16 いざ居酒屋へ
16 いざ居酒屋へ
「さて……喉も潤ったことだし。本題に入ろうかなと思うんだ、が」と、山田が引っかかる言い方をした。
「入りましょうよッ!」と、シュルストロンはイラっとした。本題に入る準備は充分できてますッ! 何ですかッ! 『思うんだが』ってッ! 『が』ってッ!」
「クレトンさんが座るイスがねえんだわ」と、山田。
たしかに山田の家のダイニングセットは一人暮らし用の小さなヤツだ。テーブルは真ん中に小鍋を
置いたら後はランチョンマット2枚で塞がる程度。
当然、イスは2脚しかない。このままだとクレトンはずっと立ちっぱなしになってしまう。
「でしたらッ! クレトンには帰ってもらえばいいじゃないですかッ!」と、シュルストロン。「クレトンは元々、様子を見に来ただけですッ! プロ野球リーグ設立計画の説明は自分だけで問題ありませんッ!」
「問題あるんだわ」と、山田。
「どこに問題があるんですかッ! 山さんッ! 自分は喋りたくてしょうがないんですッ!」と、シュルストロンが急かす。
「だってシュルさん話しが長い割に、言葉足らずだしな」と、山田はバッサリ言った。「で、クレトンさんは言葉足らずが過ぎるけど、結構的確だから同席してて欲しいんだよ」
「相席、延長」と、クレトンは残る気満々だった。
「……そういうことでしたらッ! ……まあッ! ……しょうがないですねッ!」と、シュルストロンは口ではこう言ってるが見るからに納得してなかった。「……丁寧に説明できるんですけどねッ!」
「それとシュルさん。声が大きいから、お隣に気をつかうんだよ」と、山田は苦笑い。「……2人を足して2で割ったらちょうどいいんだけど」
「声は小さいよりッ! 大きい方がいいのですッ!」と、シュルストロンはまだ不機嫌だった。「それでッ! どうするんですかッ! これから一体ッ!」
「イス、不在」と、クレトンは部屋を見回した。本と酒瓶ばかりで、3脚目のイスはありそうにもない。
「だからちょっと河岸を変えて、みんなで店にでも行こうかと思って」と、山田。「近所にちょうどいいとこがあるんだよ」
「店ッ!?」と、シュルストロンは驚いた。「外出するということですかッ!?」
「そりゃそうだ」と、山田は当然でしょ。な顔。「本当、近所だから。歩いて3分もしないぞ」
「そういうことじゃないんですッ!」と、シュルストロン。
「非常識」と、クレトンは抗議した。
「どうした? どうした?」と、山田は不思議そうに言った。「何かマズいことでも言ったか?」
「そりゃもうッ! マズいですよッ!」と、シュルストロン。
「服装、注目」と、クレトン。
「ああ、そうか。見た目か」と、山田は理解した。
「そりゃそうですよッ! 目立ってしまいますッ!」と、シュルストロンは甲冑姿。
「外出、変装、常識」と、クレトンはロングスカートタイプのメイド服。
「2人ともさ。たしかに目立つ格好ではあるが、田舎ならいざ知らず。ここは都内だからな。どうにでもなる。ごちゃごちゃ言わず行こう」と、山田は足早に玄関を出た。「ほら。行こうぜ」
「山さんッ! 何かあったら責任もって対処してくださいッ!」と、シュルストロンが後に続いた。
「……不安」と、クレトンも外に出ることにした。