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エリュシオン第二王子に拉致られ、王宮舞踏会に
無理矢理参加させられたマルグリットは、疲弊(主に精神的に)していた。
舞踏会で発生した面倒事を、マルグリットが丸く収めようとする度に、妹のフェリシアが、消えかかった暖炉に火種を投げ入れるように、尽く再燃させていた。
マルグリットは寮の自室に戻り、ようやく人心地つくと、大きなため息を吐いていた。
「はぁ~……あんな娘と……あの父と、血が繋がっているなんて……」
マルグリットが、小さな頃から感じていた違和感……
漠然と感じていたソレが、無理矢理参加させられた舞踏会で、あの方を垣間見た時に、マルグリットは降って湧いたように、表に出せない感情を抱くのだった。
地球という、魔法の代わりに科学が発達していた世界の様に遺伝子を調べて親子鑑定が出来ればいいんだけど……
マルグリットは今生も含め、複数回の転生者だった。
転生に転生を重ね蓄積された記憶は、知識として魂に刻まれていった。
これまで、マルグリットが作ってきた魔道具や発明品の多くは地球で生きていた時に、身近にあった便利な家電製品や、百円ショップで手に入る便利グッズ、調理グッズなどだった。
マルグリッドが今から作ろうとしているものは……
自分の為に、自分自身を知る為に開発する事に決めた。
その為マルグリットは、ここ数日研究室に籠っていた。
魔法が無い代わりに、化学が発達していた地球とは違い、
この世界には化学が無くても魔法がある。
新しい魔法・魔道具を生み出すのに必要なのは、
何をどうしたいのか、どう作るのか、想像力が重要だった。
マルグリットが今必要としている魔道具は、親子……
血の繋がりが証明出来ればそれでいい……
細かなDNA配列とか、染色体の情報もいらない……
「あの人が私の……確かめたい、だけだ……」
マルグリットは、思いつめた様に、ただ、ただ、
壁の一点を見続けていた……
************
週末ともなれば、家に戻り社交に励む学生たちも、
週明けには学園に戻り、寮で生活し勉学に勤しむ……
華やかな王宮舞踏会が開催された翌日、学生たちは
学園に戻り、普段通りの風景がある筈だった……
騎士科の朝の鍛錬に、マルグリットの姿が無かった。
魔法科の生徒も、いつも通り騎士科の朝練に混じって
体操しているのに、マルグリットの姿だけが無かった……
エリュシオンが学園に戻ったのは週明けから二日後の昼過ぎだった。
翌朝、クリストファーと共に朝練に参加すると、
魔法科の生徒の中に、マルグリットの姿が見当たらない。
舞踏会に無理やり連れて行った事を責められるのを覚悟していたエリュシオンは、拍子抜けしていた。
次の日も、朝練に参加する女生徒の中に、マルグリットの姿は無かった。クリストファーによれば、週明けから彼女の姿を見ていないという……
「マルグリット嬢、今日も朝練に来なかったな……」
「……そうみたいだな……」
「魔法科の、他の生徒には聞いてみたのか?」
「……」
「お、まえ……正式な婚約者だろうがぁ、心配じゃないのかぁあ!!」
正式な婚約者であるクリストファーが、マルグリットを
心配していない事にエリュシオンは苛立ち、クリストファーに詰め寄っていた。
「……そう言われても、話した事も無いのに……」
「ぅ゛……」
王宮舞踏会で、言葉を交わしていた二人を見ていた
エリュシオンは、真実を告げる訳にもいかず、
言葉に詰まるのだった。
翌朝も、マルグリットが朝練に参加する事は無かった。
エリュシオンは魔法科の生徒に、マルグリットの事を……
何故マルグリットが朝練に来ていないのかを問いただした。
魔法科の生徒にマルグリットの事を聞くと、週明けから
ずっと、研究室に籠っているという話だった。
体調不良とか、自分の事を避けて…とかいう話では無い事にエリュシオンは胸をなでおろしていた。
クリストファーは、婚約者でも無いエリュシオンが、
何故マルグリットの事を気にするのかわからないでいた。
舞踏会の有った日から半月……マルグリットは朝練に
参加する事も、鍛錬場に姿を見せる事も無かった。
************
修めるべき課題を終わらせていたマルグリットは、
教室にも顔を出さず、時々ふら~っと寮に顔を出す以外は、ずっと研究室に籠っていた……
マルグリットが使っている研究室と、同じ棟にいる友人を騎士科の生徒が訪ねていた。
