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41 夜9時以降のナンパはロクなもんじゃねえ


   41 夜9時以降のナンパはロクなもんじゃねえ


「確認だが、野球に関することなら本当に予算は下り放題なんだな?」と、山田は気合を入れるためにアキレス腱を伸ばしだした。


「もちろんですッ!」と、シュルストロン。「野球と名が付けばッ! たとえッ! どんな領収書でも切れますッ!」


「もはや甘美な響き」と、山田は笑顔で肩をグルグル回した。「今日日、新聞社ですら取材の領収は切れない時代だというのに」


「食事、宿泊、問題、無」と、クレトンは拳を握った。


「交通費は?」と、山田。


「世界中どこにでもッ!」と、シュルストロン。


「よし!」と、山田はストレッチを終えた。「家までタクシーで帰ろう!」


「山さんの自宅ってッ! ここから5分もしないじゃないですかッ!」と、シュルストロン。


「だって出るんだろ? 交通費? 領収書、切れるんだろ? だったら、いいだろ? 今日はもう歩きたくないだよ」と、山田は配車アプリを立ち上げた。


「徒歩、拒否」と、クレトンはかったるそうにしていた。「飲酒、過多。歩行、蛇行、危険」


「先ほどからずっとッ! ふらついてますよッ!」と、シュルストロンはふらふらしながら立ち上がった。「だからこそッ! ひんやりとした夜風に当たりッ! 酔いを醒ますべきですッ!」


「まあ、それも、いいかな。とは思ったよ」と、山田。


「でしたら歩きましょうッ!」と、シュルストロン。「第一ッ! 逆に面倒ですよッ! 運転手を呼ぶということはッ! 待つということですよッ! 

 待ち時間で帰宅できますよッ! そういう時間の使い方は好きではありませんッ!」


「だったら今まで酒を飲んでる時間のほうがよっぽどムダだよ。一日中だぞ一日中。生産性皆無」と、山田は配車アプリにクーポンのコードを打ち込む。


「それを言ったら終わりですよッ!」と、シュルストロンが頭をかいた。「イヤなところを突かないでくださいッ!」


「冗談、冗談」と、山田はすでにタクシーを呼んだ。「正直な話、ここら一帯は暗くなると絡み酒の面倒くさくて頭のおかしなヤツが山ほどいるからな。

 シュルさんやクレトンさんみたいに珍しいのはタダじゃ帰れないよ」


「明るいときにもッ! いましたよッ! それはッ! それはッ! 大勢いましたッ!」と、シュルストロン。「あれ以上いるんですかッ!? 一体どこにいるんですかッ!? あんなのがッ!?」


「あんなのってね、ちょっとシュルさん」と、山田。「あんなのは、まだカワイイもんだよ」

「カワイイもんッ!?」と、シュルストロンは思わず聞き返した。


「いいか。俺たちが、ここの近辺を今、夜遅い時間帯に一歩でも踏み出したらだ」と、山田。「一言目にまずは『よう、甲冑のネエちゃん』、『よう、メイドのネエちゃん』だ。

 んで二言目には『ホテル行こうぜ』だ。でも当然、断るだろ?」


「当たり前ですッ!」と、シュルストロンは少し顔を赤くした。


「当然」と、クレトンも少し顔が赤かったが酒のせい。


「三言目には『エッチしようぜ!』だよ」と、山田。「で、また断られるだろ? そしたら、どうなると思う?」


「その場合ッ! 断っているのですッ! 諦めて帰るほかッ! ありませんッ!」と、シュルストロン。


「甘い、甘い」と、山田はニヤリと笑った。「断れたら、また言うんだ。『ホテル行こうぜ』って」


「バカなんですかッ!?」と、シュルストロン。


「愚者」と、クレトン。


「どっちも正しいが正確に表せば〈酔っ払い〉だ。要するに同じことを繰り返す。『ホテル行こうぜ』、『エッチしようぜ!』。『ホテル行こうぜ』、『エッチしようぜ!』。

 んでもって『ホテル行こうぜ』、『エッチしようぜ!』。延々その繰り返し。睡魔にひれ伏すまでな」と、山田。「だからタクシーが一番いいんだよ」


「分かりましたッ!」と、シュルストロンは諦めた。「そんな連中が街中に溢れているのならッ! タクシーに乗りますッ!」


「それが正解だ」と、山田はスマホの通知を見た。「話しの区切りでちょうどタクシーが来た。時間ぴったり」


「万歳」と、クレトンは喜んだ。

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