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4、


読んでいただき、

有難うございます。


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評価をいただき、

有難うございます。





 マルグリットは、スライスしたパンと焼き菓子、果物を皿に取り分けてもらうと、テーブル席に移動した。

 

今迄社交に顔を出した事も無く、半分以上ベールで顔を隠しているマルグリットに、話し掛けようとする者はいなかった。


実際には、話し掛けようとする子息達が、お互い牽制し合って声も掛けられないという状況だった。 


そんな周囲の事など我関せずのマルグリットは、美味しい物を食べ、エリュシオンと離れた事もあって、気が緩んでいた。


顔を半分隠す様な胡散臭い女マルグリットが、第二王子とダンスをしたことが許せなかったのか、令嬢の一人が真っ赤な飲み物を手に、近付いて来ていた。


周囲の『あ、あぶない』という言葉と共に、その令嬢は、手にしていたグラスの中身を、マルグリットめがけてぶちまけた。


「あ~ら、ごめんな…さ、きゃぁああ……」


グラスから飛び出した真っ赤な液体は、マルグリットが身に着けていた魔道具に弾かれ、空になったグラスを、手に持っている令嬢にかかっていた。


「なんて酷いことを!」


「貴女みたいな人が王子殿下の側にいていいと思ってるの?」


「彼女に謝りなさいよ」


「何で?どうしてこんなことに……」


マルグリットに真っ赤な飲み物をかけようとしていた令嬢は、狙ってぶちまけたグラスの中身を、自分が被った事に気が動転してグラスを手放すタイミングを逃していた。


「はぁ……面倒な……」


食べるのを邪魔されたマルグリットは、静かに怒っていた。身に着けている魔道具は、悪意のある()()を弾く……()()されたら返すというモノだった。


それなのに今、マルグリットを囲む状況は、被害者なのに、まるで加害者だと責められている様だった。


「すましてないで、何とか言いなさいよ!」


マルグリットの腕を掴もうと手を伸ばした令嬢と、マルグリットの間に立ったのは、王太子のリチャードだった。


「失礼……貴女が戻ってこないので、ここまで来てしまいました。食事など後で出来ますから、さぁ、参りましょう……」


王太子リチャードは、優雅な所作でマルグリットの左手を

掴み、この場から連れ出そうとした。


左手を掴まれエスコートされるままに、マルグリットも黙ってこの場から立ち去ろうとしていた。


「王太子様、お待ちください」


舞踏会会場の端、軽食用テーブルから立ち去ろうとしていた二人を引き留めたのは、いつの間に近くに寄ってきていたのか、クリストファーの腕を絡め取っている、フェリシアだった。


