11 魔法石王
11 魔法石王
「我が帝国ッ! マツズーム帝国はッ! それはッ! それはッ! 素晴らしい国なのですッ!」と、シュルストロンは熱く、熱く、熱く語りだした。
「正解」と、クレトンが拍手を飛ばす。
「んで、どう素晴らしいのさ?」と、山田はまだ温度が乗り切らない様子。
「いい質問ですッ!」と、シュルストロンがビシッと指を指した。「なぜ素晴らしいと思いますかッ!」
「思考、検討、考察。やれ」と、クルトンが急かす。
「待て、待て、待て。……そうだな」と、山田はとりあえず考えた。「経済が発展してるとか。治安がいいとか。飯が美味いとか。まあ、そんなとこだろ」
「その通りですッ!」と、シュルストロンが胸を張った。「我が帝国は全てッ! 考えうる限り全てッ! 素晴らしい国としての条件を満たしているのですッ!」
「完璧、無欠」と、クレトンが大きくうなづいた。
(何か、このノリ……悪徳セミナーの潜入取材を思い出すな)と、山田の目は疑いの目になっていた。(謎の黒酢を買わされたバアさんは健康になったのだろうか? まあ、なってねえな)
「さて山さんッ! 我が帝国の素晴らしさをッ! 支ええているのは何かッ!? 分かりますかッ!?」と、シュルストロンが山田に詰め寄った。
「んなこと言われてもな。分からねえから教えてもらってんだろうが」と、山田はやや投げやり。
「じゃあ、あれだ。石油でも噴き出てくるんだろ」
「おしい」と、クレトンは残念そう。
「おっ。近いのか。じゃあ一体、何だ?」と、山田は当てに行き始めた。「……だったら金山があるとかか? それなら納得できる。俺の報酬も金の延べ棒だしな」
「いえッ! それも違いますッ! もっとスゴいんですッ! 金の延べ棒よりもずっと価値がありますッ!」と、シュルストロンは笑顔だった。「ちなみに金山は隣国にありますッ! 金は輸入してますッ!」
「これ」と、クレトンがポケットから取り出したのは、鮮やかな虹色にキラキラ輝く小さな石ころだった。「貴重」
「なるほど。宝石か」と、山田はキレイな石をまじまじ見る。「うん。これは売れるだろうな」
「宝石、異種」と、クレトンは首を横に振った。
「魔法石ですッ!」と、シュルストロンが続いた。「鉱物ではありませんッ! 資源ですッ! 資源ッ!」
「資源? つまり石炭みたいなモノか?」と、山田は顎をさする。
「そこらの資源の水準など軽く凌駕しますよッ!」と、シュルストロンは鼻息荒くそう言った。「論より証拠ッ! クレトンッ! 見せて下さいッ!」
「……むん!」と、クレトンが魔法石をギュっと握って気合を入れる。そして魔法石をポーイと投げた。「えい!」
放物線を描いた魔法石はチャポンと飲みかけの湯飲みに入った。すると、すぐさま湯飲みから真っ白な煙が吹き出てピキピキ音が鳴った。
「完成」と、クレトンが湯飲みを山田に差し出した。
「冷たい!?」と、山田は心底、驚いた。さっきまでお茶だったのに凍っていたからだ。「一瞬でカチコチに!? どうなってんだこれは!?」
「これが魔法石の力ですッ!」と、シュルストロンはガッツポーズを決めた。「ではクレトンッ! もう一丁ですッ!」
「むん!」と、クレトンが魔法石をもう一つ取り出して念を込める「えい!」
今度はそっと湯飲みにポチャリと魔法石が入った。さっきと同じ様にまた真っ白な煙が吹き出した。ただ違うのは、ピキピキではなく、ゴポゴポ音が鳴った。
「おい! 熱くなってきたぞ!」と、山田は焦った。凍ってたはずのお茶がみるみるうちに溶けたからだ。ハッキリと目の前で寿司屋ぐらい熱いお茶になったのだ。「どうなってんだ!?」
「言いいましたよねッ! これが魔法石の力ですッ!」と、シュルストロンはガッツポーズを繰り返した。