42 酔い覚めの水は依存性アリ
42 酔い覚めの水は依存性アリ
「あー……あいてててて……ここ……どこだ?」と、山田は頭と腰に手を当てながら目を覚ました。
目の前にはうず高く積まれた本の山であふれかえった汚い部屋。だが、山田の部屋ではない。
天井を見上げれば、そこには趣味の悪い宗教画がびっしり書き込まれていた。ここはシュルストロンの仕事部屋。つまり異世界だ。
「……水……水分」と、クレトンものろり、のろり起きた。
「あー……ッ! ……部下に持ってこさせますッ!」と、シュルストロンはずるずる身体を引きずりながらラッパみたいな伝令管にたどりついた。「……もしもしッ! もしもしッ!
自分の部屋まで水をッ! ええッ! たっぷりですッ! 器は2つではなく3つッ! よく冷えたやつですよッ! レモンは倍入れることッ!」
「いやあ、役職付きはいいね。己の身、以外を頼りにできるもの」と、山田はボキボキ首、肩、腰を鳴らした。
「伝令管まで身体を運びッ! 大きな声でハッキリと水を注文したのはッ! この自分ですよッ!」と、シュルストロンは這いつくばりながら胸を張った。
「そんな自慢することじゃないだろ。俺は飲んだ次の日は自力で冷蔵庫を開けてキンキンに冷えたミネラルウォーターを飲むんだぞ。
それも、ちゃんとコップに入れるんだぞ。どうだ? 俺の方が立派だろ?」と、山田。
「両者、同列」と、クレトンは冷めた顔だった。
「どっちもどっちって言いたいのか? ん?」と、山田。「クレトンさんだって同じことだぞ。
3人そろって酔っ払って、どういうワケだかこの本と書類だらけの汚い部屋でヨダレ垂らして寝たんだ。同じ穴の狢だぞ」
「汚い部屋ってッ!」と、シュルストロンがゆったり立ち上がった。「山さんの部屋だって本にだらけの汚い部屋じゃないですかッ! 差はありませんッ!」
「反論させてもらうけどな。俺の部屋は机もあるし。イスもある。何より横になれるベッドがある。枕カバーなんか毎日、交換してるんだぞ。
キッチンだってな、ダイニングセットはあるし。いつだって、みそ汁を作れるようにまな板のスペースは死守してるぞ。一方この部屋はどうだ?
イスも机も埋もれて足の踏み場もないときてる。当然、寝床もない。歴然と差があるじゃないか」と、山田。
「ここは自宅じゃありませんからッ!」と、シュルストロンはビシっと言った。「ここはッ! あくまで仕事部屋ですッ!」
「それを言ったら俺はフリーのゴシップ記者だ。編集部に専用のデスクなんかない。自宅が事務所。職場、仕事場。条件は一緒。それにだ、仕事が立て込んだら、
仕事中ちょっと一息つきたい時があるだろ? シュルさん。こんだけ広い部屋なんだ。ソファの一つ。サイドテーブルの一つ。置いておくのも仕事術だよ」と、山田。
「公私は分けてますッ!」と、シュルストロン。「職場は職場ッ! 自宅は自宅ッ! メリッ! ハリッ! を付けているのですッ!」
「それも大事だけど休憩も大事。10年後に響くから」と、山田が仕事術をまだ語ろうとすると、
「失礼します。お冷を持って参りました。うわっ」と、部下の女騎士がドアを開けると本と資料が雪崩を起こして外に出てしまった。
「ああッ! また崩れてしまったッ!」と、シュルストロンは頭をかかえながらキンキンのレモン水をグビグビ飲んだ。
「失礼しました」と、部下の女騎士はそそくさと帰った。
「さすがの俺でも部屋の外に本を、あふれさすことはないね」と、山田もレモン水を飲んだ。「酸味が効いてウマいなこれ。レモンの質がいいのかな?」
「品種、爽快、上質」と、クレトンはレモンをかじった。
「こりゃ目が覚めるね」と、山田はレモン水をおかわりした。「とりあえず、異世界でのプロ野球計画の初仕事は大掃除だな」
「……そうしますよッ!」と、シュルストロンはピッチャーごとレモン水を飲んで気合を入れた。




