40 左右に挟まれるハンコ
40 左右に挟まれるハンコ
「大丈夫だ。国の誇りなんて捨てても、何も問題ない」と、山田が諭す。「喉元、過ぎればってヤツだから。最初は辛いが、すぐラクになる」
「問題はそこではないのですッ!」と、シュルストロンはしかめっ面になった。
「そうやってグダグダ言ってるのが安いプライドなんだよ」と、山田はゴロンと寝っ転がった。
「別問題」と、クレトンもゴロンと寝転がった。「予算、認可、不可」
「予算?」と、山田は起き上がった。「認可……不可? どういうことだ?」
「そのままの意味ですよッ!」と、シュルストロンも寝転がった。「予算が下りないんですッ!」
「どんぶり勘定の金満国家のクセしてか?」と、山田は肩をすくめた。「どうかしてるぞ。どこの、どいつがハンコを押さないんだ?
誰がハンコを持ってるんだ? 待てよ。シュルさんの国って書類にハンコは使うのか?」
「身分の高いものほどハンコを使いますッ! 膨大な書類をッ! いちいち手書きで署名は手間ですからッ!」と、シュルストロンはハンコをわざとらしく取り出した。
「筆、摩耗。判子、永遠」と、クレトンもこれ見よがしにハンコを取り出した。
「はいはい。偉いのは分かったから」と、山田。「ハンコ持ってるってことは予算の権限も持ってるんじゃないのか?」
「持ってはいますがッ! あくまで一部ですッ!」と、シュルストロン。
「予算、判子、複数」と、クレトン。
「だいたい5個ぐらいだろ」と、山田。「担当者だろ。係長だろ。課長だろ。部長だろ。んで社長だ」
「よくッ! ご存知でッ! 我が帝国もハンコは5個が相場ですッ!」と、シュルストロン。
「ちなみに何個目のハンコなの?」と、山田。
「3個目」と、クレトン。
「3個目ってことは課長か……中間管理職……うん。そりゃ苦労するな」と、山田は目を細めた。
「ですがッ! 今回の計画が成功すればッ! 4個目のハンコになれますッ!」と、シュルストロン。
「出世街道、全力前進」と、クレトン。
「あと少しで部長か。一番ワクワクする時期だな」と、山田。「だったら書類を上手いこと誤魔化してだ。表向き野球で進めといて実質サッカーにしようじゃないか」
「他国、追、従。禁、忌」と、クレトンがねちっこく警告した。
「分かった、分かった。まったくもう。カネさえあれば最強の称号なんて簡単に手に入るのに。出し渋るなんて、どうかしてるよ。最後のハンコは誰だ? 誰が社長だ?」と、山田。
「……皇帝陛下」と、クレトン。
「ああ……そういうこと」と、山田はすぐさま理解した。「そうか。トップがストップかけてるか。そうか。まあ、そんなもんか」
「あとッ! 言葉を返すようですがッ!」と、シュルストロン。「ブラジルは金持ちですかッ!? どうなんですかッ!?」
「……金持ち……とは……言え……ない」と、山田の口は重かった。
「計画、野球、専念」と、クレトンが詰め寄る。
「……しょうがねえな。やってやるよ。野球で成功してやるよ!」と、山田は水タバコを思いっきり吸いこんだ。




