51 汚い図書館って見たことない
51 汚い図書館って見たことない
「どうしましょうッ!」と、シュルストロンは本棚を前に頭をかかえた。「領収書の閉じ込み帳が見つからなければ懲罰ものですッ!」
「まあマズい状況かも知れないが、そう慌てるな。こんな事態のときにこそライターの腕の見せ所だ」と、山田が指をポキポキ鳴らした。
「腕?」と、クレトンは何を言ってんだ、こいつ? みたいな表情だった。
「そうだよ。腕だよ腕」と、山田は肩をグルグル回した。「編集やライターは部屋が汚いって相場が決まってるんだよ。その汚い部屋の中から必要なモノを見つけ出すのは必須スキルってワケだ」
「たしかにッ!」と、シュルストロンは深くうなづいた。「出世している人たちは資料探しが上手ですッ!」
「だろ。だから俺にまかせな。浮き沈み厳しい業界で生き残ってマンション買ったのは、だてじゃないぞ。ワンルームじゃないからな。1DKだからな」と、山田は胸を張った。
「最初から、ちゃんと整理しとけば、いいじゃないですか」と、宅配のお兄さんが冷たい一言を放った。
「同意」と、クレトンも冷たかった。
「それが、できたら苦労しないんだよ!」と、山田は目を大きく開いた。「仕事をなんだと思ってるんだ!」
「まったくですッ!」と、シュルストロン。「簡単に言わないでくださいッ!」
「図書館みたいにジャンル分けすれば、いいじゃないですか」と、宅配のお兄さん。
「図書館は司書の仕事だろ。こっちは、いわゆる文筆業だ。一緒にされたら困る!」と、山田。
「大して違わないでしょ。どっちも本とか資料とか、いっぱい扱う仕事じゃないですか」と、宅配のお兄さん。
「全然違うから」と、山田。「野球とクリケットぐらい違うぞ」
「そう言われても僕はクリケット知らないんですよ」と、宅配のお兄さんは困った顔だった。「野球とソフトボールとか言ってくれれば、まだ分かるんですけど」
「いや、それは編集とライターの違いだな」と、山田。
「じゃあサッカーとフットサル」と、宅配のお兄さん。
「いや、それも編集とライターだな」と、山田。
「じゃあ何なんですか? 司書とライターや編集者の違いって?」と、宅配のお兄さん。
「だから言っただろ? 野球とクリケットぐらい違うって」と、山田。
「だから分かりづらいんですよ」と、宅配のお兄さん。「他に、うまい言い方はないんですか?」
「ないよ」と、山田は一言。
「ライターとして、それはマズいでしょ」と、宅配のお兄さん。
「だって、これがベストな表現だもの」と、山田。「いい表現で伝わらなかったら、それは受け手の理解力の問題であって俺に問題はないんだよ。だからマズいことなんて、ないの」
「いや、あるでしょ」と、宅配のお兄さん。
「いや、ないって」と、山田。
「あのッ!」と、シュルストロンが割って入った。「もうッ! そろそろ閉じ込み帳を探すのを手伝ってくれませんかッ!」
「あっ忘れてた。すまん、すまん」と、山田は棚に戻った。
「お兄さんも見てないで手伝ってくださいッ!」と、シュルストロンは宅配のお兄さんの手を取った。
「そう言われても……」と、宅配のお兄さんは首をかしげた。「英語もロクに読めないのに、見たこともない外国語の資料なんか探せませんよ」
「そんなこと言わずにッ!」と、シュルストロンは引き留めにかかった。
「しまった……」と、山田は棚の前で立ち尽くした。
「どうしたんですかッ!?」と、シュルストロン。
「俺も字が読めないから探せない……」と、山田は落ち込んだ。




