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僕を溺愛してくる姉が義姉だったんだが〜気まずくなると思ったのに義姉の過剰なスキンシップが治る気配がないんですけど!?〜

作者: バルサミ子

ちょっといつもと文章の雰囲気変えてみました。

「ねえ、くーちゃん? 宿題教えてあげよっか?」

「大丈夫だってお姉ちゃん! ていうか部屋に勝手に入ってこないでよ!」

「まあ、くーちゃんったら恥ずかしがり屋さんなんだからぁ~」

「違うってば……」


 いつの間にか部屋にするりと入ってきた姉に久遠(通称くーちゃん)は辟易としていた。

 高校一年生の男子。

 多感な時期だ。

 久遠は少し周りの男子より成長が遅くて声変わりもまだ来ていない──青年という言葉より少年という言葉が似合う彼だったがそれでも高校生の男子だ。

 二つ年上の……それもとびきり美人な姉にベタベタと迫られ、されるがままになるのはプライドが許さなかった。


「じゃあ、頑張ってるくーちゃんにお茶でも淹れてこよっか?」

「そういう話じゃないって! 僕は今宿題をしてるんだよ! 邪魔しないで、放っておいてよ!」

「えー……」


 しょんぼりと眉根を下げる姉。

 罪悪感がじわり。

 いや、自分は何も悪くないはずだ、と久遠は胸に広がりかけた罪悪感を洗い流す。


「ねえ、何でそんなに僕に構うわけ?」

「だってくーちゃんに構って欲しいんだもん」


 高三にもなって「だもん」は無しではないか、と久遠は思う。

 だが目の前の姉は大人の色気を持ちながらも、子供っぽい仕草が妙に似合う。

 理知的で大人っぽい──高校ではそう言われ、男女問わずファンの多い姉と本当に同一人物なのか疑わしくなる。


 ねーねーねーねー、と机の周りをうろちょろと。

 無視しようと思ってもベタベタベタベタと顔や背中を触ってくるものだからさすがの久遠も堪忍袋の緒が切れた。


「お姉ちゃん……?」

「なぁに?」

「あんまりベタベタするなら嫌いになるよ」


 上機嫌な顔が一転、みるみると青ざめていく。

 まるでこの世の終わりを知らされたかのように。


 さすがに大袈裟すぎるのではないか、と久遠は思う。

 こっちは悪くないのに、自分が悪役になったかのような気さえする。

それでもこの言葉が何よりも効果の高い姉撃退法であるのは長年の、十五年間の付き合いで立証済みだ。


 この姉──という生き物は久遠に嫌われることを何よりも恐れているらしい。

 それなのに、毎日のようにベタベタと同じようにしつこく絡んでくる。

 学習能力が無いのだろうか……と久遠は首を傾げたくなるが、それが恐らくこの姉という生き物の特性なのだろう。


「分かったわ……今回はこれで引き下がるわね」

「そうしてよ、全然宿題が進まない」


 よかった、やっと邪魔者がいなくなる──と久遠が安堵の息を漏らしたのも束の間。


「宿題が進まないならお姉ちゃんが手伝ってあげても……」

「お姉ちゃんのせいなんだよ!」


 久遠は生まれながらのツッコミ気質……というわけではない。

 ただこの、どこかぽわぽわしてマイペースな姉の行動を咎めているうちに自然に身についてしまったスキルなのだ。


 チラチラとこちらを見ながら名残惜しそうに、トボトボと去っていく姉を見送って久遠は部屋のドアを閉めた。


 そして一人になった部屋で大きくため息をつく。


「いつまでも子供扱いしないでよ……」


 今はただの仲の良い姉弟。

 ちょっと過保護な姉と素直になれない弟。

 似ているようで似ていない、微笑ましい家族の一コマ。


 その関係性に決定的な変化が訪れることを二人はまだ知らない。






 それは久遠の十六歳になる誕生日の日のことだった。

 盛大に気合を入れてお手製の特大ケーキを作り上げる姉。

 ソワソワして落ち着かない両親。


 久遠は妙な胸騒ぎがしていた。


「ねえ、お母さん? なんか今日変じゃない?」

「そ、そうかしら……オホホホホ」

「お父さんも変だって」

「そそ、そんなわけがないだろう」


 サプライズ……という雰囲気でもない。

 だが、何かを隠しているのは間違いない。

 

