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不眠不休で研究に熱中していたマルグリットが、
倒れて医務室に連れて行かれた翌日……
魔法科生の寮の玄関ロビーに、マルグリットとドナルド、
昨日の一件で、友人になった騎士科のグリフィス……
三人の姿があった。
マルグリットとドナルドは、魔法科生らしく白いローブを
着用していた。
マルグリットは、昨日はグリフィスに断られた魔道具を、
友人になった記念にと、無理矢理押し付けていた。
「だからぁ、受け取ってくれるよね?」
「……」
「頑固だなぁ……うーん、じゃあ、ちょっと右向いて!」
「え?何で……?」
「いいから……右向け右!」
マルグリットが掛けた号令に、ついつい、体が反応して
グリフィスは右を向いていた。
マルグリットは素早くグリフィスの左耳に
右手をあてがった。
「!……な、に?」
「大丈夫?痛くないよね?」
マルグリットはグリフィスの左耳に、
魔道具のピアスを取り付けていた。
十三ミリ幅のシルバーのフープピアスには、
防御障壁・抗状態異常・抗菌衛生が付与されていた。
外れないようにする為、マルグリットはイヤーカフではなくピアス……それも、コンクと呼ばれる耳の穴付近の軟骨に穴を穿ってピアスの魔道具を付けていた。
いきなり軟骨に穴を開けたのだから、痛くない訳が無い。
マルグリットは、声を上げなかったグリフィスに好感を
持った……とはいえ、痛みが続かない様にすかさずヒールを掛けたので、実のところ何とも言えないが……
そんな二人の様子を、マルグリットに面会に来ていた、
エリュシオン王子がジッと見つめていた。
いきなり近づいたかと思うと、マルグリットの右手を掴み
何をやっているのかと詰め寄っていた。
「ちょっ…離し……て……」
エリュシオンは、手を離すのではなく、
手を引いてマルグリットを引き寄せた。
「騎士科の生徒か……二年生?名は?」
「は、はいぃ……騎士科二年の、グリフィス・ウォルターと
申します」
「向こうの、彼は、魔法科生……?」
「は…奴ですか……?彼は……」
エリュシオンに聞かれて、ドナルドの事を話そうとしていた
グリフィスの声を遮り、マルグリットへの面会の手続きを
していたクリストファーがエリュシオンに話し掛けていた。
「エリュシオン様、マルグリット嬢は本日外泊届を出して、出掛ける、と……」
クリストファーは、エリュシオンが腕の中に、白いローブを
羽織っている娘を捕えていることに気が付き眉をひそめた。
「シオン……その娘は?」
「あ?ああ、この娘がマルグリット嬢だ」
マルグリットはエリュシオンの、意外に逞しい腕に
がっちりと抱え込まれ抜け出せないでいた。
マルグリットは溜息をつくと、エリュシオンに
話し掛けた。
「あの、手を……お離し下さい……」
「シオン……御令嬢を放してください」
「ッチ……」
(うぁ゛舌打ちしたよ……この王子様)
エリュシオンから解放されたマルグリットは、婚約者である
クリストファーに軽く礼をすると、ドナルドとグリフィス、
二人の側へと歩いて行った。
振り返りもせず、ドナルドとグリフィスの所に歩いて行ったマルグリットを見て、エリュシオンは胸がざわざわして、
落ち着かないような気がしていた。
ドナルドはつい、いつもの様に、マルグリットに気安く
愛称で呼び掛けていた。
「マギィ~、あの二人って……」
ヒソヒソと小声で呼び掛けたつもりのドナルドだったが、
耳聡いエリュシオンがマルグリットを愛称で呼んでいる
事に気が付いた。
「……そう、第二王子と、アトキンス侯爵家の……」
ヒソヒソ声で聞いてきたドナルドに、マルグリットも
ヒソヒソと声を潜めて答えていた。
「それより、もう出掛けないと間に合わないよ」
グリフィスが、ドナルドとマルグリットを急かした。
「うわぁ~ダック、急がなくちゃ……グーフィーも、
行くよ!!」
三人は慌てて、魔法科生の寮を飛び出していった。
呆気にとられているクリストファーを置き去りに、
エリュシオンは三人の後を追って、外に飛び出して行った。
************
三人の姿は、門の外……乗合馬車の停留場にあった。
エリュシオンは物陰から三人の様子を見ていたが、
追いついてきたクリストファーと合流すると、
偶然を装って、三人に近付いて行った。
「おや、マルグリット嬢も街へ?」
手を上げて胡散臭い笑顔で話しかけてくる
エリュシオンを見て、マルグリットは引き攣った
笑顔を浮かべていた。
(何で王子様が乗り合い馬車?)
