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3 幼馴染の妹




 心地よい風の音、鳥たちの鳴く声、暖かな日の光。

 それらに優しく起こされ、目が覚めた。


 「こ、こは……?」


 (……?)


 いつもより、声が高い?


 「んーっ! きゃっ!」


 体を起こそうと力を入れると、僕の体を支えてくれていた木の枝が折れ、下にあった枝や葉と共に地面に落ちる。


 「ってて……」


 体に付いた土を払いつつ、起き上がる。


 (……うん)


 明らかにおかしい。

 何がって、僕の体だ。


 まずなんだよ「きゃっ!」って。

 それに、冷静になって確認してみると……胸もある。下半身は少しスカスカするし、明らかに声も高くなってる。

 腕や足も元々太くはなかったとはいえ、更に細くなっている気がするし。


 なんにせよ、まずは現在地を確認することが先決か。


 (ここは……)


 吹き飛ばされたとはいえ、流石に森の中心まではいっていないだろう。

 ここは上から確認するのが得策か。


 「〈この身は風と共に〉風纏」


 自分の声に違和感を覚えながらも魔法を唱え、その場で跳躍する。

 いつもよりも体が軽くなる感覚。


 (よかった、やっぱりそこまで距離は離れていないみたいだ)


 いつもより高く跳躍することが出来、木々の隙間から焼けた村を視認できた。

 ついでに、道中に湖も見つけることが出来たので、見た目を確認しようと思う。







 「……やっぱり、女の子だよなぁ……」


 水面に映る自分の姿を見て、落胆する。

 別に僕に女装願望とかはない。


 黒だった髪は銀色に。長さは肩くらいまで。

 緑に近かった瞳は薄い赤色に。


 なんというか、銀髪赤目の美少女がそこにいた。

 身長は目線の高さから考えて、前とほとんど変わっていない160前半くらいだと思われる。


 「どうするんだ……これ、僕だって証明する方法ないぞ……」


 普段、冒険者ギルドで発行されているギルドカードが身分証明証になるのだが……あれは、基本顔で判断するのだ。


 冒険者ギルドとは、国にすら影響を与え得る……そんな世界で一二を争う大きな組織。

 その為、冒険者はある程度の自由が守られている。

 基本的に依頼を受け、その報酬で生活する冒険者だが、その証明証であるギルドカードにはさまざまな特権があり、国でも優遇される。

 その代わり、有事の際には国や組織に協力しなくてはならないのだが、何も最前線にたてと言われる訳では無い。

 避難誘導、避難民の護衛、災害時の巡回,etc……

 人材不足を補うために駆り出されるのが主。


 普段受ける依頼も千差万別で、魔物の討伐から街の警備、路地裏の清掃まで幅広くある。

 ランクは下からE、E+、D-と上がっていき、A、A+、Sが上位層と言われている。

 因みに、依頼を理由なく長期間受けなかったり、犯罪を起こすと資格を剥奪され、程度によっては二度と登録できなくなるらしい。


 服装に関しては小柄だった為元々着ていたものがそこまで大きくなく、多少ぶかぶかではあったが着れない範囲ではなかったことが幸いした。


 「……。まぁ、行ってから考えるしかないよね……」


 そもそも、どうしてこうなった?

 考えられる理由としては……


 (……もしかして、あの夢……の、影響なのかな)


 あの、力が欲しいかと聞いてきたあの男性。

 彼が原因の可能性が高そうだ。


 「もしかして、力ももらえたのかな」


 なんて呟く。

 でも、そうでも思わないとやっていけない。


 (いや、ひとまずみんなが無事かの確認だ)


 一旦置いておく……という名の現実逃避をし、村の方へ走り出す。


 「……これ、戻れるのかなぁ」


 ……大きな不安を抱えつつ。







 村に戻ると、火事は鎮火していた。

 という事はつまり、みんなが生きていて、消火したと考えるのが自然だろう。

 僕が意識を失っている最中に雨が降ったなら、僕の服が濡れているはずだし。


 (誰もいない……無事に街に避難してくれたのかな)


 「……僕の家とスルクの家はまだ見れてないか」


 一通り回り、誰もいないことを確認した。亡くなってしまった人の遺品も、どうやら回収してくれたらしい。

 後は離れの二つだけ。


 「誰かいませんか!」


 黒龍もいない今、はっきりと声をあげ、確認する。


 (僕の家は誰もいない……)


 扉を開け、スルクの家に行く。


 「誰かいませんか!」


 ……。


 (ん?)


 一瞬。

 物音がした気がする。


 「お邪魔します」


 進んでいくと、少しずつ音が大きくなってきた。

 啜り泣く声。


 それは、キッチンの床収納から聞こえてきた。


 (この声……ルネ?)