 大体この家族は久遠を除いて隠し事が苦手なのだ。

 自分だけ察しがいいのは末っ子特有の能力だろうとこの時までは思っていた。


 誕生日パーティーは和やかに進んだ。


 キャッキャと主役のはずの久遠よりはしゃぐ姉。

 張り切り過ぎて久遠にウザがられる所までいつも通り。

 両親も表面上はパーティーを楽しんでいるのは間違いないのだが、それでも拭えない違和感。


──まあ、そのうち分かるだろう。


 と久遠は楽観視していた。


 実際久遠の予想通り、パーティーがひと段落した所で両親が


「話があるから」


 と姉含めて四人をテーブルに集めた。


 どうせ大したことはないだろうな、と久遠は高を括っていたのだが……父の口から出てきた言葉はしばらくの間久遠から言葉を奪い去った。


「実はな、久遠」

「うん?」

「久遠とパパたちは……血のつながりがないんだ。いわゆる……養子ってやつだ」

「え……」


 さすがの久遠もこれには驚きを隠せなかった。

 用紙……容姿……養子。

 ヨウシという言葉が何を意味するのか、思考回路がショートして上手く言葉が変換できないでいた。


「久遠ももう十六歳だ。高校生だ。いつまでも隠しておくわけにはいかないだろう……そう思って伝えさせてもらった」

「くーちゃんが……養子?」


 どうやら姉もこのことは知らなかったようで顔に手を当てて、ほとんど絶句していた。

 当然と言えば当然だろう。


「でもね、血のつながりがなくたって私たちは家族よ。そこだけは絶対に本当のことだからね」

「そうだ、久遠は間違いなくウチの子だ。今までとは何も変わることはない」


──僕が……養子?


 今まで感じてきた微かな違和感。

 ぽやっとした両親に輪をかけてぽやぽやとした姉。

 久遠一人だけ生きているリズムが違うような気はしていた。


──だけど……まさか血のつながりがないなんて……。


 考えたこともなかった。

 でも、家族は皆それで態度を変えないと言ってくれているんだ──


 久遠は空気の読める子供だった。


「もう、お父さんもお母さんも……僕が今更そんなことで動じると思う? 色々あったのかもしれないけど僕にとってお父さんとお母さん──それにお姉ちゃんはちゃんとした家族なんでしょ?」

「ああ、間違いない。久遠はパパの息子だ」

「ええ、そうよ……何があっても私は久遠のママよ」


 両親はたまらずに泣き出していた。


「もう、大袈裟なんだから……」


 久遠はそう言って笑った、笑ってみせた。


 とはいえ久遠も完全に平常心を保っていたわけではなかった。

 だって隣にいる姉がどんな表情をしているのか……両親に気を取られて気付かなかったんだから。






「ぷはぁ……」


 パーティーはお開きになって、夜も更けて。

 久遠はお風呂に入ることにした。


 ブクブクと浴槽に潜って、息の続く限り水中で物思いにふける。


──それにしても……僕が家族と血のつながりがないなんてなぁ……


 ショックではあった。

 それでも明日からもいつも通り振る舞おうと久遠は決めていた。


 でも一つ、気がかりなことがあった。

 姉のことだ。


 今まではウザいくらいにベタベタと引っ付いてきた姉だが、血のつながりがないと分かった今……これまで通りの関係ではいられないだろうと久遠は思っていた。


 何せ姉ではなくて義姉だったのだ。

 結婚だって出来る。


 要するに年の近い異性。

 しかも思春期真っ只中。

 遠慮や配慮はあって然るべき。


「絶対今まで通りにはいられないだろうなぁ……」


 それが寂しいのか、哀しいのか、姉の弟離れが加速することを喜ぶべきなのか。

 久遠には分からなかった。

 ただそれでも、胸にぽっと空いた穴を抱いたままこれからの日々を送っていく事は間違いないだろう──そう思っていた。


 そう思っていたのに……。


「く~ちゃん、入るわよ~」

「はーい」


 反射的に返事をしてしまってから久遠は気付いた。


──はい?


