15 100%フローズンカクテル
15 100%フローズンカクテル
「……ミキサーなしでフローズンカクテルを作る。……こりゃとんちか?」と、山田は頬づえをついた。
「回答、これ」と、クレトンが魔法石を見せた。「酒、凍結」
「……酒、凍結?」と、山田はオウム返し。「……もしかして凍らせたのか!? 酒を!? 直接!?」
「これは見せた方が早いですよッ!」と、シュルストロン。「クレトンッ! もう一度お願いしますッ!」
「実験」と、クレトンはダークラムをおもむろにグラスに注いだ。
「本当に凍るのか? 酒が?」と、山田は疑問だった。「さっきちゃんと見とけば良かったな」
「……むん!」と、クレトンが力強く魔法石に念を送る。
「酒が凍らないのは我々の世界でも一緒ですッ!」と、シュルストロン。「我が帝国の北部ではですねッ! 冬になるとッ! 安酒を屋外の不凍液の代わりにして掃除に使うぐらいですよッ!」
「じゃあどうやって凍るんだ?」と、山田。「度数が低けりゃ凍るが、あの酒50度はあるぞ」
「えい!」と、クレトンが魔法石をダークラムのグラスに入れた。
「ここからよく見て下さい!」と、シュルストロン。
「とう!」と、クレトンがマドラーでぐるり、ぐるりかき混ぜる。気合の入った声と違って手つきはとても優しかった。
「今ですッ!」と、シュルストロンが前のめりになった。グラスの中身が徐々にドロドロと粘りが出てきた。
「やあ!」と、クレトンがスっとマドラーを抜いた。「完成」
「どれどれ」と、山田はグラスを手に取った。見るからに滑らかに凍った琥珀色のダークラム。フワフワだ。遠目で見たらコーラ味の綿菓子と間違えそう。「……たしかにフローズンカクテルだ。……本当に凍ってる。……これが魔法石の力か」
「それもありますッ! がッ! ですがッ!」と、シュルストロンが一拍置いた。「これができるのはクレトンを含めッ! 片手で数える程度ですッ!」
「……そんなに高度なテクニックなのか」と、山田は特製フローズンカクテルをクイっと飲んだ。
「だが納得の味だ」
「念のさじ加減ですッ!」と、シュルストロン。「普通は全部凍らせてしまうんですッ! しかしッ! クレトンは冷却温度を調整できるのですッ!」
「……なあ」と、山田はシュルストロンにささやいた。「それって凍った後、削ればすむ話じゃないか?」
「分かってないッ! 山さん分かってないですッ!」と、シュルストロンは人を小バカにした表情になった。「削るとッ! この滑らかさは出ませんッ! 切り口に角が立ちますッ!」
「刃物、ダメ」と、クレトンが首を横に振った。
「優しく混ぜるだけだからこそ出せる味なのですッ!」と、シュルストロン。
「そういう理屈だったのか」と、山田はもう一口、特製フローズンカクテルを飲んだ。「しかし美味い。スルスル飲める。なのに度数は同じ。これは効くな」
「酔いの回りが段違いですよッ!」と、シュルストロン。「これこそ我ら皇族派の秘密兵器ですッ!」
「これを武器に戦ってるのか?」と、山田。「こんなに美味いのに。平和の象徴の間違いじゃないか?」
「この酒で相手を堕落させかつッ! 肝臓を破壊させるんですッ!」と、シュルストロンが不敵な笑みを浮かべた。「これは最早ッ! 生物兵器ですッ!」
「酒に溺れさすのは分かるとして」と、山田は特製フローズンカクテルの最後の一口を飲んだ。「肝臓まで破壊させるのはやり過ぎじゃないか?」
「むしろそっちの方が重要ですッ!」と、シュルストロン。
「肝臓、薬、独自」と、クレトン。
「……さっき魔法石は薬にもなるって言ってたよな?」と、山田は何か勘付いた。
「そうですッ!」と、シュルストロンは大きくうなづいた。
「ひょっとして……肝臓の薬も作れる人数が……」と、山田は恐る恐る聞いた。
「そうですッ!」とシュルストロンはまた大きくうなづいた。「質のいい肝臓薬を作れるのはッ! クレトンを含めッ! 片手で数える程度ですッ!」
「皇族派、限定」と、クレトンは右腰をねっとり、さすった。
(……こいつら死生観がとことん軍人だ)と、山田は少し恐ろしくなった。