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危険な駆け引き 2

「……ごめん」


「……意気地ないね」


 ベッドに倒れたままの真弓は俺からすり抜けるようにゆっくりと上体を起こしながら一度も俺を見ることなくそう口にした。

 ただその声は普段とは変わらず、まるで手を出してこないことがわかっていたような素振りで、それでいてすれ違う瞬間の表情は妖しくて......。

「でもよかった。俊樹にとって私は大事にされてるってわかったから」

 だから許してあげると、ベッドから立ち上がった真弓は俺の方を見ながら小さく笑っていた。

 その表情に俺はどう返せばいいかわからず情けない気持ちに襲われていると、真弓は俺から視線を外し話を始めた。

「咲葵みたいになし崩しで関係を持つのもいいけど、私はいまの距離間も好き。どうしてだと思う?」

 表情が見えなくて、どんな顔をしているのかもわからない。だから、その問いかけにもどう答えればいいんだろう。

「......ごめん」

 結局それしか言えなくて、本当に情けない。

 なのに真弓は俺の目の前に立って、優しく声を掛けてくれる。


「だって、咲葵は抱かれないと俊樹の恋愛対象にもなれないのに、私は俊樹の恋愛対象になってるわけだし」


 言いながら、真弓は俺の頭を包み込むように抱きしめて、そして......


「咲葵には渡さないから」


 と、少しだけ力を込めながら、決意に満ちた言葉を耳元で囁いてきた。


 ゆっくりと俺から離れた後、真弓は昨日までとは違い、いつもと変わらない雰囲気のまま玄関を後にした。

 ひとり残された部屋には真弓がまだいるようで、俺は部屋から出られなかった。


   × × ×


 今年も残り5日となった27日の朝、俺は真弓の着信で目が覚めた。

「おはよう、俊樹」

 通話ボタンを押して出ると、淡々とした声音で真弓が挨拶をしてくれた。

「おはよう、昨日はごめん」

 何も返せないで帰してしまった自責から真弓に謝る。

「もういいよ。私は気にしてないし」

 嬉しそうに返事をする真弓は、話を続ける。

「それよりも、今日は時間ある?」

「あるけど、ちょっと待って」

 時計を見ると九時半を過ぎ、夏川さんから提出した漫画の修正が夜に届いていたことに気づいた。

「ごめん、午後までに漫画の修正したいからその後なら時間作る」

「言い切ってくれるんだ。終わったら連絡して、行きたい場所があるから」

 通話を切った後、顔を洗って修正作業に入った。

 

 三崎からバスや電車を乗り継いで約二時間半、江ノ島に着く頃には三時を回っていた。

「江ノ電って久しぶりかも」

「確かにそうかも」

 話しながら向かっているのは江ノ島のシンボル、シーキャンドル。

 冬の間はイルミネーションが広がっていてデートスポットとしても有名なスポットに江ノ島の駅から歩いていた。

「急にシーキャンドルに行きたいって」

 三崎駅で待ち合わせをして合流すると、江ノ島に行きたいと言われ意図もわからず真弓のお願いを聞くことにした。

 これで先日のことはチャラにはならないと思うけど、少しでも晴れるなら。

 そう思っていたが、真弓が怖いことを言い出した。


「今日は俊樹とのツーショットを撮って咲葵に送ろうと思って」


 満面の笑みで隣りを歩く真弓は無駄なくスマホをコートのポケットから取り出してインカメラを起動、江ノ島大橋で俺との写真を撮って、それを咲葵に送った。

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