18 心で聞く
18 心で聞く
「本当に入るんですかッ!?」と、シュルストロンは居酒屋の前でゴネていた。「こんな格好ですよッ!」
「シュルストロン、甲冑。クレトン、給仕服」と、クレトン。
「今さら、ごちゃごちゃ言うな。もう公道を歩いたんだぞ。さあ入るぞ」と、山田は居酒屋の引き戸をガラガラ開けた。
「はーい! らっせー! ごれてんあざまーす!」と、スタッフのニイチャンが威勢よく迎えてくれた。「ねんめんさむでかー!?」
「3人」と、山田。
「タバコはすーますか!?」と、スタッフのニイチャン。
「そう言えば2人って、タバコ吸うのか?」と、山田。
「いえッ! 習慣はありませんッ!」と、シュルストロン。
「食事、禁煙、希望」と、クレトン。
「では! おきのきつえーせきどーぞ! ごごんなーしまーし!」と、スタッフのニイチャンが席に案内した。
「はい」と、山田はそのままズカっと席に着いた。
シュルストロンとクレトンも辺りを気にしながらゆっくり座った。
「よしければメッツとカタナこちであずかまーす!」と、スタッフのニイチャンがシュルストロンに手を差し出す。
「あッ! じゃあッ! お願いしますッ!」と、シュルストロンは面食らったのかぎこちなく荷物を預けた。
「そちのおきくさんあてまのビラビラのアレ! あずかまーす!」と、スタッフのニイチャン。
メイドが頭に付ける白いヒラヒラのレースアレ。
用は頭飾りだ。飾りではあるけど、仕事中に髪の毛が邪魔にならいように押さえるという実用的な面がある。つまるところカチューシャだ。
正式名称は〈ホワイトブリム〉と呼ぶ。ブリムは”帽子のつば“と言う意味で、昔ながらのメイドがかぶっていた給食当番の頭巾みたいなアレ。
室内帽が流行おくれになって、カチューシャになって、結局、名前だけが残ったのだ。
「結構」と、クレトンはホワイトブリムを預けることをピシャっと拒否した。これは一種のアイデンティティだからだ。
「ちーもーはタッチパネルでおねしゃーす!」と、スタッフのニイチャン。「げこくごはきかえまーす!」
「大丈夫。2人とも日本語分かるから」と、山田。
「ごいくりどぞーう!」と、スタッフのニイチャンは厨房に消えた。
「普通に……ッ! 座れましたねッ!」と、シュルストロンはシュルストロンはこの状況が信じられずにソワソワしだした。「思わず兜と剣を預けてしまいましたッ!」
「驚愕!」と、クレトンも結果に納得できずにソワソワしていた。
「ここは飲み屋だぞ。変わった客にいちいち反応何かしないさ。向かいの席を見て見ろ」と、山田。
「これは……ッ! またッ! とんでもないッ!」と、シュルストロンは度肝抜かれた。お向かいの席では、男女が下着姿で一人は机に突っ伏して寝ていて、もう一人はイスからのけぞって寝ていたのだ。「どうしてこうなるんですかッ!?」
「理解不能」と、クレトン。
「……俺にも分からん」と、山田はメニューとにらめっこ。「まあ大方、飲み物をこぼしたか、身体が熱くなったか。それとも、ただたんに脱ぎたくなったか。まあ、そんな所だろうよ」
「この店の人間はッ! この人たちをッ! どうにかしないのですかッ!?」と、シュルストロンが厨房の方を見た。
「どうきがされまかー!?」と。スタッフのニイチャンが出てきた。
「いえッ! 間違いですッ! すみませんッ!」と、シュルストロンは頭を下げた。
「今は昼だし空いてる。昼食目当ての客もいるが一人客だ。みんなカウンター席だ。俺たちみたいなテーブル席はほとんどいない」と、山田はまだメニューとにらめっこ。「だからほったらかしにするのが楽なんだ。酔いつぶれた人間を運ぶのは手間だ。それに、あの客はしっかり息してるだろ」
「ぐごー!」と、半裸の泥酔男。
「ずぴー!」と、半裸の泥酔女。
「生存、確定」と、クレトン。
「少なくとも夜までには目が覚める。俺は注文、何にするか決めたから。2人も選んでくれ」と、山田はメニューを置いた。