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華やかな社交シーズン……淑女科の生徒達は、
週末ともなれば、一部の生徒を除いた殆どの生徒が、
王都に滞在する為の館、タウンハウスで、親や親族と過ごしていた。
王宮での大舞踏会が終わり、社交という名の……表面上は
華やかな集団お見合いパーティが、本格的に始まるのだ。
学園でもある程度の交流がはかれる学生の内は、夜会や
晩餐会よりも、お茶会での情報収集がメインだった……
舞踏会でマルグリットに赤ワインを引っかけようとした、件の令嬢……サラセニア侯爵令嬢ソフィアが催した茶会に取り巻きともいうべき、ご学友の令嬢たちに加え、何故か
フェリシアも参加していた。
「それで、あの、隣国の姫君とかいう娘の事について、
何かお分かりになりまして?」
「いいえ……舞踏会以来見かけていませんわ」
「隣国というのは、どちらの国の事なのかしらねぇ?」
「タイタニア皇国に、あの年頃の皇女がいたかしら?」
「聞いた事ありませんわ」
「では、モナルダ共和国??」
「共和国に“王族”はいませんわ」
「よもや、帝国の……?」
「……否定できませんわね」
自国……マセラッティ王国の西にはモナルダ共和国、東には
タイタニア皇国があり、北にはガイラルディア帝国があった。
「隣国の姫などと……胡散臭い御令嬢でしたわ」
「国王様も、王子様方も、騙されているのでは?」
茶会に招かれざる客、フェリシアが、声高く囀っていた。
ガイラルディア帝国の帝王には側室が三十人余りいて、
子供も多数いるという……
そんな帝国の王族の姫と言われれば、信じてしまうのでは
無いかしら……と、フェリシアは言うのだった。
自国の王族を、貶める発言をしているという事に
気がつきもせず、フェリシアは思いつくまま、話し続けていた。
主催者でもある侯爵令嬢ソフィアは、得意げに話し続けるフェリシアを見て、首を傾げていた。
(舞踏会の時も思ったのだけど、あの方は……?)
ソフィアは、学年も家格も違うフェリシアの事を
知らなかった。いや、もしかしたら学園で、
すれ違うくらいは、あったかもしれない。
王太子の婚約者候補でもあるソフィアに、
フェリシアの『騎士科に入り浸っている淑女科の生徒』という、淑女らしからぬ行いについての噂は届いていなかった。
ソフィアは隣の席に座っている友人に、フェリシアについて
問いかけていた。
「あの方……どなたなのか、ご存じかしら?」
「一年生の……ブーゲンビレア家の御令嬢ですわ」
「ブーゲンビレア伯爵家の……お名前は確か……
マルグリット様だったかしら?」
王太子の婚約者候補であるソフィアは、妃教育の一環として
貴族名鑑を熟読していた。
ブーゲンビレア伯爵家の令嬢として記載されているのは、
マルグリットだけだったのである。
「ソフィア様、あの御令嬢はフェリシア様ですわ。
学年の違う私達とは、あまり関係が無いのですけれど……」
「ソフィア様でも、招待客がわからないことが、
ございますのね……」
「王太子妃、最有力候補のソフィア様が、招待した
令嬢の名前もご存じでは無いなんて……」
クスクスと、王太子妃候補のライバル令嬢たちが、ソフィアを嘲笑していた。
ソフィアは悔しさを顔には出さず、持っている扇子を
強く握りしめていた……
自分のせいでソフィアがライバル令嬢に侮られているなどと
思ってもいないフェリシアは、今も話し続けていた。
「王子様二人を脇に侍らせて、その上、私の婚約者の
クリストファー様にまで、色目を使ったのですわ」
フェリシアの主張を聞いて、ソフィアはまたもや、
首を捻ってしまうのだった……
(ブーゲンビレア伯爵家の令嬢と名乗られているけれど、
この方、何者なのかしら……?婚約者のクリストファー様って、アノ、クリストファー様かしら?それにしても、これ以上、好きに振舞わせる訳にもいきませんわね……)
ソフィアは、声高に話し続けるフェリシアに向けて、
一言……今後のフェリシアの社交生命に関わる致命的な
