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2話 蜘蛛の巣の記憶

「アビー、おはよう」


 慣れない声で目が覚める。私は昨日なにをしていたんだっけ。

 相変わらず顔も見ないままキャラメル色の髪をした男の人の後ろ姿だけ見送ってもそもそとベッドから抜け出した。

 それから、たんたんと、るーるーを抱えて部屋を出る。

 前のおうちと違って、嫌な大人もいないしご飯も食べられるのがここのいいところだ。

 食卓にはふわふわのスクランブルエッグとベーコン、それに蜂蜜とホイップのたっぷりかかったホットケーキが並べてある。

 私は3つあるうちの椅子のふたつにたんたんとるーるーを座らせると、魔法のじゅもんを唱えた。

 私のかわいいお友達を目覚めさせる魔法。手に持った紫色の宝石のついた杖を指揮棒みたいに降ると黒い靄みたいなものが出て、たんたんとるーるーを包んでいく。

 そうすると、私の賑やかなお友達は目をさますのだ。


「おはようアビー!今日はなにをしてあそぼうか」


「アビー、その前にわらわが髪の毛を整えてあげるから食事をしよう」


 食事をしている間に、たんたんの手で私の青みがかった紫色の長い髪を編み込みにしてもらって、白くて薄いシルクのような生地のシンプルなワンピースの上に真っ黒でつやつやしている黒いボレロを着る。

 たんたんが両手をぽふぽふと叩いて可愛いと褒めてくれて私は得意げな気持ちになる。

 怖くない世界、褒めてくれるお友達……ここは私の理想の場所。

 でもなんだろう……もっといい場所を私は知っている気がする……怖いこともあって大変なこともあるけど、それでも楽しい場所を……。

 モヤモヤする気持ちを切り替えたいから早く遊ぼう、

 私たちは、部屋の暖炉の横にある階段を登っていつもの遊び場に向かった。

 梨のシャーベットを食べたり、たんたんの頭を撫でたり、たんたんに洋服を着せてあげたり、るーるーと冒険ごっこをする。

 るーるーが持ってる剣は特別なもので、確か女神の加護があるとかで私の体を唯一傷つけられるものだ。

 冒険ごっこをしながらその剣をゆっくりと振るるーるーの後ろで私は杖を振ってキラキラとした光を出す。

 るーるーがぽすんと蜘蛛のぬいぐるみに剣を当てて、たんたんが「やられたー」と敵にフリをして蜘蛛のぬいぐるみを横に倒す。


「はぁ、たのしかった。

 あの蜘蛛の巣に投げ込まれたときは本当に死ぬかと思ったんだぞ」


 今日はるーるーに蜘蛛の巣に投げ込まれなくて済んだ。あれ?蜘蛛の巣?そんな本格的な遊びしたことがあったっけ?

 でも、なんとなく覚えてる。るーるーが笑いながら私を押して、蜘蛛の巣に落ちて、蜘蛛が私に噛み付いて私は危ないよって怒るんだけど、そもそも蜘蛛のぬいぐるみは噛んだりしない。

 あれ?これはいつの記憶だろう。

 たんたんの翡翠みたいなボタンで出来た目と、るーるーの青いビーズ出てきた目が私を見つめる。

 また、私は言ってはいけないことを言った気がする。

 

「なんだよお前ら、なんか言えよ」


 俺は気まずい気持ちを隠したくてテーブルに置いてあるゴブレットを手にとって飲み干す。あれ?俺が持っていたのは紅茶じゃなかったか?

 いや、そもそもここはどこだ?

 混乱したまま、俺の耳から音がゆっくりと遠ざかっていく。ルールーとタンタンがなにか声をかけてきているのに、何故か聞き取れなくてそれよりも眠気が襲ってきて瞼が勝手に下りてきて、体はまるで鉄の重りをつけてるみたいに重くなってきて座り込んで、近くにある毛玉の塊を抱えた俺は動けなくなる。

 眠りに落ちたくなくて手を伸ばした先にはよく知っている誰か大人の顔があった気がした。

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