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龍の左眼  作者: りりすけ
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第9話 殲滅隊①

 「――で、お前は良かったのか? あの場で一緒に話を聞かないで」


 龍鬼は、再び夜の通りを歩いていた。隣には、綿菓子を頬張るアキの姿がある。


 「いいのよ。父親の話なんて、私が聞いても意味ないんだから。だいいち顔も知らないし、残っているものといえばこの国を裏切った国賊としての汚名だけ。私にとっては血の繋がりがあるだけの他人よ」


 「こりゃまた随分な嫌い様だな」


 「嫌いじゃないのよ。『憎い』のよ。いままで散々兄さんが嫌な目にあったっていうのに、今頃遺書なんか見つかって……これ以上兄さんの悲しい顔なんて見ていられないじゃない」


 「そっちが本心ね」


 龍鬼がそう言うと、アキは兄そっくりの瞳を釣り上がらせながら彼を睨んだ。


 「ねぇ、アレも買ってきて」


 「へいへい」


 龍鬼は、手渡された金で言われた通り飴菓子を買ってくる。


 「これこれ、アモネの実を水飴に潜らせて冷やした飴! おいしー! ……あげないわよ」


 龍鬼が物欲しそうに見ているのに気づき、アキはサッと飴を隠す。


 「えぇ〜、俺の金で買ったんだし少しくらい良いじゃねぇかよぉ」


 「えぇ〜、ってあんた……気持ち悪い声出さないでくれる。それにこのお金はもう私たちのものなの。この飯泥棒」


 「金払ったのにまだそれ言うのかよ……まぁ、お前の作る飯は美味かったからいいけどよ」


 「当たり前よ」


 ふふん、と得意げに鼻をならすアキ。


 二人はしばらく、様々な屋台を見て回った。


 「なぁこれ、どこか目的があって歩いてるのか?」


 「そんなわけないわよ、ただの暇潰しよ」


 「ならもう戻ってもいいんじゃねぇの? 結構時間潰したんじゃねぇのか」


 「んー、もうちょっと」


 アキは、宿ではあまり見せなかった子供らしい顔で屋台から屋台へと渡り歩く。


 龍鬼はそれを微笑ましく眺めていた。



 ♢♢♢



 「なぁ、おい」


 「なによ」


 飴を無心で齧り付いていたアキが、邪魔するなと言わんばかりの声音で応える。


 「あれ、何」


 龍鬼は巨大樹の隣にある、大きな城を指さす。天守閣をもつそれは、赤い屋根瓦と白い城壁が相まってとても美しい様相をしていた。


 「あぁ、あれは王族と守護者様が住まわれている城ね」


 「へぇ、立派だなぁ。あの周りにはあんまり人気が無さそうだな」


 龍鬼はちらりと背後に目をやった後、突然アキをひょいと右腕に抱え、勢いよく走り始めた。


 「――ちょっ、なにっ、なんなのよぅ」


 「ちょっと黙ってろ、舌噛むぞ」


 ぎゅっと、アキが口を結ぶのを確認すると、龍鬼は足に力を込め、高く跳躍する。



 人間が跳べる範疇を軽々と超え、龍鬼はアキを片手に易々と、通りに軒を連ねていた店々の屋根に着地する。その後も速度を落とすことなく屋根から屋根へ飛び移りながら、遠くに見えていた城が目の前に見えるくらいまで近づいたところでその足を止めた。


 だらりと力は抜けているものの飴の棒だけはしっかりと手にしているアキをそろりと下ろす。


 「あ、あんた……」


 怒られると思い覚悟したが、次の瞬間、アキの瞳から大きな涙がこぼれ落ちる。


 「怖かったじゃない! なんなのよいきなり!」


 「えっ、あっ、すまんっ」


 思わぬ反応に、龍鬼は自分の裾でアキの目を拭うことしかできなかった。


 しばらくすると落ち着きを取り戻し、龍鬼を見上げながらぽつりと呟く。


 「あんた、『神器使い』だったのね。」


 聞きなれない言葉に、龍鬼は首を傾げる。


 「他の国でなんて言うかは知らないけど、あんたみたいな人離れした身体能力を持つもの達のことを、私たちの国では神器使いって言うのよ。あんたの腰に下げてるそれ、神器なんでしょ」


 「神器かどうかは知らん。これは師匠のおさがりだからな」


 「おさがりって……神器っていうのは、龍が守護者様以外に力をお与えになるときに使われる媒体なんでしょう? そんなものをおさがりにするなんて……あんたの師匠って何者」


 「んー、一言でいうなら変人、だな」


 「あんたを見ていればわかる気がするわ」


 「なぁ、この国にもその『神器使い』ってのがいるんだろ? どんなやつ?」


 わくわくした表情で聞いてくる龍鬼に若干引きつつも、アキは話を始める。


 「この国には、守護者様の他に、七人の神器使い様がいらっしゃるわ。その方達を通称『殲滅隊』と言って、殲滅隊は約七年前に結成されたと言われているわね。彼らは主にアレストロとの国境に目を光らせ、他国から龍人が侵入しないよう目を光らせ、時にその名の通り殲滅してくださっているという話しよ。そのおかげか、この七年間他国の龍人が侵入したことは一度もないの」


 「なるほどな、バンが言ってたのはそういう事だったか……」


 「毒の蔓延はあったけれど、あれは人間によるものだったし、防ぎようもなかったわ」


 「ちなみに、その殲滅隊っていうのはどんな見た目してるんだ?」


 「小さいころ一度だけ見たことがあるんだけど……たしか、黒い軍服に金の糸で刺繍がされていて……」


 「あんな感じ?」


 龍鬼が親指で背後を示す。


 「そう、まさにあんな感じ――って、えっ」


 アキは一瞬、何が起きているのか分からなかった。


 目の前で火花が散ったかと思うと、その直後金属が擦れたような音が耳を貫く。


 「ようやく追いつきました」


 「斬りかかりながら言う台詞かよ」


 龍鬼は斬りかかられる直前、鞘から抜いた刀を背面に滑らせ、それを受け流した。


 「右目に黒い眼帯、そしてその青く光る長刀……やはり貴方、『鱗人狩りの龍鬼』ですね」


 一足で距離を取りながら、手にしている反りのある片刃の剣を持ち直す。


 「いつの間にそんな二つ名が付いたんだか。俺も有名人になったもんだな」


 やや灰味がかった青い髪をひとつに束ねた彼は、まだ若々しい声と龍鬼と比べて少し低いその体を見るに、まだ齢十四、五のように思える。


 「えぇ、それはもう……かの有名な『ワゴウの大殺戮』で、この界隈ではかなり名を轟かされておりますから……」


 「へぇ! それ知ってるってことはあんた思ったより歳いってんだな」


 「この力を手にした時、肉体は成長をやめました。年齢は、ついこの間三十を超えたところです」


 「おっさんだな!」


 それまで端正な顔立ちで涼しそうな表情を崩さず話をしていた彼だったが、龍鬼のその一言にピクリと眉を動かす。


 「龍鬼さん……あなたが如何にして大門の『鈴鳴』を通り抜けられたのかは分かりませんが、ここはアズマの国。他国の龍人は排除するのが私たち殲滅隊の責務。そして貴方のような――龍人の中でも常軌を逸した化け物ならばなおのこと。


 その首、いただきます」

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