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50 空襲よりも地震が怖い

   

   50 空襲よりも地震が怖い


「ひさびさの床だッ!」と、シュルストロンは大理石の床に大の字になった。「冷気を感じるッ!」


「冷感」と、クレトンも床に大の字になった。


「埃っぽいが立派な床だ。これぞ宮殿の床」と、山田はうっとりした。


「良かったですね。何だかこっちまで嬉しくなりますよ」と、宅配のお兄さん。


「近いうちに応接セットも注文するよ」と、山田。


「ありがとうございます」と、宅配のお兄さん。「そうだ。応接セットもいいですけど、地震対策の突っ張り棒はいかがです?」


「うっかり、してた。棚に突っ張り棒は必須なのに」と、山田。


「ご心配なくッ!」と、シュルストロンは仰向けのままだった。「我がマツズーム帝国において地震は皆無ですッ! 突っ張り棒など不要ですッ!」


「羨ましい。このまま移住しようかな」と、山田。


「お言葉ですけどね」と、宅配のお兄さん。「自分だけは大丈夫。そういう油断が危険なんですよ」


「油断も何も地震は我が帝国に存在しないのですッ!」と、シュルストロンはまだ仰向けのまま。


「水害も対策済みですッ!」


「災害、強固」と、クレトンもまだ仰向けのまま。


「あのー、どこの帝国か知りませんけど、ここは日本ですから。地震はもちろん水害は年々ひどくなるばっかりだし」と、宅配のお兄さん。


「ところが日本じゃないんだ」と、山田。「マツズーム帝国なんだ」


「つまり日本だけど日本じゃないって、ことでしょ? 米軍基地みたいに」と、宅配のお兄さん。


「いや、みたいじゃない」と、山田。


「いやー、でも米軍基地はアメリカそのもの、じゃないですか」と、宅配のお兄さん。


「昔、航空ショーを見にいったけど、たしかに、あそこはアメリカそのものだった」と、山田。


「ほらー」と、宅配のお兄さん。「だから米軍基地はアメリカであると同時に日本じゃないですか。自衛隊基地も米軍基地も震災の被害は受けたんですよ」


「たしかに、そうだけど……何か俺もマツズーム帝国が日本の気がしてきた」と、山田は目頭を押さえた。


「そんなことはッ! ありませんッ! ここはれっきとしたマツズーム帝国ですッ!」とシュルストロン。


「でも、まだ一歩も、この部屋から出ていない」と、山田。


「ちゃんと観光計画は立てていますから安心してッ! くださいッ!」と、シュルストロン。


「じゃあ、お兄さんも」と、山田。


「では、これ領収書」と、宅配のお兄さんが領収書を切った。


「どうも。じゃあシュルさん。領収書よろしく」と、山田はシュルストロンに領収書を渡した。


「提出の義務はありませんがッ! 保管の義務はありますからねッ!」と、シュルストロンは起き上がって棚の前に立った。「……閉じ込み帳ッ! ……閉じ込み帳ッ!」


「紛失!?」と、クレトンも起き上がった「捜索、捜索」


「ああッ! しまったッ!」と、シュルストロンの顔が青くなった。


「どうした?」と、山田はシュルストロンのそばに寄った。


「書類を収納したのはッ! いいのですがッ! 整理されていませんッ!」と、シュルストロン。


「あっ……これは……参ったな」と、山田は棚を見つめた。

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