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16 これまで

お待たせしました!



 「これ、甘酸っぱくて美味しいですね」


 「エルねぇ、私にも!」


 セリナさんが取ってくれた赤い……いや、実の部分は橙色だった果実をかじってみると、プチプチと弾け、甘酸っぱい果汁が口の中に広がった。思っていたよりも柔らかい。目をキラキラさせてねだってくるルネにも一口大に分けてあげつつ、ゆっくりと味わう。


 「ん、ほんとに。この辺りのものじゃなさそうだけど、美味しいわね」


 セリナさんも一口食べて、味に驚いていた。僕は別に果物に詳しいわけじゃないけど、珍しいものなのかもしれない。そんなものをお見舞いに貰ってしまうと、申し訳なくなっちゃうな……。


 そんなことを思っていると、コンコンと軽く壁を叩く音が聞こえる。

 これは部屋に入りますよって言う合図だから、誰か来たみたいだ。


 (スルク達の話が終わったのかな?)


 全く関係なくて、セリナさんへの報告とかの可能性も全然あるとは思う。一ヶ月手伝っていて感じたことだけど、セリナさんの仕事は大分多い。仕事の中でもセリナさんを頼る人は多いし、現場で三番目くらいに権力がある。


 「はーい!」


 セリナさんが声を上げると、ゆっくりと、重い足取りでスルクが現れた。視線はやや下を向いていて、ばつの悪そうに近づいてくる。


 「あれ、スルク君。マスターは?」


 スルクの姿を見たセリナさんは、驚いた様子を見せて立ち上がる。さっきの話から推測するに、スルクより先にグランさんが来る予定だったんだろう。


 「えっと、俺が先にエルと話してきた方がいいだろうから行ってこいと……。何かあったわけではないです」


 「そっか、わかった。ありがとね! 2人きりで話したいこともあるだろうし、私は少しマスターと話してくる。何かあったら大声で呼んでね。ルネちゃん、おいで」


 そう言って、セリナさんはルネを連れて行ってしまった。気遣いはありがたいけど、何を話せばいいのかわからなくて気まずい空気が部屋を包む。


 「エル」


 そのまま黙っていると、覚悟を決めたのかスルクが顔を上げ、口を開いた。


 「何も相談せず1人で勝手に決めて、そのくせお前に迷惑かけて、本当にすまなかった!」


 床に片膝をついて頭を下げ、左手を固めて胸元に当てる。声色や一瞬見えた表情は真剣そのもので、本当に後悔していることがわかるものだった。


 「本当に、すまなかった。俺のしたことは、謝れば許されるようなものではないと思っている。だからこれはただの俺の自己満足だ。全てを話してから、俺は——」


 「スルク」


 言葉を遮って、声を掛ける。ここで言わなきゃいけないと思ったから。そうしないと、どこか遠くへ行ってしまいそうだったから。

 ゆっくりと寝ていた体を起こして、スルクに手を差し出す。


 「僕は怒ってない。でも、許す許さないは話を聞いてみないとなんとも言えないんだ。僕以外にも、迷惑をかけてしまった人がいるから。だから、これだけは言わせて」


 そこで一呼吸置いて、言葉を区切る。僕の提案は、断られないだろうか。スルクも、僕と同じことを思ってくれてるのだろうか。

 今更不安に(さいな)まれても、ここまで言った時点で後戻りはあり得ないけど。


 「久しぶり、スルク。無事でよかった。……これはスルクが良ければなんだけど。また一緒に、冒険しない?」


 僕の言葉を聞いたスルクは、呆然とした表情でこちらを見て、固まる。


 「だめ……かな」


 迷惑がかからなかったと言えば嘘になるけど、そうなった理由が絶対にある。そして、スルク達に呪いを掛けていた何者かが狙ったのは、状況から察するに聖剣だと思う。それなら、僕にも問題がある可能性が高い。

 確かに相談はして欲しかった。もっと頼って欲しかった。でも、それは僕が頼りなかったせいだと思うから。


 「いい……のか? 本当に」


 「うん。……と言うか僕、多分スルク以外とパーティー組むつもりない」


 多分なのは、自分でも自分がよくわかってないから。


 「スルクが少しでも僕と一緒にやっていきたいと思ってくれてるなら、逃がす気はないよ?」


 意識して明るくそう言うと、スルクは数秒悩んで、震える手を伸ばした。

 その手を逃さないように強く掴んで、立ち上がらせる。


 「これからも、よろしくね」







 「で、あんなことになってたのか」


 落ち着いたスルクから、一連の流れを聞いた。話を聞く限りは、そこまでスルクが酷いことをしたようには感じない。


 始まりは、スルクとチェシャが接触したことだった。

 半年前くらいのこと。チェシャは夜に出歩いていたスルクに声をかけると、ある取引を持ちかけたらしい。その内容は、『体調が良くなる薬を渡す代わりに、スルクに手伝いをしてもらう』。

