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10 夢




 「……ここは」


 黒い世界。

 ただただ黒く、上も、下も、何もない。


 ぼう、と、火の玉が現れる。


 それは、暖かいようで、身を焦すような光を持っていた。


 奥から、誰かが歩いてくる。

 大柄で、体格からしておそらく男性。


 「よぉ」


 その声は、つい一昨日、聞いたことがある声だった。

 黒龍に斬りかかったときに聞こえた、あのしゃがれた男の声。


 「……あなたは、誰ですか」


 「俺のことなんてどうでもいい。お前、黒龍を殺してぇんだろ?」


 男は僕の問いを一蹴し、意志を確認してくる。


 (なんなんだ?)


 「早く答えろ」


 警戒し口を閉ざしていると、イラついたように語気が強くなる。


 「……ええ」


 「なら、聖剣を探せ。それが一番手っ取り早い」


 ……聖剣?

 聞いたことがない。


 「どこに、あるんですか?」


 「……おそらく、お前が黒龍と戦った場所、その近くにある」


 「黒龍を倒せるほどの力を持った……剣、ですよね。使うのに何か代償は」


 「それは大丈夫だ。俺が、全て払った」


 そう言い放った男には、確かな力と、世界を恨むようなドス黒い呪いが感じられた。

 一応、黒龍に挑んだときには助けてくれたようだし、敵ではない……のかな。


 「……わかりました。助言ありがとうございます」


 「ああ。もう一つ、言っておこう。自分を、自分を信じてくれる奴が信じる自分を信じろ」


 その言葉を最後に、意識が浮かんでいく。

 黒い世界に、日が当たる。

 闇が晴れ、視界が白く染まり——







 「おはよう、えるねぇ」


 ルネが布団に入り込んでいた。


 「お、おはよう」


 (……ん?)


 動揺しつつも起きあがろうとするが、起き上がれない。

 なんとか体を捻って後ろを見ると、ネアが後ろからひっついていた。


 (なんで?)


 「エルくんおはよー……ってあれ?」


 その姿を、ちょうど僕らを起こしにきたセリナさんに見られる。


 「あー、えーっと……助けてもらっても、いいですか?」





 無事に助けてもらった後、食事を作り、支度を終え、全員でギルドへ向かう。

 ルネは留守番すると言う選択肢もあったけど、本人がついてきたがったから連れてきた。

 家に置いて、何かあったら嫌だしね。


 今日はまず、朝は軽い素振りのあとネア、サラさん、アリナさんと一緒に簡単な依頼を受けて、それが終わったら村に墓をたてに行くついでに聖剣探し。

 昼は忙しくなるから、受付の手伝い。

 昼過ぎから聖魔法についての勉強。セリナさんに朝予定を聞かれたとき、聖魔法と癒魔法を勉強する予定だと答えたら聖魔法に関する本を貸してくれることになった。

 それが行き詰ったり疲れてきたら戦闘訓練。

 夜、セリナさんの仕事が終わったら買い物。


 「……今日も頑張ろう」





 「七十九、八十、八十一、八十二……」


 ギルドから貸し出されたレイピアを振る。

 本当は使い慣れているナイフにしようと思っていたけど、少しでも射程の長いものの方がいいと言われたからおすすめされたこっちにした。

 依頼を受けるときはナイフも借りる予定。

 ちなみに、貸し出しはある程度ギルドからの信用がないと利用できない。セリナさんには頭が上がらないよ、本当に……。


 (でもこれ、突き主体の武器だよね?)


