婚約破棄されてみたものの
「なんか、今までと変わらなくない?」
「そうだなぁ」
おまえとの婚約を破棄してやるー!僕のジェニーをいじめただろー!と、大衆の面前で責め立てられてから1週間。
「ララの言う通りにならないじゃん。どういうことー?」
「うーん、まぁもうちょっと待っとこ」
「おけ」
お屋敷の外れの庭園で、今日もお紅茶を淹れながらゆったりアフタヌーンティー。
目の前に座るララはお屋敷の従者さんだが、私がワガママを言っていつも相手をさせている。
『 お嬢様、このまま行くと死にますよ 』
私とララのファーストコンタクトは、中々に衝撃的だった。
初めまして早々死の宣告。私にそんなことをしてくるのは、後にも先にもララだけだろうなぁ。
「えーと、何エンド?だっけ?」
「王子エンド。最終的にお嬢様は修道院か僻地行き」
「修道院ってララ行ける?」
「無理だろ」
「だよねー」
ララが居るなら修道院もありかなーと思ったけど、男の子にはやはり無理らしい。僻地ってどんなとこかなぁ。
「僻地だったら行けるよね?」
「行ける」
「じゃあ僻地決定ー」
わーい、とぱちぱち拍手しながらも真顔なのがララらしい。
「ね、ね。もし何もなかったらどうする?」
「それは無いと思うけどなー」
「もしだってば」
「うーん。じゃあその時は僻地ピクニックする?」
「…する!!」
僻地ピクニック。なんて楽しそうな響きなんだ!やはりララは天才だ。
『 俺的には、お嬢様がヤバいことになっても関係ないんすけどね 』
ララの言葉回しはいつもどこか独特だ。聞いたことの無い楽しい音が隠れている。
ララと毎日喋っている内に、私も段々とララ語が使えるようになってきた。成長成長。
「ピクニックなんて久しぶりすぎ!サンドイッチとふつーのお弁当どっちが良い?」
「俺はどっちでもいいすよ」
「じゃあどっちも!」
「お、いいね。流石お嬢様」
もう僻地ピクニックのことで頭がいっぱいだ。僻地がどこかは分からないけど。多分ララが居るから何とかなる。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「ララ、次はどこ行く?」
「最近巷ではアレが流行ってるらしいす、アレ」
「アレって?」
「キャッサバ団子」
「変な名前!本当にそれが流行ってるの?」
「マジっすよ。紅茶とミルクと砂糖をうまい具合に合わせて、その中にキャッサバ団子を入れたらバカ美味いす」
結局何も無いまま、1年が経過してしまった。
あいも変わらず私はララと過ごしている。
「そのキャッサバ団子、料理長にも作れるかな?」
「ぁー、多分行けるけど、やっぱ初めては専門店がおススメ」
「そっかぁー。専門店って街にある?」
「うーん……お嬢様甘党だから、コンチャとか良いかも」
「明日行こ」
「えー急っすね」
つい先日決行したララとの僻地ピクニックは、本当に楽しかった。マジで。
婚約破棄されてからは、厳重だった護衛も数が減り王妃教育も無くなった。今ではララと一緒なら、ふらっと街へ行ってみたりする事も可能だ。開放感の塊。
「私、婚約破棄されたけどさぁ」
「はい」
「なんか、今までと変わらなくない?」
「そうだなぁ」
───てか、前よりずっと楽しいでしょ。
あぁもう。ララは何でもお見通しなんだ。