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危険な駆け引き 3

 真弓が咲葵に写真を送ってすぐ、俺のスマホに電話が掛かってきた。


『どういうことっ!!』

 通話ボタンを押してすぐに聞こえてきたのは咲葵の大きい声だった。

『仲直りしたと思ったら何出し抜かれてんの私……』

 だんだんと力が抜けていく咲葵。

『いま横にいるんでしょ? 代わって』

 俺は一言も発することなく真弓にスマホを渡した。

「私に掛けてくればいいのに」

 恐ろしいほど冷静な声音で咲葵に話しかける真弓は、何事もないように俺の手を取って歩き出した。

『もしかしたら前に撮った写真かも知んないでしょ』

「いまは12月27日だけど、時間まで教えた方がいい?」

『あぁ! もういいっ!!』

 わかったから、と、返事をする咲葵は少し焦っているようだった。

 なぜそう感じたかというと、真弓が音量を上げて通話を続けているからだった。

「昨日の夜に言ったよ、私ももっと大胆になるって」

『待って、まだあれから数時間しか経ってないんだけど』

「ごめんね、俊介には咲葵が相談したいことがあるから十七時に三崎駅って伝えてるよ」

 なおも淡々と話す真弓。

『勝手に話進めんなっ! あと、私の予定を勝手に決めない!』

「いまからなら間に合うと思うから、俊介のことよろしくね」

 あっ、ちょっ!、という声が最後に聞こえた。

 通話を切りスマホを渡してくる真弓は楽しそうな表情で俺の方を向いていた。

 繋いでいない左手でスマホを受け取る。

「あの後咲葵と話したのか?」

「話したよ、朝まで。その後すぐ大好きな人に電話掛けたんだよ」

 そう言いながら真弓は俺から視線を前に移す。

 真弓からダイレクトに言われると、脈が速くなっていくのがわかる。

 すると、握られている手がより強く握られていく。

「離さないって決めたから」

 昨日聞いた言葉を今日も聞くとは思わず、無意識に真弓の方を向いた。

 気づいた真弓も俺の方に顔を向けてくる。

「俊樹の初めての人にはなれなかったのは悔しいけど。んん、すごく悔しいけど、気持ちが全部向いてないことが分かったから、それだけは渡せないって」

 表情には出ていなかったが、本当に悔しいことが伝わってくる。

「ごめん。流された俺が悪くて......」

「悪くないよ。俊樹って優しいから」

 そう言う真弓の瞳はまっすぐ心に届くように綺麗で、揺さぶられていく。

「私のことも助けてくれたでしょ。咲葵のときもそうだった。あの先輩から離れるに咲葵の彼氏を装うって分かりやすい方法だったし、俊樹ってああいうときは頼りになるし......」

 言葉が途切れた瞬間、真弓が立ち止まった。


「でも、優しすぎる」


 その一言には怒気が入り混じっているようで、ほんの少し手を震わせながら俯く姿が心が痛んだ。

 ただ、その姿はすぐに元に戻った。

「行こう、もうちょっと先だし」

 歩き出した真弓に引っ張られるように、江ノ島大橋を渡りきった。


 仲見世通りをカシャカシャと真弓がスマホで風景写真を撮っては歩き、撮っては歩きを繰り返し。

 結局、ここまで俺とのツーショットを撮ることはなく、二人で観光している気分になっていた。

 その気分のまま、有名なタコせんべいのお店の目の前まで来た。

「タコせんべい、食べるか?」

 ちょっと疲れが見える真弓に休憩も兼ねて声を掛けると、うんと小さな声で返事が返ってきた。

 一緒に列に並んでタコせんべいを1枚買って通りの真向かいで立ち止まる。

「大きい」

 受け取ってから同じ言葉しか発さなくなっていた真弓が大きいと、いまもぽつりと言っていた。

「大きいけど、薄いし二人だったらちょうど良いと思うけど」

「確かにそうかも、じゃあいただきます」

 そう言って、俺が持ったまま真弓が両手で割って口に運ぶ。

「......すごくタコ」

 感動しているような表情で直接的な感想を口にしていた。

 すると、真弓が手にしていたタコせんべいを俺の口に近づけてきた。そのままあ~んと口に入れると確かにタコだった。

「タコだ」

 でしょ、と同意をする真弓。タコせんべいは食べさせてもらいながらすぐに無くなった。

「おいしかったね」

「うん、よくテレビでも聞いてた通りタコ味がすごい」

「でも、カップルって思われたのが一番嬉しかったかも」

 そう、タコせんべいを受け取るときに店員さんに間違われていて、俺が違いますと言いかけると、真弓が遮って小さく頷いた。

 結果として店員さんには間違われたまま。

「付き合えば噓にはならないし、間違いじゃないし」

 唐突に迫ってきた。

「そうではあるけど......」

 返答を濁すと真弓は急に小さくクスクスと笑い出した。

「やっぱり俊樹は真面目だね。いいよ、急がなくて。卒業するときには咲葵には萎んでてもらうから」

 その表現に苦笑いを浮かべると、俺の胸にコツンと頭をぶつけてきた。

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