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龍の左眼  作者: りりすけ
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第0話 血色の少女

小説家になろうさん初投稿です。ドキドキする……

 

 灰色の空の下、建物が崩れ、その瓦礫に押し潰された人々の呻き声が聞こえる。中には、明らかに人の手で殺されたと思われる、軍服を身につけた男のそばで泣きじゃくる声もあった。しかしその声もだんだんと弱まり、聞こえなくなる。

   

 まだ微かに息のある者も居たが、肉体の一部が欠損していて、しばらくもしないうちに息絶えた。

   

 その、まさに終末のような景色の中、ひとりの少女が立っていた。こめかみから渦を巻く角が左右非対称に伸び、肩と腰の間からは歪な翼が生えている。そして何より、真っ赤に燃えるような赤色をした長い髪が、彼女が人間ではないことを物語っていた。

   

 彼女はぼーっと、地面に倒れ絶命しているひとりの青年を眺めていた。ほかの死体とは違い、彼だけは安らかに眠っているような表情をしている。しかし、胸のあたりには何かに貫かれたような跡があり、右腕はどす黒く変色し、決して穏やかな死を迎えたようには見えなかった。

   

 少女は、彼女より一回りも大きな彼を軽々とその腕に抱えて、そして、叫び声をあげる。金属と金属を勢いよくぶつかり合わせたような、なんとも形容し難いその声は、空気を振動させ、彼女の周囲を吹き飛ばした。

   

 彼女は、泣いていた。大きく見開かれたその瞳から、ぶくぶくと血涙が溢れては、青年の頬を濡らす。縋るように抱きしめるが、その男からはなんの温もりもなく、彼女は男の死を受け入れるまでその場で何時間も、血の涙を流し続けた。


   

 ぽつぽつと、空から雨が降り始める。少女の周りを囲う死体がそれに晒される中、彼女はハッと我に返り、腕の中の青年が濡れないよう翼で覆い、ゆっくりと歩き始めた。道を遮る肉塊があれば、軽く手を払う。そうするとそれらは簡単に吹き飛び、彼女の歩む先だけ道が出来た。

 

   

 しばらく歩くと、森が見えてきた。彼女は慣れた足取りで中へと続く小道へと進む。

   

 奥へ奥へと突き進むと、ぱっとひらけた場所に出る。大きな泉を中心に、その周りには真っ白な花が咲き乱れていた。灰色の雲が陽の光を遮り、高くそびえ立つ木々がさらに暗く影を落としているのにも関わらず、その泉と花がだけが、まるで別世界のように美しい光を放っていた。

   

 彼女が花畑に足を踏み入れると、そこから、真っ白だった花弁が一気に真っ赤に染まっていった。その色は、彼女の髪と瞳の色と全く同じの、血の色。

   

 少女は花を踏み潰すのも厭わず、泉へと進む。


 泉に足を入れ、少し進むと水が腰のあたりまでくる深さになった。生温く心地よい泉の水に、彼女は腕に抱えた彼をそっと降ろす。泥や血に塗れた彼の体を丁寧に洗い、綺麗になると、また彼を抱えて泉から出る。


 さらに森の奥へ進むと、小さなログハウスが見えた。


 そこは、彼女と彼がひっそりと逢瀬を重ねた、秘密の家だった。

 

 中に入ると、木の良い香りが、彼女の周りを満たし、心を落ち着かせる。

   

 部屋の片隅にある小さなベッドに、青年を横たわらせ、彼女もその隣で横になろうとする。しかし、彼だけでいっぱいになってしまったベッドには少しの隙間しかなく、彼女は少し考える。そして、思いついたようにその場で軽くぴょんと飛び跳ねると、彼女の体は瞬く間に小さくなり、角も翼も消えた。

   

 彼女は彼の腕を枕に、近くにあった毛布を被り、彼の腕を自分に巻きつけ、自らもまた、彼の冷たい体にしがみつくように腕を回す。



  『寝れないの? ユキ。雷が怖い?』

  ――うん。

  『しょうがないなぁ。僕が一緒に寝てあげるからね』

  ――うん。ずっと一緒にいてね

  『大丈夫。僕が守ってあげるからね』

  ――大好き、スバル。


   

 もう何年も前の、愛しい彼とのやり取りを思い出しながら、彼女は眠りについた。




   

 数年後、この地には新たに国が築かれる。国の名はアズマ。広大な砂漠に囲まれた小国で、唯一のオアシスとされ、多くの人々から愛されるのと同時に、多くの侵略を受けてきた。しかし、それらからは、赤い龍から力をさずけられた『龍人』が、代々国を守っていた。そして彼らは皆、龍から一つの名を与えられる。

 

 龍人――スバル――と。

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