38 クリケットは人気だけど人気じゃない
38 クリケットは人気だけど人気じゃない
「……シュルさんさあ。そもそもだけど野球のルールって分かってるのか?」と、山田は確認を取った。
「……存じ上げませんッ!」と、シュルストロンは白状した。
「ルールもロクに知らずに野球を国家事業にしようと?」と、山田。
「その通りですッ!」と、シュルストロンは元気よく返した。
「……ルールを知ろうとは思わなかったのか?」と、山田。
「……ややこしかったからですッ!」と、シュルストロンはやや恥ずかしそうだった。
「それでも……野球を国家事業にしようと思ったワケだ?」と、山田は理解に苦しみだした。「結局さ、最大の理由はなんなの?
野球にこだわる理由はなんなんだ? まさか球場飯じゃないだろな?」
「いえッ! それはあくまで副産物ですッ!」と、シュルストロンは真っ向から否定した。
「じゃあ、その心は!?」と、山田は突っ込んだ。
「集客力ですッ!」と、シュルストロンはすぐさま言った。
「……だったらサッカーでいいだろ」と、山田は頭をかいた。「集客力でいったら野球はマイナース
ポーツだ。悪いことは言わない。今からでもサッカーにすべきだ」
「いえッ! サッカーではダメなのですッ!」と、シュルストロンは首をブンブン横にふった。
「そういや、さっき理由にサッカーに対抗できるとか、なんとかって言ってたよな?」と、山田。
「そうですッ! 野球はサッカーに対抗できる興行ですッ!」と、シュルストロンは熱くなった。
「野球は盛り上がっていますッ! この目で見ましたッ!
書類の数字にもハッキリと出ていますッ!」
「……できてるようで、できてねえんだ。対抗は」と、山田は冷静だった。「野球で盛り上がってるのはアメリカを筆頭に日本と韓国、台湾。あと中南米だ。
多く見積もってもせいぜい12か国ぐらでしか人気がないんだぞ。12だぞ。12。分かるか? この世界は190近く国があるというのに12か国でしか人気がないスポーツだぞ。
……説明してて虚しくなってきたな」
「ですがッ!」と、シュルストロン。「現にッ! それでも盛り上がってますッ! 量より質ですッ!」
「たしかに収益だけの話なら、いい線いってるぞ。アメリカの野球の収益は世界で第二位だ」と、山田。
「やはりッ!」と、シュルストロン。「野球には人々を熱狂させる力があるのですッ!」
「でもな、収益にだけ目を向けるとだ、アメフトのほうが圧倒的だ。野球もサッカーも太刀打ちできない。ほら、野球にこだわる理由はなくなるぞ」と、山田。
「存じ上げてますッ!」と、シュルストロン。「ですがッ! アメフトでは我が帝国の国家事業になは足り得ませんッ!」
「それでも俺はサッカーを推す」と、山田。
「なぜですかッ!?」と、シュルストロン。
「サッカーは世界的スポーツだ」と、山田。「競技人口の数はそれこそ野球と桁違いだ。収益以上に素晴らしいメリットだぞ」
「それならばクリケットの立場はどうなりますかッ!?」と、シュルストロン。
「あんな、いいかげんな計画書を書いといて、よく調べてるな」と、山田は感心した。
「競技人口を出すのであれば無視できませんッ!」と、シュルストロン。
「サッカーのルールは分かるか?」と、山田はふいに問いかけた。
「いきなりなんですかッ!? それぐらい分かりますよッ!」と、シュルストロン。「ボールをゴールにシュートですッ!」
「ほらな」と、山田。「野球のルールは分からなくとも、サッカーのルールは誰にでも理解できる。それがサッカーの強みだ」




