第2話 心地よい目覚め
なんだか、文章が読みづらいような……
試行錯誤しております。
サラサラと水の流れる音と、時折聞こえる子供たちの笑い声に、龍鬼はゆっくりと目を覚ます。
「ここは……?」
体を起こすと、自分が布団に寝かされていたことに気づく。
隣には小柄な少年――バンが寄り添うように寝ていて、ここが彼の家なのだと悟った。
着ていたものはいつの間にか黒い着物に替えられており、不快だった汗と砂も綺麗に拭われて、しっとりと纏わる布になんとも言えない感動を覚えた。
「あっ、眼帯――」
龍鬼はハッと右眼に手をやる。そこには滑らかな革製の眼帯があり、外されていないことにホッと息をつく。
刀のことも思い出し、焦って周りを探すと、すぐ右手にコツン、と鞘が当たった。
もう辺りは夕焼け色に染まり、薄暗くてよく見えないが、身につけていたものは全て汚れを落とされて枕元に綺麗に畳まれているようだ。
「おい、ガキ。じゃなくて、えーと、バン、起きろ」
龍鬼は荒々しくバンの肩を揺すると、バンは目を擦りながら大あくびをする。
「あ、あんちゃん起きたのかい……気分はどう? あんちゃんいきなり倒れたんだぜ、覚えてるか?」
「ああ。ここはお前の家か?」
「そうさ。このアズマの国一番の宿、サボテンがおいらの家さ!」
バンの言葉に、龍鬼は一瞬ぽかんと口を開け、その直後物凄い形相をしたかと思えば、バンの両肩を思いっきり掴み、ガクンガクンと揺らした。
「本当か!? お前!! ここが!! あの!!」
「なんだいあんちゃん、さてはサボテンのこと知ってたのかい? そんなに嬉しそうな顔されちゃあ、こっちも鼻が高――」
「ここ、アズマの国、なんだな!?」
「へぁ?」
龍鬼の関心が、実家の宿ではなくこの国に対するものだと気づいて、変な声を出してしまったバンは顔を赤らめる。
「お、おう」
バンが頷くと、龍鬼は全身の力が抜けたかのように、再び布団に寝転がった。
「着いた……ここがアズマの国……長かった……」
「あんちゃん、どっからきたの? そんなに遠くから来たんか?」
「あー、なんだっつったけか……確か、ルファラミア?」
「ふぅん、あそこからなら歩いて二日で着くんだけど……あんちゃんどのくらい歩いたの?」
「え?……丸四日間くらい?」
「もしかして迷子だったの?」
「うるせぇ、俺は方向音痴なんだよ。いいじゃねえか、そのおかげでお前は助かったんだからよ」
「本当その通りだな! あんちゃんが方向音痴で本当助かったよ!」
「お前な……」
悪意のない笑顔に、龍鬼は諦めたようにため息をつく。
「まぁ、腹空かして倒れたあんちゃんを担いでここまで運んだのはおいらだからな、それでおあいこだ!」
「そういえば……」
龍鬼は、あれだけの空腹と喉の乾きがいつの間にか満たされていることに気づいた。
「あれ、あんちゃんもしかして覚えてない? ここに着くなり、店で下準備してた食い物も飲み物もあっちうまにたいらげちまったんだぜ。おかげで今日はもう店じまいだぜ」
「わ、悪りぃ、全く覚えてねぇ……」
「まぁしょうがねぇって。食うだけくったらまた寝ちまったしな。アキがギャーギャー騒いでも全然起きなかったし、ありゃあ気絶に近いな」
「アキ?」
「あぁ。ここ、いまおいらと妹のアキで切り盛りしてんだ。昔は父ちゃんと母ちゃん二人でやってたんだけど……母ちゃんは病気で寝たきり。父ちゃんは……」
顔を伏せ、どんどん声が小さくなっていくバンの頭を、龍鬼はわしゃわしゃと撫でる。
「まぁ、世話になったしな。お前の妹にもちゃんと謝らないとな」
「あんちゃんはこれからどうする?金があるならうちに泊まってけよ」
「おいおい、金がなくても泊まらせてくれよ。俺ァ命の恩人なんだろ?」
「それはそれ、これはこれ。金はあるのかい? ないのかい?」
「分かってるくせに」
龍鬼は枕元にある私物のうち、深緑色の布袋をぽいとバンに投げる。
「好きに使え。そんなに持ってても俺には使うもんがねぇからな」
「流石あんちゃん!」
ずっしりと、ジャラジャラ音のなる袋に頬ずりすると、バンはどれどれと言った表情で布の絞りを開く。
「こ、これは……!」
バンは丸い大きな目を見開いて龍鬼を見る。
「ルファ通貨はアズマじゃ使えねぇよ、あんちゃん……」
「あ」
こうして二人は、アズマ国の入口、大門の近くにある両替屋に向かうことになった。