43 朝、座れるソバ屋を見てみたい
43 朝、座れるソバ屋を見てみたい
「しかし、この部屋を片付けるとは言ったものの、どうすればいいんだか……」と、山田はシュルストロンの仕事部屋をぐるりと見回した。容積ぱんぱん一面に、そして天高く本と資料。半端な量じゃない。
「難攻不落」と、クレトンは腕を組んだ。
「自慢だではありませんがッ! この部屋を整理整頓するのは不可能ですッ!」と、シュルストロンはどこかに行こうとしていた。
「おいおい、ちょっと待て。何、逃げ出そうとしてる?」と、山田。
「食堂に行こうかと思いましてッ!」と、シュルストロン。
「そんな、のん気に朝飯を食ってる場合か? とっとと取り掛かろう」と、シュルストロン。
「そうは言ってもッ! お腹が空きましたッ!」と、シュルストロン。
「空腹、空腹。食事、食事」と、クレトンもせがむ。
「だったら、さっき水を持ってこさせた、みたいに食事も持ってきてもらえば、いいだろ」と、山田。
「ここで食事ができるとでもッ!?」と、シュルストロン。
「足元を見てみろ。酒瓶が転がってるだろ。これは俺の部屋にあったはずの酒なんだが、どういうワケかこの部屋で開けて飲んだらしい」と、山田。
「それがッ! どうしたと言うのですかッ!?」と、シュルストロン。「酒ぐらいッ! どこででも飲みますよッ!」
「ほら。酒も水も飲めたんだ。飯だって食えるって」と、山田。
「山さんッ! それはつまり立って食事をしろとッ!? それとも床に座り込んでッ!?」と、シュルストロン。
「もちろん立ってだ」と、山田。「いいか。日本の労働者の半分は駅の立ち食いソバで朝を済ませるんだ。おかしなことじゃない」
「ここは日本ではありませんッ! 誇り高きマツズーム帝国ですッ!」と、シュルストロンはしっかりと、ハッキリと、そう言った。
「この国に来てからまだシュルさんの仕事場から一歩も出歩いてないけど、ソバ屋がないことぐらい分かる。証拠はないが確証がある。実際のとこないだろ? ソバ屋?」と、山田。
「皆無」と、クレトン。
「やっぱり」と、山田。「で、ソバ屋はないけども立食パーティーはあるだろ?」
「ありますけどねッ! 立食の宴席で食事をしている人なんていませんッ!」と、シュルストロン。
「第一まともな食事が出てきませんッ!」
「ああ、帝国でも一緒か」と、山田。「この間、取材で政治家のパーティーに行ったんだ。何が出てきたと思う?
チャーハンだろ、焼きそばだろ、それとピラフに焼うどん。もしも全部、味わったら血糖値が上がり過ぎて死ぬかも」
「甘いですッ!」と、シュルストロン。「政治家の宴席に出席した時の話ですけどねッ! この手の宴席には珍しく野菜と果物が並んでいると思ったらッ! 全て練った小麦粉と着色料で作られた偽物でしたッ!」
「そっちのほうが手間も予算もかかってるだろ。何、考えているんだ? そっちの政治家は?」
「単純に見栄っ張りなだけですッ!」と、シュルストロン。
「どこも政治家は一緒だね」と、山田は本を蹴散らしながら伝令管の前に立った。
「どうして伝令管の前にいるんですッ!?」と、シュルストロン。
「どうしてって? 朝食を注文するんだよ。決まってるだろ?」と、山田は伝令管に口を近づけた。
「あー、もしもし?」
「そんなッ! 勝手にッ! あ痛ッ!」と、シュルストロンは本に足を取られた。
「ともかく、ここで朝飯を食いながら作戦会議だ。もしもし? そちらシュルさん、じゃなかった。シュルストロン……階級は軍曹だったかな? ああ、そう。軍曹で合ってるのね?
軽食を3人前お願いできない? できるんだ。良かった。どんな軽食がお望みか? 別にたいしたのじゃなくていいよ。
トーストにゆで卵。食後に熱いコーヒーがあれば、それで充分。あとはジャムとバターがたっぷり塗ってあって、カリカリのベーコンにシャキシャキのサラダ。
それとオレンジの2,3切れでもあれば、もう何もいらないから。えっ? だったら、はいはい。たまごサンドにビーフサンドにレタスサンド。そしてフルーツサンドのセット!?
はあ、その手があったか! じゃあ、それで頼むよ! どうも、どうも!」と、山田は注文を終えた。




