9 ビルとビルの間の距離感
9 ビルとビルの間の距離感
「本当にすぐ着いたな」と、山田は辺りを見回した。15畳ほどの大きさの部屋だが、どこを見ても本、本、本。山積みのてんこ盛りだ。「シュルさん……俺の部屋よりずっとひどいぞ」
「山さんッ! すみませんッ!」と、シュルストロンはすぐ謝った。「整理整頓してませんッ!」
「たしか、ここは帝国の宮殿だよな?」
「はいッ! 我が帝国ッ! マツズーム帝国が誇る宮殿ッ! シメンキジョウ宮殿ですッ!」
「悪いが、ジジイが店主の古本屋にしか見えないぞ」
「本来ならばッ! 床は大理石でッ! 壁は見事な彫刻が施されているのですがッ! あいにくッ! 本で隠れていますッ!」
「天井だけだな。キレイなのは」と、山田は天井を見上げた。そこには羽の生えた全裸の赤ん坊にヒゲモジャで全裸のオッサン。やたら髪の長い女。青空。顔が濃い太陽。他にも色々と描き込まれていた。「宮殿と言うよりラブホの内装だなこりゃ」
「ここだけの話ッ! 皇帝の趣味ですッ! 否定的な感想はッ! 自重しないとマズいですッ!」
「シュルさん。声が大きいから、ここだけの話にならないぞ」
「すみませんッ! 山さんッ!」
「まあ、それはシュルさんの個性だし、いいとして……」
「ありがとうございますッ!」
「……本題に入ろうか」
「そうしましょうッ!」と、シュルストロンはガサゴソ本をあっちに置いたり、こっちに置いたり片づけだした。「ここらへんにッ! 机とイスがあるはずなんですッ!」
(こりゃ時間かかるな……ん? スマホが震えたな。アラームでもかけていたか?)と、山田はふとスマホを手に取った。画面にはしっかりと新着お知らせの表示。オマケにWiFiも線が3本クッキリ色がついていた。「おい! 異世界にもWiFiがあるのか!? どうなってるんだ!?」
「それはですねッ!」と、シュルストロンが手を止めた。「電波も窓を通じて繋がりますッ!」
「おお。動画も高画質でしっかり見れるな」と、山田は野球中継のハイライト集を見ていた。
「この技術は我が帝国だけですッ!」と、シュルストロンは誇りながら、ホコリにまみれていた。片づけても一向にイスと机は出てこない。
「なあ。本当にイスと机はあるのか? 本しか見えないぞ?」
「3か月前まではあったんですッ!」と、シュルストロンはまだ片づけ続ける。
「他に部屋はないのか?」
「他の計画でも使われているのでッ! ここしか空いていませんッ!」
「じゃあ。考えたんだけど」
「なんですかッ!?」
「片づけるより、俺のマンションで打ち合わせしたほうが早くないか? すぐそこだし」
「……たしかにッ! いい考えですッ!」
「じゃあ戻るか」
「そうしましょうッ!」と、女騎士はお先に窓の中に入っっていった。
「はあ……この窓、あんまり行き来したくないんだよな」と、山田はため息をつきながらも窓の中に入った。別に臭いワケでも、ベトつくワケでもないが、気が滅入る輝きを放つ窓なのだ。