二人が休みの予定を話す内に、どうしてか、マルグリットの話題が出ていた。
研究に没頭するにしても、半月も鍛錬をしない(魔法科なのだからそもそも必要ではない)なんて、体が鈍っているだろうと騎士科の友人が言い出した。
教室にも顔を出さず、隣の研究室で何を作っているのか、からかい半分、興味津々で、二人はマルグリットの
研究室のドアを叩いていた。
……コンコン……
「マギィ?隣のドナルドだけど……」
……ゴンゴンゴン……
「マギィ~…マギィちゃ~ん……おーい、生きてるかぁ~?」
「お、おい、ドナルド……お前……」
騎士科二年、グリフィス・ウォルターは、魔法科二年の
幼馴染、ドナルド・ダグワーズのマルグリッドに対する
遠慮のない態度に驚いていた。
「マルグリッド嬢といえば……『氷乙女』だよな?…お前、彼女とどういう……」
「え?マギィと俺……?」
グリフィスの問いかけにドナルドが答えようと、
振り返っていた時だった。
内側から外へ……いきなり開かれたドアの縁に、
ドナルドは顔を打っていた。
「痛っ~ぅう……鼻が……」
痛みのあまり、ドナルドはその場にしゃがみ込んだ。
「ウ・ル・サ・イ」
部屋からニュッと差し出された細く美しい足が、
ドナルドの頭を踏みつけていた。
「!!」
「うぁあ……マギィ~…マルグリット様……足蹴にするなんて、そんな事して、僕がアッチの性癖だったら、ご褒美になっちゃいますケド?」
「ダック……そうなのか?お前は違うだろ?違うよなぁあ?だ・か・らぁ、い・い・ん・だ・よ……」
「ぐっ……」
マルグリットはローブの裾をまくり、更に体重を乗せてドナルドの頭を踏みつけていた。
グリフィスは、捲ったローブから出ているマルグリットの
白く艶めかしい足から、目が離せないでいた……。
(ん?グリフィスの奴、赤い顔して何を見て……)
目線を上げてグリフィスを見たドナルドは、そのまま
廊下の突き当りにある窓に映っている、自分たちの様子に
慌てて、マルグリットの足首を掴んだ。
足首を急に掴み取られたマルグリットは、バランスを崩し
部屋の中に倒れこんだ。
途中、空をきった手が当たった拍子に、棚にあった
瓶が倒れ、白濁した液体が、マルグリットの顔と、
黒いローブの胸元にかかっていた……。
「お、おい、マギィ、大丈夫か?」
ドスンと、お尻から着地したマルグリットは、頭を打つ事は無かったが、白濁した液体を引被って酷い有様だった。
「大丈夫じゃない~……くっさー」
ローブが捲れて、両脚のふくらはぎが丸出しになっていた。
そして、白濁した液体を顔と胸にひっかけたマルグリットにドナルドはしゃがんだまま、立ち上がるのを止め、
グリフィスは赤い顔をして前かがみになっていた……。
純情な青少年二人には、刺激が強かったのだろうか……
「も~ダックが、うるさくするから、
飲み忘れた牛乳、引被ったぁ~…う~……」
腐敗した牛乳を顔に被ったマルグリットは、その臭いに
半泣き状態だった。
「浄化するから、ドア閉めて……」
「……」
ドナルドはしゃがんだまま、マルグリットに言われた通り、無言でドアを、そっと閉めた。
************
まったく……ドナルドのせいで、えらい目に
あったわ。でも、親子鑑定の魔道具がやっと完成したから
多めに見てあげるかー。なんて太っ腹な、わ・た・し~。
諸問題をクリアして、親子鑑定の魔道具を完成させた
マルグリットは、ご機嫌だった。
もう少し、もう少し、最後の仕上げ、とばかりに、
二日の間、不眠不休で魔道具を作成していたマルグリットは気分が高揚して、所謂ハイになっていた。
自分自身に浄化魔法をかけ、ついでに部屋の中もきれいにと浄化魔法を掛けた瞬間に体力が底をつき、意識を失ったマルグリットは、その場にドサッと、倒れてしまった。
騎士科のグリフィスは、部屋の中からした微かな物音で
部屋の中の異変に気が付いた。
情けないところはあっても、流石は騎士の卵である。
グリフィスはドナルドにドアを開けさせると、部屋の中に
倒れていたマルグリットを抱き上げ、医務室へと向かった。
ドナルドは、マルグリットのいない間、他人が部屋に
入る事が出来ぬよう、魔法で鍵を掛けると、グリフィスの
後を追っていった。
第二王子という立場上、心配はしていても何もできずにいたエリュシオンは、夕食の時間になって初めてマルグリットが倒れて医務室に運ばれたことを、耳にするのだった。
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