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13 武勇伝


   13 武勇伝


「……と言うことはだ」と、山田がふと切り出した。「マツズーム……帝国だっけ?」


「そうですッ!」と、シュルストロンがうなずいた。


「帝国は貴重な資源の産出国で、金持ち国家って認識でいいのか?」と、山田。


「裕福、豪遊」と、クレトンが腰に手を当てた。


「それじゃあ相当、戦争とかあったんじゃないか?」と、山田はペンを走らせる。


「血塗られた歴史ですッ!」と、シュルストロンの目頭は熱くなってきた。


「流血、凄惨」と、クレトンは目線を落とした。


「……だろうな」と、山田は納得した。「どこも一緒だな。資源があると」


「しかしッ! それは同時にッ! 勝利の歴史でもありますッ!」と、シュルストロンは勇ましい顔になった。


「資金、潤沢。勝利!」と、クレトンがほぼ答えを言った。


「ほぼ全て分かった気がする」と、山田は戦争の光景が浮かんだ。カネにモノ言わせて物量で突き進む騎士の姿だった。(きっと飢えを知らない兵隊だったんだろうな)


「山さんッ! 恐らく想像と違いますよッ!」と、シュルストロンがストップをかけた。「我がマツズーム帝国軍は緻密で高度な戦闘ですッ!」


「国家、買収、賄賂」と、クレトン。


「話が見えてこないぞ」と、山田は両手を上げた。「賄賂だの買収だの。いつから外資系のハゲタカファンドの話なった? さっきまで戦争の話だったろ?」


「戦争はカネですッ!」と、シュルストロンは金の延べ棒を見せつけた。「近隣諸国を買収して傀儡政権にしたのですッ!」


「おいおい。思ってたのと本当に違うなあ」と、山田は残念がった。「さっき血塗られた歴史とか言ってたのはどこいった?」


「貴族や政治家や官僚はカネの取り分で揉めるんですッ!」と、シュルストロンはバツの悪そうな顔をした。「それで殺人事件が多発してしまって……ッ!」


「……何だそりゃ」と、山田はあきれた。「ちっとも戦闘してないじゃねえか」


「“昔は”直接戦ってましたッ!」と、シュルストロンは焦った。「剣で切られてもッ! 矢に撃たれてもッ! それでもなおッ! 突き進みッ! 敵をなぎ倒すッ! それがマツズーム帝国軍の軍人ですッ!」


「……“昔は”、だろ」と、山田は少しイジワルしてみた。「……で、聞くが、実戦経験ってのは……あるのか?」


「……ッ!」と、シュルストロンは目線を斜め上にした。


「ほお……ないんだ」と、山田は少しニヤついた。


「……ッ!」と、シュルストロンはまだ何も言わない。


「……皇室外交。警護」と、クレトンがイジワルに乗った。


「……警護ね。まあ、近衛師団だしな」と、山田は引っかかった言い方。


「……晩餐会。のみ」と、クレトンはイタズラに笑った。


「それは実に平和だな」と、山田も釣られて笑った。


「しょうがないでしょッ! そう大きな戦争はありませんよッ!」と、シュルストロンは頬を膨らませた。「……だってッ! 楽じゃないですかッ! カネで近隣諸国を防護壁にする方がッ! これは我々ッ! 皇族派考案の作戦ですッ! 見事ですよねッ!? ねッ!? 山さんッ!?」


「まっ……まあ、そうだな」と、山田はタジタジだ。


「バラマキ政策だのッ! 何だの文句を言う人もいますけどッ! 直接対決よりよっぽどカネはかからないんですッ! なんせバラマクだけですからッ! カネをッ! それを陸軍の過激派は、


『カネをバラマク暇があったら爆弾をバラマケ』


 なんてッ! 言いますけどッ! 爆弾を作るのもカネですよッ! 運ぶのもカネですよッ! 爆発の後始末もカネですよッ! ところが向こうはッ!


『カネは天下の回り物。公共事業になる。我々国家側の人間は民衆の商売の邪魔にならぬ様に努めねばならん。故にムダが多い方がよろしい』


 ですってッ! もっともらしいこと言ってますけどねッ! 過激派の大将の娘婿が中将の息子で爆弾工場の社長ってだけの理由をゴマかす詭弁ですッ! 詭弁ッ!」と、シュルストロンは完全に火が付いた。


「ええ、そうですね」と、山田は調子を合わせるしかない。


「過激派は我々ッ! 皇族派を目の敵にし過ぎてるんですよッ!」と、シュルストロンはまだ止まらない。


「同意!」」と、クレトンも熱が入る。


「近隣諸国の貴族やッ!政権にッ! カネをバラマクのだって公共事業ですッ! 属国になるのですからッ! 我が帝国の一部だッ!」と、シュルストロン。


「同意!」とクレトン。


「あとッ! 近衛師団は活躍する様なことがあってはならないッ! 近衛師団が活躍する時ッ! それは例外なく皇帝の危機ッ! 反乱ッ! もしくは本土決戦ですッ!」と、シュルストロン。


「同意!」と、クレトン。


「故に我々ッ! 皇族派はッ! 給料泥棒ではないッ!」と、シュルストロン。「我々ッ! 皇族派こそがッ! 帝国を支えているのだッ!」


「同意!」と、クレトン。


「山さんもそう思いますよねッ!?」と、シュルストロンが同意を求めた。


「ああ、まったくもってその通りだ」と、山田は同意するしかなかった。


「……ふうッ!」と、シュルストロンがやっと一息ついた。


(……やっと終わったか。シュルさん苦労してるんだな)と、山田はそう感じた。


「……でッ! 陸軍の愚か者共の話はここまでにしといてですねッ! ……何の話をしてましたっけッ!?」と、シュルストロンは困り顔だった。


「……プロ野球リーグ」と、クレトンがそっと耳打ち。


(……ようやく本題か)と、山田はじっとしていた。


「そうでしたッ! それではッ! プロ野球リーグ設立計画についてッ! 話を戻しますッ!」と、シュルストロンは気合を入れなおした。

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