10 メイド・イン・メイド
10 メイド・イン・メイド
「こうもすぐ俺のマンションに戻れると、ワープじゃなくて増築した気分だ」と、山田が異世界から戻ってきた。相変わらず本まみれな山田のマンションだが、さっきの宮殿の一室よりはましだった。
「山さんッ! すみませんッ! こんなことになってしまってッ!」
「いや、別にかまわない。それより、あの部屋を見てシュルさんに、かなり親近感が沸いたな」
「そう言ってもらえるとッ! 気が楽ですッ!」
「しかし、ちょっと疑問なんだけど、シュルさんの仕事って要は軍人だよな?」
「はいッ! 近衛師団の突撃隊長でありますッ!」と、シュルストロンは咄嗟に敬礼した。もうクセになってるのだ。
「でだ、さっきの部屋はシュルさんの仕事部屋なんだろ?」
「そうですッ! 今回の計画のために割り当ててもらいましたッ!」
「そうか。いや、なんかな、あの部屋を見てると軍人じゃなくて官僚みたいだなって思ってな」
「……それがですねッ! 話すと長くなるんですッ!」と、シュルストロンが語ろうとしたその時だった、
「軍人、官僚。……プロ野球リーグ設立計画、遠因」と、褐色のメイドが異世界湾曲航法窓から急に現れた。シニヨンとロングスカートがよく似合っていた。
「あんた誰だ!?」と、山田は驚いた。「ノックぐらいしたらどうなんだ!?」
「クレトンッ!」と、シュルストロンが褐色のメイドことクレトンの隣に立った。「山さんッ! 紹介しますッ! 皇帝陛下の給仕部隊ッ! 酒隊長ッ! ヘンデッ! ヘンデ・クレトンですッ!」
「クレトン。仕事、酒、作成」と、クレトンはスカートの裾を少し摘み上げて会釈した。いかにもなメイドの挨拶だった。
「ああ。これはどうも」と、山田も会釈を返した。「それはそうと、メイドのお姉さんはどうしてここに?」
「心配、様子、見学」と、クレトンはボソリ。「シュルストロン。失敗、連続」
「勘弁して下さいッ!」と、シュルストロンは思わず苦笑い。「もう大丈夫ですッ! なんてったってッ! もうッ! 山さんがいますからッ!」
「たしかにシュルさん、苦労してそうだしな」と、山田はしみじみ言った。「俺を誘った時、必死だったもんな」
「我が帝国のッ! 威信がッ! かかっていますからッ! 当然ですッ!」と、シュルストロン。
「同意。失敗、不可」と、クレトンが続く。「絶対、不可」
「国家事業とは聞いているが、そこまで凄いのか?」と、山田は腕を組む。「正直、ザル予算の公共事業みたいなもんだと受け取ってるんだが」
「建国1000周年記念事業」と、クレトンが一言。
「建国1000周年記念事業!?」と、山田は驚きのオウム返し。「シュルさん! 聞いてねえぞ!」
「……歴史的事業」と、クレトンが心配そうに言った。「シュルストロン……相当……無茶……危険」
「……シュルさん」と、山田は不安そうな目でシュルストロンを見つめる。「聞いてねえぞ……そんな責任重大だなんて」
「山さんッ! そうッ! 気負わないでッ!」と、シュルストロンは山田の背中をバシッと叩いた。
「世の中カネですッ! それさえあればッ! どんな困難だってッ! 乗り切れますッ!」
「否、人、不在。逃亡」と、クレトンがバッサリ。「全員、責任、放棄」
「……どういうことだ?」と、山田の顔が青くなった。「シュルさん。説明してくれ」
「さきほどッ! 説明しようとしましたッ!」と、シュルストロンは不満気だった。
「そうだったっけ?」と、山田がクレトンを見る。
「さあ?」と、クレトンは知らん顔。
「話のッ! 腰を折ったのはッ! クレトンですッ!」と、シュルストロンは少し怒っていた。
「そう?」と、クレトンはまた知らん顔。
「そうですッ!」と、シュルストロンの鼻息が荒くなった。「そもそもッ! クレトンがいきなり部屋に入ってこなければッ! すんなり山さんに説明できたんですッ!」
「何だっていいから詳しく説明してくれよ」と、山田は疲れていた。「ヤバそうな話だってこと以外、まだ何も分かってないんだぞ俺は」
「では説明しますッ!」と、シュルストロンはやる気まんまん。「……さてッ! どこから話せばいいのやらッ!?」
「もう、どこからでもいいんだよ」と、山田が待ち構える。「俺は今日丸一日、予定を空けたぜ」
「帝国、歴史。やれ」と、クレトンが助言を送る。
「それいいな」と、山田はクレトンに乗っかった。「なぜ、こんなややこしい状況になったのか。事の始まりからしっかり話してもらおうじゃないの。ね、シュルさん」
「……ではッ! 我が帝国ッ! 誇るべきマツズーム帝国のッ! 歴史から説明しますッ!」と、シュルストロンが語り始めた。