第5章 「修文4年における友情の肖像」
「そうそう…この写真だけど、里香ちゃんに持っていて欲しいの。」
「えっ!駄目だよ、美衣子ちゃん!だって、この写真は美衣子ちゃんの思い出が詰まった大切な…」
写真立てを差し出された京花ちゃんは、何時になく狼狽えた様子で押し留めようとしていたんだ。
パーに開いた両掌を突き出して、壊れた扇風機みたいに首を左右に振って。
そりゃそうだよね。
あんな大切な物、受け取れないよ。
「良いのよ、ネガなら残してあるから。それに、ここに写っている里香ちゃんは貴女でしょ?」
修文4年に撮影された古びた写真を、再び指差した美衣子さん。
そこに元化生まれの京花ちゃんが写っているのは、タイムスリップという運命のイタズラが生んだ奇跡だったね。
「貴女の曾御祖母さんとしての里香ちゃんが写っている写真は、結構残っているの。観閲式とか士官学校卒業式とかに撮影したのとかがね。」
そういう式典や行事関連の写真だったら、人類防衛機構の資料室や防人神社とかにも残っているんだ。
所謂、公式記録として。
だけど、この写真は私的に撮影されたプライベートスナップだから、そういう所に置いているとは限らないよね。
「う~ん…で、でも…」
「だって、貴女としての里香ちゃんが写っているのは、この写真だけ。私なら、デジタル化したネガで焼き増しすれば済む話だし、同じ物は誉理ちゃんの御遺族にも差し上げたのよ。」
その写真を受け取った友呂岐誉理さんの御遺族は、さぞ喜ばれたろうなぁ。
何せ、故人が最も生き生きと輝いておられた、青春時代の友情の1ショットだもの。
「だから、この写真は里香ちゃんが持っていて。防人神社に祀られている誉理ちゃんの英霊も、思いはきっと同じはずよ。私や誉理ちゃんの事を、里香ちゃんが今でも友達と思ってくれるなら…ね?」
この一言を聞いて、美衣子さんの心には今でも防人乙女としての誇りが生きていると、改めて実感させられた次第だね。
友情の絆を何より大切に重んじる。
それは大日本帝国陸軍女子特務戦隊時代から続く、防人乙女の誇りだよ。
そしてその誇りは、「人類防衛機構五箇条の誓い」として、現代の防人乙女にも着実に継承されているんだ。
当然、少佐階級の特命遊撃士である京花ちゃんにもね!
「美衣子ちゃんと、誉理ちゃんの事を…!」
ねっ、私の言った通りだったでしょ?
そもそも京花ちゃんは、人一倍友情を重んじる主人公気質な子だから、必ず反応があると思っていたんだよね。
「受け取ってあげなよ、お京。ダチなんだろ?お京にとっても、リッカにとっても。」
「美衣子さんや誉理さんに、京花さんが親愛の情を抱いていたならば…そしてその親愛の情が、私共へ向けるのに近い物であるならば…お受けなさるべきだと存じ上げます。」
軽く京花ちゃんの肩に手をやったマリナちゃんに、英里奈ちゃんが続く。
マリナちゃんはともかく、英里奈ちゃんには珍しく明確な意志表示だったな。
「マリナちゃん…!英里奈ちゃん…!」
同輩2人の説得に、京花ちゃんの心も動きつつあるみたい。
こうなったら私が、最後の一押しをしなくちゃね。
「そうだよ、京花ちゃん…だって美衣子さんと京花ちゃんは、修文4年からの昔馴染み。ある意味じゃ、私達よりも遥かに深い仲になるんだよ。そんな旧友の申し出を断るなんて、京花ちゃんらしくないよ!」
ううん、我ながら少し無理があったかな…?
昔馴染みとはいっても、それは娘時代に京花ちゃんと出会った美衣子さんの話でしょ。
タイムスリップしただけの京花ちゃんにとって、美衣子さんは1ヶ月前に出会ったばかりだからなあ…