第14話 鱗化
勢いよく振り下ろされたそれをひらりと躱し、反撃に転じる。
ボソボソと何かを呟きながら、復活した相棒に人差し指と中指を這わせる。光を纏う切っ先を、ソーマの右腕に突き立て、そのまま一気に貫く。皮一枚で繋がっているが、肘から下は血を吹き出しながらブラブラと揺れて、ぶら下がっているだけの状態だった。
巨大な剣は支えを失い、地面にめり込む。
ソーマは左手に柄を持ち替えながら、邪魔だと言わんばかりに右腕を食いちぎる。
飛び出た骨と筋肉がモゾモゾと蠢くと、そこから肉が盛り上がり新しい腕を形成する。
しかし、それは腕というにはあまりにも歪だった。不自然に大きく、関節は二つあり、生え変わった所からびっしりと埋め尽くす鱗がぱくぱくと息をするように開いては閉じを繰り返す。
「気持ち悪っ」
見ているだけで鳥肌が立ちそうなそれに思わず言葉が漏れ、横から迫っていた剣への反応が一瞬遅れる。
『弾けっ、琥珀!』
刃が触れる寸前に、その間に青みがかった透明な壁が現れ、触れた剣は反動で逆方向に吹っ飛ぶ。露天が立ち並ぶ大通りへと向かって。
龍鬼も壁に触れた瞬間弾き飛ばされ、空中に放り出される。体勢を崩しながらも着地し、すぐに剣を受け止めに行く。
「くそっ、間に合わ――」
龍鬼が手を伸ばした先に、素早く露天の屋根を伝って移動してきた影が、自分の数倍にも及ぶ鉄の塊である剣を、片手で受け止めた。
「どうやら、勝負は着いたみたいだね」
そこには、後ろに三人ほど若い男を引き連れた、ロアの姿があった。
「まったく、力を使いすぎるなとあれほど言ったのに……エメリッヒ、私が分かるかい?」
ぐるんっ、と首だけを回し、彼は声のした方を向く。
「い……イルド……たいちょ」
「うん、まだ自我はあるようだね」
「わた……私……は」
「でも、もう君、戻れないでしょ」
「……!」
ソーマは、自分の体を見下ろす。
うぞうぞと、自分の意志とは関係なく動く右腕にびっしりと生える鱗。
「あっ……ああっ……いやだっ」
ソーマは左手で鱗を無理やり引き剥がす。鱗と一緒に皮膚がもげ、内側からどす黒い血がドロドロと溢れた。
「残念だけど、鱗化が始まったようだね」
「まだ……やれます……わた、わたわたわたわたしはァアァッ」
ソーマは頭を抑える。メキメキミシミシと音を立てながら、骨のような角が左右の耳の上から皮膚を突き破って生え出た。
「悪いけど、身内の始末はこちらでやらせてもらうよ、龍鬼くん」
「あんた……さっきの」
ロアは優しく微笑むと、腰に下げていた二本の剣を鞘から抜く。
ギジュギジュと、不気味に笑うソーマだったものの首を、彼は迷いなく切り落とした。
しかし、首を落とされてもなおビクビクと動く体が、ロア目掛けて襲いかかる。
「あぁ、そうだった。君の龍核はここだったね」
ロアは細く、突き刺すことに特化した左手の得物で、首のないソーマの体の、鳩尾を貫く。
――パキンッ
何かが割れる音と共に首なしは動きを止め、次の瞬間、内側から弾けるように肉体が飛び散り、破片はそのまま灰になった。
「思い出したぜ、あんた」
龍鬼は、血を浴びた彼の横顔を見てようやく、ロアという名前に何故聞き覚えがあったのかを思い出す。
「ワゴウ狩りのイルド……生きていたとはな」
とりあえずここで一区切りです。かなり中途半端なところで区切ってしまいました。しばらく主人公の出番はありません。