13 一月
すみません!予約投稿した気になってできてませんでした!
時が過ぎるのは早いもので、あれから一ヶ月が経った。
その間、特にこれといった事件や大きな進展はなく、スルクも帰ってきていない。
それでも、初歩中の初歩ではあるが癒属性の魔法を一つ習得したし、ヘルテさんとの稽古では魔法なしなら何回か攻撃が掠るようになってきた。動きも良くなってると褒められたし、無駄ではないはず。
聖魔法に関してはいまだにネアの呪いを解けていないけど、それでも少しずつ前に進んでいると思う。
毎日朝は食事を作り、ギルドに移動して素振り、ある程度体を動かしたら簡単な依頼を受ける。昼はセリナさんの手伝いで、午後からヘルテさんとの稽古や、ネアと一緒に聖魔法、癒魔法の練習。夜は受付の手伝いをしたり、買い物に行ったり。そんな生活を続けてきた。
「エルくんお疲れ様。受付業務もだいぶ板に付いてきたね」
毎日の短い時間ではあるが、一ヶ月も続けていると少しは慣れてきた。
ほんの数分の付き合いだと思えば冒険者の人と話す恐怖もなんとかなるし、セリナさんがいざと言う時は守ってくれると言う安心感もある。
それがいいのかは、議論の余地があるけど。
「ありがとうございます」
セリナさんに挨拶して、個室に向かう。
部屋に入ると既にネアは移動済みで、座ったままじっと待っていた。
この一ヶ月間、あの夢を見ることもなくて、呼びかけてみてもあの男性の声は聞こえない。ヒントもないまま、色々と試行錯誤している状態。
魔法の制御自体は上達していて、かなり狭い範囲にぶつけられるようになってきている。解呪は失敗しかしていなくて効果が出ないから、目で見てわかる訳ではないんだけどね。あくまでも感覚的な話。
「ネア、調子はどう?」
準備をしながらそう聞いてみると、身振り手振りで問題ないことを伝えてくる。
その姿が、わちゃわちゃしてて結構可愛い。
顔色も問題ないし、元気そうだね。
「それじゃあ、今日も始めようか」
集中してネアの首元をみると、薄らと黒いもやが見える。これは比較的すぐ出来るようにはなったんだけど、このもやに解呪をぶつけても効果がない。
これだけじゃダメなんだとは思うんだけど、これ以外に特に何もないんだよね。
(僕が気付けていないだけなのか、それとも別の要因なのか……)
たまにセリナさんやヘルテさんにも相談してみたりもするけど、視点が違うからか、アドバイスし辛いみたい。近くに聖魔法を使える人がいないから、見て学ぶことが出来ないんだよね。
もう一ヶ月だし、一旦最初から考え直してみようかな。ずっと同じことを繰り返すより、何かヒントになることがあるかもしれない。
まず呪われてる人の共通点は、黒いもやが見えること。
それと、何かしらの異常がある。ネアなら喋れない、あの男性は……なんだろう。本には、失明したとか左手が動かなくなったとか、幻覚が見えるようになったとかの例が書かれていた。
(あとは……そうだ。僕とネアの共通点とか探してみようかな)
僕のこれも呪いだと思うし、何かあるかもしれない。
でも、僕自身を見ても別に黒いもやが見えるわけじゃないんだよね。頭頂部にあるとか、背中にあるとかなら見えないのも納得なんだけど、そもそも自分にかかった呪いは自分には見えないとかの可能性もあるかもしれない。
思ったよりも共通点はなさそう。ネアと他の人での差異も考えてみる。
まず、喋ることが出来ない。
(他には……)
そう言えば、安心感を覚える。初対面の時も、何処となく近いものを感じたし。
これをもう少し意識してみようかな。
「んー……」
どこに安心感を覚えるんだろう。
見た目は少しあるかもしれない。でも、それならネアだけってことはないと思うんだよね。
声は聞いたことないし、触れてなくても感じる。味覚は関係ないだろうし。
匂いはどうなんだろう。特に意識したことはなかったけど。
ネアからも色々聞いてみよう。こっちから肯定か否定で答えられる質問をすれば詰めていけるし。
「ネア、僕といると安心するとかある?」
そう聞くとネアは少し考える素振りを見せて、頷く。
初めて会った日の次の日の朝もくっついてきてたし、薄々そんな気はしたけど。相性がいいとか、そういう問題なのかな。
「どこが安心するかわかったりする?」
これも少し考える素振りを見せて、こてんと首をかしげた。ネアもわからないらしい。
「じゃあ、僕といる時みたいにルネといると安心したりする?」
これには首を横に振る。ルネにはそう思わないのか。僕は他の人といるよりは安心するけど、これは単純に結構長い付き合いだからなのかな。
「あー、わかんない!」
まぁ、失敗はつきものだよね。
少しずつでも前に進んでいると信じて、毎日続けるしかない。
『術は事の積み重ね』って言葉もあるし、僕も試行錯誤を繰り返していこう。
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