王太子リチャードは、声を掛けてきたフェリシアには無視を決め、その横にいるクリストファーに声を掛けた。


「クリストファー、何用か?」


リチャードがクリストファーに聞いていると、フェリシアがまた、()()()口を開いていた。


「そのご令嬢は、王太子様の横を歩くのにふさわしくありませんわ」



「そうよ、その方の言う通りだわ」


「ソフィア様に酷いことを……」


フェリシアの言葉に、さっきまでマルグリットを糾弾していた他の令嬢たちが、復活したように囀り始めた。


「はぁ…面倒な……」


マルグリットは溜息をつきながら、同じ言葉を口にしたのだった。


「王太子殿下、どうか、発言をお許しください」


凛とした、マルグリットの声が響いた。


この騒ぎに気が付いたグロスター大公は、テーブル席で

酒を嗜みながら、興味深く事の成り行きを傍観していた。


マルグリットを舞踏会に強制参加させたエリュシオンは、

マルグリットの手を離した事を後悔し、後の事を考えると背中に冷や汗をかくのだった。



「許そう…」


「有難うございます」


マルグリットは軽く膝を折り、王太子リチャードに礼を取った。


「では、そちらの御令嬢にお聞きしますが、私が何だと…?酷いことをとは、何の事かしら?」


マルグリットは、フェリシアに背を向け、未だグラスを手に、呆然と立っている令嬢に顔を向け、問いかけた。


「ソフィア様にワインをかけて、ドレスを台無しにしたわ。ああ、お気の毒なソフィア様……」


態々、()()()()()というのに、フェリシアが得意げに答えていた。


マルグリットは小さく溜息を吐き、フェリシアのいう事は聞かずに、ソフィア様と呼ばれた目の前の令嬢に向けて、声を掛けた。


「私が貴女に、ワインを掛けたと…間違いないかしら?」


「……」


「ソフィア様のドレスを見れば、一目瞭然でしょう?言い逃れ様とするなんて、見下げ果てた女ね」


当事者でも無いのに、得意げに発言しているフェリシアに、いい加減うんざりしてきたマルグリットは、くるっと向きを変え、フェリシアに問いかけた。


「貴女は、私が彼女にワインを掛けた場面を見ていたとでもいうの…?」


振り向いて自分を見ているマルグリットの刺す様な視線に、フェリシアはたじろぎながらも、答えていた。


「見ていないけど、それが何か?他の皆だって、

貴女がやったと言っているし、ワインを被った

ソフィア様自身が証人よ」

ワインを被ったソフィア様本人が、この女(マルグリット)がやったと言えば、犯人決定ギルティね……

とフェリシアは、意気揚々となるのだった。


マルグリットは再び、フェリシアに背を向け、

当事者の令嬢、ソフィアに助け舟を出しながら、

問いかけるのだった。


「私は、躓いた貴女が、自分でワインを被ってしまったように思うのだけど……違うかしら?」


「あ…わた、私は……」


「そんな事……」


どうにか丸く収めようとしていたマルグリットの思惑を、またもやフェリシアが台無しにしようとしていた。


「そんな失態…ソフィア様は、なさらないわ」


「……」


「そうよ!貴女がやったくせに、誤魔化さないで」


「白を切ろうだなんて、ずうずうしいわ」


フェリシアの言葉に、またも活気ずく御令嬢達だった。


マルグリットは、折角穏便に済ませようとしている

自分に対して、ことごとく邪魔をしてくるフェリシアの

態度に、我慢も限界に近付いていた。


「貴方はどう思っているの?」


マルグリットは、フェリシアの傍らにいるクリストファーに、声を掛けた。


「私は、見ていないから何も言えない」


「そう…では、王太子殿…」


「ちょっと!……私の婚約者に、話し掛けないで!!」


フェリシアは大きな声でそう言うと、話の腰を折る様に

マルグリットの言葉を遮った。


マルグリットは大きなため息を吐き、静かに呟きはじめた。


「この国はいつから…身分を無視する様になったのかしら」


 今この場で、一番身分が高いのは王太子殿下だ。

発言しようとするならば、先ずは王太子リチャードに

許可を求めなければならない。


マルグリットは、リチャードに許可を求め許しを得てから

発言している。だが、他の誰も、そのような事はしていなかった。


それに、舞踏会が始まる前に、国王陛下はマルグリットの事を隣国の姫と言っていた。マルグリットにワインを掛けようとした令嬢も、糾弾している者達も、隣国の姫と言われたマルグリットを軽んじ貶めている……それはつまり、マルグリットを隣国の姫と言った国王陛下の事も軽んじているという事にもなるのだ。


沸々と湧き上がる怒りに、マルグリットの周囲は

徐々に気温が低くなるのだった。


マルグリットはリチャードに向き合うと、改めて問いかけた。


「王太子殿下は、私があの令嬢に赤い液体(ワイン)をかけたと、お思いになりますか?」


「いいや、貴女がそんな事をする訳が無い。大方、躓き、転びそうになって自分で掛けたのでしょう」


「だから、そんな事は…」


「お黙りなさい!!」


王太子の発言にも、フェリシアが反論しようとした時、

これ以上は許さない……と、マルグリットが声をあげた。


マルグリットは、手にした扇で、フェリシアの顎を

持ち上げると、凍り付きそうに冷えた声で、静かに

話し始めた。


「先刻から…貴女は、貴女方は、誰に許しを得て、発言しているの?ねぇ……貴女は何者なの?今この場で一番上位なのは王太子殿下、その次が、第二王子殿下、グロスター大公閣下……というのは、わかっていらっしゃるわよねぇ?」


何時の間にか、エリュシオンもマルグリットの近くに

佇んでいた。


「それに、舞踏会が始まる前の、国王陛下の言葉を憶えていて?それとも、貴女はいらっしゃらなかったのかしら?」


 フェリシアは、怒りに燃える目をしながら、右手で

マルグリットの扇を払い、言葉を返した。


「馬鹿にしないで!…国王様や王妃様が来る前からいたわ」



「そう……では、国王陛下は私の事を、何だと

おっしゃっていたかしら?憶えていて……?」


「……確か、隣国の姫君も参加して……って、え?姫?

姫って王族の?」


「そうね……正しくは皇族の……だけど…」


名前にティターニアを持つマルグリットは、確かにタイタニア皇国の皇族の血を引く、姫君だった。


自分たちが貶め糾弾しようとしていたのが、隣国の姫君だったという事に気が付いた者達は、慌てて頭を下げ始めた。


あれほど、騒がしく喚いていたフェリシアだったが、

悔しそうに唇をかみ、わなわなと震えていた。




 静まり返ったその様子に、エリュシオンはマルグリットに近づき手を取ろうとしたが、既に兄のリチャードが

マルグリットの左手を掴み歩み出していた。


エリュシオンは、リチャードに手を取られ歩いてくる

マルグリットが近づいた時、すかさずその右手を取った。


マルグリットは二人の王子に挟まれ、王と王妃が待つ

ロイヤル席に戻っていった。




 フェリシアは、二人の王子にエスコートされるマルグリットを憎々しげに、見つめていた。


 マルグリットと初めて言葉を交わしたクリストファーは、隣国の姫が、自分の婚約者だという事にまるで気が付いていなかった。


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