり、このうち癒、聖、邪、時、無の魔法は適性を持っている人が極端に少なく、その中でも癒と聖の魔法は需要に対して供給が全く足りていない。
他に需要が高い属性だと、食べ物を焼いたり、周囲温めたりすることのできる炎辺りかな。光は最悪炎で代用出来るし、水は飲用することが出来ない。もちろんどの属性の魔法も使えるに越したことはないんだけどね。
ちなみに僕は炎>>>光>>風の適性がある。
3属性の適性があれば冒険者としてはかなりアドバンテージを得られる為、初めて知った時は喜んだものだ。
検査の方法だが、血を専用の魔法陣に垂らすと適性のある属性の色に光る為、その反応で調べるというもの。光が強いほど高い適性がある。
炎は赤、風は水色、光は薄い黄色だ。
「はい」
セリナさんからナイフを受け取り、指先に刃を滑らせる。
そして落ちたボクの血は魔法陣に吸い込まれ、光を発する。
「っ!」
「眩しっ!」
瞬間、眩い光が部屋を包み、僕は咄嗟に目を瞑る。
数秒待つと、光は収まった。
残ったのは、前に検査した時の三倍は強く光る赤と、同じく2倍は強く光っている薄黄、そして、その薄黄よりも強く光る黒に近い紫、薄黄の光よりも少しだけ弱い光を放つ黒、黒に少し劣る水と黄緑、その二色にさらに劣る青、茶、黄、白、灰、薄灰の光だった。
因みに、その6色に関しても前の検査時に光った薄黄色よりも強い。
「「…………。え?」」
思わず、セリナさんと声が被る。
それ程までに、信じる事の難しい光景なのだ。
大前提として、そもそも人の適性が変わる事なんて聞いたことがないし、前例もない。
更に、この結果をそのまま受け入れるのであれば、僕は……恐らく世界初の全属性適性持ちとなる。
普通、1つか2つ、なんなら適性が全くない人までいる中で、嘗て英雄と呼ばれた偉人であっても、6属性が最高とされている。
(どうしてこうなったんだ? えっと、考えられるのは……あ)
僕の身に起こった事で、もう一つ前例が無いはずの事がある。
それは、女の体になった事。
それを、あの時の悪魔の仕業と考えるのであれば。
(……確かに力が欲しいとは言ったけど、女になるなんて聞いてないっ!)
思わず、心の中でそう叫ぶのだった。
今日はここまでです!
よければ一言感想やブクマ、評価、いいねなどしていただけると嬉しいです!
評価してくださった方、ありがとうございます!!!