 最初はスルクも疑って、ルネに飲ませる前に自分で飲んだりしたそうだ。試してみた結果、その薬は本物だった。かなり怪しいけど、実際に体調は良くなって少し健康になった。

 対価となる手伝いというのも、一二回目はただの雑用だったらしく、怪しさを感じつつも何も問題はなく、ルネの元気を買ったそうだ。


 スルクはルネをとても大切にしているし、ルネが健康になるかもしれないと言われれば興味を持つのはわかる。まぁ、僕にも話してよとは注意したけど。


 しかし、いつの間にか『自分達をパーティーに入れろ』や『僕に関することを話せ』みたいなものになっていったらしい。その頃には積もった契約(呪い)の影響で断ることができなくなって、言われるがまま。それでも抵抗を続けていたけど、流石にそれも辛くなったのがあの僕がクビになった頃。

 クビにしたのは独断で、チェシャ達が僕を操ろうとしているのを聞いたから。要は、逃すためだったわけだ。さらにあの後長期依頼を受けて、僕から2人を離すことにしたらしい。


 2人は戻ってきてからは僕のことは一先ず諦め、聖剣を狙うことにした。何故か2人は、教えたわけでもないのに存在を知っていて、スルクが聖剣についてある程度知っていることをわかっていたそうだ。

 そこで聖剣を運ぶように言われ、抵抗した結果、剣を突きつけられる結果になったらしい。

 何故自分達で運ばないかというと、聖剣と言うものは僕が触ることが出来なかったように『勇者の血を引く男』しか触れることが出来ないようだ。僕がさわれなかったのは、体が男じゃなかったからってことだと思う。なんでそんな縛りを設けたんだろう。


 「あれ? そういえば、スルクはなんで僕がエルだってわかったの?」


 今までは気にしてなかったけど、これもおかしなことだ。ルネもレイアちゃんも気が付いていたし、状況が状況だったから他のことに気を取られてた。


 「あぁ、感覚的なことの言語化は難しいんだが……この血が流れてる人間は、お互いの魔力を認識出来ているらしい」


 スルクは自身の腕に視線を向けながら、「これも聞いたことで、本当のことはわからないけどな」と続けた。


 「そうなんだ」


 「……ん? 嬉しそうだな」


 スルクにそう言われ、自分の頬に触れてみる。……口角が上がってるわけでもないし、そんなことはないと思うけど。


 「そう?」


 「ああ」


 「そっか」


 まぁ、それならそうなんだろう。別に困ることでもないし、別にいいか。


 「後は……そうだ、勇者に関してはまた今度話す。一度に詰め込みすぎるのも良くない。他に今のうちに話しておきたいことは……あぁ、あの2人の話は聞くタイミングがなくて俺もまだ聞けていないんだ。もしかすると何か知っていることがあるかもしれないし、機会があれば聞いてみてくれ」


 「うん、わかった」


 どのみち話は聞きたいと思っていたし問題ない。それよりも、話を聞く限りスルク達が寝ていた時間も僕とそこまで変わらないみたいだね。


 「聞きたいことはあるか?」


 「そう言えば、聖剣はどうしたの?」


 「俺たちが2人とも気絶したせいで誰もさわれなかったから、あのまま放置されているらしい。俺が後で取りに行ってくるさ。……まぁ、俺は触れるだけで使えないし、置いといてもいいんだけどな」


 スルクはそう言って、セリナさん達が出て行った方に視線を向ける。多分、グランさんとか上の人に持ってくるように言われたんだろうけど……。


 「強制じゃないよね?」


 「あぁ、誰も使えないんじゃ意味ないからな。なんとか解析して使えるようにしたいんだよ」


 ただの置物になっているよりは魔物に対抗するための研究に使った方がいいかもしれないけど、本当にいいのかな。


 「なんで使えないの?」


 「あー……。ややこしいんだが、聖剣に触れることが出来るのが、『勇者の血を引く、男』。で、聖剣の力を引き出すには『勇者の血を引く、炎と光の属性の適性持ち』が必要なんだ」


 なんでそんな面倒な……。一族に魔法の適性が受け継がれることなんてほとんどないし、仮に受け継がれたとしても、その人物が男だとは限らない。

 この制限を作った人は、特定の人物……この場合、僕らの祖先の勇者様以外に使わせる気がなかったと考えていいと思う。そのくらい、厳しい制限だ。


 「ちなみに、どのくらい凄いの?」


 「あぁ、これはお前に話をしてこなかった理由にも繋がるんだが。全力を引き出せれば、国一つを容易に消せる程度の力がある」


 「えっ!?」


 思っていたよりも規模が大きすぎて、理解が追いつかない。

 そりゃ、子供の僕には言えないだろうな……。奇跡的に制限を突破出来る僕が、間違えて力を引き出そうものなら……。

 でも、手紙で残してくれてたってことはある程度僕を信用してくれていたんだろうし、何かがあるかもしれないと思っていたんだろうなとも思う。


 「ん、悪いエル、そろそろグランさんが来る。聞いておきたいことは他にないか?」


 僕が色々考えている間に時間を確認したのか、スルクがそう言って話を切ろうとする。今は思いつかないし、何かあれば勇者の話を聞くときに一緒に聞けばいいか。


 「うん、大丈夫。ありがとう」




会話とそれ以外のバランスが難しい……。長々と地の文を読みたい人はそんなにいないと思うのでなるべく減らしたつもりですが、これでも多かったらすみません!今月中に後2回は更新したいところ。

誤字脱字衍字、誤変換、改行ミス、違和感などありましたら教えてくださるととても助かります!!


次回はスルクと一緒にギルドマスターとお話です。

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