 ルネはスルクの妹で、今年で8歳の女の子だ。

 スルクと同じ銀髪碧眼で、肌は色白、病弱なせいで外で遊ぶ事も出来ず、手足は細く小柄で身長も低い。

 僕とも面識があって、エルにぃと呼んで慕ってくれてる……と思う。

 それと、最近は体調が少し良くなったと聞いた。

 スルクが冒険者になった理由の一つは、ルネにいろんな話をして上げるためと、強力な治癒師や聖魔法使いとコネを繋ぐ事だったと思う。


 「ルネ、いる?」


 床収納の外から、出来るだけ優しく声を掛ける。


 (……返事はない、か)


 「開けるよ?」


 声をかけてから、そっと蓋を開ける。

 中には、縮こまったルネが隠れていた。

 顔を下に向け、背中をこちらに向けている。


 「助けに来たよ」


 その言葉に反応して、ルネが顔を上げる。


 「……エル、にぃ?」


 「えっ?」


 (見た目も声も違うし、わかるはずないと思うんだけど……)


 「やっぱり、エルにぃだっ! よかった、よがっだよぉ」


 そう言って、泣きながら僕に抱きついてきた。


 「あー……。ルネ、大丈夫だよ」


 まずは、泣き終わるまで待とう。

 話を聞くのは、それからでいい。










 「辛いこと聞いてごめんね、ルネ」


 「うん……大丈夫」


 一頻り泣き止んだ頃を見計らって、少しずつ聞き出した話によると、隠れていた理由は好奇心から僕とルネ、スルクの両親が黒龍に食べられたところを目撃してしまい、母親に隠れていろと元々指示されていた場所……床収納に逃げて、恐怖で動けなくなってしまったかららしい。


 僕がいた森まで届いた地響きは黒龍が村に降り立った音で、その時は立っているのも辛かったらしい。体が弱いルネなら尚更だろう。

 爆発音は、黒龍を攻撃した僕の父の魔法だったらしい。

 その父も……黒龍に殺されてしまったらしいけれど。


 僕が僕だとわかった理由も聞いてみたが、ルネ自身もよくわかっていない様だった。

 雰囲気が〜とか、服装が〜とは言っていたが、毎回最後に疑問符がついていた。


 「ルネ、一旦街に行こう」


 「うん、エルにぃ……じゃなくて、エルねぇ」


 その言葉に、苦笑せざるを得ない。


 (僕がなりたくてなったわけじゃないんだけどな……)


 僕が女体化したことを伝えると、寧ろ嬉しそうだったのだ。解せない。







 ルネを背中に背負い、森を駆ける。


 「そろそろ街だよ」


 そう伝えても、言葉は返ってこない。

 かわりに、後ろから「すぅ……すぅ」という可愛らしい寝息が聞こえてくる。


 あんなところにいて、いや。

 家族が食べられるところを見てしまったせいで、疲れてしまったのだろう。

 精神的にも、肉体的にも。


 「さて、門はどうやって通らせてもらおうかな」


 ちなみに、森に放ったガイは回収した。

 なくなっていてもおかしくはなかったが、残っていたのは普通にありがたい。

 ちなみに、引き摺っている。ルネの方が大事だ。


 (一応、家からお金は持ってきたけど、できる限り使いたくないからね)


 情けない話、追放を告げられた時に逃げ出したせいで、共有資金にしていたお金を回収出来ていないのだ。


 「止まれ!」


 ネッタの街にたどり着くと、門の前で鎧を着た衛兵の人に呼び止められた。

 素通りさせてもらえないかな〜と少し思っていたけれど、流石にそう都合良くはいかないらしい。


 「あー、はい」


 別にいざこざを起こしたいわけでもないので、素直に従う。


 「身分証を出せ」


 どうしようか。

 ダメ元で、僕のカード出してみようかな?


 (やめた方がいいか。下手に疑われたくないしね)


 「すみません、カードを紛失してしまって……」


 「……ふむ。この街に来たのは初めてか?」


 衛兵の人は手を顎に当てながら、考えているように質問してくる。


 「いえ、そう言うわけでは」


 「街の中に身分を保証してくれる人はいるか?」


 「ん〜と、多分いないと思います。後ろの……この子はこの子の兄がいるはずですが」


 そう、寝ているルネを見せながら言う。


 「なるほど。……あー、悪いね、外でこんな長話させちゃって。規則上他にも聞かなきゃいけないことがあるから、そっちの取調室で聞こう。着いてきてくれるかい?」


 「はい」


 素直についていくと、門の横にある扉の奥に入っていった。

 僕も続いて入る。


 中は広さ六畳程度の綺麗な部屋で、中央に二つの机、壁際に椅子が並んでおり、別の部屋に通じる扉が三つある。

 そして、一部の大怪我をしていた人を除くソラト村の人が集まっていた。

 恐らくあの惨状じゃ、身分証を持ってくる暇がなかったんだろう。


 「すみません、この子体が弱いのでベッドか……ソファーを借りられませんか?」


 「あぁ。泊まり込み用のやつでよければ」


 「お願いします」


 案内に従い、片方の扉の奥に進む。

 こちらの部屋は先程の部屋よりも生活感があり、飲み物なんかも置いてあった。

 構造自体は変わらない。


 寝ているルネを優しくベッドに寝かせ、布団をかける。


 「ありがとうございます」


 「いいんだ。普段ならここまで拘束する必要もないんだけどなぁ。直ぐ近くに厄災が来たってんでお上さんがピリピリしてんだよ」


 「なるほど」


 どうやら、上からの指令で検問が厳しくなっているだけで、そこまで疑ったりしているわけではないようだ。


 「さて、色々聞いていくぞ」


 元の部屋に戻ってくると、机を挟んで向かい側に座る様促された為、指示に従って椅子に座る。

 ガイは入り口に置かせて貰った。


 「はい」





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