11 最初からうまくいく訳がない
今日もよろしくお願いします!
「戻りました、分別手伝います!」
ギルドに戻ってくると、ちょうど人が増え始めるくらいの時間帯だった。
セリナさんに声をかけつつ、着替える。
ちなみに、戻ってくるときに聖剣はそのままにして、本と床板は元に戻した。
父の部屋で勇者とか聖剣に関する本がないか探したりもしたけど、特になかったね。
ほとんどが薬学とか魔法学とか。
たまに魔道具に関してのものがあるくらい。
忙しさのピークが過ぎ、手が空いたので、そろそろ聖魔法の練習を始めることにする。
移動する前に、セリナさんに後回しにしていた村での行動の報告をし、スルクが来たら呼んでもらうようにお願いした。一応、聖剣だとか勇者だとかは伏せておいたけど。
セリナさんから聖魔法の使い方について書かれた本を借り、ネアと個室に向かう。
「解呪はただかけるだけではなく、その呪いを的確に感知し、特定の箇所だけを払わなくてはならない……か」
今は、一番僕の目標に近付きそうな解呪の説明を読んでいる。
呪いを感知と言われても、どうすればいいんだろう。
「んー……」
ネアをじっくり観察してみても、特に何もわからない。
「〈その身に刻まれし他者の怨念を祓え〉解呪」
(……変化なし、と)
取り敢えずかけてみたけど、意味はなかったようだ。
先は長そうだね。
「何か、ヒントになるもの……」
何かないか。
セリナさん……は呪いに無縁そう。
ルネ……は別に呪いじゃない。
悪魔……も特に何も感じなかったんだよね。
……あ。
一度だけ、呪いの力を感じたことがあるじゃないか。
あの夢の中。
(あれを思いだせ……)
あれは確か、世界を恨むような……濁った黒。
それを意識して再び観察すると、首周りにうっすらと黒い霧が見えた……気がした。
「〈その身に刻まれし他者の怨念を祓え〉解呪」
…………。
ダメかぁ。
でも、間違ってはないと思うんだよね。
どちらかと言うと、僕の力量と何かがたりてない感じな気がする。
やっぱり、最初からうまくいくわけない、か。
練習あるのみだなぁ。
その後も何十回も試したり、別の魔法も試してみたり、癒属性の方も触ってみたりと色々していると、ヘルテさんから呼ばれた。
わざわざ時間をとってもらっているわけだから、待たせるわけにもいかない。
ネアにはルネと一緒にいてもらうことにして、素早く準備を整えて訓練場に向かう。
「お、来たな。武器はレイピアでいいのか?」
「はい、よろしくお願いします」
先に準備を終えていたヘルテさんに申し訳なく思いつつ、刃が潰された訓練用のレイピアを持って軽く振る。
……よし。
「いつでもいけます!」
「よしっ、来い!」
今回は前回と違って、武器だけなら僕の方が射程が長い。
間合いを見誤らなければ戦えるはずだ。
「はッ」
「踏み込みが甘いッ!」
僕の突きは半歩下がる事で躱され、ナイフで剣先の重心をずらされる。
そして、崩れた体勢の隙を狙って詰めて来た。
「ぐっ」
無理矢理剣を横に振り、足を止めようと試みるが、身を屈めることでそれも簡単に躱されてしまった。
遠心力に任せてレイピアを離し、ホルダーからナイフを取り出す。
(右、いや中央!)
キィンと言う、金属同士がぶつかった音がなる。
「えっ?」
その直後、視界が揺れ、気付けば僕は倒れていた。
咄嗟に起きあがろうとすると、ナイフが首にあてがわれる。
引っ掛けには対応出来たはず。
(足払い……?)
「フェイントに対応出来たのは良かったが、上だけに意識を割きすぎたな」
「……次、お願いしますっ!」
「……参りました」
その後も何度も挑んだが、一度も勝つどころか攻撃を当てることすらできなかった。
「おう、後半は最初に比べて動き良くなってたぞ」
そう言って、ヘルテさんは僕の頭を少し乱暴に撫でる。
「そろそろ終わっとくか」
「はい。えっと、また明日もお願いしていいですか?」
「流石に毎日は無理だが……四日に三日は相手してやるよ」
ヘルテさんも仕事があるだろうし、ここまで時間をとってくれるのは本当にありがたい。
「ありがとうございます!」
「じゃ、また明日な」
手をあげて去っていくヘルテさんを見送り、ギルドの受付に向かう。
(買い物、みんなで行くのかなぁ……?)
ルネは……着いてきそうな気がする。
サラさんとアリナさんはわからないけど、どうなんだろうか。
対人(もしくはそれに近い体格の相手との戦い)でしか使えないような小手先のテクニックが多いのは仕様です。
エルは余裕がなくて気が付けてません。