 この姉は一体何を言ってるのだろうかと久遠は首を傾げる。

 久遠は今すっぽんぽんだ──お風呂だから当然なのだが。

 年頃の男が入っているお風呂にこの姉は入ってくるのだと言う。

 しかもさっき血のつながりがない、と明かされたばかりなのに。


 どういう思考回路をしているのか。

 久遠には全く分からない。


 ただ今すべきことは全力で否定することだと、それだけは分かっていた。


「ちょっと待って! 今の無し! 入るとかあり得ないって!」

「もう遅いでーす! じゃじゃ~ん♪」


 いくら数年前まで一緒にお風呂に入っていたとは言えども今は事情が違い過ぎる。

 久遠はドアが開け放たれるのを見て、瞬時に手で顔を覆った。

 そして──指の隙間からチラリと姉の様子を窺った。


「はい?」


 素っ頓狂な声が漏れる。


 あられもない姿をしていると思った姉は──水着を着ていた。

 良かったような……残念だったような。

 何とも言えない気持ちが久遠を襲う。


「お姉ちゃん……何してんの?」

「久しぶりに一緒にお風呂入ろうかな~って」

「入ろうかな~って、じゃない! ダメに決まってるでしょ!?」

「え~?」


 とぼけた様に笑う姉。

 いくら水着を着ているとは言えども、胸元がガッツリ空いたセパレートタイプのビキニだ。

 健全な男子高校生である久遠には刺激が強すぎる。

 ましてや久遠は今すっぽんぽんなのだ。

 とある部分が元気になってしまったら、誤魔化しようがない。


「さすがにおかしいでしょ!? さっさと出て行ってよ!」

「うぅ……くーちゃんが冷たい……やっぱり血のつながりがないから……?」

「あっても無くてもダメでしょうが?」


 ダメだ、この人話が通じない。

 久遠は濡れた頭を抱えた。


 それにしても……さっきの血のつながりがない話をネタとしてぶっこんで来る辺りこの姉は只者ではない、知ってはいたけど。


 このブレーキの壊れた暴走機関車にとって血のつながりなど些細なことらしい。

 それはそれで……少し安心したのだが。


「とにかく、出て行って!」

「分かった、分かったからぁ!」


 湯舟のお湯をかけて姉を撃退しようと試みる。

 濡れた玉の肌が艶めかしくて余計に変な気分になってしまう……逆効果だ。


「出て行くから一つだけ聞かせて!」

「なんだよ」

「この水着……似合ってる?」

「似合ってるから……早く出て行って」

「うふふ……は~い」


 なんだったんだよ全く……。

 どっと疲れが襲ってくる。

 このまま湯舟に沈んで溶けたい気分だ。


 姉らしいと言えば、姉らしいのだが……そもそもあの姉に理屈なんて通じるとは初めから思っていないのだが、久遠はそれでも何かおかしいと感じていた。


 その直感が間違いではない、と知るのに時間はかからなかった。






 今日は誕生日。

 少し夜更かしして遊びたい気分ではあったが、それ以上に色々なことがあり過ぎて疲れてしまった久遠は普段より少し早く眠ることにした。

 明日も学校だ。


 結局姉に邪魔されっぱなしで終わらせることが出来なかった宿題をパッと片付けると、久遠は電気を消して……ベッドに入ろうとした。


 そんな折だった。

 コンコン、とドアが叩かれたのは。


 久遠は部屋を訪ねてきたのは両親のどちらかだと思った。

 あの姉にノックという概念は存在しないからだ。

 いつも勝手に部屋に突撃してくる……。


 だが、扉を開けた先にいたのは──まさかの姉だった。


「どうしたの……?」


 下手すれば今日一番の衝撃を受けた久遠が、戸惑って尋ねる。


「あのね……今日はくーちゃんと一緒に寝たいなーって思って」

「はいぃ?」


 やはりこの姉は姉だった。

 

