1 追放
前々作、朝焼けの空を書く前に約2万文字だけ書いてエタった作品なんですが、せっかくなので少しだけ修正して書いていこうと思います。
よろしくお願いします!
「エル、お前には今日でパーティーを抜けてもらう。今回の依頼で最後だ」
「…………、え?」
僕の名前はエル。
ソラト村出身の、今年で16歳になるDランク冒険者だ。
そして、今僕にクビを告げたのは、幼馴染で僕の所属しているパーティーのリーダーであるスルク。
一緒に冒険者になって、Sランクになろうと約束して、ここまで頑張ってきた。
スルクとは勿論、パーティーメンバーで、比較的最近仲間になった、身長は160cm程度の銀髪で華奢な体をした可愛い系美少女である魔法使いのチェシャ。
チェシャと同郷という、黒髪の細身ではあるが筋肉質で高身長の男剣士であるレイヴ……その二人とも関係は良好だったはずだ。
「……お前は、パーティーに必要ない」
「ど、どうして……」
あの約束はなんだったんだ、とか、これまでの頑張りはなんだったんだ、とか、チェシャとレイヴは知っているのか、とか。
色々な事が喉まで出掛かったけど、それもすぐに引っ込んだ。
「……すまない」
悲痛な顔で謝る、スルクが居たから。
「……わかった」
目に涙が溜まるのを感じた僕は、ギルドに背を向けて走り出した。
どんな顔でいればいいのか、わからなかったから。
*
その後はよく覚えていない。その場から逃げたくて、取り敢えずがむしゃらに走ったくらい。
ただ、森にいることから考えて、街の門を出て故郷であるソラト村の方向に走ったんだと思う。
「こ、こは……」
森の中、木々が開けた場所一帯に広がる鮮やかな花畑。
赤、青、黄色、白の花々が咲き誇り、森から吹く風で優しく揺れている。
(スルクと……約束した場所)
それは、今から6年前に遡る。
/
当時10歳だった僕は、母の誕生日に花をプレゼントする為、この花畑に来ていた。
優しくて、普段から色々な事をやってくれていた母に恩返しがしたいと、一人でこっそり村を抜け出して森を歩き回り、この場所を見つけ喜んだ。
『やった! 見つけた!』
その時の僕は、美しい花を見つけたことが嬉しくて、つい周囲の警戒を怠ってしまった。
そこに現れたのは、蜂の魔物。
花を摘むことを目的に出てきたがために、僕の装備は小さいナイフだけだった。
そんな状態で魔物を殺せるわけもなく。
魔物の攻撃を避けるだけで、精一杯だった。
『エル!』
絶体絶命の状況で僕を助けてくれたのは、幼馴染のスルクだった。
颯爽と駆けつけ、魔物を斬り殺すその姿は今でも目に焼き付いている。
魔物を倒したスルクは僕の方に歩いてくると、手を差し伸べながら言った。
『無事でよかった。……なぁ、エル。俺と、冒険者にならないか?』
*
「……あの、時は……楽しかったなぁ……!」
(それから二人で色んな人に迷惑かけながら頑張って……やっと冒険者になって)
そんなことを考えていると、再び涙が流れてくる。
「……あぁ、また出てきちゃったな……」
そんな感傷に浸っている僕の耳に、草木をかき分ける音が届いた。
(っ、……獣タイプの魔物か? もしくは人か)
目を擦り、涙を振り払う。
敵を前に感傷に浸ったままなど、殺してくれと言っている様なものだ。
ナイフを構え、音のする方へ目を凝らす。
そのまま数十秒ほど警戒していると、音の主は遂に姿を現した。
茶色の体毛に50cmはあるかという程の牙を持つ、猪に近い姿の魔物。通称ガイ。
比較的広範囲に生息しており、冒険者ギルドでは単体近接戦闘D-ランク以下、集団近接戦闘E+ランク以上0人の場合撤退を推奨されている。
このガイの体長は3m程の為、平均と対して変わらない、一般的な成体だろう。
「は、はは。運が悪いなぁ……」
一応これでも冒険者として今までやってきた。
ガイだって殺したことはある……が。
(ナイフと相性悪いんだよな)
というか、そもそもこの辺りで見たという報告は聞いたことがない。
あの時の僕のように、ここにはごく稀に戦闘力をほとんど持たない人も来ることがある。
出来れば倒しておきたいけど……
「はぁ……〈この身は風と共に〉風纏」
僕が使える数少ない魔法の一つ。
風を身に宿して体を軽く速くする……そんな魔法だ。
「行くぞ」
全力で土を蹴り、一気に距離を詰める。
ガイは基本突進と後ろ蹴り、その場で暴れる、頭突き程度しか攻撃手段がない上、突進には地面を踏みしめる必要がある。
下手に警戒するより突撃した方が戦いやすい。
「らァ!」
勢いそのままに、ナイフで体の側面を斬りつける。
この程度の攻撃では倒せないことは分かりきっている為、即座に飛び退き離脱。
次の瞬間、僕がいた場所にガイの頭があった。
離脱しなければ、いや、少しでも判断を間違えていれば、最悪今ので死んでいたかもしれない。
そんなことを考えつつも切りつけた部分を見ると、血こそ出ているがそこまで大きなダメージは感じられない。
(皮膚が硬いからナイフくらいの刃渡りだと全然なんだよね……)
苦笑いを浮かべつつ、どうすればいいかを考える。
スルク達と倒した時は——
(……思い出したくないとか考えてる場合じゃないぞ)
頭を振って、雑念を払う。
あの時は、僕が敵を撹乱して、レイヴとチェシャが足止めしつつ、スルクが剣で斬り殺した。
(……初見殺し的な魔法だから、ここぞの時に使わないとと思ってたけど。これで行くしかないか)
ガイの場所を確認して目を瞑り、魔法を唱える。
「〈世界を包む眩い光よ、彼の地を照らせ〉閃光」
瞬間、花畑全体を光が包み、白一色の世界になった。
僕は直前に確認した方向に走る。
(目を潰す!)