マルグリットの疑問に、まるで答える様に、
エリュシオンは言葉を続けた。
「お忍びで街に行くときは、乗合馬車で行かないとね」
「巡回便の停留場が出来て、便利になりましたよね……」
一日に三回、王都の街を巡回する乗合馬車の停留場が、
三年前(第二王子が入学してから)から、裏門を出た場所に
設置されていた。
王都に屋敷の有る貴族は、自家用の立派な馬車で
表門から入って、乗降専用の施設を使用していた。
乗合馬車を使うのは、使用人や一部の余裕の無い貴族、
後はお忍びで出掛ける場合とか、何かしら理由のある
生徒ばかりだった。
(はぁ、王子様なら、目立たない馬車を用意するなんて、
簡単でしょうに……物好きな……)
マルグリットは、まさか自分たちの後を付いて回る為に、
エリュシオンが現れたとは、思っていなかった。
「それで、君たちはどこまで行くんだい?」
エリュシオンがさり気なく、ドナルドに問いかけていた。
第二王子に話しかけられたドナルドは、何も考えずに、
行き先を教えてしまうのだった。
「ハンターギルドに?へぇ、偶然だなぁ、実は私達も、
ハンターギルドに行く予定なんだ」
「そうですか……奇遇ですねぇ」
「良ければ、一緒に行ってもいいかな?あ、それとも、
私達がいたらお邪魔かな?」
「そ、そんなことは……」
「第二王子殿下とご一緒できるなんて、光栄であります」
「そんな、畏まらないでもらえるかな……ああ、それから
彼の事はクリス、私の事はシオンと……周りに知られると
厄介だからね……」
(っく……ダックもグーフィーも、丸め込まれちゃって……)
マルグリットは、無意識のうちに強く拳を握り締めていた。
「えと、君たちの事は、何て呼べば……」
「ドナルドで、いいですよ。知られて困る立場じゃないですから……」
「あれ?でも、マルグリット嬢が別な名前で呼んでいたよね?」
耳聡いエリュシオンには、それも聞こえていたようだ
「あ、それ……マギィがダックって呼ぶんですよ」
「ダグワーズだからじゃないか?」
グリフィスは、マルグリットがドナルドを、ダックと
呼ぶ理由を、家名のダグワーズからだと思っていた。
「へぇ?マルグリット嬢は、マギィって呼ばれてるんだね」
「マギィにダック……随分と親しいんだねぇ……
ねぇクリス?君もマギィって呼ばせてもらったら?」
「……」
「君は、え~と、グリフィスだっけ……君は、何て呼ばれているの?」
「え?自分でありますか?……何ですかね?」
グリフィスは、昨日マルグリットをマギィと呼ぶ事は
許してもらったが、自分の呼び名が何かは、聞いていなかった。
グリフィスがマルグリットを見ると、口を尖らせ、
むくれたような顔をしていた。
「マギィ?どうかした?」
「別に……」
「別にって……何か、怒ってるよね?」
グリフィスは、機嫌悪そうなマルグリットに、自分たちばかりが、エリュシオン王子と話しているので、機嫌が悪くなったのだと、勘違いをしていた……。
「ごめんねマギィ……。俺たちばっかり、王子殿下と話をして……。マギィも、話をしてみたいよね?」
「え?マギィって、王子のファンだったのか?」
ドナルドが、意外なものを見た、というような目で
マルグリットを見た事で、マルグリットの中で、何かが
ブチっと切れてしまった。
「ダックも、グーフィーも、覚悟しておきなさいよ」
無表情に自分たちを見ながら、うふふふと笑うマルグリットに、ドナルドとグリフィスは、背筋を冷たい物が流れる
のを感じていた。
エリュシオンは、ドナルドとグリフィスに対する
マルグリットの気安い態度に、何処か疎外感を感じ、
面白くないな……と思い始めていた。
クリストファーは、初めて間近で接するマルグリットの
事よりも、エリュシオンの我儘に付き合わされることに
神経が集中してしまっていた。
そうこうする内に、乗合馬車が到着した。
五人は空いている席に乗り込んだ……。
気が付くとマルグリットは、エリュシオンとクリストファー、二人の間に、座る事になっていた……
右手でグリフィスの右耳に
右手を……誤字報告にて、適用訂正させていただきました。
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