 素振りでいいのかな。

 一応、斬れなくはなさそうだけど。


 「よっ」


 そんなことを考えていると、ヘルテさんが歩いてきた。


 「九十五、九十六……ヘルテさん、おはようございます」


 「レイピアか、いいねぇ」


 ヘルテさんはナイフを使っていたけど、レイピアも使えるのだろうか。


 「おすすめされたので持ってみたんですけど、よくわかってなくて。ヘルテさんはレイピア使ったことあるんですか?」


 「あー、アタシはねぇな。知り合いにはいるが」


 「やっぱりナイフ一筋ですか?」


 「そうだなー。一応弓とかは使ったりする」


 Bランクまで行くと、武器は場面毎に使い分けないといけないのかもしれない。

 僕はナイフくらいしか使えないし、もっと頑張らないとな。


 「……そういや、戦闘訓練したいんだって?」


 「はい」


 「それ、アタシが相手してやろうか?」


 願ってもない提案だ。

 今のところ、僕が直接出会った冒険者の中で一番強い人だと思うし。


 「是非、お願いします」


 「おう、楽しみにしてる。アタシはこれから依頼だからもう行くが、頑張れよ」


 「はい!」




 「エルさん」


 「あれ、アリナさん。どうかしましたか?」


 ヘルテさんと別れたあと、そのまま素振りを続けていると、今度はアリナさんが声をかけてきた。


 「レイピアの使い方に困っているとお聞きしましたので。わたくしでよければお教えしますよ」


 断る理由がない。


 「お願いします!」






 「剣先を水平に! 柄の持ち方はこう!」


 「はいっ!」


 そもそもナイフも独学だったわけで、構え方や持ち方、色々とダメ出しを食らった。

 それと、別に突き主体だからと言って斬れないわけではないとのこと。普通に斬るのもありらしい。

 まぁ、このタイミングで色々知れたのは大きいと思う。変な癖がついた後だと、直すのが大変だろうし。



 「百四十七、百四十八、百四十九、百五十!」


 「お疲れ様です。少し休んで、行きましょうか」


 労いの言葉を受け、息を整える。

 思っていたよりもレイピアが重いのもあって、結構疲れた。

 依頼はセリナさんが選んでくれたようで、街道の巡回、警備。

 三時間交代だから、墓をたてに行く時間は取れる。





 「ないよりはいいよね」


 警備は何事もなく終わり、交代の冒険者がなかなか来ないと言う事件はあったけど、問題はなかった。

 お墓もたて終わって、黙祷も済ませた。

 本当は骨も入れたかったけど、仕方ない。


 ……さて。

 聖剣。

 この村を隈なく探すのはかなり難しいし、他の人のものを持っていくわけにもいかない。

 そもそもこの村の中にあるとは限らないし……。


 (近いかどうかがわかるなら、近付いたときに教えてくれればいいのに)


 『いいぞ』


 「うわぁっ!?」


 「どうかしましたか?」


 いきなり頭に声が響くと驚く。


 「う、ううん。大丈夫、ごめんなさい」


 突然声を上げた僕を心配してくれたのか、声をかけてきたサラさんに謝る。

 アリナさんの視線が痛いけど、この際気にしないことにしよう……。


 気を取り直して、教えてくれるなら結構早く見つかりそうだ。

 村中の家を順々にみていく。

 これで反応してくれればいいんだけど、中まで入らないといけないならもっと時間がかかるね。



 『ここだ』


 (……本当に?)


 ほとんどの家を回り切り、家の中まで入らないとダメかと諦めかけていたが、遂に近くまで来たらしい。


 「……ここ、僕の家なんだけど」


 でも、ここにあるのなら助かるけど。

 扉を開けて、そっと入る。


 仮に何かあるとするなら、父の部屋か母の部屋だろうか。

 僕の部屋には特に何もない。

 居間にも特に何かを隠せる場所はないはずだし。


 実のところ、僕は母親の部屋に入ったことがない。

 父親の部屋は一昨日入ったのが初めてだ。しっかりと全体を見たわけではないが、父の部屋は本がたくさんあり、剣を置くスペースはなかったと思う。


 母親の部屋に入ると、中は簡素なものだった。

 ベッドと机、椅子、服入れがあるくらいで、スペースが空いている。


 「何かあるとしたら、ベッドの下くらいかな」


 床に這いつくばり、ベッドの下を覗き込む。


 (……特に何もないか)