魔法を発動してから3秒。
目を開け、ガイの目を狙う。
「そこっ!」
掛け声と共に突き出されたナイフは、狙いを違わずガイの目に突き刺さった。
痛みからか叫び、暴れ回りだしたため、すぐ様距離を取る。
(できれば今ので仕留めたかった……!)
今まで一人での実戦経験をほとんど積んで来なかったのが災いしてか、思ったよりも深く刺さらなかった。
一方、一頻り暴れて疲れたのか、比較的落ち着いたガイはこちらを睨みつけてくる。
片目にはナイフが刺さったまま。
かなりの血を流しながらも、明らかに戦う気だ。
(やっぱナイフは予備も欲しいなぁ……)
「〈炎を司りし精霊よ、器に力を注ぎたまえ〉炎器」
それは、武器を燃やす魔法。
発動時に術者の体に触れているかは関係なく、術者の魔力で満ちていて、馴染んでいる武器に限り使用可能。
(この魔法強いんだけど……武器がダメになるのだけどうにかできないかな)
だからこそ、あまり使いたくはなかった。
ガイを見ると、目に刺さったナイフから炎が溢れ、顔を焼いている。
少し経てば脳まで焼いてくれるだろう。
そのまま数秒待っていると、ガイは突進してきくるようだ。
「差し違えてもってことなのかな」
苦し紛れの一撃かもしれないけれど。
(でも)
僕はガイにぶつかる直前、その場で跳躍し回避する。
風纏のお陰で、かなりの高さまで跳べるのだ。
目標を失ったガイの突進は、僕の真後ろにあった木を折り倒して止まった。
「……死んだ、かな?」
そのまま数秒待っていると、その体が地に倒れ、土埃が舞った。
慎重に観察してもガイは微動だにせず、僕の鼓動と風の音だけが聞こえてくる。
「……討伐完了」
(……村まで持って帰るか)
ガイを麻紐で縛り、風纏を掛けて運ぶ。
風纏は自身の強化以外にも色々な使い道があり人気が高いのだ。特に冒険者と運搬業、救助隊辺り。
……後はまぁ、体重を軽くしたい女性達……。
「あぁ、やっぱり怒られるよなぁ……」
あまり考えない様にしていたが、『冒険者になる!』と飛び出しておきながら、「幼馴染に追放されたから帰ってきた」なんて……
(やっぱり今からでも帰るのやめようかな……)
そんなぐずぐずしていた僕に、途轍もない地響きが届く。
続けて、爆発音の様なものも。
「っ、村の方向だ!」
思わずガイを放り出し、全力で走る。
(何が起きた?)
村に何もないといいが、あれほどの地響きと爆発音だ。
確実に、災害レベルの何かはあったと見ていいはず。
(早く行かないと!)
もちろん、僕なんかが行ったところで何かできるかはわからない。
でも、何かができるなら今すぐ行くべきだ。
あの村には、よくしてくれた皆がいる。
逸る気持ちを押さえながら、出来るだけ早く辿り着ける様に足を動かす。
森をぬけ、視界が広がる。
「つい、た……」
そこに広がっていたのは、大好きな村が焼け、各所から煙と悲鳴が立ち上り、家畜は恐怖で人を轢きながら逃げ出す。
地獄のような光景だった。
その地獄を生み出したのは、村の中央で今も尚炎を吐き続けている——
——あの、黒龍だろう。
今日中に次話更新します。
予定
二話→9時前
三話→昼
四話→夕方
五話→夜