49 広い部屋なら壁面収納は圧迫感を感じない
49 広い部屋なら壁面収納は圧迫感を感じない
「さあ、チャチャっと組み立てるぞ」と、山田は床に積まれた本や書類をザザーっと足で押しのけた。
「工具を用意しないと、いけませんねッ!」と、シュルストロンは机の引き出しを開けよと奮闘していた。「……たしかッ! ここにッ! あったッ! はずなんですけどッ! ……開かなくてッ!」
「ムリしなくていい。そんなのは一切いらないから」と、山田は棚をくるんでいるビニールを引きちぎった。
「付属品の工具があるということですかッ!? あんな安モノはダメですッ! ロクにネジを回せませんッ!」と、シュルストロンはまだ引き出しを引っ張ろうとしていた。「やはりッ! 工具はッ! 取手が大きくないとッ! 握れませんからッ!」
「ネジも釘も必要ないんだよね」と、山田は棚の説明書を片手に部品を並べた。
「……接着剤?」と、クレトン。
「そんなッ! いいかげんなッ! すぐ壊れてしまいますよッ!」と、シュルストロン。「予算はあるのですからッ! もっとマトモなモノを購入してくださいッ!」
「まあ見れば分かるから」と、山田は棚の部品同士を組み合わせた。カチャっと音が鳴って、そのままガッチリくっついた。「ほら」
「寄木細工ですかッ!?」と、シュルストロン。
「いや違う。もっと革新的な技術なんだ。えっと……商品名は何だったっけな?」と、山田は説明書を読み直した。「何々……『簡単組み立て棚カチャっとハマーる』。もっとカッコいい名前のはずだったのに」
「名称、安直」と、クレトン。
「いかにも安っぽい銘柄ですねッ!」と、シュルストロンは難色を示した。「ここは自分の仕事部屋ですがッ! 宮殿の一部ですッ! 置く家具一つとっても格というものが必要ですッ!」
「格なら、ありますよ」と、宅配のお兄さん。「家具・便利グッズ大賞でデザイン賞と技術賞の二冠ですから。これスゴいことですからね。なんせ史上初ですから」
「そうだ。スゴいんだぞ。ショールームで一目見て気に入ったんだ。それに結構なお値段だったからな」と、山田。「それはそうと、お兄さん随分と詳しいね? セールスみたい」
「……仕事、掛け持ちしてるんで」と、宅配のお兄さんから哀愁が漂った。
「そうだったんだ……さあ、みんな。ドンドン組み立てようか!」と、山田は話をそらしてカチャカチャっと棚を完成させて、そこに本や書類を押し込めた。「なっ。簡単だろ。これで、あっという間に片付くぞ」
「組み立てオプション、キャンセルしますか?」と、宅配のお兄さん。「ただしクレジットで決済されているので、その場合、返金は現金になりますけど」
「いいの、いいの。少しでも早く完成させたいから」と、山田。
「では変更なし。と言うことで」と、宅配のお兄さんもカチャカチャっと棚を組み立てた。
「では自分もッ!」と、シュルストロンも続いた。「ああっ! 少し差し込んだッ! だけでビクともしませんねッ!」
「頑丈、簡単」と、クレトンも『簡単組み立て棚カチャっとハマーる』に満足していた。
みんなカチャっとハメては作り上げ。ギュウっとミチっと本や書類を押し込める。ひたすら作業して小一時間、経った。
「……やったぞ!」と、山田は拳を上げた。シュルストロンの部屋を埋め尽くしていた紙の山が全部スッポリ棚に収納された瞬間だった。