 起き上がり、机の引き出しを開ける。


 「……ん?」


 中には白紙の紙数枚、筆、手紙が入っていた。

 しっかりとした封がされていて、開けられた形跡がない。

 裏面には『エルへ』と書かれている。




『エルへ

 あなたがこの手紙を読んでいると言うことは、おそらく私たちになんらかの事情があって別の場所にいるか、命を落としているでしょう。あなたに伝えることが二つあります。一つ、聖剣について。あなたには話したことがなかったけれど、私の夫、あなたの父とスルクの父は勇者の子孫の一人です。父の机側の本棚にある、「1-4」「9-3」と書かれた本を抜きなさい。詳しいことはスルクから聞いてね。

 一つ、父の部屋の机の下に箱があります。その中身は私たちからあなたへのプレゼント。大切に使ってね。

 何か困ったら、スルクやスルクの両親を頼りなさい。きっと力になってくれるから。

 最後に。自分の決めた道を、信じた道を突き進みなさい。辛いときは止まってもいい。逃げたいときは逃げてもいい。でも、諦めちゃダメよ。 愛しています。  母より』




 (……)


 勇者の子孫とか、なんでこんな手紙があるのかとか、色々わかんないことはあるけど。


 「頑張るよ、母さん」


 手紙をしまって、父の部屋に入る。

 手紙の内容通り、机の下には箱が置かれていた。


 箱を開けると、ベルト付きナイフホルダーが一つ、ナイフが一つ入っていた。

 ナイフは持ち手が翡翠色、刃の部分がエメラルドグリーンで、刃渡りは18cm程。

 装飾は持ち手に緑色の石が嵌め込まれているくらいで、目立つものではない。


 「これ、魔道具だ」


 正確には、魔道具のような性質を持った何か。

 風纏に近い効果を発揮してるけど、ずっと持続してるから回数制限がない。

 魔道具はグランさんが使った看破の指輪のように能動的な発動しかできないはずだから、『魔道具のような何か』だ。

 感覚だけど、風属性、癒属性と物凄く相性がいい。


 どこでこんなものを、とか。

 どうやって手に入れたのか、とか。

 気になることはあるけど、今は知りようが無い。


 「風来……ね」


 ナイフホルダーに入れようと持ち替えたときに、名前が掘られていることに気がついた。

 風来をナイフホルダーに入れ、本棚から『1-4』『9-3』と書かれている本を抜き取る。

 すると、奥にボタンのようなものがあった。

 押してみると、ガタ、と音がして、振り返ると床板が一枚めくれている。


 「地下室……?」


 板の下は階段になっていて、人一人がギリギリ通れるくらいの空間がある。

 階段を降りていくと、小さな部屋があった。

 中には、一振りの剣があるだけ。


 柄部分は黄色く、赤色、薄黄色、黄色、白、薄灰色の五つの宝石が埋め込まれており、鍔の部分にある青色、茶色、灰色、水色の四つの宝石と合わせて九つ。

 刀身部分は真っ白で、傷一つない美しさすら感じる剣。


 触ってすらいないのに、畏怖を覚える。

 そして、恐怖も。


 「……っ」


 触れようとすると、指先に電流が走り弾かれる。


 (……やっぱり、僕には過ぎた代物ってことなのかな)


 それならばと布や革越しに触ろうとしてみるが、その程度でどうにかなるものではなかった。


 (……無理、か)


 無理なら無理で、諦めるしかない。

 僕には資格がなかったんだろう。

 見つけられただけよかった。また何かあれば来ることができるしね。


 それと、スルクには、あった時に聞こう。

 色々。

 勇者のこと以外も。

 ちゃんと、話し合おう。




前作完結させたのでこっちに集中出来る……。

ブクマありがとうございます!


聖剣、思ったよりあっさり見つかったと思ったら触れない。

これじゃあ使えないですね?

もう少し時間をかけてもらおうとも思いましたが、ここを引っ張ってもなぁと思ったのでこうなりました。

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