第11話 殲滅隊③
ソーマ・エメリッヒは、七年前の殲滅隊結成時、副隊長に任命された。
日頃から肉体を鍛え上げ、自分が手にした力に甘んじることなく、日々訓練に勤しんだ結果、努力が報われたと喜んだ。
しかし、イルド・ロアという隊長に任命された男は別格だった。彼だけは、他の神器使い達が束になってかかっても、足元にも及ばないだろう。
何が彼をそんなに高みへ導いたのか、ソーマは憧れる反面、悔しくてしょうがなかった。
若干十五歳にして『あの実験』を乗り越え、誰よりも守護者に近い力を持ったと、普段は謙虚な彼が自負するほど、自分に自信があった。それ故に、イルドと手合わせし、敗北した際に感じた劣等感は凄まじいものだった。
それからというもの、ソーマはさらに自分にきつい訓練を強いた。少しでもあの男に近づくために。
それが、いま。
ソーマの心は完全に折れかかっていた。
攻めているのは終始ソーマの方で、龍鬼はその全てを受け流していく。
彼の龍人の力は使われていないようだった。ソーマも、本来の力を出しては居ない。人通りがないとは言え、少し歩けば大通り。ここで力を使おうものなら、否応にも怪我人が出る。
彼にただの剣の技術では適わないことは、頭では分かっていた。
目の前に居る龍人の男のことは、随分前から知っていたから。
ソーマが、とある『実験』に参加する少し前。
ワゴウという国が、たった一人の龍人の手によって滅ぼされた、という話を耳にした。
龍人が国を滅ぼすことは、今の時代珍しいことではない。
しかし、滅ぼされたのがワゴウという国であることが、その異常さを物語るには充分すぎるものだった。
ワゴウの国。別名『龍人の国』。ワゴウは、各地から龍人があつまり形成された集落がそのまま国になったと言われている。
それを、たった一人の、それも、齢十にも満たない子供に滅ぼされたのだ。
頭では分かっていたつもりだったが、自分の人間としての全力を、殺意が全く無い剣で全否定され、ソーマはもう、自分が今までしてきた無意味な努力への虚しさに心が折れてしまいそうだった。
「なぜ、なんだ」
ソーマは追撃の手を止め、ぽつりと呟く。
「あ?」
「私は努力した。出来損ないの兄とは違い私はどんな苦痛にも耐え、自分が出来る最大限の努力はした。なのに、なぜ届かない」
「知りてぇか?」
龍鬼は刀を肩に乗せ楽な体勢になりながら、ヌッと顔をソーマに寄せる。
「お前の限界がそこだからだよ。龍人と、紛い物の」
「紛い物……」
「お前の、なんだっけ? 神器の力? 知らないけどよ。本当にそれ龍の力宿ってんのか? お前弱すぎ」
ソーマにとって、それは耐え難い侮辱だった。
それまで彼が歩んできた人生を、簡単に踏みにじるような言葉である。
「……なめるな」
ソーマには、最早周囲に気を配る程の余裕はなかった。目の前にいる、排除すべき敵を殺すことだけを考える。
「これまで、私が何人の龍人を殺してきたと思ってるんだ」
ソーマは剣を大きく振りかぶる。
「貴様もすぐにあいつらと同様に灰にしてやる」
そして、勢いよく、己の心臓を貫いた。