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龍の左眼  作者: りりすけ
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第1話 遭遇

「あっちぃーー」


 茹だるような暑さのなか、燦々と降り注ぐ太陽の光を遮るものは何も無い。


 男は、腰に下げていた水袋に手を伸ばす。しかし、それは既に空になっていて、数十分前に飲み干した自分を思い出した。


「――チッ」


 男は舌打ちをすると、空の水袋を半ば八つ当たりのように地面に叩きつける。


「あのくそババァが言ってたこと間違ってんじゃねぇのか!? 二日歩けば着くとか抜かしやがって……こちとらもう四日も歩いてんだぞ!!」


 大声で叫ぶと、男は茶色のローブの内側から、先日立寄った国で買い取った地図を広げる。


「アズマの国……んんー、わかんねぇ……」


 熱風が吹き荒び、砂がこれまで歩いてきた道の足跡を消す。彼はもう、自分がどの方角から歩いてきたのかさえ、分からなくなっていた。


「くっそーー、喉乾いたし……腹減ったし……」


 男はどすん、とその場に座り込む。

 申し訳程度の日除けであるフード付きのローブで内側は蒸れ、けれども脱ぐと刺すような日光で余計に暑く――熱くなる。


「あ゛ーー!! じっとしてる方が暑苦しい!!」


 男は立ち上がると、よろよろと歩き始める。


 そこへまた、一迅の熱風が押し寄せた。


「くっ……」


 咄嗟に目を隠したは良いものの、口の中に砂埃が入り、ジャリジャリとした食感が、彼の苛立ちに拍車をかける。


「俺、ここで干からびて死んじまうのかな……」


 諦めそうになったその時だった。


「ぎゃあーーー!!」


「ん? なんだ?」


 男の前方で、甲高い叫び声とともに、大きく砂埃が舞い上がっている。それは声とともにだんだんと大きくなり、やがて――


「ん!? おいおいおいまてまてまて、こっち来んな!!」


「助けてくれぇーーー!!」


 子供が勢いよく、男の腹部に飛びついてきた。


「ぐふぅっ!!」


「おっさん!! 『鱗人』だ!! 一緒に逃げよう!!」


「ったく、こんな時に面倒な……」


 男は少年を腹から引き剥がすと、ぽいっと背後に投げる。


「おい! なにすん……だ……え?」


 男は懐から長身の刀を引き抜くと、前方から猛進してくる異形の怪物を待ち構える。


 それは、巨大な蛇の体に何本もの蜘蛛のような脚が生え、目は無く、胴体と首の境目から裂けているかのような口を開けながら突進してきた。


「戦う気か!? 無理だおっさん!! 逃げろ!!」


 男は少年の言葉を無視し、刀を縦に構え峰に手を添える。


 一瞬、男の左眼が青く輝き、それに呼応するように、刀身も青い光を放つ。


「もうダメだぁ……あんなちっこい刀すぐへし折られちまうよ……」


 少年はうつ伏せになり頭を覆う。


『天を突き、地を穿て』


 ぽつり、男が囁く。


 その瞬間、刀から青い光が吹き出し、それが巨大な刀を形作ると、突進してきた化け物の巨体を真っ二つに切り裂いた。


 化け物の巨体は、男と少年の脇を、石で流れを分けられた川のように滑り、どす黒い血を吹き出しながら止まった。


 男が左眼を閉じると、青い光はぱっと消え、そして後ろを振り返り、未だに頭を抱えうずくまっている少年を見下ろす。


「おい、ガキ」


「…………」


「おい、お前! もう起きていいぞ!」


「……へ?」


 少年がおずおずと顔を上げると、そこには真っ黒な短髪に右眼に眼帯をした、若い男が立っていた。


「おっさん……じゃ、ない……?」


「失礼なやつだな。俺ァまだ18だ」


「ごめんよ、恩に着るよ、あんちゃん。被りもんしてたから顔が見えてなかったんだ」


 ぱっぱっと体の砂を払いながら、少年は真っ二つになった怪物の亡骸を見渡す。


「それにしても、あんちゃんすげぇ強えな!! 鱗人を一撃でやっちまうなんて!」


 少年は先程まで泣きながら鼻水を垂らしていたことも忘れ、亡骸に一蹴りした。


「やめとけ。まだ終わってない」


 彼は少年を脇に抱え、ずんずんと巨体の頭の方へ向かう。そして少年をその場に下ろすと、


「これを見ろ」


 と、男は刀の切っ先で、肉塊の中に小さく煌めく緑色の石を指す。


「こいつは『龍核』だ。鱗人はこれを破壊されるまで再生する」


 彼は慣れた手つきでその石を抉り出すと、その切っ先を突き刺す。


 石は簡単に砕け、それと同時に、血と臓物を垂れ流していた化け物の亡骸が灰になって、消滅した。


「あんちゃん、何者?」


 少年は男の顔をのぞき込みながら、首を傾げる。


「俺の名は龍鬼。お前は?」


「おいらはバン。改めて、ありがとう、助けてくれて。あんちゃんはおいらの命の恩人だ!」


 バンが右手を差し出すと、龍鬼は満更でもなさそうな顔でその手を握り返す。


「ところでさ、あんちゃん、こんな所でなにしてんだ? 見たところ、旅人? それにしては荷物が少ねぇような……」



「旅人……まぁそんなところだ。そういえば、お前に聞きたいんだが……」


 龍鬼は、そこまで言うと、途端に強烈な喉の乾きと空腹に襲われ、意識が遠のくのを感じながらその場に倒れた。


「あんちゃん!? おい、しっかりしろ!! おーーい!!」

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