「ダメに決まってるでしょ」

「くーちゃんお願い、これっきりにするからぁ」

「だぁ、もう! 抱き着いてこないでよ」


 柔らかい感触が体を包むように覆いかぶさってくる。


「そーだ、くーちゃんが一緒に寝てくれるまで離さないって言ったら?」

「振りほどいて逃げる」

「……できる?」

「バカにしないでよ。僕はもう高校生だ」


 久遠はもう高校生、力だってついてきた。

 姉一人を振りほどくことだってやろうと思えば簡単にできる──


「──ほんとにできる?」

「……」


 だけど久遠は姉を振りほどかなかった。

 否、振りほどけなかった。

 それは心理的な要因。

 

──振りほどきたくない。今夜は誰かといたい。


 やはり義姉とはいえ姉だ。

 十六年も一緒にいるのだ。

 久遠が……不安で押し潰されそうなことなどお見通しだったのだろう。


「じゃあ、今日はお姉ちゃんと一緒に寝ようねぇ……」

「今日だけ……だから」

「はいはい、今日だけねぇ」


 上手いこと言いくるめられて、部屋のベッドに向かう。

 本来は一人用のベッドだ。

 二人で横になって眠ると当然狭い。

 でもその狭さが、隣に誰かがいるということが、今の久遠にとっては何よりも心地よかった。


「……」

「……」


 沈黙が流れる。

 この姉ならば何かしてくるかと思ったのだが、何もしてこないのは意外だ。

 てっきり抱き着いてくるくらいはしてくるかと思ったのに。


「ねえ」

「うん?」

「覚えてる? 昔お姉ちゃんのことをお嫁さんにしたいって言ってくれたの」

「いつの話だよ……それ」

「ずーっと前の話」


 姉と背中合わせでベッドに横になるのは何だか不思議な気分だった。

 昔はこうして二人で眠っていたから。

 別々の部屋で眠るようになったのはいつからだったか。


「あれ……嬉しかったなぁ……」

「そうなんだ」

「ねえ、くーちゃんはお姉ちゃんのこと好き?」

「……嫌いじゃないよ」


 嫌いだったらこうして眠る、という一番無防備な姿を晒そうなんて思ったりしない。


「好き……?」

「うん……」

「私もくーちゃんのことだーいすき」


 ふふっと笑った姉が背後で動く気配がする。

 どうやら寝返りを打って、自分と同じ向きになったらしいと久遠は察した。


「だからね、お姉ちゃん……私はラッキーって思っちゃったんだ」

「え?」

「血のつながりがないってことは結婚できるってことでしょ? だからくーちゃんのお嫁さんに本当になれるんだって思ったら嬉しくなっちゃって」

「本気で言ってるの?」

「もちろん本気よ、だってくーちゃんは優しくてカッコよくて……最高の男の子なんだから」


 耳元で囁かれるとゾクゾクとしてしまう。

 甘ったるい声が久遠の思考を、理性を麻痺させていく。


 この感覚に身を任せてしまえ、と心の中の悪魔が囁いてくる。

 それでも……


「でも僕はまだお姉ちゃんをお姉ちゃんとしてしか見られないよ」


 これが事実。

 突然血のつながりがないことが分かって、義姉と結婚することができる──と聞いても久遠の中で姉は姉なのである。

 どれだけ魅力的な異性であろうと恋愛対象には入らない、入らなかった……今までは。

 だがしかし……今となっては状況が違ってくる。


「大丈夫、お姉ちゃんがその気にさせてあげるから……」


 ぎゅっと。

 いつの間にか、手を回した姉が抱き枕のように久遠を抱えてくる。

 とくんと。

 胸が、鼓動が跳ねる。


 あ、これは勝てないな──久遠は本能的にそう察するのであった。

 


ありがとうございました。

概念的おねショタのつもりで書いたのですが、おねショタ評論家の方いらっしゃいましたら批評のほどをお願いします。


励みになりますので、少しでも面白いと思ったら下の★★★★★から評価していただけると嬉しいです。


また、新作短編を投稿しましたので、よければ下のリンクからご一読ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読了しました! う~~ん…… 血の繋がりがあると思ってた時期の方が萌えてしまう不思議。私「も」しっかりと病んでます。 おねショタとかどうでもよくて(オイ)、お風呂に一緒に入ってくれる…
[一言] ダダ甘の姉ものとしては好きです。 おねショタかは、ちょっとわからなかったです。
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