4 僕、女の子になっちゃいました……
遅刻……
「よし、質問は終わりだ。仮発行しておくから早めにギルドで登録しなおせよ?」
「はい、ありがとうございます」
質問と言っても、ここまでの経緯やルネとの関係、職業と……そこまで多くは聞かれなかった。
衛兵さんから仮の身分証を貰い、これからどうしようかと考える。
まず泊まる場所を探すのとギルドの再登録、ルネをスルクに届けるのがまず今日中にやらないといけないことだ。
(その後は……どうしようかな)
そんなことを考えていると、僕に声がかかる。
「……あれ、おにいちゃん?」
「え?」
振り返ると、ソラト村で最初に母親への助けを求めていた少女がいた。
「やっぱり、おにいちゃんだ! おかあさん!」
(ルネといい、なんでわかるんだ?)
小さい少女はわかるとか……そんな考えを振り払い、少女の母親へと目を向ける。
「ご無事で何よりです」
「おかあさん、この人が、助けてくれたんだよ!」
「あら、そうだったの? ありがとうございました」
「ね、おにいちゃん!」
「おに? え?」
そう言って、少女の母親は僕の体をマジマジと見る。
「あはは……気にしないでください」
その後、話を聞くと、僕が黒龍と戦っている間、しっかりと移動を開始してくれたようで、僕が助けた人は全員無事だったらしい。
森を抜け、ここまで辿り着いてその場にいた衛兵さんに状況を説明し、色々してもらったらしい。消火活動と遺品を回収したのは騎士様達だったようだ。
少女は母親の付き添いで治療を受けている間側におり、つい先程戻ってきたらしい。
多少火傷痕は残っているが、大分回復している。
「よし、入っていいぞ。ここまで拘束してすまなかった」
そこで、衛兵さんから街に入る許可が出た。
僕はルネを再び背負い、ガイの死体を持って街に入る。
「まずはギルドに行かないとな」
そう呟くと、少女が話しかけてくる。
「おにいちゃん、泊まる場所、あるの?」
「え?」
「ないなら、一緒に、来ない?」
「あ、この子ったら……すみません」
僕が戸惑っていると、それに気がついたのか母親が入ってくる。
「いえ……」
「ねーねー、あるの?」
「今の所ないけど……」
そう答えると、少女は母親に説明を始めた。
「……なるほど。そういうことなら、私の姉がこの街で宿屋を営んでおりまして……助けていただきましたし、よろしければどうでしょう?」
「ありがたいですが……いいんですか?」
「勿論! 私は命を救っていただいたのです、否はありません!」
とてもありがたいし嬉しいが……いいんだろうか。あんなことがあった後で、だいぶ参っているだろうし。
その事で僕が悩んでいると、少女が口を開く。
「おにいちゃんも、来てくれると、うれしいな」
「…………そうですね、お世話になっても……いいですか?」
「はい! 」
「やったぁ! 」
少女の母親——レイナさんというらしい——に宿の位置を教えてもらい、ギルドでの登録が終わったらいくことを約束した。
因みに、少女の名前はレイアちゃんらしい。
父親は騎士で、家に帰ることは少ないそうだ。今回も、仕事で家にいなかったらしい。
二人とも茶髪で、レイナさんの方はおっとりというか、優しそうな顔をしている。
もう30代らしいが、そうとは感じさせない若々しさがあるし、美人と言って問題ないスタイルだ。
レイアちゃんの方は活発な雰囲気があって、元気な子……と言う感じ。どちらかと言うと父親似なのかも知れない。
「それでは」
「はい、お待ちしてます! 」
「待ってるね! おにいちゃん!」
レイナさんとレイアちゃんの二人と一時的に別れ、冒険者ギルドへ向かう。
と言っても、冒険者が魔物の死体をそのまま持ち帰ったりする為、門から近いところに位置している。
二階建ての建物で、入り口についた特徴的な看板が目印だ。
開かれている扉を通り、受付を見る。
(セリナさんは……いた)
セリナさんは、僕とスルクが日頃からお世話になっていた受付嬢さんだ。
僕たちが村から出てきて直ぐの駆け出しの時に、いろいろ教えて貰ったりした、とても感謝してる人。
出来れば、知っている人がいいからね。
ちなみに、スタイルもいい金髪碧眼の超美人で、冒険者人気は凄く高い。何回か告白されたこともあるらしいし。本人によると全員振ったらしいけど。
僕がセリナさんの前に進むと、建物内にいた男性冒険者達から視線が集まる。
じっとりと絡みつく様な視線や、舐め回す様に見てくる視線は、正直とても気持ち悪い。
この体になる前は、見られてもそこまで不快な感じはなかったんだけどな。
鳥肌が立つ程の気持ち悪さだが、騒ぐわけにもいかない。
体を縮めつつ、周りをなるべく気にしないように声を掛ける。
「あの、冒険者登録したいんですけど……」
「はいっ! ……はぁ」
セリナさんは僕の顔を確認すると、周囲に目を向け、ため息を吐いた。
「あの……?」
「ごめんなさい、こちらへどうぞ」
僕が問いかけると、笑顔を作って個室に案内された。
素直に誘導について行き、中のソファーに腰掛ける。ルネは隣に寝かせ、ガイは個室の扉横に置いた。
正直、結構助かる。あのまま視線に晒されてたら、精神的に参りそうだったからね……。
「えーっと、冒険者登録、でいいのよね?」
「はい……あ、それと、信じてもらえるかはわからないんですが……」
そういいつつ、僕は僕のギルドカードを取り出して、渡す。
「……?」
「僕……女の子になっちゃいました……」
そう言った途端、セリナさんが固まった。