一言を、告げる事に決めたのだった。
「……貴方の御意見は、拝聴いたしましたわ。ところで、
申し訳ないのですけれど……私、貴女を存じ上げて
おりませんの……存じていれば、ご招待しているはず
なのですけれど……何故いらっしゃるのか……どなたかと
ご一緒されましたの……?」
サラセニア侯爵家のお茶会に、アトキンス侯爵家の
嫡男クリストファーの姿は無かった。
ソフィアの母、サラセニア侯爵夫人と交流のある、
アトキンス侯爵夫人は、昼間のお茶会という事もあり
まだデヴュー前の娘を伴って参加していた。
アトキンス侯爵夫人……クレアは、親友アデラインの娘、
正統な後継者マルグリットを、ブーゲンビレア伯爵家が冷遇している事実を知っていた。
お茶会の後で、フェリシアの話をソフィアから聞いた
アトキンス侯爵夫人は、ブーゲンビレア伯爵令嬢と名乗る
娘については眉を顰め不快感をにじませ、息子である
クリストファーについては、傍観を決める事に
したのだった。
招待されてもいないのに来訪しては、高らかに囀る
迷惑令嬢として、淑女科生に認識されたフェリシアには
サラセニア侯爵家のお茶会以降、誰からも……お茶会の招待が来ることは、無かった。
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週末の土の日、マルグリットが倒れて
医務室に運ばれたことを聞いたエリュシオン王子は、
クリストファーを連れて、マルグリットを見舞うために
魔法科の寮へと足を運んでいた。
魔法科の寮も、騎士科の寮と同じ造りになっていた。
中央には、男女共有で使用する玄関ホール、待合室、食堂、図書室、談話室、などがあり、西と東に、同じ宿舎が男子用、女子用に分かれて建っていた。
週末は自主鍛錬を休む生徒が多い中、クリストファーは
一日も休まず、黙々と鍛錬をしていた。
鍛錬が終わると、女性……婚約者に面会に行くという事で、クリストファーは、いつもより念入りにシャワーを浴び、
身だしなみを整えた。
面と向かって婚約者と会話した事の無いクリストファーだったが、何故か自分以上に婚約者の事を気にかけている、
エリュシオン王子が一緒に行くという事で、どこか落ち着かない気持ちだった。
身支度が終わると、クリストファーは、エリュシオン王子を寮の部屋まで迎えに行った。
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クリストファーは、エリュシオン王子と共に、魔法科生の寮へと、歩いていた。
エリュシオン王子の平民の様な服装を見たクリストファーはもしや、城下町にお忍びで出掛けるつもりなのだろうかと
拭い切れない嫌な予感に、頭を抱えたくなっていた。
二人が魔法科生の寮に着き、玄関ホールに入ると、
そこには三人の人影があった。
一人は体格から、騎士科の生徒だろうと思われた。
後の二人は、如何にも魔法使いだと、言わんばかりの
ローブを羽織っていた。
ローブを羽織っている生徒の、一人が、騎士科の生徒に近づき彼の顔に向かって、手を伸ばしていた。
袖口から見える華奢な手から、女生徒なのだろうと、
面会手続きをしながら、クリストファーは思っていた。
面会の手続きをしているクリストファーは、ローブで顔が
隠れたその人物が、マルグリットだと気が付かずにいた。
何時の間にか、横に立っていたはずのエリュシオン王子が、
ローブの袖口から腕を伸ばし、騎士科の生徒の耳のあたりを
撫でている女生徒の手を掴み取っていた。
「何を……やっている……?」
エリュシオンは、マルグリットの手を掴んだまま、
騎士科の生徒……グリフィスを睨みつけていた。
騎士科の……しかも第二王子が何で魔法科の寮にいるのか、
「ナニヤッテンダー」って、言いたのは此方だよ、と、マルグリットは言いたかった……
憧れのランキングに入る事ができました。
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